第25回長崎市臨床内科医会ゼミナール(平成20年1月27日) 「日常診療に役立つ血液検査の見方」―鑑別診断と治療の評価― 長崎県美術館 2階ホール 肝機能異常 ―必要十分条件の検査― 長崎大学医学部・歯学部付属病院 第一内科 市川辰樹、宮明寿光 中尾一彦、江口勝美 はじめに AST, ALT>ALP, GTPの肝細胞障害型 AST, ALT<ALP, GTPの胆汁鬱滞型 LDH, CPK上昇していれば肝障害というより筋や多臓器不全 病歴:いつから発症、アルコール、薬剤、健康食品、海外渡航歴、性 的嗜好、肝疾患の家族歴、糖尿病、高血圧、肥満歴 腹部エコー:新規肝障害に必須、腫瘍、胆管、脂肪肝、腹水、など重 要な情報あり 診断前に内服処方や注射で肝庇護をする必要はない すぐ治療が必要な肝疾患は劇症肝炎、閉塞性黄疸くらい 1-1 肝細胞障害型肝障害を見た場合 急性 or 慢性 厳密には6ヶ月以上続く肝機能異常が慢性、それ以内なら急性 しかし、黄疸や全身症状(発熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振)を 伴う場合は急性肝障害、もしくは肝不全を疑うべき それ以外なら急性であろうが慢性であろうが経過観察が可能であ り、ゆっくり検査ができる 1-1-1 全身症状を伴う肝細胞障害型肝障害 最初にする検査:HBs抗原、IgM-HBc抗体、IgM-HA抗体 確率てきにはA型とB型の急性肝炎が多い 急性肝炎を疑う場合IgMクラスを調べる。診断には病歴が極めて 有用 急性肝炎が通常型、重症型なのか劇症型なのか判別の為、総ビ リルビン、直接ビリルビン、PTを測定する。意識状態(家族にも確 認)など神経症状の有無を確認する 黄疸がある例は基本的に入院加療、現在劇症肝炎(原因は問わ ない)であっても生体肝移植で救命可能 1-1-2 無症状の肝細胞障害型肝障害 最初にする検査:HBs抗原、HCV抗体(第3世代) 次にする検査:高ガンマグロブリンを確認し、IgG, A, Mと抗ミトコン ドリアM2抗体→抗核抗体→抗LKM抗体(抗核抗体陰性の時のみ ) ウイルス性、自己免疫性は検査で診断され、アルコール性、薬剤 性、脂肪性は病歴である 半年程度(3ヶ月でも可)肝障害を観察することも重要。 HCV抗体陽性=C型慢性肝炎の場合 HCV群別(グルーピング)とHCV-RAN定量(リアルタイムPCR)でHCVの状態を把握し、 血小板、アルブミン、コレステロール、ヒアルロン酸、4型コラーゲンで線維化を判定する。 HCV抗体陽性は現在ペグインターフェロン、リバビリン併用療法で治癒率は向上している。 このレベルまで検査終了すれば一度肝臓専門医と相談ください。 HCV抗体陽性=C型慢性肝炎 1.12週以内にRNA陰性化例 1年間併用療法でSVRを期待 2.13週から24週までにRNA陰性化例 72週併用療法長期継続でSVRを目指す 3.高齢、合併症併存、Hb・WBC低値例など通常量での治療では副件用 中止が予測される症例 減量開始、あるいは、早期に減量して(48-72週)完遂を目指す 4.24週目でRNA陽性かつALT正常化例 48過の治療継続により長期ALT正常化維持(BR)を目指す SVR:sustained viral response 治療終了後6ヶ月でのHCV陰性、治癒とほぼ同義 BR: biological response HCV-RNAは陽性だが肝機能が正常 HCV抗体陽性=C型慢性肝炎 C型慢性肝炎の血清トランスアミナーゼの目標値 1.C型慢性肝炎grade 1(Fl)では、持続的に正常値の1.5倍以下にコントロールする。 2.C型慢性肝炎grade2-3(F2-F3)では、極力正常値にコントロールする。 IFNが一度無効であっても治癒を目指し繰り返して治療を受けることも出来る 高齢や副作用で通常のIFNが使えない場合、IFNの少量長期治療は保険で認めら れている。 どうしてもIFNが使えない場合、SMC、UDCA、phlebotomyがAST/ALT低下には効 果あり HCV抗体陽性=C型慢性肝炎 peg-IFN +ribavirin併用療法無効が予想される術前因子 1.血清型1型 群別判定を利用 2.HCV量高値 TaqMan PCRを利用する(100以上) 3.インスリン抵抗性 4.γ-GTP高値 3.は脂肪肝や糖尿病などメタボリック症候群が難治性 よって治療前には改善すべく体重を減少させる必要あり 4.はアルコールと脂肪肝が関係か?