電気回路Ⅱ 演習 特別編フーリエ変換 教科書ではあまり触れられていないフーリエ変換.ベクトルと信号 の類似性から,感覚的にフーリエ変換を理解できるようにしたつも りです.是非一回読んでみてください. ベクトルと信号の類似性 ベクトルと信号の直交 直交ベクトル空間 直交ベクトルの集合を用いた任意のベクトルの近似 直交信号空間 相互直交関数の集合による関数の近似 2乗平均誤差の計算 一般フーリエ級数 1.ベクトルと信号の類似性 1.1. ベクトル 用語説明:ベクトルとは大きさと方向で決められる値である.矢印の長 さ,向いている方向が,それぞれベクトルの大きさと向きに対応している まず図1.1の2つのベクトルV1とV2を考える. V2の方向のV1の成分はC12V2である. 図よりV1の端からV2に垂線を引くとV2方向のV1成分が幾何学的に得られる. V1 V1=C12V2+Ve Ve C12V2 図1.1 V2 V2方向のベクトルでベクトルV1を近似しようとする と,Veが誤差となる.またC12の大きさは,2つのベ クトルの類似度を表す. ここでC12が0となる場合,ベクトルは直交する. 1.1. ベクトルの続き 誤差ベクトルVeのとり方 V1 V1 Ve1 C1V2 V1=C1V2+Ve1 V2 Ve2 V2 C2V2 V1=C2V2+Ve2 図1.2 誤った誤差ベクトルのとり方 誤差はできるだけ小さくなるように,図1.1のようにC12を選ぶことが重要である. 1.1. ベクトルの続き ベクトルの内積とC12 V1 V2 C12V2 V1のV2方向成分 V2 ベクトルの内積 A B AB cos A よって V1 V2 V1 V2 C12 2 V2 V2 V2 B AのB方向成分= A cos AB B AB B のA方向成分=B cos A (1) V2方向のベクトルでベクトルV1を近似 しようとする V1 C12 V2 ただし誤差はVe V1とV2が直交するときは V1 V2 0 → C12 0 1.ベクトルと信号の類似性 1.2. 信号 ベクトルとの類似性および直交の概念は信号にも拡張できる.二つ の信号f1(t)とf2(t)を考える.ある区間(t1<t<t2)でf1(t)をf2(t)の項で次の ように近似する. f1 (t ) C12 f 2 (t ) 最適な近似を得るためにはどのようにC12を選ぶべきか.区間(t1<t<t2) で実際の関数と近似した関数の誤差が最小となるC12を求めればよい 誤差関数 f e (t ) f1 (t ) C12 f 2 (t ) を定義する 誤差を最小にする1つの基準は,区間内で平均誤差を最小にすること t2 1 f1 (t ) C12 f 2 (t )dt が小さくなるC12を求める t t2 t1 1 ただし,この式ではお互いに打ち消しあうような正と負の誤差が存在した 場合,平均誤差がゼロとなるという間違った結果を与える. 1.2. 信号の続き この場合,2乗平均を最小にするようなC12を求める. (2乗すれば必ず正の値になるので) 平均2乗誤差をとすると t2 1 2 f ( t ) C f ( t ) dt 1 12 2 t t2 t1 1 を最小にするC12を求めるには d 0 dC12 すなわち t2 d 1 2 f1 (t ) C12 f 2 (t ) dt 0 t dC12 t2 t1 1 積分と微分の順序を変えて t2 t2 1 t2 d 2 2 f1 (t )dt 2 f1 (t ) f 2 (t )dt 2C12 f 2 (t )dt 0 t1 t1 t1 t2 t1 dC12 C12を含まないので0 1.2. 信号の続き したがって C12 t2 f1 (t ) f 2 (t )dt t1 t2 t1 2 (2) となる. f 2 (t )dt 4ページの式(1)との類似性を確認しよう このC12を用いて f1 (t ) C12 f 2 (t ) と近似される ベクトルとの類似性から,f1(t)は波形f2(t)成分を持ち,その成分の大きさはC12となる. もしC12=0ならば, f1(t)は波形f2(t)成分を含まず,2つの関数は区間(t1,t2)で直交する. t2 t1 f1 (t ) f 2 (t )dt 0 ならば,区間(t1,t2)でf1(t)とf2(t)直交する. 1.2. 信号の続き 直交関数の例 区間[0, 2π]で整数n,mに対して (ここで n m) sin ntと sin mtは直交する 2 0 sin nt sin m t dt 2 0 1 cos(n m)t cos(n m)t dt 2 2 1 1 1 sin( n m ) t sin( n m ) t 2 n m nm 0 0 同様に sin ntと cosm t,cosntと cosm tも直交する 2. 