ECRイォン源のイオンェネルギー制御

[山梨大学工学部研究報告第45号1994年12月]
文
論
ECRイオン源のイオンエネルギー制御
秋津哲也 松沢秀典 小川栄二 米村真次
宮下大幸 水野真克 佐々木正巳 大沢文雄 酒井正
Experimental Investigations on Ion Energy Control
in an Electron Cyclotron Resonance (ECR) Ion Source
TetsuyaAKITSU HidenoriMATSUZAWA EijiOGAWA ShinjiYONEMURA
HiroyukiMIYASHITA MasakatsuMIZUNO MasamiSASAKI FumioHSAWA TadashiSAKAI
Abstract
The infuences of control parameters on ion energy−pressure and the electro−negativity
of working gas, microwave power and an external bias voltage 一 have been investigated in an
electron cyclotron resonance(ECR)ion source. When the plasma potential was shifted with an
external bias voltage appliedto an anode, a proportional increase was observed in the ion
energy on a remote target surface.
オン源はこれらのイオンビームプロセスをはじめ,酸
1 序論
イオンピームを用いた薄膜の堆積や微細加工はミク
化膜の形成や高温超伝導体を合成するプロセスなどに
応用され,今後ますますその応用分野と重要性を増し
ロサイズの電子デバイスの作製の基本的な技術として
ていくものと考えられる.このレポートは,日電
広く用いられている.電子サイクロトロン共鳴(Elec−
ANELVAとの共同研究として行った発散磁界型
tron Cyclotron Resonanc,以下ではECRと略す)イ
ECRイオン源に関する研究の報告である.
ECRイオン源によって固体の表面の微細加工を行
う場合,ハロゲン化合物と希ガスの混合気体が放電媒
*電子情報工学科,Dept. Electrical Engineering&Com・
puter Science
質として用いられている.遊離したハロゲン原子は高
い化学的反応性とともに電気的陰性度(Electron
†日電ANELVA株式会社,The ANELVA Corporation,
Affinity)を有するが,電気的陰性度の高いプラズマ中
Yotsuya 5−8−1, Fuchu city, Tokyo,183 Japan
a)現在の所属:日立製作所,国分工場・送電システム設計
部,Hitachi Ltd. Kokubu Works, Power System
Control&Protection Dept, Kokubu−cho 1−1,Hitachi
での発散磁界によるイオン加速はあまり議論されてい
ない.実験の第一の目的は,電気的陰性度が高いSF6と
希ガスのArを用いてECRプラズマを生成し,電子の
b)現在の所属:日立製作所,ストレージシステム事業部
磁気モーメント保存によって発散磁界中において生じ
るイオン加速電界の空間分布を比較することである.
Hitachi Ltd. Data Storage&Retrieval System Divi・
実験の第2の目的は,発散磁界中のECRプラズマ
sion , Kozu 2880,0dawara city, Kanagawa Pref.256
固有の不安定性を抑制し,時間的に定常,しかもイオ
ンのエネルギー制御が可能なイオンピーム源の開発で
city, Ibaragi Pref.316 Japan
Japan
一66一
ECRイオン源のイオンエネルギー制御
ある.Limpaecher and MacKenzie〔Ref.1〕による
Magnetic multipoleに関する初期の報告以来,永久磁
されているときにも,入射するイオンエネルギーを一
定の範囲内で制御する自由度を提供できる.
石によって発生させた磁界による表面閉じ込めを用い
た熱陰極方式のイオン源や,ECRの共鳴磁場として多
2 実験装置の構成
利用した大直径のECRイオン源2∼8)が開発されてい
図1は実験に用いられたECRイオン源の概略を示
している.ダブルガン型ECRイオンビーム装置の一
る.Fujiwara等9∼1°)は真空容器の周囲に配置した永久
つのソレノイドを用いてマイクロ波の入射窓から70
磁石によって多重極磁界を加えることによって,ECR
mmの位置に単一のECR領域を発生し,プラズマ生
重極磁界を用いた構造や多重極磁界の表面閉じ込めを
プラズマのMHD(Magneto−Hydro Dynamic)不安
成室の一端の石英窓からAr中にマイクロ波(2.45
定性を抑制し,イオンビームの速度分散の減少による
GHz)を入射して高密度のプラズマ(1−2×1011cm3)
エッチング特性の向上を指摘している.本研究では
ECRイオン源の内部に多重極磁石を設置することに
よって,プラズマを安定化するとともに,さらに磁極
図1の磁界強度の分布においてECRで支持された
を生成した.
