虐待:発生のメカニズム

虐待:発生のメカニズム
チームによる発生防止
中部学院大学人間福祉学部 宮嶋 淳(みやじま
じゅん)
井上真理子著『ファミリー・バイオレンス
子ども虐待発生のメカニズム』を読む
(2005)
晃洋書房
ファミリー・バイオレンスの問題の核心
• 家族は、一人ひとりにとって重要な意味を持つ
家族の中心的な意味とは「愛」と「親密性」
• そこに暴力が発生した場合
隠蔽され、外部の介入を拒否する
ファミリー・バイオレンスへの接近
• 家族構造・機能、家族システムと外部環境との関係という視点
から暴力に接近=家族システム・アプローチ
• ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)
性差別的社会構造という視点から暴力を分析する
「フェミニスト・アプローチ」
家族システム
①家族の問題
成員の発達や親子・夫婦関係など世代的・歴史的視点から理解
家族が全体として影響を与え合う相互交流プロセスと見なす
②家族の問題を考える視点
家族のみならず家族を囲む社会を考慮に含める
*家族をシステム(=つながり)として、個人(自己)だけ
でなく、家族成員間、世代、社会(地域)間の相互作用
という見方で理解する
虐
待 とは
• 18歳以下の子どもたちがこうむった偶然の事故によるもので
はない損傷
• これらは両親、後見人その他子どもの監護者の故意または過失
の行為によって生じる。
• 「過失」とは法律用語であり、将来において害悪が発生することが予見可能であ
るのに、この害悪を回避するために必要な行為をしなかったこと=回避義務違反
を意味する。
子どもの虐待発生のメカニズム
1社会学的パーソナリティ論からの説明
2家族機能論的説明
3文化論的説明
4ストレス論的説明
社会学的パーソナリティ論からの説明
• 発生原因を親のパーソナリティ上の問題に求めて説明する理論
• 人格障害
• 攻撃衝動コントロール困難
• 低い自尊心
• 支配的かつ横暴な傾向
暴力に対する無感覚・無感動の学習
• 被虐待体験と自らの虐待行為をつなぐ鍵=
自責、加害者の
行為の合理化
学
習
低自尊心
自尊心の回復をめざす
被虐待体験
虐 待
学 習
虐待の目撃と自尊心の損傷
• 他の子どもに暴力が加えられているのに何もできない無力感
• この次は自分かという恐怖感
• 無力感は、長く残って自尊心の低下をもたらす
心理的精神的虐待
虐待を「しつけ」ととらえる親の共通項
①親は子どもに過度の期待をかけ、自らの暴力をしつけの手段と
して認識している
②親自身にも被虐待体験がある
③夫婦関係は不安定である
虐待する親あるいは養育者は、
① 当初、「しつけ」という大義名分から行為を起こしても、
次第に暴力を自己目的化していく。
② 暴力に対する「無感覚・無感動の学習」により、
暴力行為に対する「正当化」もまた学習する
家族機能論的説明
• 役割混乱
(例)娘が母親役を遂行せざるを得ない家族では、娘が妻を
演じなければならないことが起こり、
インセント・タブーの障壁を低くし
性的虐待の発生を容易にする
• 夫婦間の不均衡な力関係
(例)保持する資源の量が少なければ少ないほど、その人は家族内
で大っぴらに力に訴える
家族内において既に力の優劣関係が存在している場合、
新たな種類の暴力の発生をチェックし、抑止することは困難になる。
文化論的説明
「子どもから意志を奪う」のに重要な時期は生後2年まで
理
由
①この時期の子どもは全くの無力である。
②親は暴力や強制を自由に使用できる
③子どもは成長するにしたがって乳幼児期のことはすべて忘れる
「母親への愛着」は攻撃的な性犯罪に対して抑制的に働く
ストレス論的説明
①
貧困関連ストレスと虐待の発生を結び付けて説明する
②
貧困=ストレスではなく、
貧困=ストレスを発生する可能性のある事態
③ 出来事=ストレッサーである。
高齢者虐待の発生メカニズム
1. 主たる要因と副次的な要因が絡み合い重層的
2. 高齢者の実態と関連が深い
3. 家庭内での人間関係実態と関連が深い
• 柴田益江(2013)「高齢者に対する家庭内虐待の発生メカニズムに関する研究」『名古屋柳城短
期大学研究紀要』35、25-37
ママの幸せこそ、子どもの幸せ
• 子どもが母親のコミュニケーション態度を肯定的に評価していると、
母親も子どものコミュニケーション態度を肯定的に評価している。
