公共経済学

公共経済
三井 清
1
16.年金 2(年金改革)
16.1
人口変化のモデル:2世代重複モデル
16.2
積立率とフェア年金
16.3
賦課方式から積立方式への移行と二重の負担
16.4 修正積立方式から賦課方式への移行
16.5
年金純債務と公債残高
2
16.1
人口変化のモデル:2世代重複モデル
 =1人当たり年金受給額(給付水準):各世代共通(確定給付)
第t世代=t期の期首に生まれ t+1 期の期末まで生存
Lt =第t世代の人口(公的年金制度加入者数)
第1期から公的年金制度を導入: L0  0
L3  2 、 L1  L2  L4  L5    1
:第 3 世代のみが人口2でその他の世代は人口1(第 3 世代=団塊の世代)
単純化のため利子率(=市場収益率)はゼロとする。すなわち、民間資産の収益率も公債の
収益率もゼロであるとする。
3
期
世代
1
2
1
2
b1

b2
3
4
5
6

b3

b3

3
4
5
b4

b5

4
16.2 積立率とフェア年金
btF =第 t 世代の(1 人あたり)積立残高(t 期末における年金基金残高)
f t  btF /  :t 期末における年金積立率(=積立残高/年金給付債務)
btP :第 t-1 世代の積立残高 btF1 の不足分を補うための(1 人あたり)保険料
(完全)積立方式=積立率が 100%の年金
賦課方式=積立率が 0%の年金
修正積立方式=積立率が 0%と 100%の間
5
第 t-1 世代(t 期)に年金給付するための積立不足分は Lt 1 (  btF1 ) だから、
Lt  btP  Lt 1 (  btF1 )  Lt 1 (1  f t 1 )
(16-1)
が成り立つ。したがって、
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
(16-2)
である。なお、年金基金の運用対象は民間資産であるとする。
第 t-1 世代は年金の保険料を支払うことにより年金給付を受ける
「受給権」
を得る。
Lt 1 =公的年金が t-1 期末に t-1 世代に対して負っている「年金債務」
Lt 1 (  btF1 ) =t-1 期末における「年金純債務」(=積立不足分)
6
bt =第t世代の青年期における(=t期の)1人当たり年金保険料(負担額)
bt  btF  btP :第t世代の(1人当たり)年金保険料(負担額)
g t    bt :第t世代の純便益
t 
gt
:第t世代の公的年金の収益率
bt
(16-3)
フェア(市場収益率)年金
=各世代にとっての収益率 t が市場収益率(=ゼロ)に等しい年金
この定義から、積立方式の公的年金は必ずフェア年金である。
7
16.3 賦課方式から積立方式への移行と二重の負担
賦課方式の年金制度のもとでの収益率について検討するために、2 期(第 1 世代の老年期)
に賦課方式の年金制度が導入されたとする( f t  0 、 t  1, 2, )。このとき、各世代の純
便益 g t と収益率 t を、表1のように  を用いて表すことができる。
<表 1>
世代t
1
2
bt
0
gt


t
g t    bt
t 
gt
bt
4
2
5

3
 /2
0
 /2

0
0
1
1/ 2
0
bt  btP 
Lt 1

Lt

← (16-2)
8
次に、年金改革にともなう二重の負担について検討するために、3 期に賦課方式から積立方
式へ移行するとしよう( 0  f1  f 2 ,1  f 3  f 4  )。なお、積み立てる資産は民間資産
であるとする。そのときの、各世代の一人当たり純便益 g t と収益率 t は表2のようになる。
したがって、移行過程で大きな負担をすることになる世代が存在する。
<表2>
世代t
1
2
3
4
5
btF
0
0

btP
0

 /2

0

0
bt
0

3 / 2


gt


0
 / 2
0
0
0
1/ 3
0
0
t
g t    bt
t 
gt
bt
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
btF  ft
9
16.4 修正積立方式から賦課方式への移行
修正積立方式のもとでの収益率を検討するために、1 期に積立率が 1/2 の修正積立方式の
公的年金が導入されたとする( 1 / 2  f1  f 2   )。なお、積み立てられる資産は民間資
産であるとする。そのとき、各世代の一人当たり純便益 g t と収益率 t は表3のようにな
る。表 1 と表3より、賦課方式と比較すると修正積立方式の場合のほうが世代間の負担の
格差は小さくなっていることが分かる。
<表3>
世代t
1
2
3
4
5
b
 /2
 /2
 /2
 /2
 /2
btP
0
 /2
 /4

