イージーブリードを利用した発情同期化と定時受精 - 家畜改良事業団

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イージーブリードトピックス
イージーブリードを利用した発情同期化と定時授精
第32回家畜人工授精優良技術発表会全国大会
とき 平成16年2月19日 ところ JAホール
長野県 ○井上雅義 1)、米村匡人 1)
、中津清隆 2)
、岩下政克 2)
、井出良一 2)
1)農事組合法人長門牧場、2)長野県東信農業共済組合家畜診療所
Ⅰ.はじめに
れた31頭、卵胞嚢腫と診断された34頭を供試牛とした。
3.調査項目
近年、乳牛の受胎率が低下傾向にある中、繁殖管理
の正否は、牧場の生産性に直接影響を与えます。
膣内留置型プロジェストロン製剤(イージーブリー
ド:以下EB)を利用した発情の同期化と定時授精プロ
グラムが牛群の繁殖管理や繁殖障害に用いられ受胎率
2002年11月から2003年9月の繁殖指数の変動、プロ
グラムにかかわる薬剤費、及び試験期間後の予測分娩
頭数について調査した。
4.方法(図1、2)
0日目
7日目
9∼10日目
EB挿入
EB除去
AI
エストラジオール
PG注射 2ml
向上に、その有効性が高く評価されている。
私達は、無発情若しくは鈍性発情等の牛に対し、2
種類の繁殖プログラムを用いて試験を行い繁殖管理、
受胎率向上に有効な知見を得たので、その結果を報告
する。
注射 1ml
Ⅱ.長門牧場の概要
図1 EBショートプログラム(EB-S)
0日目
10日目
12日目∼
EB挿入
EB除去
AI
GnRH
PG注射 2ml
私が勤務する長門牧場は、長野県東部の標高1,250∼
1,450mの高冷地に位置し、経産牛220頭、育成牛150頭
を飼養している。搾乳牛は、フリーストールで飼養さ
れ、TMRを給与、常時約200頭の搾乳を行っている。
2003年11月に於ける牛群検定成績は、経産牛1頭当
り9,565kg、平均分娩間隔401日、産次数2.4産、空胎日
数148日、授精回数2.5回であった。
従業員は10名で、うち3名が家畜人工授精師の資格
を持ち、授精業務を行っている。
注射 2ml
図2 EBレギュラープログラム(EB-R)
EBショートプログラム(以下、EB-S)は、EB挿入時
にエストラジオール1mlを注射し、7日間膣内にEBを留
置したあと除去し同時にPGF2αを2ml注射した。発情発
Ⅲ.材料及び方法
見後に人工授精を実施した。EB除去48時間後までに発情
が見られない牛に対しては、エストラジオール0.5mlを注
1.試験期間
2003年6月から9月までの4ヵ月間とした。
2.対象牛群
私が勤務する長門牧場で飼養されている乳用牛(ホ
ルスタイン種、経産牛)を用いた。
射し24時間前後に定時人工授精を行った。このプログラ
ムは、無発情あるいは鈍性発情の牛(31頭)に用いた。
EBレギュラープログラム(以下、EB-R)は、EB挿
入時にGnRH2mlを注射し、10日間膣内にEBを留置し
た後除去し、同時にPGF 2αを2ml注射、発情発見後、
当牧場では、毎月1回、搾乳牛の繁殖検診を行ってお
人工授精した。発情がみられない牛に対しては、48時
り、調査期間中に、無発情若しくは鈍性発情と診断さ
間前後に直腸検査し、子宮、卵巣の状態を診て、定時
39
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人工授精を実施した。このプログラムは、卵胞嚢腫の
2003年の5月からは50%台まで低下し、受胎率は40%
牛(34頭)に用いた。
台から30%台に低下していた。また、牛群の妊娠率は
試験に供した牛の人工授精は、すべて演者が行った。
25%から20%に低下していた(図3)。
2つのプログラムによる初回受精受胎率を比較した。
指数の低下要因として、人工授精担当者の変更(筆
者が2002年10月に家畜人工授精師の免許を取得し、以
Ⅳ.成績
前からの担当者と替わって授精業務を担当することに
なった)があった。また、乾乳牛舎を新設し、牛群の
1.プログラムによる初回受精受胎率
変動があり、これらが変動の要因と思われた。
EB-S並びにEB-Rを施したすべての牛にEB除去後48
4.次年度の分娩予測頭数
今回実施したプログラムにより、自然発情で受胎し
時間前後に人工授精することができた。
EB-Sは、処置頭数31頭中14頭が受胎し、受胎率は
45.2%であった。EB-Rは、処置頭数34頭中7頭が受胎
し、受胎率は20.6%であった(表1)。
EB-S
受胎率
15
14頭
45.2%
10
34頭
7頭
20.6%
5
65頭
プログラムあり
21頭
7頭
7頭
7頭
13頭
12頭
6頭
0
合計
プログラムなし
20
受胎頭数
31頭
EB-R
分娩予定である(図4)。
25
表1 EB-S及びEB-R処置による受胎率の比較
プログラム 処置頭数
た牛に加え、4月に7頭、5月に7頭、6月に7頭が受胎し、
4月
5月
6月
図4 2004年予測分娩頭数
2.薬剤費
各プログラムに係る1頭当たりの薬剤費は、EB-Sが
Ⅴ.考察
3,881円、EB-Rが4,907円であり、EB-Rの方が1,026円
割高であった(表2)。
以上の成績から、EBを用いた発情同期化及び定時授
表2 薬剤費
EB(イージーブリード)
エストラジオール(ギナンドール)
注:100本単位を購入
精プログラムは、無発情や鈍性発情の牛の受胎率向上
EB-S
EB-R
に有効な方法と思われた。
2300円
2300円
EB-SとEB-Rに受胎率の差があったが、EB-Sは、無
発情あるいは鈍性発情の処置に、EB-Rは卵胞嚢腫の処
98円
GnRH(コンセラール)
1124円
置に応用したものであり、優劣の比較はできなかった。
EB-SのEB留置期間は、EB-Rより3日間短く、また、
PGF2α(クロプロメイト)
1483円
1483円
合計
3881円
4907円
薬剤費も低く抑えることができた。発情発見が困難な
牛に対し、空胎日数を短縮させる上でも、経費を節減
3.試験前後の繁殖指数の推移
させる上でも効果があると考えられた。
%
発情発見率
70
受胎率
妊娠率
繁殖管理の正否は、農場の生産性に直接影響する。
発情の観察は重要な業務と位置づけ、発情発見を心掛
60
けているが、様々な要因で変動する。
50
自然発情により人工授精を行う場合は、発情発見が
40
重要な業務となるが、今回用いたプログラムでは、授
30
精時間をおおよそ決めることができ、労働力の軽減に
20
10
月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
年
20
03
月
年
11
02
20
12
月
とっては非常に有効な方法と思われた。
10
図3 繁殖指数の推移
稿を終えるにあたり、本試験にご協力いただいた家
畜改良事業団・佐久家畜保健衛生所の皆様に深謝する。
2002年11月には発情発見率60%以上あったものが、
40