• 相手のコミュニケーションをポジティブであると感じれば、他方も同様に感じている
• 健康な家族における食事場面での親子のコミュニケーションの質と量が、
子どもと親との心理的結合性を強化する
• 母親の「共感」や「依存」と、子の主観的幸福感との間に、有意な正の相関
母親の「威圧」と子の主観的幸福感との間には、有意な負の相関
• 赤塚淳子・水上喜美子・小林大祐「家族システム内のコミュニケーションと家族構成員の主観的
幸福感―家族形態及び地域別検討」
ストレッサーへの二段階適応モデル
環境的要因
環境的要因
個人的適応
家族機能的適応
機能する
機能する
解決
解決
ストレッサー
機能障害
機能障害
ストレス
虐待
虐待を乗り越えるための
市民と専門職の協働
日本社会事業大学の取り組みから
以下の内容は、平成23年度 日社大市民公開講座
の内容のダイジェスト版です。
登場人物
• 日本社会事業大学 宮島 清准教授
• 清瀬市民生児童委員 重田 正紀氏
• NPO子育てネット・ピッコロ 小俣みどり氏
• 登場する機関等
• 厚生労働省、社会保障審議会、子ども相談センター、警察、保育所、幼稚園、
ファミリー・サポート・センター、要保護児童対策地域協議会、
• 近所人、虐待した親、被虐待児、不審者、ボランティア、ピアサポーター、保健
師、母子相談員、
概 要
1. 児童虐待はどのように捉えられてきたか
2. 児童虐待の実際はどのようなものか
•
•
厚生労働省の死亡事例検証報告等から
報道された事例から
3. 対応の仕組み~今までとこれから
•
•
保育・子育て支援、虐待対応、社会的養護の関係
専門職と市民の連携~なぜ必要なのか
強調されてきたこと
ドミナント・ストーリー
• 児童虐待はどのような家庭でも起こる
• 虐待者で最も多いのは実母、次いで実父である。
• 虐待家庭、ハイリスク家庭、グレーゾーン家庭・・区分
• 発見することが重要、通告することが重要
• 速やかな安全確認と毅然とした対応が重要
• 保護者に虐待があることを認めさせることが重要
• 被虐待経験の世代間連鎖を断ち切るために治療が必要
• 児童虐待は親子の関係性の障害である
• 保護者のカウンセリングが重要である
• 特定の機関でなく、ネットワークで対応しなければならない
• 深刻な虐待に対応するために、権限強化が必要
もう一つの物語
オルターナティブ・ストーリー
• 子どもと保護者の二者関係でとらえてよいのか
• 虐待が起こっている家庭を「十把一絡げ」に論じていないか
• 健康と呼ばれている家庭にも「リスク」はあるのでは
• 児童虐待は、特定のひどい親の問題なのか
• 私たちにも起こりうる問題なのではないか
• 児童虐待は、社会の障害であり、私たちみんなの問題
ドミナントストーリーを信じる副作用
• 思考停止に陥る 見過ごし
• パターン化・ラベリング 支援からの排除
• 統計数字の誤差の見落とし
• 「安全確認、あとは見守り」の怖さ
• 「権限移譲」と「厳罰化」のリンク
• くらしの弧化の耐え難さ
• 制度・施策が「コントロール」「監視型」に
児童虐待の件数
• http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000052785.html
•
• 岐阜県
H24
H25
増減 比率
725 779 54 1.07
社会保障審議会子どもの虐待死検討
(第10次報告)
• http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000057946.html
• 上記にアクセスし、 <添付資料> 子ども虐待による死亡事例等の
検証結果等について(第10次報告)の概要 を通読すること
子ども・子育て支援の総合化
• 子育て支援
• 頑張っている親の支援
• 社会を支えている人の支援
• 虐待対応、社会的養護
• かわいそうな子ども
• ひどい親
• 動かない行政
• 背景
• 競争に勝ち抜け
• 背景
• 保護者に任せろ
• 人手不足
• 将来の社会を担え
• 無関心
• 市民のボランティア化
• 介入機関の権限
• ビジネス・チャンス
• プログラム不足
児童虐待とは「歪み」の連鎖である
狭義のアセス
虐 待
関係の歪み
+
生活の歪み
人の歪み
時代や世の中の歪み
今まで
総
合
的
な
ア
セ
ス
メ
ン
ト
これから
ふつうの暮らしと連続性のある「虐待」を
