認知症の理解と予防 社団法人呆け老人をかかえる家族の会顧問 京都保健会盛林診療所所長 三宅貴夫 1.認知症の理解 ー適切なケアのためにー 1)用語について 認知症 痴呆 ぼけ 2) 診断基準(DSM-Ⅳ) 以下のすべてがそろっていること ① 記憶障害がある。 ② 失語・失認・失行・実行機能障害のひと つがある。 ③ ①と②のために生活に支障がある。 ④ ①と②の原因として脳などの身体疾患が ある。 ⑤ 意識ははっきりしている。 3)認知症と似た状態 記憶障害に関連した状態・疾患 生理的記憶障害 軽度認知障害 健忘症など 他の精神疾患 うつ状態 せん妄 幻覚妄想状態 妄想症 性格障害 4)認知症の原因 1次要因 アルツハイマー病 脳血管障害(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血) その他(慢性硬膜下出血・低酸素脳症・ヤコブ病) 2次要因 身体状態(脱水、熱発、貧血など) 精神状態(緊張、不安、うつ状態、混乱など) 生活・環境状態(介護者、住環境など) 5) 認知症の治療 薬物療法 抗認知症薬(アリセプト) 向精神薬(抗精神病薬、抗不安剤、抗うつ剤など) その他(降圧剤、糖尿病薬、高脂血症薬など) 非薬物療法 回想法 音楽療法 バリデーション その他(学習療法、芸術療法、園芸療法など) 外科的治療 6)認知症の人の心理① 記憶の障害 判断の障害 総合的判断 抽象的判断 時系列的判断 過去に生きる 感情、思い、プライドが残る 6)認知症の人の心理② 混乱 怒り うつ状態 不安 喜び その他 7)認知症の人のケアの基本 認知症の人を知る 残存能力に働きかける 「生きている世界」を受け入れる 感情や思いに配慮する 身体状態を把握する 身の安全を守る 周囲の理解を得る 地域のサービスを利用する 人権に配慮する 介護者自身をケアする その他 8)呆け老人をかかえる家族の会 集い(介護家族の集いなど) 電話相談(ぼけの電話相談など) 会報の発行(月刊「ぽーれぽーれ」) 啓発(世界アルツハイマーデーなど) 調査活動(徘徊、若年期認知症、身体拘束など) 要望(厚生労働省など) 全国研究集会(「ぼけの人と家族への援助を進める全国研究集 会」) 国際交流(国際アルツハイマー病協会加盟など) その他 9)課題① 認知症の告知 初期・軽度認知症の人と家族への支援 若年期認知症の人と家族への支援 9)課題② 人権擁護 成年後見制度 地域福祉権利擁護事業 身体拘束の禁止 高齢者虐待の予防 認知症の予防 10)認知症になったら 正しい診断を早期に受ける 治る認知症を治す 治らない認知症について説明を受ける 今後の生活設計を立てる 周囲の理解を得る 同じ病気の人と交流する 社会的支援を受ける 付録:認知症に関するサイト 三宅貴夫編「認知症なんでもサイト」 http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.htm 社団法人呆け老人をかかえる家族の会 http://www.alzheimer.or.jp 認知症を知るホームページ http://www.e-65.net/ 2.認知症の予防 ―生活のなかで防ぐ― 1) いま、なぜ予防か 認知症高齢者がますます増える。 認知症の危険因子等に関する大規模疫学 調査の報告が欧米で多く出る。 認知症予防の可能性が証明されつつある。 アルツハイマー病や脳血管性認知症に有 効な薬が開発されてない。 治療より予防 2)予防とは 1次予防(発病を防ぐ) 高血圧を治療して血管性認知症を防ぐ 2次予防(早期発見して治す) 初期のアルツハイマー病を見つけてワクチ ンで治す 3次予防(進んだ状態を治す) 正常圧水頭症を脳外科治療で治す 3)予防の研究方法 地域住民を対象とした集団調査 ①前向き調査・後向き調査 ②オープン調査・ブラインド調査 ③非介入調査・介入調査 ④対照調査・非対照調査 臨床研究 基礎研究(動物実験など) 4)コントロールできない危険因子 年齢 アルツハイマー病は加齢と共に増加する 性別 男性より女性に多い 遺伝 一部のアルツハイマー病は遺伝する アポリポ蛋白E4 この蛋白をもっている人はなりやすい(ADの40%ほど) 5)コントロールできる危険因子① 高血圧 アルツハイマー病:2.3倍(フィンランド/2001) 脳血管認知症(アメリカ/2000) 高脂血症 脳血管性認知症(アメリカ/2000) アルツハイマー病:2.1倍(フィンランド/2001) 糖尿病 アルツハイマー病:3.1倍(日本/2005) 脳血管性認知症(スウェーデン/2002) 5)コントロールできる危険因子② 肥満 アルツハイマー病・女性(スウェーデン/2003) メタボリック・シンドローム (内臓脂肪蓄積・高中性脂肪血症・高血圧・高血糖の2つがある) 認知機能の低下(アメリカ/2004) ホモシスティン アルツハイマー病(アメリカ/2002) タバコ アルツハイマー病など認知症(オランダ/1998) 5)コントロールできる危険因子③ 頭部外傷 アルツハイマー病など認知症(アメリカ/2000) 悲観的姿勢 悲観的性格と不安傾向の性格の併せ持っている 人は40%多く認知症になりやすい(アメリカ/2005) アルミニウム? ストレス? その他(有機溶剤、農薬、電磁波)? 