矢印の位置が共鳴領域を示している.
電位の制御を試みる.プラズマ電位の制御特性と,サ
マイクロ波はマグネトロン・マイクロ波電源によっ
て励起され,導波管(W.G, Wave guide)によって
ブストレート表面近傍のシース内で加速されたイオン
の入射エネルギーの制御特性を調べる.イオン源の制
伝送された.イオン源内部にNeを封入した小型の放
電管を挿入し,マイクロ波の電界によって励起された
御に陽極バイアスを加える技術は,静電閉じ込め型イ
発光の強度を光ファイー〈 一によってモニターすること
オン源11),バイアスによるスパッタリング・プロセス制
によって,局所的なマイクロ波の電界強度を測定した.
近傍の電極(陽極)に直流・ミイアスを加えてプラズマ
御2),マグネトロンスパッターの電位制御13)などに用
この実験で用いられた条件では,入射電力300Wの動作
いられているが,ECRイオン源の場合にはサブスト
条件において±13%の周期的な出力変動が観測され
レート支持電極に高周波バイアス14”’16)や直流・ミイア
た.
ス17)を加えてイオンエネルギーを制御する技術が用い
Samukawa等18)はマグネトlrンの出力変動および
られている.陽極バイアス方式では,システムの構造
周波数変動によるイオン源のイオンエネルギー分散の
的な必要性によってサブストレートが接地電位に固定
増大を指摘しているが,本研究では,陽極バイアスを
Fig.1
DC副AS
加えてECRプラズマから引き出されるイオンの平均
エネルギーを増大させることによって,平均エネル
TARGET
K
ギーとエネルギー分散の比を相対的に改善する.
空芯コイルによって発生された定常磁界の強度は入
射窓の位置において約0.1T, z=70 mmの位置におい
て0.0875Tである.マイクロ波はz=0−100 mmの領
域で吸収されているので,下流におけるプローブ測定
にはマイクロ波電界の影響は無視できる.
些.・・
薯÷ヤ「.
マイクロ波キャビティーは円筒形状であり,内径160
mm,長さ240 mm,接地電位が与えられている.イオ
ン源のプラズマ生成室は直径70mmのアパチャーに
SOLENOID COIL
よって大容積の処理室に接続されている.開口部から
130mmの位置にターゲット(直径100 mm)が固定さ
れている.軸方向に可動の静電プローブを用いてプラ
ズマ中の電位分布を測定し,接地電位のターゲットに
入射する正イオンのエネルギー分布と比較した.イオ
300
ECR Z{mm)
図1 ECRイオン源
ンエネルギー分析器(1.E. A, Ion energy analyzer)
W.Gは導波管,1.E.A.は減速グリッド型イオンエネル
ギー分析器,磁界強度分布の横軸の↑はECR領域の位置
を示す.
はG、からG4のグリッドとニッケル製のコーン形状の
コレクタによって構成され,G、には接地電位, G2に
は一90Vの電子反発電位, G3には0∼70 Vのイオン減
速電位に重畳した微小交流が加えられた.コレクタ
一67一
平成6年12月
山梨大学工学部研究報告
第45号
Fig.3
プ心
過
〉% i多
OLE MAGNET!C FIELD
ロしE O E
/z
7
。、、°1(h Tet
言
マ\\
:6
i
ト5
40
a
300
100 200
Z(mm)
ノo
o1 \
TAPER ANGLE ノ「
li
、/v’iT;;・L
!
ノ
≡…
s
・i
ALUMINUM BASE
\
NEOMAX
THEORE丁1〔AL
ぼ
図2 陽極の部分展開図
は一9Vにノミイアスされた.コレクターに集められた
イオン電流に重畳した交流成分をロックインアンプを
用いて検出することによって,イオン減速電位に対す
ミ
上
る一次微分を求めた.
