公共経済学

公共経済学
14. 公的年金1
14.1 年金の経済効果
<重複世代モデル>
各世代は2期間(青年期と老年期)生きるとする。
第t世代=t期の期首からt+1期の期末まで生きる世代
ct1 :第t世代の青年期(=t期)の消費量
ct 2 :第t世代の老年期(=t+1 期)の消費量
Lt :第t世代の人口
Yt :第t世代の青年期における所得(老年期の所得はゼロ)
s t :第t世代の青年期における私的貯蓄
bt :第 t 世代の一人当たり年金負担額(保険料)[=公的貯蓄]
 :一人当たり年金給付額(受取額)
r :利子率(収益率)[私的貯蓄と公的貯蓄の収益率は同一であるとする。]
期
世代
1
2
3
4
1
2
3
4
5
期
世代
1
2
3
4
1
Y1
c11 、
s1 、 b1
2
3
4
5
期
世代
1
2
3
4
1
Y1
c11 、
s1 、 b1
2
(1  r )s1 、
c12
3
4
5
第 t 世代の青年期と老年期の予算制約式は次のように求められる。
:青年期の予算制約式
ct1  Yt  st  bt
ct 2  (1  r )st   :老年期の予算制約式
積立方式
=ある世代の青年期の保険料を運用し
その運用益を合わせて老年期に給付
賦課方式
=ある期に青年期である世代の保険料を
その期に老年期である世代に給付
(14-1)
(14-2)
<積立方式のケース>
1 期から(保険料の徴収を開始するとともに、2 期から年金の給付を開始する)
積み立て方式の年金制度を導入したとする。
t 期の年金負担額(積立金) bt は運用されて t+1 期には元利合計が (1  r)bt になる。
したがって、t+1 期の公的年金の収支が均衡するためには
 Lt  (1  r )bt Lt
が成立する。
[給付総額=運用資金の元利合計総額]
(14-3)
すなわち、保険料 bt と給付額  には、
bt 

1 r
( t  1, 2, )
(14-4)
という関係が成立している必要がある。
(14-1)、(14-2)、(14-4)より第 t 世代の 2 期間(青年期と老年期)
を通じた予算制約式を、 bt を用いずに表すと
ct 2
c t1 
 Yt
1 r
である。
(14-5)
(問題 14-1)第 t 世代の 2 期間を通じた予算制約式(14-5)を図示しなさい。
また、最適消費点 (ct*1 , ct*2 ) とその点を通る無差別曲線を図示しな
さい。
ct 2
ct1
st* =最適な私的貯蓄
st*  bt =マクロの貯蓄
(問題 14-2)公的年金制度を拡充(  を増加)しても、
マクロの貯蓄が変化しないことを示しなさい。
また、  を1単位増加させたときに最適な私
*
的貯蓄 st がどれだけ変化するかを求めなさい。
<賦課方式>
2期から(保険料の徴収を開始するとともに年金給付を開始する)
賦課方式の年金制度を導入したとする。
そのとき、t 期の年金給付総額が  Lt 1 であり保険料総額が bt Lt であるから、
公的年金の収支が均衡するためには
 Lt 1  bt Lt
( t  2,3, )
が成立する必要がある。
(14-6)
また、人口成長率が一定の値 n であるとする。すなわち、
Lt  (1  n) Lt 1
( t  2,3, )
(14-7)
である。
したがって、(14-6)と(14-7)より、 bt を  と n を用いて表すと、
bt 

1 n
( t  2,3, )
である。なお、 b1  0 である。
(14-8)
【第 2 世代以降の各世代の予算制約式】
(14-1)、(14-2)、(14-8)より第t世代( t  2,3, )の2期間を通じた
予算制約式を、 bt を用いずに表わすと
ct1 
ct 2
 (n  r )
 Yt 
1 r
(1  r )(1  n)
が成立する。
(14-9)
(問題 14-3)第 t 世代の 2 期間を通じた予算制約式(14-9)を図示しなさい。
また、最適消費点 (ct*1 , ct*2 ) とその点を通る無差別曲線を図示しな
さい。
ct 2
ct1
(問題 14-4)n  r と n  r のそれぞれのケースにおいて、
賦課方式の公的年金の拡充(  の増加)が、第 2
世代以降の世代の消費点 (ct*1 , ct*2 ) と、それらの世
代の効用水準にどのような影響を与えるかを、問
題 14-3 の図を用いて検討しなさい。なお、各期
の消費財が正常財(=上級財)であるとする。
【第1世代の予算制約式】
第 1 世代の 1 期の予算制約式は、 b1  0 であるから(14-1)より
c11  Y1  s1
(14-10)
である。
また、2 期の予算制約式は(14-2)より、
c12  (1  r )s1  
である。
(14-11)
(問題 14-5)賦課方式の公的年金の拡充(  の増加)が、
第 1 世代の消費点 (c , c ) と、その世代の効用
*
11
*
12
水準にどのような影響を与えるかを検討しなさ
い。なお、各期の消費財が正常財(=上級財)
であるとする。
14.2 公債と年金の比較(世代会計)
公債の発行と賦課方式の年金制度は将来世代から現在世代へ
の所得再分配政策であるという点で本質的に同様の政策であ
ると理解することができる。したがって、
① 1単位の公債残高と積立方式の公的年金で1単位の積立が存在する状況
② 公債は発行されてないが賦課方式の公的年金で1単位の負担が存在する状況
は人々の消費・貯蓄行動に与える影響が同じであると考えられる。
世代会計=各世代の現在価値でみたネットの負担を推計すること