公共経済学

17.年金 2(年金改革)
17.1
年金の収益率と効用水準
17.2
年金の財政方式と年金改革
17.3 賦課方式から積立方式への移行と二重の負担
17.4「積立率 1/2 の財政方式」から賦課方式への移行
17.5
補論 1*:年金純債務と国債残高
1
(資料)
2
<年金積立金の運用状況>
収益率:
2.32%
収益額:
2兆6,092億円
運用資産額:
113兆6,112億円
※平成23年度末時点
(資料)
3
(資料)
4
16 章で考えた 2 世代重複モデルを人口が変動するケースを考慮できるように修正して年金
改革の問題について検討しよう。
17.1
年金の収益率と効用水準
人口の成長率が一定でないケースにおける年金改革の問題について検討しよう。まず、年
金改革とは何かを説明するために、公的年金の給付財源の相違について着目してみよう。
まず、公的年金におけるある世代への年金給付の財源は
① その世代が積み立てた保険料
② 次の世代に賦課する(負担させる)保険料
の 2 つに分けることができる。この点に着目して年金の収益率について考えよう。
5
第 t 世代が年金加入者(受給者)であれば、
第 t 世代は t+1 期に政府から年金給付を受ける
「受
給権」を持つことになる。すなわち、 (政府が年金加入者に対して負っている加入者)1 人
あたりの年金債務が  であり、政府が第 t 世代に対して負っている「年金債務」は Lt であ
る。
(将来の年金給付のために積み立てている第 t 世代の加入者)1 人あたり年金積立残高、すな
わち t 期末における年金積立残高を btF とおく。そのとき、政府が第 t 世代に対して負って
いる「年金純債務」
(=積立不足分)は Lt  (  btF ) である。
第 t 世代のための(t期末における年金)積立率(=年金積立残高/年金債務) f t は、
f t :
btF

(17-1)
と定義される。また、第 t 世代の積立残高の不足分   btF を補うための第 t+1 世代の(1
人あたり)保険料を btP1 とおけば、第 t 世代の積立不足分は Lt  (  btF ) だから、
Lt 1 btP1  Lt  (  btF )
(17-2)
が成り立つ。したがって、(17-1)と(17-2)より
btP1 
である。
Lt
(1  f t )
Lt 1
(17-3)
6
第t世代の青年期における(=t期の)1人あたり年金保険料(負担額) bt は、
bt  btF  btP
(17-4)
と表され、第t世代の公的年金の純便益 g t と収益率 t は、それぞれ
gt :   bt
g
t : t
bt
(17-5)
(17-6)
と定義できる。
f t :
このとき、(17-1)、(17-3)、(17-4)を用いれば、 bt は


Lt 1

bt   f t 
(1  f t 1 ) 
Lt


btP1 
btF

Lt
(1  f t )
Lt 1
(17-1)
(17-3)
(17-7)
であり、(17-5)、(17-6)、(17-7)より、 t は
t 
1
L
f t  t 1 (1  f t 1 )
Lt
1
(17-8)
と表すことができる。
(問題 17-1) (17-7)と(17-8)を導出しなさい。
7
(問題 17-1) (17-7)と(17-8)を導出しなさい。
f t :
P
t 1
b
btF

L
 t (1  f t )
Lt 1
(17-1)
(17-3)
bt  btF  btP
(17-4)
gt :   bt
g
t : t
bt
(17-5)
t 
(17-6)

bt
1
bt  f  
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt


L
bt   f t  t 1 (1  f t 1 ) 
Lt


t 
1
L
f t  t 1 (1  f t 1 )
Lt
1
(17-7)
(17-8)
8
「第 t 世代にとって公的年金がフェアである」とは、
「第 t 世代の公的年金の収益率 t が市
場収益率に等しい」ことである。なお、分析の簡単化のため、利子率あるいは市場収益率
はゼロであるとする。したがって、  t  0 であれば、第 t 世代にとって、公的年金はフェ
アであることになる。
第 t 世代の公的年金の収益率 t が正( t  0 )であれば、公的年金の拡充(給付水準  の増加)
で第 t 世代の効用が上昇することを説明しよう。まず、利子率がゼロなので、第 t 世代の青
年期と老年期の予算制約式は、それぞれ
(17-9)
ct1  Yt  st  bt
(17-10)
ct 2  st  
である。ここに、 ct1 と ct 2 はそれぞれ青年期と老年期の消費、 Yt 、 s t 、 bt はそれぞれ青年
期の労働所得、貯蓄、公的年金の保険料である(16.1 節を参照)
。
(17-5)、(17-6)、(17-9)、(17-10)より、第 t 世代の 2 期間を通じた予算制約式は
ct1  ct 2  Yt  t bt
(17-11)
と表すことができる。
(問題 17-2)(17-11)を導出しなさい。
9
(問題 17-2)(17-11)を導出しなさい。
gt :   bt
g
t : t
bt
t 
(17-5)
(17-6)

