健康危機管理について 鳥取大学医学部衛生学 尾崎米厚 健康危機管理とは • 医薬品、食中毒、感染症、飲料水その他の何ら かの原因により生じる国民の生命、健康の安全 を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生 の予防、拡大防止、治療等に関する業務である (厚生省健康危機管理基本指針 平成9年)。 • 発端は何らかの健康被害であり、必ずしも原因 はわからない。原因がわからなくても対処はでき る(事例4 p31)。何らかの事故があり今後健康 被害が発生する可能性がある場合も含む(原発 事故等) 健康危機とは • • • • • • 感染症・食中毒のアウトブレイク 災害(地震、水害、火山の噴火、台風等) 薬害 毒物劇物中毒 テロリズム(生物、化学、原子力等) 大事故 • 原因物質や感染経路が特定困難、被害が大規模、人為 的要素が関与する等の特徴を持つこともある。 健康障害の多発 • 予測が重要;起こり得る問題を予測すること。こ れが予防につながる。例)松江フォーゲルパーク のオウム病 • 探知が重要;特に医療関係者が「何か変だ」と思 うことが把握できるように • 病原体が解ってもその原因がテロである場合も ある。我々は、それより被害拡大防止、患者・関 係者支援、パニック防止が任務。テロであっても なくても拡大防止はできる。 健康被害が考えられる事故の発生 • 被害の予測;最新情報を調べる • 健康被害を防止する対策:避難等 • 健康被害を受けたかもしれない人の把握とフォ ローアップ • 健康被害を受けたかもしれない人の支援(相談、 カウンセリング等) • 風評被害の防止 • 原子力テロにも対応しようとすればがん登録が 必要 生物テロ対策(1) • 生物テロの特徴(化学テロとの違い) • 犯行から健康被害発生までに時間差がある • 2次被害がある • 生物テロに用いられる病原体は • 人から人へ伝播する • 被害が重篤、病原性が強い、治療が困難 • 生産、管理しやすい • 多くの人へ影響を与える伝播方法がある(郵便 より散布、特に地下鉄、地下街、ビル等、媒介動 物、水や食品によるものも注意) 生物テロ対策(2) • 生物テロに使われる病原体の予測 • ワクチンや治療薬の準備 • 迅速な検査方法の確立 • サーベイランスの強化 • もしものための予行演習 • これからの問題 • 自爆テロ;自分が助からなくても良い • 遺伝子組み替え生物テロ;薬剤耐性など • 健康被害より社会的混乱を狙う場合もある 生物テロ対策(3) • 最新の情報の収集と公開(たとえば国立医薬品 食品衛生研究所健康危機管理関連情報) http://www.nihs.go.jp/c-hazard/index.html • 第一当事者(市民、医療機関)への啓蒙;適切な 通報を促す • 通報を受ける側の研修等によるレベルアップ • 医療体制、搬送体性等の準備 あるアウトブレイクが感染症かど うかの判断 • 症状をしっかりと把握する • 感染症であれば患者の時間的、地理的集積が あるはず。 • 感染経路により特徴的な発生状況が観察される はず(家族内発生、季節変動) • 潜伏期が想定されるような発生状況 • 免疫があれば感染しない。不顕性感染の場合な ど本人が気づかないうちに他の人に感染させる 場合がある • 丁寧な記述疫学的分析をすること 感染症か食中毒か 腸管感染症、食中毒、食品(飲料水)媒介疾 患という表現はどう違うのか? 感染症:病原体が体内に侵入し発育増殖し発病に至った状態 伝染病:病原体や毒性産物が感染しているヒトや動物から感受性のあ る宿主に伝播されて起こる疾病 食中毒:食品に起因する急性胃腸炎および神経障害などの中毒症の 総称。細菌性のものにも毒素型があるし、自然毒によるものもある。 食品媒介疾患:食品を介して起こる疾患 何が原因でも対応できる初期対応体制が必 要。担当のなすりつけはダメ、ダメ 健康危機管理対策の要点 • • • • • • 平常時の健康危機の発生予防 健康危機発生の早期探知 指揮命令系統 組織的対応、関係機関連携 医療体制確保、患者対応 情報収集、事態予測、情報公開と情報管 理、マスコミ対応 • 原因究明、拡大防止、提言、再発防止 発生予防・平常時準備 • 情報収集(国内外) • 関係機関との連携組織、情報交換の場 • 健康危機管理マニュアル作成、緊急連絡網の整 備、シミュレーション • 以前の健康危機管理の教訓を生かした個別的 具体的発生予防策 • サーベイランスシステムの確立 • 職員研修(意思決定者、実務者) • 健康危機管理を意識した監視、検査業務 • 健康危機の発生可能性がある施設等への監視、指導、教育 早期探知 • サーベイランスデータの日常的精査(サーベイランス のデータの見方、生データをしっかり見る。警報発生 だけを信頼しすぎないこと) • 国内外の情報収集(厚生労働省、感染症情報セン ター、WHO,CDC) • 関係機関からの連絡(普段からの連携、啓蒙) • 病院・診療所、学校・教育委員会、警察、企業等 • マスコミ、報道機関 • 市民、インターネット、相談窓口 組織的対応 • • • • 初動体制の確立 関係機関との連携(連絡会議) 作業班、研究班 広域対応(応援体制、影響が広域にわた る場合) • 緊急時のトップダウン型指揮命令系統(迅 速、簡潔) • 情報の一元的管理、提供 医療体制整備、患者対応 • • • • 救急医療体制整備(休日・夜間)、将来予測 パニック防止(相談体制) 2次感染防止 入院病床の確保、高次医療の確保、広域搬送、 広域連携、トリアージ • 医療の質の確保(診療情報の共有) • 患者、家族への心理的ケア、継続ケア • 平常時からの準備を 情報管理、情報提供 • 情報の一元的把握と提供(窓口をひとつ に) • マスコミ対応 • こちらが何を伝えるかをあらかじめ決めること。相手の質問に答え るだけではだめ。市民への情報提供と共に健康教育の媒体との認 識。こちらの意図どおりに理解し報道してくれる保証はない。結論→ その根拠→行動・対応への勧告を伝える。 • 何を伝えるのか、伝えてはいけないか • アウトブレイク発生の事実、適切な受療行動を促す、感染拡大防止 行動の促進、パニックの防止、患者・家族への偏見・差別の防止 • 個人情報。不確実な情報。事実だが社会的混乱を招きかねない情 報。 原因究明、拡大防止 • 初動のうちに把握できる情報による暫定的 拡大防止策は重要。 • 利害関係団体への介入は難しい(疫学的 根拠が必要) • 疫学は有力だが原因究明は媒介物質が わかってからが大切。 • 拡大防止策や2次感染防止策も一般論よ り根拠があるほうが良い。
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