右視床出血の発症により座位保持能力低下を呈した症例 -新幹線を利用しての早期転院を目指して- 池田雄太郎 1、山中友貴 1、佐藤一真 1 1 青森慈恵会病院 キーワード;重度片麻痺・座位保持困難・長距離移動 【はじめに】 本症例は中国地方在住であるが、青森県近郊で発症し たため青森市の A病院へ緊急搬送された。実家のある中 国地方への転院を望んでいたが、飛行機での移動が困難 であったため他の公共交通機関の利用が必要であった。 そのため新幹線を利用し家族の付き添いの下で転院出来 る事を目標にプログラム立案・治療を行ったため以下に 報告する。尚、発表に際しては患者と御家族に十分な説 明を行い承諾を得た。 【一般情報】 年齢: 6 0歳代、性別: 男性、家族構成:3人、中国地方在 住、キーパーソン: 娘、希望: 本人・家族ともに中国地方 への転院を希望。その他: 娘は青森県のホテルを使用。転 院時に本症例とともに戻る予定。 【医学的情報】 診断名: 右視床出血、脳室穿破( 保存療法) 。 現病歴: H 2 6年 1 0月に左半身の脱力と知覚低下で発症し 青森市 A病院へ搬送。上記診断みとめるも出血増大なく 保存的加療。 リハビリ目的にて同年 1 1月当院転院となる。 【初期評価: 発症後 3週】 J C S : 1 0 、R O M : 麻痺側足関節背屈 5 °、B r .S t a g e : 上肢 3 、 手指 4 、下肢 2 、感覚: 重度鈍麻、高次脳機能障害: 注意障 害、遂行機能障害、左半側空間無視、F I M : 6 0点、S c a l ef o r C o n t r a v e r s i v eP u s h i n g ( 以下 S C P ) : 6点 基本姿勢: 端座位保持は非麻痺側上下肢による p u s h i n g が出現するため一部介助。 立位保持は非麻痺側上下肢 による p u s h i n gが見られ、麻痺側膝折れが出現。中等度 介助。 基本動作: 起居動作・立ち上がり一部介助、移乗動作( 非 麻痺側方向) 中等度介助。トイレ動作: オムツ使用、尿意・ 便意の訴え時にトイレ誘導行うも空振り多い。 失禁あり。 【最終評価: 発症後 7週】変化点のみ記載 J C S : 1 、R O M :左足関節背屈 1 0 °、 B r .s t a g e : 上肢 5 、手指 5 、下肢 4 、感覚:左下肢軽度鈍 麻、F I M : 8 7点、S C P : 0点 基本姿勢: p u s h i n gの消失により端座位保持自立。端座位 保持 3 0分、車椅子上座位保持 2時間程度可能。立位保持 はp u s h i n g及び麻痺側の膝折れが消失し監視。基本動 作:起居動作( 非麻痺側方向) 及び移乗動作( 両側) 監視。 立ち上がり動作は非麻痺側上肢支持で自立。トイレ動 作:リハビリパンツ使用。 清拭・下衣操作含め監視。尿 意・便意後のトイレ誘導時排泄あり。時折失禁あり。 【考察】 公共機関利用の選択として、飛行機は気圧変化による 身体的負荷が大きいこと、また自動車は時間的拘束が長 いことなどを理由に、主治医・御家族と相談の上で新幹 線の利用を選択した。新幹線の利用時に必要な身体的能 力として、移動時の座位保持能力、移乗動作能力及び排 尿・排便コントロールが重要であると考え介入を行った。 座位保持に関しては、初期評価時に p u s h i n gの出現に よる転倒リスクがあり、起居・移乗動作においても介助 量を増大させていた。長時間の座位保持獲得が転院の可 否を考える上で重要な要因であり、介入初期より p u s h i n gに対し座位・立位姿勢時における非麻痺側への 重心移動練習等を反復して行った。最終評価時には監視 下での起居・移乗動作の獲得、車椅子上座位姿勢であれ ば 2時間程度の保持が可能となり、この時点で移動手段 の決定を行った。 青森から中国地方への移動の間に、車椅子間や狭い空 間での移乗動作が必要であった。そのためリハビリでは 転院の一連の流れを想定した動作練習を家族指導と併行 し行い、また病棟内での移乗・トイレ介助は可能な限り ご家族の協力の下で行った。 トイレ動作に関しては、移動中の新幹線内では車椅子 の使用が不可能であり、座席からトイレまで数 mの歩行 が必要なこと、電車内では介助スペースが狭いこと、ま た失禁のリスクを考慮し最終的に新幹線内では紙オムツ の使用を選択した。 転院までの期間、本症例の娘は青森県のホテルに滞在 しており、金銭的な負担を考慮すると可及的早期の転院 が望まれた。そのため移動手段を選択する上で、介助者 となる娘との情報共有が特に重要であった。また、事前 に鉄道会社に転院の流れや患者の病態に関し説明を行っ たことで、転院時に多くの協力が得られた。医療職のみ ならず、転院時に関わりを持つスタッフで情報を共有し 合うことが重要だと考える。
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