bt
(17-9)
(17-10)
ct1  ct 2  Yt    bt
1
ct1  ct 2  Yt  t bt
ct1  Yt  st  bt
ct 2  st  
(17-11)


ct1  ct 2  Yt    1bt

 bt
10
(17-11)より、 t  0 であれば、(17-7)より bt は  に正比例するので、第 t 世代の 2 期間を
通じた予算制約式は公的年金を拡充する(  を増やす)とき、ct1 ct 2 平面で右上にシフトする。
したがって、 t  0 であれば、公的年金の拡充(  の増加)で第 t 世代の効用が上昇する。
t 期から t+1 期までの人口の成長率を nt とする。すなわち、 nt : ( Lt 1  Lt ) / Lt とする。そ
のとき、(17-7)と(17-8)を用いれば、 f t  f t 1  0 のときには、(17-11)より、
ct1  ct 2  Yt 
 nt 1
1  nt 1
(17-12)
の関係が成立することになる。
(問題 17-3)(17-12)が成立することを示しなさい。また、(17-12)と(16-9)を比較しなさい。
11
(問題 17-3)(17-12)が成立することを示しなさい。また、(17-12)と(16-9)を比較しなさい。


L
bt   f t  t 1 (1  f t 1 ) 
Lt


t 
1
L
f t  t 1 (1  f t 1 )
Lt

t bt     f t 

1
(17-7)
nt : ( Lt 1  Lt ) / Lt
(17-8)
1  nt  Lt 1 / Lt

Lt 1
(1  f t 1 ) 
Lt

f t  f t 1  0




t bt  1   f t 
t bt 

1
(1  f t 1 ) 
1  nt 1

nt 1

1  nt 1
ct1 
ct1  ct 2  Yt  t bt
(17-11)
ct1  ct 2  Yt 
 nt 1
1  nt 1
ct 2
 (n  r )
 Yt 
1 r
(1  r )(1  n)
(16-9)
(17-12)
12
17.2
年金の財政方式と年金改革
公的年金制度は様々な側面から特徴づけることができるが、以下では年金の財政方式の観
点に着目して特徴づけを行おう。年金財政の重要な特徴は各世代の年金の積立率 f t の現在
から(無限の)将来までの流列によって特徴づけられる。すなわち、現在の現役世代が第 t 世
代であれば、 ( f t , f t 1 ,) によって第 t 世代(すなわち t 期)以降の公的年金の財政方式は
特徴づけられることになる。
とくに、定数 k ( 0  k  1 )に関して、
f t  f t 1    k
(17-13)
であれば、第 t 世代以降の公的年金の財政方式を「積立率 k の財政方式」あるいは「積立
率 100k%の財政方式」と呼ぶことにする。そして、公的年金の財政方式は、
①
「積立方式」=「積立率 100%の財政方式」
②
「賦課方式」=「積立率 0%の財政方式」
である。
13
そ し て 、第 t 世 代以 降 の 公的年 金 の 財政方 式 が 積立方 式 で ある場 合 は 、 (17-8)よ り
t 1  t 2  =0 であるから、第 t+1 世代以降の世代の年金の収益率はゼロであり、フ
ェアな年金である。
それに対して、第 t 世代以降の公的年金の財政方式が賦課方式である場合は、(17-8)より
s  t  1  t  2  に関して  s  ( Ls  Ls 1 ) / Ls 1 である。したがって、賦課方式の公的
年金のもとでは、ある世代 s の収益率  s は自分の世代の人口 Ls が一つ前の世代の人口 Ls 1
より多い場合はプラスになる。
年金の財政方式に関して、第 t 世代からある方式の公的年金を「導入」するとは、第 t 世代
以降の世代の給付をその方式で賄う公的年金にすることである。また、第 t 世代である方式
の公的年金を「廃止」するとは、第 t 世代まででその方式の公的年金を終了することである。
さらに、A 方式の公的年金から、t 期に B 方式の公的年金へ「移行」するとは、第 t-1 世代
で A 方式の公的年金を廃止し 第 t 世代から B 方式の公的年金を導入することである。
この用語を用いれば、
「年金改革」とは公的年金の財政方式をある方式から他の方式へ移行
させることである。なお、第 1 世代から(はじめて何らかの方式の)公的年金が導入されると
する。
14
17.3 賦課方式から積立方式への移行と二重の負担
以下の節では、各世代の人口のパターンが次のような特殊ケースに着目して、年金改革の
効果について検討しよう。すなわち、第 3 世代のみが人口が多く、その他の世代の人口は
少なくて一定であるケースに着目する。具体的には、
L0  0 、 L3  2 、 L1  L2  L4  L5    1
(17-14)
であるとする。
賦課方式から積み立て方式に移行する年金改革を実行する場合は、移行過程における現役
世代は前の世代の給付財源の不足分を負担するとともに、自分の世代の給付財源も負担す
るという「二重の負担」をする必要が生じることになる。
15
期
世代
1
2
1
2
b1

