2007年秋 日本物理学会 北海道大学 23pPSB-54 発光励起スペクトル測定法で見る ドープ量子井戸の光放出と光吸収の関係 井原章之, 吉田正裕, 秋山英文, Loren N. Pfeiffer A, Ken W. West 東大物性研, CREST-JST, ルーセント・ベル研 アウトライン 1: 2: 3: 4: 5: 6: イントロダクション、サンプル構造、測定系 PL(PLE)の励起(検出)エネルギー依存性 ln(PL/PLE)プロットと温度T 不均一幅の影響(50Kと6Kの例) ln(PL/PLE)プロットの温度依存性 結論、まとめ A A 1:イントロダクション <背景> Kennard-Stepanov relation :熱平衡系の発光(I)と光吸収(A)の間に成立する一般的関係式 [1] hv : 光子エネルギー I A exp hv / kBT kB : ボルツマン定数 T : 温度 ※ Neporent-McCumber relationとも呼ばれ、Einstein’s relationおよび Kubo-Martine-Schwinger relationにおける、弱励起極限の表式に相当する。 熱平衡系では、Tは環境温度(Tenv)と一致. → 絶対温度測定が可能. 熱平衡でない場合はT≠Tenvとなる [2]. (T>Tenvもしくは式が成立しない) [1] E. H. Kennard, Phys. Rev. 11, 29 (1918). B. I. Stepanov, Sov. Phys. -Doklady 2, 81 (1957). [2] Denise A. Sawicki and Robert S. Knox, Phys. Rev. A 54, 4837 (1996). 1:イントロダクション 半導体量子構造に対する実験例 [3] → 50K以下の低温で、非共鳴励起のもとでは、T>Tenvとなるか、成立しない。 [3] S. Chatterjee, et al. Phys. Rev. Lett. 92, 067402 (2004).; D.Y. Oberli et al. Phys. Status Solidi B 178, 211 (2000). 共鳴励起ならばT=Tenvとなると期待できる。 しかし、実験的に明らかにした例はない。 (共鳴励起のPL実験は、励起光の散乱でPLが埋もれてしまうために、測定が難しい。) <目的> 単一量子井戸に対する共鳴励起PL、およびPLEスペクトルを 測定できる系を開発し、PLとPLEの関係を調べ、 絶対温度測定の可能性を探る。 PL (photoluminescence) spectrum (発光スペクトル) : 単色の励起光を当ててキャリアを生成し、緩和後に放出される発光スペクトルを測定。 PLE (photoluminescence-excitation) spectrum (発光励起スペクトル) : 励起エネルギーを変えながら発光の検出量をプロット。吸収スペクトルの形状を反映。 1:サンプル構造、測定系 ・試料:変調ドープ量子井戸(2DEG濃度 : 6x1010cm-2) (ノンドープ系[6]よりも熱平衡に達しやすいと期 待) ・環境温度(Tenv ) はSiダイオード温度計で測定。(精度は100K以下で±1 K、 100K以上で ±1%) ・励起光の偏光と直交する偏光成分のPLのみ検出するとともに、検出側の結像レンズの 手前にアイリスを置くことで、レーザー散乱光を減らした。 図1:サンプル構造、クライオスタット構造、光学測定系 2:PLの励起エネルギー依存性 図2: (a)PLスペクトルの励 起エネルギー依存性と、 (b)PLEスペクトルの検 出エネルギー依存性。 Tenv = 33±1 K で測定。 スペクトルは全て規格化して あり、それぞれ9, 6, 3, 0のオ フセットを加えてある。露光時 間はPLが60秒、PLEが4秒。 PLEの点数は100点。 PL について 発光量が小さい場合、CCDカメラの リードアウトノイズおよび暗電流のノ イズが現われてしまう。 PLスペクトル形状の励起エネルギー 依存性が小さく抑えられているのは、 弱励起(1.7mW)での測定のおかげ。 PLE について エラーバーはCCDカメラのノイズから見積もったもので、検出 フォトン数が少ないときに大きくなる。 このため、上側の2つのようにPLピークのテールで解析した 場合は、吸収係数の小さい低エネルギー側でノイズが大きい。 下側の2つのように、PLピークの主成分が含まれるように解 析した場合はノイズは小さく、形状もほぼ一致する。 3:ln(PL/PLE)のプロット PLとPLEから温度を求めるにあたって、 ln(PL/PLE)を導入し、式(1)を書き直した以下の表式を用いる。 lnPL PLE / kBT * C T* : 測定から求まる温度 (Cは定数パラメータ) 図3:青の縦線がln(PL/PLE)で、長さはPLとPLEのノイズから見積もられたエラーバーを反映。 