回復期リハビリテーション病棟の診療報酬 算定に成果主義を導入する方法について ~最近4年間における脳卒中患者構成の変化に 伴う成果指標の推移から考察する~ 鶴巻温泉病院回復期リハビリテーション病棟(医師) 澤田石 順 全国回復期リハ病棟連絡協議会 第11回研究大会 in Nagoya 2008/2/9 鶴巻温泉病院 はじめに i. 回復期リハビリテーション病棟の成果指標には、 ADLの改善度合いおよび自宅退院率の二種類ある ii. これら二つの指標は層別化されないと意味をなさな いと2003年より提唱してきた iii. 診療報酬に成果主義が導入されるとしたら、病棟 (施設)全体の自宅退院率のごとき稚拙な指標が採 用されてはならないことは自明である 目 的 病棟(施設)間の患者構成が異なってい ても用いることができる成果測定方法の 適用例を提示し、回復期リハビリテー ションの診療報酬算定への成果主義導 入においての妥当な方法を提示、誤っ た方法の採用に反対する 対 象 2004年1月1日以降に入院し2007年5 月31日までに退院した脳卒中の936例 前期群: 2005年末までに退院 450例 後期群: 2006年以降に退院 486例 対象から除外: 精査・治療のための転院、死亡 ないし入退院時FIMのいずれかのデータが欠如 比較の方法 FIM効果〓退院時FIM-入院時FIM FIM効率=FIM効果÷材院日数 ↑ 入院時FIMの階層毎に比較 自宅退院率〓「自宅または家族宅」への退院率 ↑ 退院時FIMの階層毎に比較 ※年齢、入院時FIMなど自宅退院 率以外は中央値で示す •統計処理にはフリーソフトウェアの R version 2.0.1 を用いた -2 24 3 -2 30 9 -3 36 5 -4 42 1 -4 48 7 -5 54 3 -5 60 9 -6 66 5 -7 72 1 -7 78 7 -8 84 3 -8 90 9 9 6 95 1 0 10 1 21 0 1 07 81 1 1 13 41 2 1 19 012 6 18 全体: 退院時FIMの18階層と自宅退院率(%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 89 50 30 16 13 24 52 50 91 94 80 73 62 50 40 26 11 98 全体比較 年齢 発症後 入院時 入院時FIM 入院時FIM78 日数 FIM 18~41の割合 以上の割合 前期 77 36 52 36.5% 28.3% 後期 76 * 33 * 47 44% 21.4% FIM効果 FIM効率 材院日数 自宅退院率 前期 19 0.18 106 60% 後期 21 0.17 * 116 56% * Wilcoxonの符号付き順位和検定で p <0.05 入院時FIMの階層 & FIM効果 前期 後期 35 30 p=0.075 29 30 25.5 25 24.5 24 21 20 15 13 14 12 10 9 5 0 18-35 36-53 54-71 72-89 どの階層においても前・後期間に有意差はなし 90- 入院時FIMの階層 & 在院日数 前期 後期 160 140 136 141 130 124.5 120 114 103 100.5 100 80 80 60 49 39 40 20 0 18-35 36-53 54-71 72-89 どの階層においても前・後期間に有意差はなし 90- 入院時FIMの階層 & FIM効率 後期 前期 0.3 0.29 0.27 0.27 0.25 0.22 0.15 0.15 0.1 0.2 0.2 0.2 0.22 0.1 0.11 0.05 0 18-35 36-53 54-71 72-89 どの階層においても前・後期間に有意差はなし 90- 入院時FIMの階層 & 自宅退院率(%) 後期 前期 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 96 87.1 90 81.9 70.9 64.3 50.9 45.7 34.4 30.7 18-35 36-53 54-71 72-89 どの階層においても前・後期間に有意差はなし 90- 退院時FIMの階層 & 自宅退院率(%) 後期 前期 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 93.8 93.5 86.3 78.7 56.8 53 52.1 44.2 27.8 25.4 13.1 13.9 18-35 36-53 54-71 72-89 90-107 どの階層においても前・後期間に有意差はなし 108-126 参考: 最重度障害 年齢≦70 中央値 29 平均値 34.8 度 数 考察 階層毎分析で重症層の一部でFIM効果が向上したこと は当院回復期リハ病棟の実践の質が改善したことを示 唆する 階層毎分析なしでは「入院時FIMが低下したことにより 在院日数が長期化し、自宅退院率が低下した」という皮 相的な所見しか得られなかったであろう 成果を測定するための最良の指標は、入・退院時FIM の階層毎のFIM効果および自宅退院率であろう 厚労省案について “看護必要度B項目”で10点以上の重症者を2割程度受 け入れていることが診療報酬加算の必要条件の一つ 当院の一つの病棟(49名)の患者データを結果を示す (2008年 1月9日の調査) 平均年齢: 72歳 入院時FIMの平均: 39点 入院時看護必要度B項目の平均: 13.0点 入院時看護必要度B項目 ≧ 10の割合: 80% (40人) 当院のように、入院時に重症がきわめて多いところは、決して 自宅退院率70%以上にはならない。報道されているような成果主 義が導入されると、当院のごとき施設は大変な赤字になる!! 厚労省案に反対する理由 重症者を5割以上受け入れているような施設は、自宅退院率7 割の達成は不可能なため、診療報酬低下により存亡の危機に 重症者をたくさん受けいれてきたリハ病棟が受け入れを2割程 度に制限するようになる→急性期病院の重症患者の転院先が 不足→急性期の空きベット減少により救急要請の「たらい回し」 増加、リハ難民増加→医療崩壊の加速 そもそも重症を半数以上も受けているような施設に関しては、 診療報酬が増額されるべきである 看護必要度や自宅退院のデータをごまかすことにより診療報 酬加算を達成する施設が出現することは必至である 看護必要度B項目に関するソフト開発に際して、厚労省と厚労 省官僚の天下り企業・団体が癒着すること危惧される 結語 厚労省案のごとき診療報酬への成果主義を断固阻止 する必要がある 全国回復期リハビリテーション病棟連絡会議が組織と して反対運動をするべきである(する予定はない???) 少なくとも、当院のごとく重症者を基本的に一切断らな い方針で運営してきた諸施設は、誤った成果主義の導入 を阻止するために一致団結して可能なあるゆる手段を用 いていくべきであろう
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