セラミックス - 学術情報センター

セラミックス
第9回 6月 15日(火)
セラミックスの物性①
担当教員 永山 勝久
セラミックスの物性
ーセラミックスの材料物性ー
機能大分類:
①
②
③
④
⑤
⑥
熱的機能
機械的機能
生物・化学的機能
電気・電子的機能(含 磁気材料関連)
光学的機能
原子力関連機能
表1.4 ニュ-セラミックスの機能・材料・応用製品
機能大分類
熱的機能
機械的性質
生物・
化学的
機能
電気・
電子的
機能
光学的機能
原子力関連
機能
機 能
酸化物セラミックス 非酸化物セラミックス
応用製品例
A l2O 3
SiC ,Si3N 4
耐熱性
耐熱構造材
ZrO 2,SiO 2
断熱性
C
各種断熱材
伝熱性
B eO
SiC (+ B eO )
基板
A
l
O
硬質・
耐磨性
SiC
メカニカル・
シール・
リング
2 3
A l2O 3
切削性
TiC ,TiN
切削工具
B 4C ,ダイヤモンド
研磨性
―
砥石,研磨材
A l2O 3,アパタイト
生体適合性
―
人工骨
坦体性
コーディライト
―
触媒担体
A l2O 3
B N ,TiB 2,Si3N 4
耐食性
耐食部品
A l2O 3
絶縁性
SiC (+ B eO )
IC 基板,パッケージ
ZrO 2
SiC ,M oSi2
導電性
抵抗発熱体
ZrO 2,B aTiO 3
誘電性
―
コンデンサ
イオン伝導性 ZrO 2,β-A l2O 3
―
酸素センサ,電池
SnO 2,ZnO -B i2O 3
半導性
SIC
ガス・
センサ,バリスタ
圧電性
P ZT,ZnO
―
着火素子,発振子
(Zn,
M
n)Fe
O
磁性
―
磁心,記憶素子
2 4
Y 2O 3
蛍光性
―
蛍光体
A l2O 3
透光性
―
N aランプ
偏光性
P LZT
―
偏光素子
SiO 2
導光性
―
光ファイバ
UO 2
原子炉材
UC
核燃料
減速材
B eO
C
減速材
B 4C
制御材
―
制御材
熱的性質
◎セラミックス材料特有の熱的問題点
(1)熱衝撃による脆性破壊現象*)
・・・セラミックスの一般的特徴(←「セラミックス材料の問題点」)
「セラミックスの熱膨張係数」[:表4.1参照]
・・・金属材料に比べ温度変化に伴う変形能が小さい
*)熱衝撃:材料における熱の急激な変化(急激な温度変化)に伴う
脆性破壊現象
表4.1 セラミックス材料の熱膨張係数(線膨張係数)
線膨張係数
線膨張係数
0-1000℃
0-1000℃
材 料
材料
4
(cm /cm ℃×10 )
(cm /cm ℃×104)
A l2O 3
安定化ZrO 2
8.8
10.0
B eO
9.0
溶融シリカガラス
0.5
M gO
13.5
ソーダ石灰ガラス
9.0
ムライト
5.3
TiC
7.4
スピネル
7.6
磁器
6.0
ThO 2
9.2
粘土質耐火物
5.5
UO 2
Y 2O 3
10.0
9.3
ジルコン
4.2
TiC サーメット
9.0
B 4C
SiC
4.7
4.5
『熱応力の定義』・・・材料内部に温度分布や温度勾配がある時に熱応力が発生
σt=E×ΔT×α
σt:熱応力
E:弾性率(セラミックス:Eは大):次ページの図(弾性率Eの定義)参照
ΔT:材料内部(例えば両表面部)での温度差
(セラミックス・・・熱伝導が悪いため、通常ΔTは大)
α:熱膨張係数(セラミックス・・・αは小)
熱応力の発生要因:①脆くて弾性率Eの大きい材料[:表4.2参照]
②急激な熱の出入りがある
③熱伝導率が小さくて熱膨張係数αの大きい(通常は小)材料
*)熱応力による脆性破壊[=熱衝撃]:熱応力が大きくなり、表面での引張り破壊が
生じるようになると、亀裂が発生し始め、さらに亀裂が進行して全体の破壊に至る