少なくとも禁酒 TaqMan HCV PCR ■各種検査方法における測定感度の比較 HCV RNA定量 0.015~69,000KIU/mL (TaqMan PCR) HCV RNA定性 0.05KIU/mL~ HCV RNA定量 5~5,000KIU/mL (ハイレンジ法) HCV抗原 20~200,000fmol/L (コア蛋白質) 0 10 10 2 3 10 4 10 5 10 10 6 7 10 8 10 ※KIU/mLにて比較(リアルタイムPCRの実際の報告は、対数値になります) □ 定量(ハイレンジ)、定性の使い分けがなくなる コバス TaqMan HCV 「オート」 (Log IU/mL) TaqMan HCV PCR (2) >7.8 CHCの経過観察(IFN) 7.8 Y = 1.21x - 0.85 r = 0.976 n = 244 p < 0.001 7.0 6.0 昔 HCVハイレンジ法 ↓ HCV定性 5.0 4.0 今 TaqManのみ 3.0 2.0 1.2 検出せず <2.7 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 > 6.7 アンプリコアHCV モニター v2.0 (Log IU/mL) ハイレンジ/オリジナル 当科では HCVコア抗原 ↓ TaqMan TaqMan HCV PCR (3) HCV RNA定量(Log IUmL) 1.2 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 7.8 測定結果 定量下限未満 HCV増幅 検出 反応シグナル せず 検出せず 定量範囲内 検出 検出 定量上限以上 検出 1.2 Log IU/mL未満 1.2~7.7 Log IU/mL 7.8 Log IU/mL以上 ・薬事承認名称: コバスTaqMan HCV 「オート」 ・薬事承認日 :平成19年6月22日 ・保険区分 : D023-12 HCV核酸定量検査 (微生物学的検査) ・保険点数 : 440点 (微生物学的検査判断料 : 150点) ・保険算定条件: C型肝炎の治療方法の選択及び治療経過の観察に用いた場合にのみ算定 HBs抗原陽性=B型慢性肝炎 HBV-DNA定量(PCR)、HBe抗原と抗体、を調べる。治療はガイドラインに添って行なう。 必要な情報は年齢、ウイルス量、肝線維化の程度。成人でHBs抗原陽性例は一度どこかの タイミングで肝臓専門医紹介が望ましい。治療方針決定のため。 HBs抗原陽性=B型慢性肝炎 1.抗ウイルス療法は、ALT値が正常の1.5倍以上を持続する場合に考慮 する。ALT値が正常値の1.5倍以内の場合も異常値が持続する場合は、 抗ウイルス剤の投与が望ましい。しかし、高齢者やHBe抗原陰性例、抗 ウイルス剤の投与が難しい例では、肝庇護療法(UDCA、SNMC等)で経 過をみることも可能である。 HBs抗原陽性=B型慢性肝炎 2.若年(35歳未満)症例では、抗ウイルス療法のインターフェロン長期間歇、また はステロイド、インターフェロン、核酸アナログの短期併用投与が原則。ただし組 織像の軽い症例では自然経過でのHBe抗原のセロコンバージョンを期待しフォ ローアップすることもある。 3.抗ウイルス療法の中高年(35歳以上)症例の核酸アナログ未使用例ではエンテ カビルが第一選択になる。 4.ラミブジン耐性ウイルスによる肝炎に対しては、アデフォビルが第一選択になる。 また慢性肝炎でHBe抗原陽性例ではALT値が、100以上での投与が効果的である。 (但し、組織学進行例では、HBV-DNAが上昇した時点でアデフオビルを開始す る。) 5.若年でも肝病変進行例(組織所見がF3以上)では、工ンテカビルの投与を考慮 する。 注意;HIVを合併している症例では、工ンテカビルの投与によってHIV耐性ウイルスが出現 する可能性があり、注意が必要である。 HBs抗原陽性=B型慢性肝炎 全くの無症候性キャリアであっても肝癌発症のリスクある。年1-2回の腹部エコーと腫瘍マー カー(AFP, PIVKA)検査は行なう。 最近のHBV急性肝炎は慢性化することがある。Genotypeが違う為である。長崎でも今後注 意が必要。 HCV 肝硬変に至り肝癌 HBV どの段階でも発癌 自己免疫性肝障害 治療はステロイド、イムランなどの免疫抑制剤。Acute on chronicあり。肝生 検を含め肝臓専門医と相談した方が無難。 AIH PBC 抗核抗体 抗LKM1抗体 抗平滑筋抗体 高ガンマグロブリン血症 高IgG血症 肝細胞障害型 抗ミトコンドリア抗体 高ガンマグロブリン血症 高IgM血症 胆汁鬱滞型 over lap 原因不明 脂肪性肝障害多し、アルコール量期間、体重の推移、よく把握し他の原因の 除去に勤める。NASHを考えれば、女性、65歳以上、2型糖尿病、高血圧など が線維化進行の可能性を疑わせる所見。メタボリック症候群に伴う慢性肝疾 患であり肝硬変肝癌に至る疾患との認識が必要。しかし脂肪肝は病気では なく、NASHと区別が必要。 アルコール性肝障害もまた無視できない。病歴とγ-GTP上昇の目立つ肝細 胞障害は病歴聴取が重要。特にアルコールとメタボリック症候群があるとあ らゆるタイプの慢性肝疾患で肝発癌リスクが上がる 薬剤、とくに健康食品が原因のことは極めて多い。長崎大でも1例薬剤性亜 急性肝障害で生体肝移植あり。体によいと勧められてのんでいるので厄介。 ここまで調べて原因不明は経過観察、ときおり甲状腺機能異常でも肝細胞 型肝障害あり。小児ではEBウイルスの慢性肝炎もある。 2006年長崎肝臓研究会のまとめ 長崎県下の病院より症例を提出していただきまとめるという方法 目的は、脂肪肝の中から如何に肝疾患であるNASHを選別するか。 