 /2
bt
3 / 2

 /4
 / 2
0
t
1

0
0
3 / 4
gt
 /2
 /2
1/ 3
1/ 3
0
F
t
g t    bt
t 
gt
bt
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
btF  ft
10
修正積立方式から賦課方式への移行による収益率の変化について検討するために、積立率
が 1/2 の修正積立方式の公的年金制度が 3 期の期末まで継続していたが、4 期の期末から
は賦課方式に移行したとする( 1/ 2  f1  f 2  f 3 , 0  f 4  f 5   )。そのとき、各世代
の一人当たり純便益 g t と収益率 t は表4のようになる。したがって、第 4 世代以降の世代
の公的年金はフェア年金となる。
<表4>
世代t
1
2
3
4
5
 /2
0
0
 /4

btF
 /2
btP
0
 /2
 /2
bt
 /2

3 / 4



gt
 /2
0
 /4
0
0
t
1
0
1/ 3
0
0
g t    bt
t 
gt
bt
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
btF  ft
11
16.5 年金純債務と公債残高
(1)
3 期(末)まで積立率が 1/2 の修正積立方式の公的年金制度が継続しており、
(青年1人
あたり)公債残高 Bt はゼロであるとする。なお、運用資産は民間資産であるとする。
(2)
4 期に公債発行で調達された財源で第 3 世代への年金給付の積立不足分に対する国庫
負担がなされる。また、4 期以降の公債残高 Bt は  / 2 であるとする。
B1  B2  B3  0,  / 2  B4  B5  
Lt 1 Bt 1 =t-1 期(末)の総公債(国債)残高=t 期の公債(国債)費
Lt Bt =t 期(末)の総国債残高=t 期の公債金収入
Lt Bt  Lt 1Bt 1 =t 期の公債残高増=t 期の年金給付の国庫負担
12
公債を発行することで、実質的には何ら変化なしに、修正積立方式から積立方式に移行でき
ることを確認しよう(15.4 節参照)。そこで、4 期以降の年金基金はこれまでの運用資産に、
新規発行された公債も加えて積立方式に移行する( 1 / 2  f1  f 2  f 3 , 1  f 4  f 5   )。
そのとき、各世代の一人あたり純便益 g t と収益率 t は表5のようになる。したがって、表
3と同様の収益率のまま、修正積立方式から積立方式に移行できることになる。
<表5>
世代t
1
2
3
F
t
4
5
b
 /2
 /2
 /2

 /2
 /4
 /2

0
btP
0
bt
 /2
3 / 4
3 / 2

 /2

0
gt
 /4
 / 2
0
t
1
0
1/ 3
1/ 3
0
Bt
0
0
0
 /2
 /2
gt    bt
t 
gt
bt
Lt btP  Lt 1 (1  ft 1 )  (Lt Bt  Lt 1Bt 1 )
btF  ft
13
修正積立方式の年金を、実質的に賦課方式に移行できることを検討しよう。そこで、4 期以
降の年金基金は発行された公債だけで資産を運用する( 1 / 2  f1  f 2   )。そのとき、
各世代の一人あたり純便益 g t と収益率 t は表6のようになる。したがって、修正積立方式
を維持したままで、第 4 世代以降の世代の公的年金をフェア年金にできる(表4参照)
。
<表6>
世代t
1
btF
2
3
4
5
 /2
 /2
 /2
 /2
btP
0
 /2
 /4
 /2
 /2
 /2
bt
 /2
3 / 4
 /2
 /4

0

gt

0
t
1
0
1/ 3
0
0
Bt
0
0
0
 /2
 /2
gt    bt
t 
gt
bt
Lt btP  Lt 1 (1  ft 1 )  (Lt Bt  Lt 1Bt 1 )
0
btF  ft
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16.年金 2(年金改革)
16.1
人口変化のモデル:2世代重複モデル
16.2
積立率とフェア年金
16.3
賦課方式から積立方式への移行と二重の負担
16.4 修正積立方式から賦課方式への移行
16.5
年金純債務と公債残高
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