ゴ
ltt
図2はイオンエネルギー制御の実験において用いら
れた陽極の部分展開図を示している.陽極の各ユニッ
トの内部には2個の永久磁石(NEOMAX)が備えられ
ている.永久磁石はアルミニューム製べ一ス上に固定
O
bo
100 200
300
o
Z価揃1
図3 ECRプラズマのパラメータ
され,水冷ダクトによって冷却された容器壁に熱的に
結合されている.ステンレス製の電極板(陽極)が5mm
度Te〃の空間分布,挿入図は方向性プローブの構造を示
の間隙を設けて,永久磁石を覆うアルミナセラミック
す.
ス製のボートの両側に固定された.プラズマに面して
(b)電子密度の空間分布
(a)磁力線に垂直方向の電子温度Te⊥と平行方向の電子温
Ar,6.7×10−2Pa.,マイクロ波入射電力,300 W.
いる部分の電極板の面積は60cm2である.容器壁の面
積は約1.2×105cm2であるから,容器壁の面積に対す
圧力領域で過剰な電子損失によるマイクロ波放電の不
る面積比は5×10−4であるが,電極に正極性の直流バイ
安定化を防ぐことができる.
アスを加えると優先的な陽極として作用する.電極に
交わる磁力線は永久磁石近傍で閉じているため,プラ
ズマ領域に伸びた磁力線に沿って流入する電子電流は
アルミナセラミックによって遮られ,永久磁石によっ
て発生する磁力線に垂直方向に拡散する.多重極磁界
3 実験結果
A.不均一磁界中の電子密度の空間分布
図3はマイクロ波プラズマ内部の(a)電子温度と
(b)電子密度の空間分布をマイクロ波入射窓からの距
とアルミナセラミックス製のボートはプラズマからの
熱の流入を遮断するとともに,容器壁に対して正極性
Swift and Schwar19)によれぽ,平均自由行程1。mに
の電圧を与えられて電極板に流入する電子電流を制限
比較してサイクロトロン半径が小さいとき磁界の影響
している.多重極磁界の磁極の近傍にバイアス用電極
によって磁力線に平行な面に流れ込む電子電流はサイ
を配置する事によって,プラズマ電位を電極の電位の
近傍まで引き上げて安定化させるとともに,低い動作
減少する.ここで行った実験条件のもとでの電子の平
離の関数として示している.
クロトロン半径とプローブ半径の比rL。/rpに比例して
一68一
ECRイオン源のイオンエネルギー制御
均自由行程1。mは,1。m=102 cmであるため,サイクロ
Fig.4
トロン運動による電子拡散係数の非等方性が無視でき
ll
o
ない.プラズマ生成領域の電子密度測定において不均
5
一な磁界の影響を補正するため,一対の方向性プロー
ブを用いてプラズマ電位において流入する電子電流の
比を測定し,実験結果から求めた電子拡散係数の磁場
\
依存性を用いて測定結果を補正した.
1//
測定に用いられた方向性プロープの構造は図3の挿
入図に示されている.磁場に垂直方向の電子電流はPt
製の細線(直径が0.1mm,長さ7mm)のコレクター
を用いて検出し,磁力線に平行方向の電子電流は平面
プローブを用いて検出した.平面プロープのコレク
ター部分は直径が0.83mmのPt電極の周囲に軟質ガ
ラスを熔着し,これを軸方向に垂直な面で研磨したも
1isat
\
ので,研磨面を磁力線に垂直な平面に平行に配置した.
200
面積が等しいコレクターにプラズマ電位において流
れ込む垂直方向と平行方向の電子電流の比は,次式で
[ii
三
与えられる.〔Ref.19〕
も
£−1(1nl+2ムーln鴛)
望
rp
ここで,rL.はサイクロトロン半径, rpはプローブ半
径,1。mは平均自由行程である.電子電流の比は対数項
/
を通じて磁界に依存する.図3(b)は実験データに
よって決定された定数を用いて磁界に対する電子拡散
係数の依存性を補正した電子密度分布を示している.