b2
3
4
5
6

b3

b3

3
4
5
b4

b5

16
L0  0 、 L3  2 、 L1  L2  L4  L5    1
賦課方式の公的年金のもとでの収益率について検討するために、第 1 世代から賦課方式の公
的年金が導入されたとする( 0  f1  f 2  )
。このとき、各世代の純便益 g t と収益率 t
を、  を用いて表 1 のように表すことができる。
(問題 17-4)表 1 の空欄を埋めなさい。また、どの世代が大きな負担をしているかを、そ
の直感的な理由とともに説明しなさい。
<表 1>
世代t
1
2
bt
0

 /2
2

gt


0
 /2

0
0
1
1/ 2
0
t
gt :   bt
t :
gt
bt
3
bt  btP 
4
Lt 1

Lt
←
5
bt 
P
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
17
L0  0 、 L3  2 、 L1  L2  L4  L5    1
次に、第 1 世代から導入されていた賦課方式の公的年金から、3 期に積立方式の公的年金へ
移行するとしよう( 0  f1  f 2 ,1  f 3  f 4  )。そのときの、各世代の一人あたり純便
益 g t と収益率 t は表2のように表すことができる。
(問題 17-5)表 2 の空欄を埋めなさい。また、どの世代が大きな負担をしているかを説明
しなさい。
二重の負担
<表2>
世代t
1
2
3
4
5
btF
0
0

btP
0

 /2

0

0
bt
0

3 / 2


gt


0
 / 2
0
0
0
1/ 3
0
0
t
gt :   bt
t :
gt
bt
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
btF  ft
18
17.4「積立率 1/2 の財政方式」から賦課方式への移行
各世代の公的年金の収益率が市場収益率を下回ることは、保険方式の公的年金を維持して
いくためには避けたい状況である。また、公的年金の存在が世代間の利害対立の要因とな
らないようにするためには、世代間の公的年金の収益率格差を小さくすることが望ましい。
そのような政策課題を、各世代の積立率 f t を調整することで、達成できる可能性について、
以下で検討しよう。
19
そのための準備として、第 1 世代から「積立率 1/2 の財政方式」の公的年金が導入されると
する( 1 / 2  f1  f 2   )。そのとき、各世代の一人あたり純便益 g t と収益率 t を、 を
用いて表 3 のように表すことができる。
(問題 17-6)表 3 の空欄を埋めなさい。また、表 1 と表 3 を比較することで、賦課方式と
比較すると修正積立方式の場合のほうが世代間の負担の格差は小さくなっている
ことを確認しなさい。
<表3>
世代t
1
2
3
4
5
btF
 /2
 /2
 /2
 /2
 /2
btP
0
 /2
 /4