どう乗り越えるのか
• 個人の資質、努力不足、心理的問題、関係性の障害
•治療、サポート、対話
• 失敗や不幸から回復するための
仕組み・プログラムの不足(弧化の解消)
• 市民の連帯、サービス、SW
• 社会の矛盾、富める者をますます富ます装置と法
• 社会改革、アクション
民生児童委員と虐待防止
• 民生児童委員制度は、平成24年度で創設95年。
• 民生委員法
守秘義務 政治的中立 報酬は出ない
• 任期=3年
75歳定年
• 厚生労働大臣の委嘱による非常勤特別職の地方公務員
• 児童分野に特化した主任児童委員も
• すべての地域に配置、150世帯前後に1人
• 隣の普通のおじさん、おばさん
一番困る業務としての「見守り」
• 「見るといっても、普通の住宅です。近くを通った時におびえたような声が聞こえないかという程
度の見守りしかできません。」
• 「住民から不審者だと通報されて、警察官から質問を受けるケースもある」
• 「普通の会社員だった者が、ある日突然、委嘱状1枚で、地域福祉の最前線に立たされます。月
に1回会議をします。地域の中で自分たちはいったい何ができるのかと、常にみんな悩んでいま
す。」
• 「最近は、子どもの問題ならば、子ども相談センターに、連絡する。民生児童委員を通じなくても
直接、話をすることができる」
• 「福祉の専門教育を受けているわけではありません。専門職との協力の中で、援助の橋渡しを
していく」
子育てを支える市民活動
隣人としての訪問
• 子育て支援NPOの活動「ホームスタート」
地域の子育て経験者が、週に1回2時間程度、
定期的に子育て家庭を訪問し、傾聴と協働するボランティア活動
• 画期的な側面
これまでの施策で手の届かなかったところに支援
• 地域子育て支援拠点事業=出てこられない親、出てこない親
• 養育支援訪問事業=対応できない気になる家庭(グレ-ゾ-ン)
• 生後4ヵ月までの全戸訪問事業で発見された気になる家庭
ホームスタートが「効く」ところ
• 引っ越ししてきて親戚・友人・知人がおらず、気軽に相談できる人が身近にいな
い。
• 地域のことがわからない
• 外出できない~子どもが多い、子どもが病気がち
• 広場のように大勢の人がいるところは疲れる
• 初めての子どもで、子育てのことがまるで分らない
• 2人目ができたら状況が一変して、ストレスが倍増
• 話ができる人がいなくて気持ちが煮詰まっている
• 気持ちが沈みがちで、家事も育児もやる気がおきない
ホームスタートの「効き目」
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親の精神的な支え、強さの発見、感情の安定
孤独感や孤立感の解消
コミュニケーションや育児スキルの向上
育児の悩みの解消
親の自信の回復
子育ての楽しさを実感
地域とのつながり
* 親へのちょっとしたお手伝いが、ネグレクトを助長さ
せず、改善につながる
行政との連携
利用者からの申込
広報、HP、口コミ
委 託
行
政
NPO法人
・ホームビジターの養成
・ホームビジターのSV
・コーディネーター機能
助言・報告
子 相
連携機関
・保健師、母子相談員、保育所、幼稚園
・子ども家庭支援センター、広場事業
・ファミリー・サポート・センター
行政との連携による支援の展開
行
政
• こんにちは赤ちゃん事業
• 乳幼児健診
• 気になるストレスの高い親
• 子育て不安の強い親
• 頼れる親や友人がいない
• 保健婦による訪問
• ホームスタートの紹介
市町村窓口、子ども相談センター
要保護児童対策地域協議会
NPO
• ホームスタートの訪問事業に
より潜在化した支援ニーズの
把握
情報の共有による
社会的支援事業の展開
全国・グローバルな関係
• ホームスタート・ジャパン(支援団体)
• 情報提供
• 説明会や研修会の開催、パンフレットの提供、立ち上げ方法の相談
など
• 立ち上げコンサルテーション
• 実施体制やスケジュール等の事業計画立案サポート
• 継続コンサルテーション
• 相談サポート、各種研修、各種ツールの提供
• 調査研究
* 始まりはイギリスから、今や22か国で展開
1973年、マーガレット・ハリソン(児童福祉士)が発案
「素人性」の重視・・仲間として
児童虐待と歯および口腔
• 歯科からの見立て、歯科医師の役割
日本歯科医師会の「日歯8020テレビ」
•歯
• 歯科医師