2007年 Liver International 2007; Dec. 1 Background/Aims: We evaluated patients with nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD) and compared the clinical and pathological features to identify the risk factors for NAFLD with severe fibrosis. Methods: One hundred eighty-two patients with biopsy-confirmed NAFLD from various medical centers were recruited into this study. Results: The variables that were significantly associated with severe steatosis were male gender (mild:severe = 36%:53%, P = 0.02), younger age (mild:severe = 57%:82%, P=0.001) and absence of type 2 diabetes (mild: severe = 43%:71%, P=0.001). There was no significant difference in the degree of inflammation among the clinical groups. The variables that were significantly associated with severe fibrosis were female gender (mild:severe = 54%:84%, P = 0.002), older age (60 years old) (mild:severe = 29%:53%, P = 0.020), type 2 diabetes (mild:severe =42%:71%, P = 0.020) and hypertension (mild:severe = 24%:53%, P = 0.002). Although there were more obese patients in the group with severe fibrosis, the association was not statistically significant (mild: severe = 67%:78%, P = 0.229). The prevalence of high serum triglyceride levels was similar between the two groups. The N (Nippon) score (total number of risk factor) could significantly predict severe fibrosis in NAFLD patients (1.48±1.14 vs. 2.66±0.94, P=0.001). Conclusions: The N score can be used to predict severe fibrosis in cases of NAFLD. 対象 脂肪肝のある慢性肝障害、ウイルス性アルコール性自己免疫性は除外 炎症と脂肪化に関連する因子 線維化に関連する因子 N-score=Female+Old age+T2DM+HT 女性、60歳以上、2型糖尿病、高血圧がリスクとして抽出され 相対危険度もほぼ2であった。 すべての項目の比重を等しいと考えその合計を N (Nippon or Nagasaki or NASH) score として検討した。 Nスコアは線維化と関連する Nscore3点以上は線維化進展したNASH, しかし2点では感度が低く肝生検での診断が必要である 1点ではほぼ進んだNASHではない 脂肪肝で肝細胞障害あれば N-score計算 N-score = Female +Old age +T2DM +HT 0-1点 脂肪肝 2点 肝生検必要 3-4点 線維化進んだNASH 2-1 胆汁鬱滞型肝障害を見た場合 胆管閉塞性か肝細胞性 腹部エコーもしくは腹部CTで鑑別 閉塞性黄疸でも初期は拡張所見なく、経過観察中に所見がでる ことがある。繰り返しfollowが必要 発熱、腹痛を伴う胆汁鬱滞型肝障害は胆管炎の可能性がある。 2-1-1 肝細胞性の胆汁鬱滞 薬剤(アルコールも)、健康食品を内服していれば中止、変更。 ガンマグロブリン、抗核抗体、抗ミトコンドリアM2抗体を調べる。 無症候性原発性胆汁性肝硬変は多い。(中年女性に多い) バルプロ酸(薬剤)などはγ-GTP単独上昇のこともある。 インスリン抵抗性(脂肪肝)とγ-GTPは相関あり 2-1-2 胆管障害の場合 入院の適応。 ドレナージが必要(経乳頭、経皮)。 胆管炎が無くとも今後閉塞性黄疸の出現の可能性は大。 造影CT、MRCP、CEA、CA19-9などで閉塞が癌によるのか、結石 によるのか、狭窄によるのか、鑑別する必要あり。 狭窄では肝内胆管拡張する原発性硬化性胆管炎もある。 