 /2
bt
3 / 2

 /4
 / 2
0
t
1

0
0
3 / 4
gt
 /2
 /2
1/ 3
1/ 3
0
gt :   bt
t :
gt
bt
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
btF  ft
20
次に、
「積立率 1/2 の財政方式」の公的年金が導入されている状況から、賦課方式への移行
により収益率にどのような変化が生じるかを検討する。すなわち、第 1 世代から導入され
た「積立率 1/2 の財政方式」の公的年金から、4 期に賦課方式の公的年金へ移行したとする
( 1/ 2  f1  f 2  f 3 , 0  f 4  f 5   )。そのとき、各世代の一人あたり純便益 g t と収益
率 t を、  を用いて表 4 のように表すことができる。
(問題 17-7)表 4 の空欄を埋めなさい。そして、第 4 世代以降の世代の公的年金はフェア
年金となることを確認しなさい。
<表4>
世代t
1
2
3
b
 /2
btP
0
 /2
 /2
 /2
 /4
bt

3 / 4
gt
 /2
 /2
0
 /4
t
1
0
1/ 3
F
t
gt :   bt
t :
gt
bt
btP 
Lt 1
(1  f t 1 )
Lt
4
5
0
0



0
0

0
0
btF  ft
21
17.5
補論 1*:年金純債務と国債残高
以上では、公的年金の財政方式を国の財政問題とは切り離して議論してきた。しかし、
「年
金国債」すなわち、年金給付財源(の一部)を国庫負担で賄うために発行される国債を発
行可能である場合には、
「年金財政の問題」を「国の財政問題」に移し替えることが可能で
ある。この点について以下で検討しよう。なお、「年金国債」の満期は 1 期であるとする。
第 1 世代から導入された「積立率 1/2 の財政方式」の公的年金制度が第 3 世代まで継続し
ていたとする。そして、年金国債の t 期の青年1人あたりの発行額(残高) Bt は 3 期まで
はゼロであるが 4 期から  / 2 であるとする(表 5、表 6 を参照)
。
年金国債を積立資産にすることで、年金の収益率を何ら変化させずに、
「積立率 1/2 の財政
方式」から(4 期に)
「積立方式」へ移行できることを確認しよう(17.4 節参照)
。そこで、
4 期以降の年金給付のための積立資産は、これまでの運用資産に年金国債も加えて積立方式
へ移行する( 1/ 2  f1  f 2  f 3 , 1  f 4  f 5  )ケースについて考える。そのとき、各
世代の一人あたり純便益 g t と収益率 t は、  を用いて表 5 のように表すことができる。
22
(問題 17-8*)表 5 の空欄を埋めなさい。そして、表 5 と表 3 を比較しなさい。
<表5>
世代t
1
4
5
 /4

 /2

0
3 / 4
3 / 2
 /4
1

0
0
0
0
0
 / 2
1/ 3
 /2

0
0
btF
 /2
btP
0
bt
 /2
 /2
gt
t
Bt
gt :   bt
t :
gt
bt
2
3
 /2
 /2
 /2
1/ 3
 /2
Lt btP  Lt 1 (1  ft 1 )  (Lt Bt  Lt 1Bt 1 )
btF  ft
23
「積立率 1/2 の財政方式」の年金を維持したままで、運用資産を年金国債に入れ替えること
で「積立率 1/2 の財政方式」を維持しつつ、年金国債を発行せずに賦課方式へ移行したとき
と年金の収益率が変化しないことを確認しよう。そのために、4 期(第 3 世代)に給付する年
金給付財源の積立不足分を年金国債で賄うとともに、4 期以降の年金給付のための資産とし
てはその年金国債を積み立てる( 1 / 2  f1  f 2   )ケースについて考える。そのとき、
各世代の一人あたり純便益 g t と収益率 t は、  を用いて表 6 のように表すことができる。
24
(問題 17-9*)表 6 の空欄を埋めなさい。また、第 4 世代以降の世代の公的年金はフェア年
金となることを確認しなさい(表 4 を参照)。
<表6>
世代t
1
2
3
4
5
F
t
b
 /2
 /2
 /2
 /2
 /2
btP
bt
0
 /2
 /2

 /4
3 / 4
 /2

 /2

gt
 /2
0
 /4
0
0
1
0
1/ 3
0
0
0
0
t
Bt
gt :   bt
0
t :
gt
bt
 /2
Lt btP  Lt 1 (1  ft 1 )  (Lt Bt  Lt 1Bt 1 )
 /2
btF  ft
25
17.年金 2(年金改革)
17.1
年金の収益率と効用水準
17.2
年金の財政方式と年金改革
17.3 賦課方式から積立方式への移行と二重の負担
17.4「積立率 1/2 の財政方式」から賦課方式への移行
17.5
補論 1*:年金純債務と国債残高
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