出版(1) 出版産業の歴史的変遷と特質 1.”出版”とは 2.出版の成立 3.日本の出版の歴史 4.デジタル革命と出版産業 5.出版産業の構図 6.変化する出版業 7.出版物の流通 1 1.出版とは(清水, 1995) <広義の出版> 印刷媒体の刊行。 日本では特に‘新聞発行’と区別。 ←定期刊行物の出現が遅かったから。 出版条例(明治20年)では、対象となるのは“図書”のみ で、新聞と雑誌は対象外。 しかし、わが国の雑誌は出版企業の確立以来、出版社 の事業の一部となっている。 いわゆる“雑誌社”はほとんどない。 2 <出版学の対象> 日本においては、書籍と雑誌の刊行と考えるのが妥当。 <書籍の定義> 表紙を除き、49ページ以上の不定期刊行物で、その国 で出版されかつ一般に入手できるもの。 <雑誌の定義> 一般新聞を除く定期刊行物。 一般新聞以外の定期刊行物とは、極く一般的な関心を 有する主題にかかわるもの、もしくは法令、財政、貿易、 医薬、流行、スポーツ等のような特殊な主題に関する 研究や情報を主として出版するもの。 3 1.出版の成立 (1)出版の根源は文字の発明にある? ■文字が可能にしたこと a.空間・時間を超えたコミュニケーション b.思考様式(抽象化された概念の認識、形式論 理学的な推論、意識的で明確に分節された 内省など) ■文字の発明=書物の誕生 洞窟、石、骨、金属、木版、などに書きつけら れた文字。 メソポタミア文明の楔形文字(粘土板)。 4 (2)本の誕生はいつか? ■巻物(ヴォリューメン)の誕生 紀元前3000年、パピルスから作った巻物が誕生。 ■「本」の出現 紀元1世紀 冊子体(コデックス)の出現 紙葉は羊皮紙であった。 本の内部の構造化もゆっくりと進行。 ビザンティン帝国時代(5世紀)には冊子体が主流に。 ■写本による本の複製 中世ヨーロッパでは、修道士が聖書などを筆写し本を 複製。 5 (3)マス・メディアとしての本の出現 ■活版印刷術の誕生 1455年、グーテンベルクによる発明により発明され た複製技術。 ←書物に対する市民の欲求 ←「大量生産」に対する模索 ■活版印刷術の影響 社会に知識を流通→知識の定着化と継続的蓄積 出版労働の激変 17世紀の科学革命の基盤 宗教改革(ルター) 俗語の台頭と共通言語の創出 6 (4)「出版産業」の誕生 産業革命の時代に、印刷技術は大きく進展。 金属製印刷機(スタンホープ) シリンダー印刷機(ケーニッヒ) など。 産業革命による大量生産・大量消費(資本主義の発展) 大衆の国民化 以上が、相互に絡み合って、出版産業を成立させた。 7 2.日本における出版の歴史 (1)『百万塔陀羅尼経』 764~770年、孝謙(称徳)天皇の命令で157名の技術 者が100万枚の経文を木版印刷により作成。 制作年が判明し現存する世界最古の印刷物。 (2)海外よりもたらされた技術 16世紀後半~17世紀 カトリック教会の宣教師が活版 印刷機、活字母型をもたらした。 文禄の役後、朝鮮式の活版印刷機、銅活字、刊本がも たらされた。 8 (3)近世の出版に関係した人々 ■江戸時代の出版者は、医者・僧侶が中心 e.g. 京都の医者 五十川了庵 ■商業出版は嚆矢は、 中村長兵衛 京都の書肆 「本屋新七」 ■その他、「貸本業者」も出現 9 (4)近代以降の出版 ■明治初期の日本では年間出版点数が5,000点を越 え、「出版離陸」を迎えた。 しかし、出版物の多くは和本(木版・和紙・和綴じ)で あった。 ■洋本が和本を追い越したのは、明治20年代。 ■近代出版流通システムの確立 出版社・取次・書店から成る委託販売・再販制のシス テム 1890年に博文館が設立した東京堂が始まり。 雑誌が定価販売になるのは、1919年。 10 ■マス化する出版業界 1927年 講談社の『キング』が発行部数100万部超。 紀伊國屋書店の創業 岩波文庫の創刊 「円本」の登場 1926年~1929年にかけて流行。定価1冊1円の予約 刊行物。 改造社の『現代日本文学全集』が第1号。 「文庫」ブーム 1903年の富山房の『袖珍名著文庫』が始まり。 