PLEはPLピーク全てが含まれるようにして解析。PLの励起エネルギーは1.59 eV(PLのピークエネルギーに共鳴) ln(PL/PLE)が光子エネルギーに対して線形に減衰。 3:ln(PL/PLE)のプロットと温度T* 温度T*は、ln(PL/PLE)プロットの傾きから求められる。 傾きとその標準偏差を求めるために、重み付き最小二乗法を用いた。 ※回帰直線から算出される残差の2乗和とつじつまが合うように現象論的に定数項scを導入 求まった傾きは0.346±0.001 (1/meV)で、温度に換算すると T* = 33.6±0.1 Kとなる。 Tenv (= 33±1 K) と良い一致 図4:重み付き最小二乗法を用いた、ln(PL/PLE)の傾きとその誤差の見積もり 3:ln(PL/PLE)のプロットと温度T* 弱励起によってPLの励起エネルギー依存性を抑えたが、 T*の見積もりでは無視できない影響を及ぼす。 試しに1.585から1.606 eVの範囲で様々な励起エネルギーで測定してみると、 34 Kの付近を±1.5 Kの不確かさで分布することが分かった。(現時点で原因は不明) 図5:ln(PL/PLE)プロットおよびT*の励起エネルギー依存性 ※ PLEの検出エネルギー依存性に関しては、PLピークの主成分を含む限り、T*は変化なし 次に、試料の不均一性の影響について 4:不均一幅の影響(50Kの例) 図6 (a) 51±1KにおけるPLEスペ クトルと、(b,c)異なる励起エ ネルギーで測定したPL、およ びln(PL/PLE)プロット。 (d) 6±1KにおけるPLEスペク トルと、(e,f)異なる励起エネ ルギーで測定したPL、および ln(PL/PLE)プロット。 51±1K について 6±1K について どちらのピークで励起した場合でも、 ln(PL/PLE)は光子エネルギーに対し て線形に減衰し、傾きから見積もられ る温度に大きな差は現われない。 1.599 eVで励起した場合(e)、高エネルギー側のMLからの発 光の影響で、ln(PL/PLE)が1.595 eVあたりで折れ曲がった。 → 高温はキャリア拡散が大きく、試 料の不均一性の影響が小さい。 → 非共鳴励起の場合、ML間で非平衡分布となるが、 共鳴励起ならば熱平衡となる。 一方、1.591 eVで励起した場合(f)は、ln(PL/PLE)が直線とな り、T* (=6.13 K)がTenv (=6±1K)とよい一致を示した。 最後に、各温度での特徴についてまとめ 5:ln(PL/PLE)プロットの温度依存性 ※ PLEの検出エネル ギーは、PLピーク全体 が含まれるようにした。 ※ T*とTenvの有効桁数 はそれぞれ、重み付き 最小二乗法で求めた標 準偏差、およびセン サーの誤差から決めた。 図7:(a)共鳴励起の条件下で、様々な温度のもとでプロットしたln(PL/PLE)。 (b) T*とTenvの関係。エラー バーは励起エネルギー依存性に起因する不確かさに対応。 5:ln(PL/PLE)プロットの温度依存性 各温度の特徴 6-20 K 共鳴励起のもとで熱平衡分布. T*の不確かさは±0.6K. 非共鳴励起の場合、ML間で非平衡分布. 20-100 K 共鳴・非共鳴に関わらず熱平衡分布. T*の不確かさは±1.5K. 共鳴・非共鳴に関わらず、T*≠Tenvが目立つ. 100-200K (おそらく測定上の問題で、非平衡分布ではない) T*は真の値から10~20K程度ずれる. 室温付近 1.7mWでは測定不能. 今回測定した5-200Kの温度範囲で、T*とTenvはほぼ一致. 全体的な不確かさは3-10%. (6-100Kの原因は明らかでない) 様々な温度において共鳴励起のもとで測定したPLとPLEの比が exp(hv/kT)に比例し、温度Tは環境温度とほぼ一致した. 6:結論、まとめ <結論> PLとPLEの比はKennard-Stepanov関係式に従い、 その比から絶対温度を求めることができる. ※ 関係式はスペクトル形状に依存しないので、1次元電子系や磁場 中の2次元電子系など、階段関数状の状態密度を持たない系であっ ても、共鳴PLとPLEが測定できれば、今回の温度測定法が使える. まとめ n型ドープ単一量子井戸のPLとPLEスペクトルの関係を、 共鳴励起の条件下で、6-200Kの温度範囲で調べた。 KennardやStepanovが予言していたように、 PLとPLEの比はexp(-hv/kT)に比例し、Tは環境温度と一致した。 共鳴PLおよびPLE測定という実験手法で、 熱平衡系の絶対温度を測定できることが示された。 課題 : PLの励起エネルギー依存性の問題を明らかにして、 T*の不確かさを減らすための可能性を探る.
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