1
イオン源内部の電子密度はECR領域近傍(マイクロ
波入射窓から70mm付近)において最大値(1−2×1011
cM−3)を示した. z=100−140 mmの範囲では,磁力線
に垂直方向の電子温度Te⊥は, Te⊥=7eV,平行方
向の電子温度Te〃=は, Te〃=6eVの値が得られた.
245
270
Z{mm)
0
図4 イナンビームの空間分布
Ar.6.7×10−2Pa.,マイクロ波入射電力,300 W,
電子温度はイオン源内部のz=100mmの位置で既に
陽極バイアス,十30V.
等方的である.ターゲット付近では磁力線に垂直方向
の電子温度Te⊥は, Te⊥=4eV,平行方向の電子温
度Te〃は, Te〃=5eVに低下する.陽極・ミイアスに
よってプラズマ電位を制御しない場合,ターゲット表
面におけるイオン加速は低い電子温度によって制限さ
れている.
図4はArイオンビームのイオン飽和電流の空間分
布と軸上における電子密度を比較している.この測定
結果は後述するプラズマ電位の制御において陽極バイ
アスが30Vの場合と比較できる.引き出されたイオン
ビームは処理室内で拡散し,ターゲット付近の電子密
度は1×10i°CM’3に低下するため,後述するように,
B.プラズマ電位の空間分布に対する電気的陰1生度の
影響
SF6は高い電気的陰性度を有する常温で気体のハロ
ゲン化合物であり,フッ素の供給源として多用されて
いる.実際のプラズマ・プロセスでは放電パラメータ
の調整やサブストレートの冷却などの目的でハロゲン
気体と希ガスとの混合気体が多く用いられている.
図5(a)はAr50%+SF650%の混合気体中における
ECRプラズマ中におけるプラズマ電位,電子温度,電
子密度の空間分布をマイクロ波入射窓からの距離の関
ECR領域の不安定性により密度揺動が励起されると,
ターゲット近傍の低密度のイオン電流密度と比較して
数として示している.SF6に対する測定結果は図5(b),
無視できない大きさになる.
いてイオン源と処理室はセラミック製のアパチャー
Arに対する測定結果は図7に示されている.実験にお
一69一
平成6年12月
山梨大学工学部研究報告
Fig.5(a)
第45号
Fig. 6
Ar
SF6+Ar 6.7x10−2 Pa
3.3×10−2Po
30
1・e−一.7Vp
r△ε=22eV
(a}
2
’▲ \
N ;
二
≡
10
やて\
20
』 1ユ5・v、/
〉
A
〉
10
「
〒
5
1
12
ω
三
}
●
←
己
…3°
≧。
0 10 20 30 40
E〔R=r\
VS
10N ENERGY{eV,
o l ■\
一■
O
ロー
100 200
o
0
Ar
30P
△ε 3.ヨx10−2 Po
Z{mm)
=26eV
{b}
Fig.5(b)
△ε
SF6 6.7x10已2Po
18、5eV
30
已L−−Vp
2
●_●_●ノ
▲一一▲ \●
、
20
三20
5
碧
10
、
、
〉
■/■\
10
一’“一
u
Vs E〔R
0
、T,・一
。
ミ
1
∈
;
三
■ ●\●、
\ノ
ご
\■
/
吉
19
!
/
/
/
三
1.5x10−iPq
0
0 10 20 30 40
己
10N ENER〔iY{eV}
⊂ERAMI〔
、\
APERTURE
図6 Arイオンビームのエネルギー分布関数
■\
0
⊃10
二
吉ごや
二
10eV,/ 1.1・IO−1
.El
、
;
100 200
0
マイクロ波入射電力,(a)300W,(b)600W. Ar,3.3×10−2,
0
6.7×10『2, 9.3×10 2Pa.
300
Z‘mm)
め,電気的陰性度が高い気体中では負イオンの生成率
が増加する.熱平衡状態において低電子温度(Teが数
図5 SF6ECRプラズマのパラメータ比較
(a)Ar50%十SF650%,
(b)SF6100%,6.7×10−2Pa.,(ANELVA製BA Gaugeに
eV)のSF6放電プラズマ中で観測される荷電粒子は
F+などの正イオン,SF 9,SF E等の負イオンおよび
よる測定値).
