拓殖大学オープンカレッジ:

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「TPPの及ぼすエネルギー貿易の今後」
報告者 武上幸之助
(TPP参加の貿易展望)変貌する「モノ」から
「キャッシュ」への貿易転換
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・TPPの目指すゼロ関税は、ドル経済の国際需給ギャップをダイレクトに国内
経済へ影響させる。
・自動車(外需主力)と農業(内需依存)の対立構図となる「ものつくり」貿易
に関心が集る一方で、TPPの狙いは、ドルを通じた日本の金融資産の取り
込みにある。
・日本では産業空洞化の進む中、円高、低金利で海外進出した日本企業の
対外資産(ODAなど)は主にドル運用されている。またドル外貨準備高(国
富)に対しても、ドルの通貨価値増減(利子率や供給量調整)を通じて、スト
ロー現象が生じうる。
・国際重要商品であるエネルギー商品はドルで国際市場が形成され、ドルで
なければ購入輸入できない。特に石油は、金融商品(コモデティー)化され、
巨大なキャッシュフロー・ストックを形成。産油国、メジャー・エネルギー資源
企業は豊富なドルキャッシュを用いて、これを運用(証券化、ファンド化)して
いる。
・主要なエネルギー資源、石油は、モノではなくドルキャッシュ金融商品の性
格を持ち、TPP交渉でどのような未来図になるか注視していく必要がある。
1.TPPで変わるエネルギー貿易地図
(関税Oの意味)
貿易とは、内需と関連して外需により国富(外貨準備高)を得る手段
であり、関税は内・外需のフロー調整弁の働きをする。輸入関税は、
輸入製品・サービスの輸入需要調整のはたらき。日本では輸出奨励
政策から輸出関税は制度としては存在しない。
(輸出力が隔てるTPP賛否両論)
日本の自動車産業は、外国製(輸入)車を内生化し、輸出製品として
海外需要へ結び付けることで成功(輸入代替政策)したが米国輸入
関税Oは好条件。一方、国内需要に依存し、輸出競争力の乏しい農
水産業、鉱業産業分野は、輸入関税がその国内存立を支えるフロー
調整要因である。9カ国で構成されるTPP参加交渉では、日米がGDP
比91%を占める事から、実質は日米拡大貿易自由化交渉となる。残
る環太平洋8国は食糧輸出国である。またTPPを支持する米国圧力
団体を見ると対日要求の強さと範囲の広範さが見て取れる。
(貿易赤字フローと国内外資産ストックの今後)
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日本の国内貿易ストック(外貨準備高)の面では、ドル安
政策(FRB過剰流動性)により減価著しく、もしさらに貿易
赤字が拡大すれば、数年で外貨保有が欠乏する見込み
である。震災以降の日本貿易は、入超が継続し、貿易収
支は大きな赤字を記録し、定着化の見通し。その主原因
は①主要な貿易相手国、中国との貿易縮小、及び②輸
入エネルギー資源の高騰化(加工貿易のボトルネック)で
ある。一方、海外ストック債権はODAにより世界最大規模
であり、ドル減価の影響大きく、今後はこのキャッシュ資
産運用が大きな課題である。
日本貿易の赤字定着の原因
(産業空洞と海外投資資産の拡大)
原油輸入価格の推移
原油価格の推移
120
100
60
原油価格(WTI)
原油価格(ドバイ)
40
原油価格(ブレント)
20
西暦
2010年
2005年
2000年
1995年
1990年
1985年
0
1980年
US$/bbl
80
今後の石油需給の見通し
(TPP/FTA大国:韓国の先行事例)重要な政
策目標と実行プランのありかた
*2011米国とFTA締結
・10大財閥へ資本集中(ドル経済、外資合弁の支配)
・雇用50歳定年制と大卒就職率10%(ものつくり産業の縮小)
・急拡大する金融資本(米国ドル政策にダイレクトな好影響)
・拡大する貿易赤字(ドル外貨資産の逸失:ストロー現象)
*2013年11月 TPP参加取り止め決定
2.貿易赤字と経済リスク:デフォルトのトリ
ガー(国際収支悪化の及ぼす負の影響)
①イギリスの貿易縮小(世界最大の貿易黒字国が
経済破綻するまで)
「ヨーロッパの病人」イギリスは、かつて「世界の
工場」産業革命で残した金融資産で経営不振の
企業を相次いで国有化、福祉政策負担増など財
政悪化にポンド下落が追い討ちして国際収支悪
化、高税率と失業が社会問題化、最終的にIMF
に救済求め財政破綻。「モノ」から「キャッシュ」:
金融ビッグバンとホーセール金融で再生化
②フィリピンの人的貿易(資源無き国の飢餓貿易)
③ベトナムの貿易赤字(資源国の経済リスク
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輸出商品に乏しい同国は食糧難もあり、
サービス(介護デイサービスなど人的貿易
財)を海外輸出、本国家族への送金が経
済の生命線
産油国(対日本貿易4位)で豊富な外貨を
持ちながら、ODA負債、財政赤字巨大化。
3.TPPの目指す政策目標:米国
の不況対策
①先例となった米国のインコタームス1936(貿易条件)/NAFTA
の成功
米国がアジア戦略基点に直接関与できるのは現状TPP
交渉のみである。
②何故、取決め内容が明らかにされないのか?(真の狙い
は何か)
・ウィキリークス顛末記:信憑性明らかにされず
・TPPメンバー国の共通性:日本を囲い込む政策合意
・TPP推進原動力:リーマンショック後の米国の圧力団体メン
バーたち「TPP推進のための米国企業連合」
4.TPPとエネルギー問題:資源商品の
ドル・キャッシュ化すすむ。
*TPP投資協定条項が、直接、日本のエネルギー貿易へ影響する。
①「急速に収縮する製造ものつくり」と「急拡大する金融キャッシュ」
石油=キャッシュ(証券化を通じて金融商品化)の運用とリスクマネ
ジメント。
②国際エネルギー資源商品の重要性増大:石油上流部門の優位性拡
大
日本の石油精製、消費地精製主義は関税Oで優位性失い消滅もあ
りうる。
③日本の対外資産ODA300兆円の今後
2013年インドネシアの資源輸出禁止令など経済リスク高まる。
結語
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①例外なき関税撤廃は、真の自由競争貿易(弱肉強食)
に至る。内需限定の国内地場産業は衰退進むが「もの
つくり」拠点を失うと労働も海外へ移転し国家が立ちゆ
かなくなるおそれ。
②急激な貿易自由化によりドル経済と結合の強い金融、
エネルギー業界等は優劣明確化、エネルギー日本企
業と英米外資企業のキャッシュストックの差が鮮明に。
③ドルキャッシュ/金融サービスの拡大と運用が成否の
鍵(金融業界は過去最高収益に沸く)世界最大債権国
のODA資産運用がエネルギー貿易にも大きな要因。