症例問題 【症例】 27歳 女性 【主訴】 なし 【家族歴】 母:HBVキャリア、姉:白血病 【既往歴】 特記事項なし 【生活歴】 飲酒:機会飲酒、喫煙なし、20歳時の体重60kg 【現病歴】 生来健康。ダイエットの薬を内服していたが、数年前に内服中止。 2007年9月に近医にて肝機能異常を指摘 同年9月22日に精査目的に近医入院。HBsAg(-)、HCVAb(-)、IgM-HA(-)、 AMA(-)、ANA 320倍(speckled)、画像上は著明な脂肪肝を認めた。 同年10月4日精査目的にて当科転院。 身体所見 身長 155.0cm、体重 69.0kg、BMI 28.7kg/m2、 腹囲 105cm、血圧 114/69mmHg、脈拍 89/分、 体温 36.8℃ 意識清明、貧血なし、黄疸なし、 胸部所見:異常なし 腹部所見:肝脾触知せず 血液、生化 【検血】 WBC 【生化】 6800/μl Neu 73 % Lym 22 % Mon 5% Eo 1% Baso 0% LDH 207 IU/l ALP 215 IU/l 106 mEq/l γ-GTP 118 IU/l BUN 11 mg/dl ChE 373 IU/l IU/l Na 139 K 3.8 Cl mEq/l mEq/l RBC 405×104/μl Cr 0.63 mg/dl CPK 63 Hb 12.5g/dl TP 8.9 g/dl CRP 0.20 mg/dl Hct 37.2 % Plt 34.1×104/μl Alb 4.5 g/dl T.chol 199 mg/dl T.Bil 0.5 mg/dl UA 6.0 mg/dl mg/dl 【凝固】 PT (%) 95% AST 105 IU/l FBS 107 APTT 28.8sec ALT 239 IU/l HbA1c 5.6 % 血清 蛋白分画 HBs-Ag (-) 総蛋白 8.9 g/dl HCV-Ab (-) Alb 4.8 g/dl IgM HA-Ab (-) α1-G 0.2 g/dl 抗ミトコンドリア抗体 (-) α2-G 0.8 g/dl 抗核抗体 320倍 β-G 0.8 g/dl γ-G 2.9 g/dl IgA 257 mg/dl IgG 2420mg/dl IgM 129.0mg/dl (speckled) 腹部単純CT 自己免疫性肝炎国際診断基準 女性 ALP/ASTまたはALT比 <1.5 1.5~3.0 >3.0 血清γグロブリンor IgG値の正常上限値との比 >2.0 1.5~2.0 1.0~1.5 <1.0 ANAの力価 >1:80 1:80 1:40 <1:40 +2 +2 0 -2 +3 +2 +1 0 抗ミトコンドリア抗体陽性 肝炎ウイルスマーカー陽性 陰性 薬剤服用歴 あり なし 平均アルコール摂取量 <25g/日 >60g/日 合計 15点 -4 -3 +3 -4 +1 +2 -2 definite 15< probable 15-10 +3 +2 +1 Scoring system by the international autoimmune hepatitis group 0 J Hepatol 1999 Nov;31(5):929-38) 脂肪肝で肝細胞障害あれば N-score計算 N-score = Female +Old age +T2DM +HT 0-1点 脂肪肝 2点 肝生検必要 3-4点 線維化進んだNASH Brunt: Grade2 Stage1 →NASH、N-scoreが正しい 長崎大1内NAFLD肝生検症例での検討(1) ANA-negative NASH (n=47) ANA-positive NASH (n=21) P-value Female(%) 57.4% 100% 0.0004 Age 46.8±18.3 57.3±11.4 0.0348 Diabetes mellitus(%) 42.6% 38.0% 0.8463 BMI(kg/m2) 29.5±4.2 26.7±5.5 0.0680 Total cholesterol(mg/dl) 198.8±41.3 206.3±56.2 0.7545 AST(U/L) 61.6±43.5 64.2±32.0 0.4573 ALT(U/L) 104.7±82.1 89.2±63.3 0.3632 γ-globulin(g/dl) 1.30±0.28 1.49±0.38 0.0920 長崎大1内NAFLD肝生検症例での検討(2) Score Grade Stage Steatosis ANA-negative NASH (n=47) ANA-positive NASH (n=21) P-value 0 1 2 3 6.4% 70.2% 23.4% 0% 0% 90.4% 9.6% 0% 0.5954 0 1 2 3 4 15.2% 32.6% 23.9% 23.9% 4.3% 14.3% 52.4% 16.7% 4.8% 9.5% 0.3140 1 2 3 43.5% 34.8% 21.7% 70.0% 25.0% 5.0% 0.0524
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