(2)多結晶体固有の異方性(結晶粒の配列、整合性等)に起因した高温焼結後
・冷却時に生じる粒界部微小応力やひずみによる脆性の発生
セラミックス材料固有の問題点
(3)熱伝導率[:図4.3参照]
・・・金属材料に匹敵するセラミックスの開発(ダイヤモンド,CBN,
BeO,SiC,AlN,TiC)
↓
温度勾配が小さくなるため熱応力も小さくなり耐熱衝撃性が向上
セラミックス材料・・・ 熱応力:σtが大きく、これにより脆性破壊を生じやすい(≡“熱衝撃”)
(通常はαは小さいが、Eと⊿Tが非常に大きく、σtは大となる)
σt  E (弾性率) ⊿T(材料内部の温度差 ) α(熱膨張係数 )
大
大
<熱衝撃による脆性破壊機構>
小
表4.2 各種材料の弾性率:E(Nm-2)
セラミックス
ダイヤモンド1.21×1012
<111>
A l2O 3
4.6×1011
<0001>
M gO
2.45×1011
<100>
N aC l
4.4×1011
<100>
Si3N 4(poly) 3.72×1011
SiC (poly)
5.6×1011
図4.3
W
Sn
Cu
Zn
Ag
Al
金 属
3.6×1011
5.5×1010
1.25×1011
3.5×1010
8.1×1010
7.2×1010
有機高分子
ポリエチレン 0.12~1.05×109
PM M A
2.5~3.5×109
6.6ナイロン
3.2×109
ポリスチレン
2.2~2.8×109
6ナイロン
2.84×109
ポリプロピレン
1.4×109
各種材料の熱伝導率(W/m・K)
機械的特性
◎基礎概念[:図4.4,図4.5参照]
σ=P/A(σ:応力,P:引張り荷重,A:試料の断面積)
εz=Δl/l0(εz:ひずみ,Δl:荷重Pを加えた時の伸び,l0:最初の長さ)
σ=Eεz(E:弾性係数=弾性率=ヤング率)
図4.4
材料の変形:引張り(a),せん断(b)
,体積圧縮(c)
図4.5 応力-ひずみ曲線(:室温)
(a)金属材料の場合,(b)セラミックスの場合
[重要]:金属材料とセラミックス材料の破壊機構
(:「応力-ひずみ曲線」)の違い
セラミックス・・・[常温域]:弾性限界を超えると亀裂発生・成長→破壊
[高温域]:結晶粒界の軟化→粒界すべりに伴う延性の発現
※セラミックス材料の製造時に生じた微小亀裂,気孔,介在物または表面の粒界溝
に応力集中が加わって、亀裂が発生,成長
↓
亀裂の進行に対する抵抗性=「破壊靭性」
・・・一方向引張り応力の場合:臨界応力拡大係数(K1C)[:表4.3参照]
:金属比べ、著しく小さい
(K1Cが大きければ、亀裂が進行しにくく、破壊に至る時間が長い)
↓
Al2O3,SiC,Si3N4,ZrO2
・・・セラミックスのなかではK1Cが比較的大きいため、セラミックス
エンジン,高温用機械材料への開発が進展
表4.3 各種セラミックス材料と合金鋼のK1C(M・N・m-3/2又はM・Pa・m1/2)
A l2O 3
A l2O 3-16%ZrO
TiO 2
安定化ZrO 2
ZrO 2-2%Y 2O 2
ZrO 2-4%Y 2O 3
ZrO 2-10%C aO
ZrO 2-8%M gO
磁器
シリカガラス
TiB 2
3~7
7~17
3
3
6~12
10~20
8~10
6~12
1.3
3
5~6
B 4C
SiC
A lN
Si3N 4
サイアロン
W C -C o
軟鋼
炭素鋼
高張力鋼
マルエージング鋼
1~4
2~5
3
4~7
7
6~7
100~150
235
35
93
気孔率と強度の関係[:図4.6参照]
・・・試験温度に依存せず極端な強度の低下
[対策]:①気孔の発生がない完全焼結
②結晶粒の微細化(結晶粒界に存
在する微小亀裂や微小残留応力
の起源・・・結晶粒の熱膨張・
収縮の異方性に起因)
③結晶粒の規則配列(整合化)