直交ベクトル空間 まず2次元のベクトル空間を考えてみよう. y 左のベクトルAは以下のように書ける A x0a x y0a y A (x0,y0) (3) ここで a xはx方向の単位ベクトル a yはy方向の単位ベクトル x ただし ax ax a y a y 1 ちょっと考えてみよう.式(3)より ax a y a y ax 0 直交ベクトル x0 A a x , y0 A a y ベクトル Aのa x 成分x0を求めるには, Aと a xの内積を計算すればよ い. ベクトル Aのa y 成分y0も同様に求めることが できる 直交ベクトル空間の続き 次に3次元のベクトル空間を考えてみよう. z 左のベクトルAは以下のように書ける z0 A x0a x y0a y z0a z (4) ここで a x , a y , a zは単位ベクトル y0 x0 x y ただし 1 m n an am 0 m n 直交ベクトル Cx A ax x0 , Cy A ay y0 , Cz A az z0とすると A Cx a x Cy a y Cz a z となる 直交ベクトル空間の続き 最後にn次元に拡張する. n個の直交単位ベクトル を n本の直交した座標を仮想的に考える x1 , x 2 , x 3 .... x nで表し,この n次元空間の一般ベクト ルAは A C1x1 C2 x 2 C3 x 3 .... C n x n となる 1 mn 0 m n もちろん直交ベクトルより x n x m あるr番号を考えて x rを Aの内積を計算すれば A x r Cr x r x r Cr すぐに Aの x r 成分の大きさ Crが求められる 直交ベクトル空間の続き xr が単位ベクトルではない場合は 1ではない値 kn ( x n x n ) m n xn xm 0 mn A xr A xr よって Cr で求められる kr xr xr まとめ ベクトル空間が完全ならば,どのようなベクトルAも以下のように表すことが可能 A C1x1 C2x2 C3x3 ....Cn xn ここで Cr A xr xr xr 3.直交信号空間 3.1 相互直交関数の集合による関数の近似 2節のベクトルの話と対応させながら考えよう 区間(t1<t<t2)で互いに直交するn個の関数g1(t), g2(t) ... gn(t)の集合を考える.つまり t2 t2 t1 t1 g j (t ) g k (t ) dt 0 jk g j (t ) K j 2 相互直交関数の集合による関数の近似 上記のn個の関数を用いて区間(t1<t<t2)で任意の関数f(t)を近似すると n f (t ) C1 g1 (t ) C2 g 2 (t ) ....Cn g n (t ) Cr g r (t ) r 1 ここで,f(t)をn個のgr(t)の関数を用いて近似するためには,最適なCを求める必要がある. →1.2節と同様に2乗平均誤差が最小になるCの値を求める. 3.2 2乗平均誤差の計算 誤差関数を定義し,2乗平均誤差を計算する. n f e (t ) f (t ) Cr g r (t ) r 1 2 n t2 1 f ( t ) C g ( t ) dt r r t t 2 t1 1 r 1 はC1,C2…,Cnの関数であり, を最小にするには ... ... 0 C1 C2 C j Cn 1.2節と同様にして解くことが可能 3.2 2乗平均誤差の計算の続き のみについて考える.(t2-t1)は定数なので C j 2 n t 2 f ( t ) C g ( t ) dt 0 r r t C j 1 r 1 Cjを含まない項はすべて0となる,また C j 2C t2 t1 t2 t1 g n (t ) g m (t )dt 0 (n m) なので j f (t ) g j (t ) C j g j (t ) dt 0 2 2 微分積分の順番を取り替えて t2 t2 t1 t1 2 f (t ) g j (t )dt 2C j g j (t )dt したがって Cj t2 t1 f (t ) g j (t )dt 1 t2 2 Kj g ( t ) dt j t1 2 t2 t1 f (t ) g j (t )dt 3.2 2乗平均誤差の計算の続き まとめ 区間(t1<t<t2)で互いに直交するn個の関数g1(t), g2(t) ... gn(t)が与 えられると,このn個の関数の線形結合で任意の関数f(t)を近似 でき n f (t ) C1 g1 (t ) C2 g 2 (t ) ....Cn g n (t ) Cr g r (t ) (5) r 1 2乗平均誤差が最小となるC1...Cnは Cj t2 t1 f (t ) g j (t )dt 1 t2 2 Kj g ( t ) dt j t2 t1 f (t ) g j (t )dt ( j 1,2,...n) t1 となる. 12ページの直交ベクトル空間との結果と比較しよう (6) 3.3 一般フーリエ級数 3.3節より,任意の関数f(t)を直交関数の集合により近似できることを 示した. 8ページの例より,区間[0, 2π]で整数n,mに対して sin ntとsin mtが直交する sin ntとcos mtが直交する cos ntとcos mtが直交する ことを述べた.したがって上記のsinおよびcosを使って任意のf(t)を近 似できるはず. つまり f (t ) a0 a1 cost a2 cos 2t ....an cos nt ..... b1 sin t b2 sin 2t .....bn sin nt ...... n 1 n 1 a0 an sin nt bn cos nt 3.3 一般フーリエ級数の続き 任意の関数を以下のように近似する場合,適切なaやbを求める必要がある f (t ) a0 a1 cost a2 cos 2t ....an cos nt ..... b1 sin t b2 sin 2t .....bn sin nt ...... n 1 n 1 a0 an sin nt bn cos nt 代表としてanはどうなるか: anはf(t)のcosnt成分の大きさであるから,16ページの式(6)より an 2 f (t ) cos ntdt 0 2 0 2 cos ntdt bn 2 0 0 2 0 同様に 1 f (t ) sin ntdt 2 f (t ) cos ntdt 1 cos2nt 1dt 2 1 2 0 f (t ) cos ntdt 3.3 一般フーリエ級数の続き まとめ:任意の関数f(t)は,以下のようにsinとcosの式で近似できる n 1 n 1 f (t ) a0 an sin nt bn cosnt ただし 1 an bn 1 2 0 2 0 f (t ) cos ntdt f (t ) sin ntdt 赤枠箇所は,関数f(t)がcosntとsinnt成分をどれだけ含んでいるかを 計算している. ベクトルの計算と対応をとると分かりやすい MATLAB, OCTAVEを用いて フーリエ変換を理解しよう 1 次の波形のフーリエ変換を計算せよ. またMATLABで第5調波までの合成波を計算しグラフにせよ. 1 a0 T T 0 T 1 T /2 f (t )dt 1dt 1dt 0 T /2 T 0 T 2 T /2 an cos ntdt cos ntdt T /2 T 0 T /2 T 2 sin nt 0 sin nt T / 2 T n n 0 T 2 より sin(整数 ) 0 MATLAB, OCTAVEを用いて フーリエ変換を理解しよう 2 T 2 T /2 bn sin ntdt sin ntdt T /2 T 0 T /2 T 2 cos nt 0 cos nt T / 2 T n n 2 cos(nT / 2) 1 cos(nT ) cos(nT / 2) T n n 2 cos(nT / 2) 1 cos(nT ) cos(nT / 2) T n n 2 2 2 cos(nT / 2) T n 2 2 2 cos(n ) T n 4 (n : 奇数) n MATLAB, OCTAVEを用いて フーリエ変換を理解しよう 3 第5調波までの合成波は y(t ) 4 sin 3t sin 5t となる sin t 3 5 MATLABで計算してみよう.ここでωの値は指定されていないので,自分で 適当に決めましょう w=1; t=0: 1/100: 2*pi/w y=4/pi*(sin(w*t)+ sin(3*w*t)/3+ sin(5*w*t)/5) plot(t,y) hold y2= 4/pi*(sin(w*t)+ sin(3*w*t)/3 y3= 4/pi*(sin(w*t) plot(t,y2) plot(t,y3) MATLAB, OCTAVEを用いてフーリエ変換を理解 しよう 4 1.5 line 1 line 2 line 3 1 赤:第5調波まで考慮 緑:第3調波まで考慮 青:第1調波まで考慮 0.5 0 高次まで考慮するほど, 元の波形に近くなる. -0.5 -1 -1.5 0 1 2 3 4 5 6 7
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