気体の熱的挙動 KANO 気体の挙動 1 用語の定義(1):仕事,熱 仕事 熱 力x移動距離, 1 J = 1 N・m 温度差のある物体間を移動する エネルギー 水1ccの温度を1度上昇させる 熱:約1 cal~4.2J 断熱過程 外部からの熱の出入りがない KANO 気体の挙動 2 用語の定義(2):内部エネルギー 内部エネルギーとは、物体が持つエネルギーから その力学的エネルギーを引き去った部分 物体が熱を吸収して温度が上昇すると 内部エネルギーが増加する 物体が外部から仕事をされて運動しなければ 内部エネルギーが増加する 力学的エネルギー = 運動エネルギー+位置エネルギー KANO 運動エネルギー = 質量×速度の2乗÷2 重力の位置エネルギー=質量×重力加速度×高度差 気体の挙動 3 気体の断熱膨張と 内部エネルギー変化(1) シリンダー内の圧力と、おもりが押 す力とがつり合う 仕事をしながら断熱的に 膨張したとき おもりを取り去ると,新しい平衡点 へピストンが移動する ピストン(したがって気体)は仕事 をする 内部エネルギーを用いて外 部に仕事をする 膨張して外部に仕事をする と、気体の温度が下がる → 内部エネルギーは 温度で変わる 移動する前後で,気体は全体として静止(運動エネルギーは 変化しない).図の縦型のピストンだと,実は気体の位置エネ ルギーはわずかに変化するが,気体の質量が非常に小さい ため,位置エネルギーの変化も無視できる.こうして気体の 内部エネルギーだけに注目すればよいことがわかる KANO 気体の挙動 4 気体の断熱膨張と 内部エネルギー変化(2) •真空容器中で気体を膨張させる •気体が希薄なら温度は下がらない KANO 真空中に膨張させても、壁は移 動していなので、気体は外部に 仕事をしない 希薄なら気体粒子間に力が作用 しない,この膨張過程では気体 の内部に対しても仕事しない 内部エネルギーが変わらないの で温度も変わらない 気体の挙動 5 気体の内部エネルギー 希薄な気体の内部エネルギー 内部エネルギーの実体は? KANO 温度だけで決まる シリンダー内の気体の量で決まる 気体分子運動論 統計力学 気体の挙動 6 気体の等温過程と 仕事に変わった熱 ピストンがわずかに上昇して仕事を する 内部エネルギーがわずかに減少 温度がわずかに下がる 温度差が生じて熱源から熱が流入す る 温度が熱源と同じになる 内部エネルギーが回復する 等温 外部にした仕事 KANO 内部エネルギーが不変 熱源から取り出した熱エネ ルギーと等しい 気体の挙動 7 用語の定義(3):圧力 圧力 単位面積あたりの力 Pa(パスカル)=1N/m2 地球大気による圧力~105Pa 分子運動論 KANO 水銀柱で78cm 水柱で10m 分子が壁に当たって跳ね返るときの運動量変化 気体の挙動 8 気体の熱膨張と絶対温度 気体温度計 温度上昇:定圧で膨張 実験:温度をセ氏で表 すと、希薄な気体の熱 膨張率は気体の種類 によらず 約1/273 V V0 (1 ), KANO 1 273 Kelvin温度(絶対温度) セ氏温度と同じ目盛り の間隔 dT d 0℃~273 K T 273 気体の挙動 V T 9 希薄な気体の状態方程式 Boyl(1660) V ∝ 1/P 一定温度で気体の体積 は圧力に反比例する 希薄な気体 1モル Charles(1787) ΔV ∝ΔT 一定圧力で気体の体積 の増加は温度上昇に比 例する 1モル,1気圧,0℃で Avogadro(1811) 仮説:同じ温度と圧力のもとで, すべての気体は同じ体積に同 数の分子を含む 気体の挙動 22.4リットル~22.4/1000 m3 種類によらず 状態方程式 PV=nRT KANO 水素原子1モルあると約1グラム ~ 6.02 x 1023個のあつまり 気体の量 n (1モル) 温度 T (0℃ = 273 K) 圧力 P (1気圧 = 1013 x 100 N/m2) 体積 V (標準体積 = 22.4 x 10-3 m3) R = PV/T = 8.3 J / (モル K) 10 希薄な気体の内部エネルギー 気体分子運動論の初歩 壁が受ける 力=運動量の変化 ÷ 要し た時間 希薄な気体 大きさが無視できるN個の粒子 が互いに独立に運動 相互作用エネルギーなし 単原子分子のとき 全エネルギー = 内部エネルギー = 粒子の運動エネルギーの総和 ・ 1 粒子、 1 回の衝突の運動量変化: p x p x ( p x ) 2 p x ・ 1 粒子が運動量を 変え る の必要と し た時間=引き 続く 衝突間の時間=往復時間 ・ 1 粒子が壁と 衝突する 頻度=1÷距離L x の往復時間: ・ N 粒子が壁に衝突する 頻度: =N px 1 1 2t 2 L x /v x 2mLx px 1 N 2t 2mL x 2 2 px p2 ・ 壁が受ける 力: Fx px N N x 2mLx mLx 2 2 F px p2 1 px ・ 気体の圧力=壁が受ける 圧力: P x =N N PV =N x S mLx S V m m 計算の要点 =1 個の粒子の運動量変化×粒子数×衝突頻度 圧力=容器壁と粒子の衝突 1回の衝突による運動量変化 力=単位時間内の全運動量変化 粒子は完全にラ ン ダム な運動( 等方的) ・ 1 粒子の運動エネルギー: p2 1 2 3 2 2 px2 p py pz 2m 2m x 2m 衝突の頻度を考える。 十分に長い時間 T でみると、1個の粒子 が一方の壁と衝突す る回数がT/(2t)となる。 粒子はN個あるので、 T の間に生じる衝突 回数は NT/(2t) であ る。 つぎに、衝突で生じ る運動量の変化につ いて考える。1回の衝 突ではΔpxだけ粒子 の運動量が変わるか ら、Tの間には気体全 体としてこの壁から受 ける力による運動量の 変化が「Δpx・衝突回 数」となる。 時間T内に Δpx・NT/(2t)だけ 運動量の変化が起き るのだから、それを起 こした力は、運動量変 化を時間で割り Δpx・N/(2t)である。 気体が受けたこの力 の反作用は、気体が 壁を押した力である。 状態方程式の温度を 気体の内部エネルギーで表す PV =N S KANO Lx px2 2 2 PV = N E : 内部エネルギ ーE m 3 3 気体の挙動 11 熱容量,比熱 理科年表 KANO 気体の挙動 12 定義(4):定積モル比熱 CV 1モル物質の体積を一定に保ち加熱 吸収した熱量dQと温度上昇dTの比 dQ = CV dT 熱を注入すると,すべて内部エネルギーになる CVは温度上昇にともなう内部エネルギー増加を表す比例係数 KANO 気体の挙動 13 定義(5):定圧モル比熱 CP 物質1モルに加える圧力を一定に保ち加熱 注入した熱は,温度上昇による内部エネルギー増 加だけでなく,体積増加による外部への仕事となる dQ = CV dT + P dV = CP dT CP はCV より大きくなる PdV CP CV dT KANO 気体の挙動 底面積Sのピストンが微小な距離dx だけ動いたことで気体の体積が dV = S dxだけ変化したとする。 圧力Pは、ピストンの底面に加わる 力Fを底面積で割ったもの P = F/Sで ある。P dV = (F/S)(S dx) = Fdx となりピストン気体から力Fをうけなが らdx移動したのだから、気体はピス トン(を通じて外部)に仕事 F dx = P dVをしたことになる。 14 定義(6):比熱比 CPとCV の関係 1モルの希薄な気体を定圧で加 CP CV CP R 1 CV CV CV 1 R 1 P=一定でPV=RT の微分 → P dV = R dT 前ページの結論 P dV = (CP - CV) dT → CP = CV + R KANO CP CV R 熱する.状態方程式 比熱比 気体の挙動 内部エネルギーの構成 によりγが異なる 運動エネルギー,振動 エネルギー,回転エネ ルギー,… 15 単原子分子 :f=0,γ=5/3 比熱比 2原子分子 回転 :f=2, γ=7/5 回転+振動 :f=2+2,γ=9/7 理科年表 KANO 気体の挙動 5 f 3 f 16 eを底とする対数を ln と書くこと にしよう。記号「ln」はログ・ナチュ ラルすなわち自然対数。基本的な 積分の式: ∫dx/x = ln |x| + 定数 ここで、変数はxでなくてもよい: ∫df/f = ln|f| + 定数 気体の断熱変化 希薄な気体を断熱的に膨張・圧縮すると 圧力や温度はどう変化するか? 断熱変化で仕事をすると温度が変わる 温度変化による内部エネルギー変 化 = CV dT 内部エネルギー変化=外部にした仕事 CV dT = - P dV 外に仕事をするとき,dT<0,また 体積が増えるのでP dV>0 状態方程式(PV=RT→P=RT/V)を用い る P dV = (R T/V )dV =RT dV/V CV dT = -P dV = -R T dV / V → (CV / R) dT / T = -dV / V f→T また f→Vとして(T,Vは正 だから絶対値記号を取り去って) (C/R) ln T = - ln V + 定数 を得る。 