後に、「新潮文庫」「岩波文庫」などが出現。 11 (4)日本の出版市場の担い手たち 学歴エリート階層(教員・官公吏・サラリーマン・学生) =「読書階級」アイデンティティ⇒教養主義的読書 労働者階級も読書習慣を獲得 エリート層による娯楽的消費文化の形成 出版業界の変化にも影響 12 4.デジタル革命と出版産業 (1)デジタル革命の到来 1980~90年代にデジタル革命は進行 →マルチメディア時代、IT革命、インターネット革命 →出版物は90年代に生産高・売上高ともに停滞・下 降気味 →550年続いた活版印刷術も消滅 →オンライン出版、電子書籍の出現 13 (2)デジタル革命による出版枠組の変化 ■印刷技術の変化 電算、DTP(Desk Top Publishing)、CTP()による印刷 へ ■個別対応による出版 「オンデマンド出版」(POD)による生産 ■「電子書籍」の出現 電子辞書など。 大容量、即時検索、音声・画像・動画対応 デジタル出版物 14 ■「オンライン出版」の登場 データベースから利用者がパソコンや携帯電話でダ ウンロードして利用できる。 これまでの流通システムを覆すもの。 ■出版産業における変化 組織の合理化、効率化、簡便化、迅速化、ローコスト 化。 ■オンライン書店の出現 アマゾンなど 15 5.出版産業の構図 (1)事業者数 出版社=5,500(従業員数95,000人) 取次=60 書店=18,000 書店は全国各地に存在しているが、出版社と取次業 者の本社は東京が多い。 著作者 出版社 取次 小売店 読者 図1 出版産業のバーティカル・インテグレーション 16 (2)関連事業者 編集プロダクション、翻訳権代理業、デザイン業、印刷 業他多数の関連事業者が存在(教科書p. 181)。 これら事業者とは緊密な相互依存関係にある。 17 6.変化する出版産業 出版業=「情報通信業」 出版業と新聞業は従来、「製造業」に分類されていた。 2002年10月 「情報通信業」に。 ←日本標準産業分類改定 総合出版社:雑誌と書籍を出版。講談社、小学館、集 英社など。売上高1,000億円以上の会社もある。雑誌 収入には広告収入もある。 書籍出版社:書籍が主軸。新潮社、日本放送出版協 会、岩波書店など。売上高の最高は300億円程度。 ⇒出版市場は「雑高書低」 18 90年代以降、出版業と異業種、業界内企業、外国企業 のアライアンス・M&Aが進行。 ソニー、日立、カシオなどとアライアンスを組み、新商品 開発・販売を行っている。 19 7.出版物の流通(p.191図11-1参照) (1)取次業の現状 取次業:商流、物流、金融、情報を担う。 出版産業の流通経済・取引の信用を担保。 取引総数を最少にすることができる。 生産・流通・小売の分業化を実現。 日販とトーハンが2大取次業者で、シェアは8割。 20 (2)小売業の現状 書籍・雑誌を中心に仕入・販売する小売業。 e.g.紀伊國屋書店、丸善、ジュンク堂書店など。 日本の書店は書籍専門店が少ない。大衆雑誌・コ ミック、CD、文具なども販売することが多い。 上位2社の売上高は、1,000億円超、3位以下はそ の2分の1以下。 雑誌売上高は、セブンイレブンが1,500億円。 90年代に大規模小売店の規制緩和が進んだため、 主要都市に(超)大型店の出店が相次いでいる。 →書店の競争激化。 21 参考文献 天野勝文 (2004) 出版メディアの変遷 天野勝文・松岡新兒・植 田康夫(編著) 新現代マスコミ論のポイント Pp.140-160. 国立国会図書館貴重書展:展示No.2〔百万塔陀羅尼〕 (http://www.ndl.go.jp/exhibit/50/html/catalog/c002.html) 2006年5月29日アクセス 清水英夫 (1995) 出版学と出版の自由 田原茂行 (2004) 出版産業の現状 天野勝文・松岡新兒・植田 康夫(編著) 新現代マスコミ論のポイント Pp.176-193. 22
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