第4章 想起のメカニズム

市川伸一・伊東祐司(編)『認知心理学を知る<第3版>』おうふう
第4章
想起のメカニズム
執筆者:伊東裕司
授業者:寺尾敦
atsushi [at] si.aoyama.ac.jp
Twitter: @aterao
室蘭工業大学
集中講義「認知心理学」
この章で学習すること
• 想起のメカニズム
– 連合による想起
– 構成的活動としての想起
– 問題解決としての想起
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集中講義「認知心理学」
• 長期記憶以内に蓄えられた情報はそのまま
の状態では利用できない.非活性記憶
(inactive memory).
• 何らかの形で情報を思い出す必要がある.思
い出すことを,想起(remembering,
recollection)あるいは検索(retrieval)と呼ぶ.
• 想起され,利用可能になった情報を活性記憶
(active memory)と呼ぶ.
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集中講義「認知心理学」
1.想起の形と想起の手がかり
• 想起にはさまざまな形がある.
– 想起の意図の有無.無意図的想起と意図的(自
発的)想起.
– 想起しているという意識の有無.想起の意識があ
るものを顕在記憶(explicit memory),ないものを
潜在記憶(implicit memory)と呼ぶ.
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集中講義「認知心理学」
• どのような形の想起であっても,想起の手が
かり(cue)が必ず存在すると考えられている.
– あることを想起するきっかけ
• 手がかりが与えられたとき,どのようなメカニ
ズムで想起がなされるのか?
– 連合
– 構成的活動
– 問題解決
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2.連合による説明
• 連合(association):経験によって事象間にで
きる結合のこと.
• 記憶されている情報では,いくつかの要素間
に連合が形成されていると考えられる.
– 対連合学習:ペアにされた材料を記憶する.ペア
の一方が手がかりとして与えられ,もう一方を想
起することが求められる.
– より複雑で有意味な記憶も,連合を形成している
と考えられる(図4-1参照).
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集中講義「認知心理学」
• 長期記憶は,非常に多くの要素間に連合が
形成された,知識のネットワークである.
• 連合を介した想起のプロセス
– 手がかりが与えられる.
– 記憶された情報の中で手がかりに対応する要素
が活性化する.
– その要素との連合(リンク)を介して,他の要素が
活性化し,活性化した情報が想起される.
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集中講義「認知心理学」
3.構成的活動としての想起
• 連合による想起の考えでは,想起される情報
は記憶されている事柄の一部.
– しまってあった情報が取り出される.データベー
スの検索と同じ.
• この考え方に反対する立場もある.
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集中講義「認知心理学」
• タルビング(Tulving, E.)の反対意見
– 連合は,自分が記憶していたものを想起したのだ
という,われわれの信念を説明できない.この主
観的な確信はどこから来るのか?
– 構成的想起:想起とは,記憶の一部分を再現す
ることではなく,手がかりと記憶情報とを材料とし
て,新たな情報を構成的に作り出す活動である.
– こうした構成的活動により,われわれはある事柄
を覚えていたという信念を持つことができる.
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• 構成的活動としての想起を支持する実験的
証拠として,目撃証言における記憶の変容に
関する研究がある(テキスト p .51 参照).
– Loftus & Palmer (1974) Experiment II
– 150人の学生に,自動車事故の映像を見せる.映
像を見た後にいくつかの質問をする.
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– 50人の学生には,“About how fast were the cars
going when they smashed into each other?” と質
問.別の50人の学生には,下線部を hit として質
問.(あと50人には,自動車の速度についての質
問なし)
– smashed という動詞で質問されたときの回答は平
均で 10.46 mph.hit では 8.00 mph.(有意な差)
– 1週間後に実験に戻り,“Did you see any broken
glass?” と質問される.
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Distribution of “Yes” and “No”
Responses to the Question
Response
Yes
No
Verb condition
Smashed
Hit
16
7
34
43
Control
6
44
Thus smashed leads both to more “yes”
responses and to higher speed estimate.
(Lotus & Palmer, 1974 より)
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• As a framework for discussing these results,
we would like to propose that two kinds of
information go into one’s memory for some
complex occurrence. (Loftus & Palmer, 1974)
– information gleaned during the perception of the
original event
– external information supplied after the fact. 自動
車は実のところ「smashed」したのだという情報.
より深刻な事故の記憶となる.
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4.問題解決としての想起
• 「忘れてしまった」記憶は,長期記憶の中から
完全に消えてしまったのか?
• 「忘れてしまった」記憶が,なんらかのきっか
けで想起できることがある.
• 長期記憶は減衰するが,完全に消えることは
ないと考えられている.
• 簡単には思い出せない記憶をどのように思い
出すか? → 問題解決としての想起
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