認知症のはなし - 徳洲会グループ

認知症のはなし
茅ヶ崎徳洲会総合病院
亀井徹正
認知症
痴呆症(Dementia)=認知症(2004年12月)
後天的な原因による広範な脳障害のために
生ずる持続性の認知機能(知的機能)の障害と
それに伴う精神症状
記憶障害(新しい情報を覚える能力の障害、獲得した情
報を思い出す能力の障害)が必須、その他に、いく
つかのカテゴリーの認知機能の障害を認め
る(米国精神医学会DSM-IV)
認知症をめぐる諸問題
(新井、1999)
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簡単に認知症と診断していないか
認知症をひとつの疾患として扱っていないか
認知症の治療をあきらめていないか
認知症の症状を正しく理解しているか
認知症患者の心理に配慮して介護を行っているか
認知症患者の人権への配慮は十分か
認知症患者に対する公的補助は十分か
財産保全などに関して後見人に配慮しているか
介護保険の導入に対する理解は十分か
認知症はひとつの病気ではない
 慢性(長く続く)の脳の器質的(細胞が壊れる)疾患
神経変性疾患:アルツハイマー病、レビー小体病、
前頭・側頭型認知症(ピック病)
血管障害:脳血管性認知症
感染症:神経梅毒、ヘルペス脳炎、 エイズ(AIDS)、
クロイツフェルド・ヤコブ病(プリオン病)
腫瘍:脳腫瘍、転移性脳腫瘍
外傷:慢性硬膜下血腫
中毒・代謝障害:一酸化炭素中毒、ウエルニッケ脳症、
甲状腺機能低下症
認知症でみられる症状
 記憶障害
短期記憶:近時記憶
長期記憶:宣言記憶(エピソード記憶など)、手続き記憶
 その他の認知機能の障害
失語(ことばの障害)、失行(行為の障害)、失認(対象を認識する障害)
 実行機能の障害
計画・立案、思考し、実行する機能の障害
 感情・意欲の障害と行動異常(BPSSD)
感情・意欲の障害:うつ気分、そう気分、好機嫌、不機嫌、自発性低下
社会行動上の変化:攻撃的行動、喚声、不穏、焦燥、徘徊、性的抑制
欠如、過度な収集、悪口、付きまとい
代表的な認知症
アルツハイマー病
脳血管性認知症
びまん性レビー小体病
前頭・側頭型認知症(ピック病など)
アルツハイマー病
 アルツハイマー(1864-1915)により発見された認知症の代
表的疾患
 1906年「大脳皮質の特異な疾患について」の発表
1910年「アルツハイマー病」が教科書に記載
 世界中で3000~4000万人の患者数と推定
日本では、150万人と推定
 家族性アルツハイマー病では、原因遺伝子が特定
 アポリポ蛋白のアポE4が危険因子のひとつ
 高血圧、高脂血症、肥満は発症の危険因子
 高飽和脂肪酸食、低不飽和脂肪酸食、飲酒、運動不足も発
症の危険因子(特にアポE4のキャリアー)
アルツハイマー病
 発症: 45歳以降
男女比: 1:3
 病理: 老人班(アミロイドβ蛋白)
神経原線維変化(タウ蛋白)
 病期
I 期: 軽度の全般性認知症、意欲・感情の障害あり、
身辺自立可能
II 期:I期症状の悪化、失認・失行などが加わり、
日常生活は半介助から全介助
III期:認知症は高度、筋強剛、歩行障害さらに
寝たきり、それに近い状態
アルツハイマー病の症状
初期症状
ものわすれ(短期記憶)、「盗まれた」、判断力低下、うつ状
態、不安、あせり
精神症状
進行性の認知症:記憶障害、見当識障害、人格の崩壊、
感情面:うつ状態、多幸的・上機嫌(特徴的)
神経症状
失認(視空間失認)、失行(構成失行・着衣失行)、失語
身体症状
特有な身体症状はない
アルツハイマー病の日常生活動作1
入浴
着替え
トイレ動作
移動
排尿・排便
食事
アルツハイマー病の日常生活動作2
電話
旅行
買い物
食事準備
家事
薬をのむ
お金の管理
アルツハイマー病の治療
(Corey-Bloom et al, 2006)
 薬物療法
アセチルコリン分解酵素阻害薬:ドネペジル(アリセプト®)、
リバスチグミン、ガランタミン
NMDA受容体拮抗薬:メマンチン
抗酸化薬:ビタンミンE
ハーブ:銀杏葉エキス、Huperzine A(ChEI)
感情・行動異常(興奮、抑うつ、不安、など)の薬物治療
 非薬物療法
回想法
音楽療法
アニマル・セラピー
脳の老化を防ぐ食事
認知機能の弱い人の食事
 ビタミンC、E、βカロチンなどが欠乏
 ビタミンB群、葉酸の欠乏
 亜鉛、鉄などの欠乏
 動物性脂肪の取りすぎ、魚の摂取不足に
よる n-3系の脂肪酸の欠乏
アルツハイマー病の介護 1
(Corey-Bloom et al, 2006)
介護者へのケア
病気について学んでもらう
介護者の健康管理(精神的にも)が重要
専門家(医療、介護)との連携が重要
デイ・ケア、サービスの利用、短期入所の利用
患者へのケア
興奮、不眠、うつ状態、徘徊へのケア
療養環境を変える(整える)
患者の行動を変える(繰り返して説明する、安心させる、
注意を他に向ける)
アルツハイマー病の介護 2
(Cummings et al, 2002)
