市川伸一・伊東祐司(編)『認知心理学を知る<第3版>』おうふう 第11章 人間の論理的判断 執筆者:伊東 昌子 授業者:寺尾 敦 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp Twitter: @aterao 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 人間の論理的思考は 何に基づくのか? • 可能性1:論理形式的なルール – 論理学でのルール.課題内容に関係なく,特定 の論理構造の問題には,同じルールが適用され る.人間は合理的に思考できる. • 可能性2:個別の問題ごとに考える • 可能性3:ある程度抽象化された文脈,目的 に応じて決められたルール – 目的・文脈の例:許可を与える,違反者を探す 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 1.論理的な判断とは • 人間は合理的か? – 論理的に正しい思考ができるか? – 特定の目的にてらして最適な行動をとることがで きるか? • 参考:伝統的な経済学は人間が合理的であ ることを仮定する. – 自己の利益を最大化する行動を選択する 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 • 論理演繹的推論(deductive reasoning):与え られた前提から,妥当な推論ルールを適用し て,結論を導く. • 条件文推理(conditional reasoning) – 前提1:雨が降ったら遠足は中止である – 前提2:雨が降った – 結論:遠足は中止である(正しい.誤りの例はテ キスト参照) 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 2.論理的に推論することは難しいか • 問題1(テキストp.130):カードはすべて,表に はアルファベット,裏には数字が書いてある. 「もしカードの表が母音ならば,裏は偶数であ る」という命題が正しいかどうか確かめるため に,必ずめくらなければならないカードはどれ か. A D 室蘭工業大学 4 集中講義「認知心理学」 7 • Wason 課題(4枚カード問題)での正答率は, 大学生でも非常に低い. – 正解は,[A] と [7] – [A] のみ,あるいは,[A] と [4] という誤答が多い. – 一般に,「P ならば Q である」という命題において, [P] と [not Q] のカードをめくる必要がある. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 • 課題素材効果:論理構造がまったく同一でも, 社会生活の一場面を用いた文脈にすると,ほ とんどの人は課題に正答する.(テキスト p.131 問題2) – この結果は,人が課題内容に依存しない論理形 式的な推論ルールを使うという考えに反する. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 • 日常的に親しみのある,具体的な課題であれ ば,論理的に正しい推論ができるのか? – テキスト p.129 に,日常的課題(遠足)での誤った 推論の例が示されている. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 実用的推論スキーマ • 実用的推論スキーマ:特定の目的,文脈のも とで使うことのできるルールの集合 – 例:「許可」スキーマ – あるタイプの問題群に,同一の実用的推論ス キーマが適用される.つまり,個別の問題ごとに, 異なった考え方を用いているのではない. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 • 実用的推論スキーマによる推論結果は,論 理的な推論による結果と,たまたま一致する ことがある. – 「実用的推論スキーマによって,論理的に正しく 思考できた」という言い方はおかしい. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 • 他の論理演繹的推論の例として,定言的三 段論法(categorical syllogism)がある. – 前提1:すべての A は B である. – 前提2:すべての B は C である. – 結論:すべての A は C である.(正しい) • 人はこの課題でもしばしば誤りを犯す. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 人間の論理的思考は 何に基づくのか? • 可能性1:論理形式的なルール – 論理学でのルール.課題内容に関係なく,特定 の論理構造の問題には,同じルールが適用され る.人間は合理的に思考できる. • 可能性2:個別の問題ごとに考える • 可能性3:ある程度抽象化された文脈,目的 に応じて決められたルール – 目的・文脈の例:許可を与える,違反者を探す 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 3.何が論理的推論を 困難にしているか • 論理学的ルールとは異なったルールの使用 – 実用的推論スキーマ • その他に,課題解決に影響する要因がいくつ か指摘されている. – 三段論法での雰囲気効果 – 視点の効果 – 文化的要因 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 4.課題の内的表象 • 論理推論課題に対して,われわれはどのよう な内的表象を構成するのか? – 課題の内的表象:与えられた問題の心的表現. 課題の理解を反映する. – どのような推論が可能であるかは,問題の内的 表象に依存する. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 • メンタルモデルを使って推論を行う. – メンタルモデル:人が構成する問題理解表象.入 力情報に含まれる項目間の関係を構成的に表象 したもの. – 例:定言的三段論法での推論(テキスト p.136). ある結論の真偽判断は,その結論がメンタルモ デルから容易に導かれる場合に受け入れられる. 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」 前提1:いくらかの芸術家は養蜂家である. 前提2:いくらかの養蜂家は化学者である. 不適切なメンタルモデル 芸術家 芸術家 = 養蜂家 芸術家 = 養蜂家 = 化学者 (養蜂家) = 化学者 (養蜂家) = 化学者 (化学者) (化学者) 誤った結論:いくらかの芸術家は化学者である 室蘭工業大学 集中講義「認知心理学」
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