電子である.〔Ref.20−22〕SF6ECRプラズマ中では粒
(70mm)によって区画され,放電プラズマ中の自発
的なイオン加速電界の空間分布が示されている.SF6
子組成は十分に議論されていないが,巨視的な電気的
陰性度は負イオンが負の荷電粒子密度に占める割合に
ECRプラズマから引き出されたイオンビームは高い
化学的反応性を有するため,静電プローブにはPt電
よって決定される.すなわち,SF言やSF Eの質量が
F+の質量と比較して大きいため,負イオンが負の荷電
極を使用して,表面の腐蝕によるプローブ特性の劣化
粒子密度に占める割合が著しく増大すると正イオンを
を防いだ.
プラズマ中に閉じ込める多極性拡散電界〔Ref.23,24〕
イ:オン源内部(z≦200mm)のプラズマ電位の空間
分布を比較すると,イオン源内部の電位は,放電媒質
が生じるはずである.SF6プラズマ中においてz≧700
mmの位置のプラズマ電位が一10∼−30V,すなわち対
向する接地電位の壁面より負になる現象が観測された
が,イオン源の近傍の測定結果にはArの実験結果(図
の電気的陰性度によってあまり変化しないことが分か
る.ターゲット前面の領域では電子温度が低下するた
一70一
ECRイオン源のイオンエネルギー制御
Ar,2.6x10−2Po
して用いた場合にも負イオンの相対的密度は低く,し
たがって,反応性イオンビーム加工などの応用におい
−一一’Vp
て負イオンに起因する多極性拡散電界の影響は無視で
Fig.7(a)
/
30 ●一一●
きることを示唆している.
\
ギ
\ノn・一\
;
5口
\ \・\
二
㌃
二
CERAHκ\
〉
に
APERTURE\
00
100
200
験で観測されたz=200−300mmの領域に生じた局所
的な加速電界は,絶縁物のアパチャーを挿入したこと
o
ヨ00
によって生じたものである.この点に着目して,実験
の後半では多重極磁界を用いて電子損失を制限するこ
Z{mm)
Fig.7(b)
とによって,アパチャー近傍の加速電界の発生を抑さ
え,ターゲット前面のシース領域にイオン加速電界を
集中させる.アパチャー近傍の電位勾配でイオンが加
Ar,6.7x10.2 Pq
1
発散磁界中での正イオンピームの輸送効率を決定す
るプラズマ電位の空間分布は空間電荷の中性化率や磁
界の勾配に起因する電子の垂直方向の運動量の変化等
の要因による影響を受けることが知られているが,実
APERTURE EFFE〔T
Vpo −一一 ● 2
速された場合,サブストレート表面までの距離が平均
自由行程に比較して無視できないため,サブストレー
ne
30
‡
這
ゾ
哨喘1蔑\こ一
トに入射する前にイオンが電荷交換や衝突による散乱
を受ける可能性が大きい.
図6はArイオンビームの圧力とマイクロ波入射電
力に対するエネルギー分布関数の変化の典型的な測定
結果を示している.(a)の実験ではマイクロ波入射電
力を300W,(b)では600Wとした.外部からの・ミイアス
0
〇
電圧を加えない場合,作動気体の圧力とマイクロ波入
〇 100 200 ヨ00
射電力を変化させてもイオンエネルギーは30eV程度
Z{mm)
で制限されている.(b)の実験結果において0.1Pa以
Fig,7(c)
20
上の圧力領域では,低エネルギー成分の増大などの著
2
しいイオンビーム速度分布の変化が認められる.この
ように,マイクロ波入射電力を増大させることによっ
てはイオンエネルギーの上昇は得られない.
次に,Arの圧力に対するプラズマ電位の変化の傾向
;
−10
とイオンエネルギー分布の測定結果を比較する.図7
芸
は異なる圧力におけるイオン源内部の電子密度と電位
の分布を示している.作動気体の圧力を低圧力側に変
APERTURE \
00
■\
化させるとプラズマ生成領域の電位が上昇する.これ
100 200 300
にともなって,イオンエネルギーが増大するが,相補
的に電子密度が減少する.負性気体中では低圧力領域
では安定なマイクロ波放電が維持できなかった.