6)コントロールできる保護因子① 魚 1週間に1回魚または海産物を食べる人は認知症になり にくい(フランス/2002) ビタミン(B、C、 E、葉酸、ニコチン酸) VEとVC併用:アルツハイマー病(アメリカ/2004) 葉酸:認知機能の低下(オランダ/2005) 葉酸:オレンジ、イチゴ、濃緑色の葉もの野菜、大豆など ニコチン酸:アルツハイマー病と認知機能の低下 (アメリカ/2002) ニコチン酸:肉、魚、大豆、ナッツ、コーヒーなど 抗炎症剤 アルツハイマー病(アメリカ/2002) 6)コントロールできる保護因子② 女性ホルモン アルツハイマー病(アメリカ/2002) 飲酒(適量) 認知症:42%(オランダ/2002) 適量:ビール中瓶程度 運動 アルツハイマー病(カナダ/2002) 趣味 認知症(アメリカ/2003) 趣味:読書、ゲーム、楽器演奏、ダンス 6)コントロールできる保護因子③ 教育 10代にIQが高い人は認知症になりにく(アメリカ/2005) 職業? 銀杏エキス? ニコチン? セレン? 食品:ウナギ、魚介類、小麦胚芽、レバー、肉類など カレー?野菜ジュース? その他 7)その他の課題 早期発見・早期対応 発病・発症後の早期発見と対応 発病してるが発症前時期の発見と対応 軽度認知障害(MCI) 画像診断 アルツハイマー病マーカー 発症を遅らせる方法 「認知訓練」「学習療法」など 「物忘れ検診」 8)その他 アルツハイマー病治療の研究の現状 治療薬の開発 ワクチン療法の研究 その他 介護保険「認知症の予防介護」 脳を守るための10の方法① アメリカ・アルツハイマー病協会提唱 1. 頭が第一 健康は脳からです。最も大切な身体の一部である大脳を 大切にしよう。 2.脳の健康は心臓から 心臓によいことは脳にもよい。心臓病、高血圧、糖尿病、 脳卒中にならないように、できることを毎日続けよう。これ らの病気があるとアルツハイマー病になりやすい。 脳を守るための10の方法② 3.自分の値を知ろう 体重、血圧、コレステロール、血糖を望ましい値に保とう。 4. 脳に栄養を 脂肪が少なく抗酸化物(ビタミンEなど)の多い食品を摂 ろう。 5. 体を動かす 身体の運動は血液の流れをよくし、脳細胞を刺激する ことになるかもしれない。1日30分歩くなど心と体を活き 活きさせるためにできることをしよう。 脳を守るための10の方法③ 6.心のジョギングを あなたの脳を活き活きさせ、ものごとに関心をもつことに よって、脳の活力を高め、脳細胞と細胞間のつながりが 生まれます。読む、書く、ゲームをする、新しいことを学ぶ、 クロスワードパズルをしてみよう。 7.他の人とのつながりを 体と心と社会の関係を組み合わせた余暇活動は認知症 を防ぐ最もよい方法かもしれません。人と付き合い、会話 を交わし、ボランティアをし、クラブに加わり、学習してみ よう。 脳を守るための10の方法④ 8.頭の怪我をしない 頭の怪我をしないように注意しよう。シートベルト を使 い、転ばないように家の中を整頓し、自転車に乗るときは ヘルメットをかぶろう。 9. 健康な習慣を 不健康な習慣を避け、タバコを止め、飲み過ぎなように しよう。 10.前向けに考え今日から始めよう あなたの明日を守るために今日からできることをしよう。 付録:認知症予防に関する情報 三宅貴夫編「認知症なんでもサイト」 http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.htm 「ぼけの予防」(須貝祐一著)岩波書店 三宅訳「アルツハイマー病は予防できるか?」 (Can Alzheimer's Disease be Prevented? By NIA,USA) おわり あじさいの会10周年記念講演会 2005年10月29日 兵庫県芦屋市民センター
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