を促進
↓
「セラミックスの機械的性質」
・・・結晶粒径と気孔率に大きく依存する
図4.6 アルミナセラミックス
曲げ強さと気孔率の関係
補足:
1. アルミナセラミックス・・・酸化物セラミックスの代表
特徴:セラミックスの中で最も使用量が多く、かつ古い歴史をもつ代表的材料
(・・・1930年,ドイツ・ジ-メンス社による自動車用スパ-クプラグ
の絶縁体が最初の実用材料)
主要機能特性[:図1,図2,表1,図3参照]
:①電気・電子的機能,②機械的機能,③熱的機能,
④生物・化学的機能, ⑤光学的機能
図1 アルミナセラミックスの特性と用途
図2 アルミナセラミックスの
高温強度
図3 アルミナセラミックスの
絶縁特性
表1 アルミナセラミックスの構造特性
高純度かつ
微粒が最良
応用例
:①電気・電子的機能・・・電気絶縁性(ex.スパ-クプラグ,IC基板,
ICパッケ-ジ)[:図4,図5参照]
②熱的・機械的機能・・・高温高強度特性,耐摩耗性(ex.切削用工具,
エンジン用材料)
③透光性機能・・・:単結晶Al2O3(サファイヤ・・・ex)人工宝石、腕時計用ガラス)
:高圧Naランプの発光管,高温用赤外線検知用窓材料
: 単結晶Al2ーxCrxO3(x=0.00067,ルビ-)
・・・固体レーザー発振素子(ルビー・レーザー)
④生物・化学的機能・・・生体用材料(耐食性,機械特性,生体適合性良好)
図4 スパ-クプラグの構造
図5 アルミナ製IC基板とICパッケージ
2. ジルコニアセラミックス
ZrO2:1100℃で結晶変態(低温:単斜晶→高温:正方晶)
↓
数%の容積変化の発生(亀裂発生に伴う自己破壊の誘発)
↓
∴安定化剤の添加(CaO,MgO,Y2O3を数%~数十%添加)
・・・室温で立方晶を呈し、高温での結晶変化がない
『安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia)』
・・・Zr4+とCa2+,Mg2+,Y3+の置換によって結晶格子中に酸
素イオンが不足し、酸素イオンの伝導体(=『固体電解質』)と
して応用→各種酸素センサ素子[:図6,図7,図8,図9参照]
↓
『部分安定化ジルコニア(PSZ:Partially Stabilized Zirconia)』
・・・正方晶ZrO2(高温安定相),あるいは正方晶ZrO2+立方
晶ZrO2(安定化ZrO2)の混在構造
:強靱,高強度セラミックス材料
[機構]:PSZセラミックスに外力が加えられた場合、正方晶
構造が単斜晶構造に相転移して、外力を相転移時の
駆動エネルギ-として吸収する
PSZ
∴『結晶転移による強化機構』
:高温・高強度
・・・TTZ(Transformation Toughened Zirconia)
構造材料
特徴:①高強度,高靭性[:図10参照]
②熱伝導率は小さく(断熱性良好)
熱膨張係数は金属に近い[:図11参照]
Y3+:結合手が3つ
O2-のホールを介した
イオン伝導
(・・・結晶中を移動)
Zr4+:結合手が4つ
O2-: 〃 が2つ
図6 Y2O3添加による
ZrO2の安定化(単斜晶
から立方晶型への相転移)
図7 安定化ZrO2固体電解質を用いた
図8 自動車用排気ガス用
酸素センサの酸素濃度と起電力の関係
酸素センサ素子の構造
E=55.7log10PR/PM
(E:起電力,PR:大気中の酸素濃度,PM:被測定ガスの酸素濃度
ex) 排気ガス中のCOまたはCO2濃度)
E(O2-のイオン伝導によって生じた起電力) = 55.7log10
PR(大気中のO2量)
PM(測定ガス中のO2量)
図9 ZrO2セラミックス用途
図10 部分安定化ZrO2(PSZ)の強度と破壊靭性(K1C)
図11 部分安定化ZrO2(PSZ)の熱伝導率と熱膨張係数