CV ln T ln V 積分定数 R γ=1+2/(3+f) CV T V f: 分子の内部運動の自 ln ln R T0 V0 由度 T V T0 V0 CV R 単原子 f=0,γ=5/3 1 V V0 P2 TV 1 PV nR 一定 1.75 等温変化 1.5 1.25 1 1 V PV 0.75 0.5 一定0.25 断熱変化 0.6 KANO 気体の挙動 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 V 17 P-Vダイアグラムと仕事 仕事を計算する方法 力x移動距離 ピストン・シリンダー 圧力×体積変化 KANO V2 P W21 P dV V1 面積=1サイクルで 外部にした仕事 ↑ 力=圧力×断面積 移動距離×断面積=体 積変化 W P V dW P dV の 向 き に 注 意 外面 部積 に= し た 仕 事 気体の挙動 回転方向に 注意 外 部 か ら さ れ た 仕 事 V 18 カルノーサイクル(1) 希薄な気体による動作 熱源:高温(TH)と低温(TL) TLで等温圧縮(isothermal) VC→VD 熱放出=仕事をされる (VA ,TH) THまで断熱圧縮(adiabatic) VD→VA 内部エネルギー増加=仕事をされる (VB ,TH) (VD ,TL) TL THで等温膨張 VA→VB 熱吸収=仕事をする |QH| TH (VC ,TL) |QL| TLまで断熱膨張 VB→VC 内部エネルギー減少=仕事をする KANO http://www.rawbw.com/~xmwang/javappl/carnotC.html 気体の挙動 19 カルノーサイクル(2) T 1 効率 T L H 熱源:高温(TH)と低温(TL) THで等温膨張:VA→VB TH からTLまで断熱膨張:VB→VC TLで等温圧縮:VC→VD TL からTHまで断熱圧縮:VD→VA エンジンに流入した正味の熱量を計算する 熱の出入は等温過程で起きる 希薄な気体の等温過程は内部エネルギー不変 流入出した熱量は等温過程でした正味の仕事と一致 QH VB VA QL P dV RTH VD VC QH QL Q QL Q W H 1 L QH QH QH TH TL VD TL ln VC T 1 1 L TH VB TH ln VA ) 断熱過程: 1 1 VC TL VB TH KANO VB VA V dV RTH ln B V VA P dV RTL VD VC V dV RTL ln D V VC 等温+断熱過程の1サイクルでエンジンが外部にす る仕事を計算する 熱と仕事をあわせたエネルギー保存法則(第一法則) 気体が吸収した正味の熱量と外部への仕事が一致 W QH QL V D VA VD V A VC VB エンジンの効率の定義 W QH 高温の熱源から吸収した熱の何%を仕事にしたか 気体の挙動 20 カルノーサイクル(3) 「可逆」の条件 熱源との熱平衡 熱源との温度差なし 熱源との熱の出入りを0に近づけ,無限の時間をかける 変化は準静過程 釣り合いを保ちながらピストンを移動 KANO 実際の熱伝導には温度差が必要 温度差があるのに仕事をしない熱伝導 実際にピストンが動き出すには不均衡が必要 均衡のとき外部へ及ぼす力が最大(しかし動かない) 無限の時間をかける 内部エネルギーを使ってできる最大の仕事 気体の挙動 21 参考:実在気体の状態方程式 排除効果による体積変化 bnだけ自由な空間の体積 が減少 P=nRT/(V-bn) 140 圧力: 120 壁との衝突頻度 壁に与える力(衝突時の 運動量) 100 80 Tc 60 40 の積である 2 n P a V bn nRT V n : モル数 20 両者ともに分子間の引力 で減少する KANO -a(n/V)2 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 液体ー気体の相転移 気体の挙動 22
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