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日常生活の行為を、時間を決めて、きちんと行う
患者の着たいものを自分で選ばせる
何かするときには、内容を分かり易く、前もって説明する
すべての行為を、幾つかの簡単な内容に分けて、それぞれ
を説明しながら行わせる
安全な環境を整備する(滑りやすい床、角のある家具など)
ドア、門には安全な鍵を使う
トイレ、浴室には握り棒を設置する
カレンダー、時計、ラベル、新聞などを使い、日時を伝える
色やデザインの工夫で、部屋などを分かりやすくする
アルツハイマー病の介護 3
(Cummings et al, 2002)
 夜間の明かりは薄暗くして、混乱や不穏を避ける
 窓からの日差しや鏡などで、室内が眩しくないようにし、テレ
ビなどの大きな音は避ける
 過剰な刺激や、混雑した場所への外出などは避ける
 デイ・ケア、サービスなどを利用する
アルツハイマー病の介護 4
(California workgroup for AD, 1999)
興奮
ストレスとなる生活環境の整備
生活環境を単純にする
不眠
カフェイン摂取、夕方以降の水分摂取を減らす
昼間に身体活動を促す
昼間に十分に光をあびる
デイ・ケア、サービス
うつ状態
専門家に診療依頼
デイ・ケア、サービス
アルツハイマー病の介護 5
(Corey-Bloom et al, 2006)
遺伝相談
事前指示
栄養管理
入院治療(急性疾患など)
長期施設入所
老人虐待、ネグレクト
アルツハイマー病の治療・介護の現状(まとめ)
(Cummings et al, 2006)
 現在、アルツハイマー病の治癒させる、又は進行を止める治療法はない
が、アセチルコリン分解酵素阻害薬と抗酸化薬が系統的に研究されてい
る
 アセチルコリン分解酵素阻害薬は記憶を改善させ、合併症の発症を減ら
し、入院が必要となる時期を遅らせる可能性がある
 全ての使用薬物の調整と、全ての合併疾患の適切な治療は認知症の症
状を改善させる
 現在のところ、ビタミンEが有効であるとの十分な科学的根拠はない
 エストロゲンには発症後の症状改善、発症予防の効果はない
 行動異常は介護者への負担となるが、適切に対処する方法がある
 薬物療法だけでなく、非薬物療法を上手に使うことでケアの質は向上す
る
 軽度以上の認知症患者のケアには、一人以上の介護者が必要である
脳血管性認知症
脳血管障害(脳卒中)に伴う認知症
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多発性脳梗塞
ビンスワンガー病
脳出血後認知症
遺伝性認知症、など
 危険因子:高血圧、糖尿病、高脂血症、など
 治療
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危険因子の除去
薬物療法:抗血小板薬、抗凝固薬など、
対症療法:抗うつ薬など
びまん性レビー小体病
 アルツハイマー病に次ぐ変性性認知症疾患
 症状:進行性の認知症、パーキンソン症候群
 病形:
若年発症:パーキンソン症状 → 認知症
老年期発症:認知症 → パーキンソン症状
 特長:初期ないし経過中に変動性の認知障害や幻
視をみる
 病理:脳組織にレビー小体と老人性変化をみる
前頭・側頭型認知症
1988年にNearyらが提唱
臨床的特徴:
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初老期に発症(65歳以前)
人格変化、社会的行為の障害、注意・計画・判断機能障害
病理:
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ピック病、運動ニューロン疾患など
大脳前頭葉、側頭葉が萎縮
MCI
「軽度認知機能障害」
アルツハイマー病の前段階(Petersen,1999)
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記憶障害あり:自覚的、検査上
他の高次脳機能障害なし
日常生活に障害なし
認知症なし
MCIが注目されるわけ
 アルツハイマー病の治療を早い時期に開始できる可能性
Pre-MCI
アルツハイマー病の新しい治療
 アミロイド代謝
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アミロイド代謝に関わる酵素の阻害薬
高脂血症治療薬?
NSAID?、Rofecoxib?
高血圧治療薬(Ca拮抗薬)?
抗アミロイドワクチン療法
 抗酸化薬
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ビタンミンE
脳を守る10の方法
アメリカ・アルツハイマー病協会
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頭が第一
脳の健康は心臓から
自分の値を知ろう
脳に栄養を
体を動かす
心のジョギングを
他の人とのつながりを
頭の怪我をしない
健康の習慣を
前向きに考え、今日から始めよう