2012年3月10日 公開シンポジウム 東京大学総長裁量経費プロジェクト「Sustainabilityと人文知」 科学知から総合知へ ―人類生存の課題― 服部英二 前ユネスコ事務総長顧問 地球システム・倫理学会会長 ユネスコで考えたこと • • • • • • • 文明のひずみ・・・世界遺産との兼ね合い 文明間の対話・・・文明は出会いによって子を孕む 平和の文化・・・戦争の文化に対して 文化の多様性の意義・・・生物多様性との関連 近代文明の本質・・・神の喪失 地球倫理の時代・・・近未来の課題 Sustainability ・・・何を維持しようとするのか? 2 地球と人類の現状 ――アポカリプスの予感 • 地球は再生力を持つ、 しかし今人間はその基を破壊 • 化石燃料の発見以来起こった人口爆発: 20世紀だけで4倍し、2050年92億、 世紀末には100億を越すか? • 現在でも、もし新興国がアメリカ並みの消費水 準を欲するなら、4個の地球が必要 3 4 Ref:Dennis Meadows, “Limits to the Growth", 1972 5 人口の爆発と未来予想 6 このままでは何が起こるか? • • • • • 温暖化による気候変化 2025年にはすでに決定的な水不足がおこる 干ばつ・洪水・暴風は巨大化する 食糧不足・エネルギー不足、目前に迫る 文明の衝突ではなく、 民族間(部族間)の紛争が激化 7 3.11が露呈した文明の危機 • • • • • 近代文明の構造的欠陥 啓蒙主義のもたらした人間像のひずみ 人間の自然との離婚 母性原理の消失 二元論的パラダイムの終焉 8 科学革命とは何であったか? • 何故ヨーロッパのみに起こったのか? • ロゴスとトーラー • 聖俗の葛藤・・・理と不条理の戦い • 倫理と真理の棲み分け • 科学は価値を問わず Value free ――後の戦争の文化、マンハッタン計画に至る 9 10 11 科学革命の基礎を創ったルネサンス • • • • アラビアを通してギリシア的理性を再発見 人本主義――Humanism 人間中心の世界観――神さえも対象となる 神に見られる存在から、神を見る存在に 12 デカルトの目 • • • • 生命誌の体系から抜け出る 自然との「離婚」 Cogito――デカルト的理性の目は「神の目」 抽象的な存在――人間のAbstraction 中村桂子「生命誌―生命という知」より 14 近代文明を造った言葉 « ---ainsi nous rendre comme maîtres et possesseurs de la nature » ( René Descartes “Discours de la Méthode ” , Sixieme partie l.61 ) 「(人間は恰も)自然の主人にして所有者となった」 (ルネ・デカルト 『方法叙説』第6部、61行) 15 啓蒙主義 the Enlightenment • • • • 18世紀 Siècle des lumières 理性に至上の価値を賦与 感性・霊性は下位におかれる 女性・子供・非西欧人に対する差別の原理と なる • 光の世紀か? • 存在の喪失感が所有慾を生みだす 16 存在Etreから所有Avoirへの価値転換 • 「Etre と Avoir は反比例する」 Gabriel Marcel 17 所有の文明――近代資本主義 • すべてを数字化、質の数量化 • 人さえも数字となる (チャップリンのModern Times) • 人間疎外(Alienation)不安と絶望の時代 • 所有の文化、市場原理主義 ・・・金融工学という怪物 • 1%対99%の出現 • 所有の文化=戦争の文化 18 文明の不協和音 • Need (需要)に非ず、Greed(強欲)の充満 ・・・マハトマ・ガンディーの警告 • 「人間はその半分を失った。その空白感を満た すため強欲に走る」(Augustin Berque ) • 資源の奪い合い • 「外閉」(Forclusion) 「すべてを自分に関係な いものとして、外に出して戸を閉める • 国家ナショナリズムが、地球を滅ぼす 19 孤児となった人間、二つの罪 • 4世紀以来の母殺し Matricide, 大地母神の抹殺 • 科学革命以来の父殺し Patricide, 父なる神の抹殺 • 「神は死んだ」 Nietzsche • フランス革命の人権宣言に神は不在 • 法で社会を律する思想、Hobbes, Rousseau • 社会契約としての法律 ――法 Dharma に非ず、律 Torah に非ず 20 人権思想――未来世代の欠如 • 「未来世代の権利憲章」 Bill of Rights for Future Generations ( Jacques Yves Cousteau の請願、1980年代より ) • 「未来世代に対する現代世代の責任宣言」 Declaration on the Responsibilities of the Present Generations towards Future Generations ( UNESCO,1997 ) • 解決策なき放射能を末代に残すのは、この 宣言を採択した全世界の背信行為 21 近代の人文知 • • • • • • • デカルトから出発した啓蒙主義 ロゴス――分ける能力 主客峻別の二元論、Dualism 分析、細分化、専門化 対象を見る外からの目、観察 実態の一面を細かく観察、総体ではない サティーアグラハ(ガンディーのいう真実の把握) に至らず 22 認識論の位置づけ • 思考の前提に Dualism • 何故 Kant 「純粋理性批判」は Ding an sich (モノそのもの)の認識は可能かと問うのか? 近代西欧を除くいかなる地域でも問われな かった問い 古代ギリシアにもこの問いなし • デカルトの科学の目が大前提 23 人間のひずみを正す時 • • • • Holisticな人間把握 感性・霊性と響きあう理性・・全人性 父性原理から母性原理へ 「いのちの継承を至上の価値とすること」 (鶴見和子) • 力の文明からいのちの文明へ 24 “A core characteristic of this new enlightenment is an appreciation of a fresh approach to Unity in diversity. Natural and social scientists have long held an idea that first took hold in the visual arts: that the whole is greater than, and different from, the sum of its parts. According to this idea, new attributes emerge as components come together in the special arrangements that signify the whole. But science has now uncovered the existence of a totally different holistic aspect of the Universe. This new holism recognizes the enfoldment of the whole in its ‘parts’ and the distribution of the ‘parts’ over the whole.” (Message from Tokyo, 1995) 25 東京からのメッセージ(1995) にみる量子物理学の存在論 「全体は部分に包含され、 部分は全体に行き渡っている。」 「全は個に、個は全に遍照する。」(服部訳) ・華厳思想と一致 「一即一切、一切即一」 ・イスラムのタウヒードの思想も同様 「万有における神の顕現」「一即多」 26 科学知から総合知へ • 新しい理性主義――感性・霊性と響きあう理性 • Holistic な存在把握 • Transdisciplinary なアプローチ 27 伝統知はこの時見直される • • • • • 古典中の古典は精神革命の師たち 著作を持たず 全人性をもって教えを説いた 人格の力・・人びとを動かす 真理と倫理の合一 28
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