■、 0
ZCmm}
図7 Ar ECRプラズマ中の電子密度とプラズマ電位の比
較
Ar,(a)2.6×10−2,(b)6.7×10−2,(c)0.10 Pa.,マイクロ波入
図8はSF6ECRプラズマから引き出されたイオン
射電力,300W
ビームのイオソエネルギー分布関数の測定結果を示し
ている.最大イオンエネルギーは前述の電位分布に示
7)と比較しても,負イオンに起因する空間電位の極
性の逆転のような大きな変化は観測できない.これら
の実験結果は,マイクロ波による電子加熱が定常的に
行われているECRイオン源内部とその近傍では, SF6
されたプラズマ生成領域の電位と比較する事ができ
る.電気的陰性度が高いSF6を放電媒質として用いた
場合にも,ECRプラズマ中から引き出されたイオン
ビーム中の電位分布はArプラズマの測定値と大きく
のような高い電気的陰性度を有する気体を放電媒質と
変化しないことが明らかになった.
一71一
第45号
山梨大学工学部研究報告
平成6年12月
Fig.10
Fig.8
Ar
⊃30
\
6。7xlO−2Po
5.Ox10−2
OV
=
’i≡
1。v\↓
コ
」50
旨
1 8 or◇
6.7x10−2
D;IAs M
;
v、
△ε=21eV
一ε=28eV
毛
20 40 60
0
10N ENERGY{eV)
0 10 20 30
10N ENERGY{eV)
≡≡
図8 SF6ECRプラズマ中のイオンエネルギー分布関数
5
SF6,(a)5.0×10−2,(b)6.7×10−2,(c)0.10Pa.
亘50
マイクロ波入射電力,300W
毛
\へ
△ε=
、
Fig.9
50
33xlO−2Po
旨
(ANELVA製BA Gaugeによる測定値)
5
0〔BIAS
30V ●−30V
/31eV
/1$
OV O
°一・一・一・仁 ::18
エ\くニー一。一一
10V
O⊂
;
ム㌔、、
ご
、△㍉∼
BIAS
”・A−...、10 ロ∼一ロ
20V
:N:こ::ご叉_A“’’’”“ Vs
b
l。NS。UR〔ε二\“一一til 5.ir“:≒
20 40 60
10N ENERGY{eV}
0
‘
200
Z(mm}3°°
sARGET」
図10 イオンエネルギー分布の陽極バイアスに対する依存
性,
Ar,(a)6.7×10一2Pa.,(b)3.3×10−2Pa
図9 プラズマ電位の空間分布
陽極バイアス電圧一30∼+30V
大はターゲット前面のプラズマシースの部分に集中し
Ar,6.7×10−2Pa.,マイクロ波入射電力,300 W
ている.このような電位構造は,正イオンの加速がプ
ラズマシースに集中するため有利である.すなわち,
イオンシースとターゲットの間の距離が平均自由行程
C.プラズマ電位の制御
陽極をプラズマ生成室内部のz=130−240mmの位置
に挿入して直流バイアスを加え,プラズマ電位の空間
分布を測定した.プラズマ電位は静電プ1r一ブの電
流・電圧特性から決定された.図9はArイオンピーム
中のプラズマ電位の空間分布を示している.横軸の中
央付近の破線はプラズマ生成領域と処理室の境界の開
口部,右端の矢印↑はターゲットの位置を示している.
正極性の陽極・ミイアス電圧を加えたとき,プラズマ電
位が陽極バイアスに比例して上昇した.加速電界の増
に比較して無視できるほど小さいため,加速されたイ
オンが中性原子との衝突等による散乱を受ける可能性
が少ない.
D.陽極バイアスによるイオンエネルギーの制御
次に,陽極バイアスによる正イオンの入射エネル
ギーの変化をプラズマ電位の変化と比較する.イオン
源の下流(z=350mm)に設置された接地電位のター
ゲットの中央部のアパチャーに入射したイオンエネル
ギーを減速グリッド型イオンエネルギー分析器を用い
一72一
ECRイオン源のイオンエネルギー制御
Fig.12
Fig.11
;
二
0
△
).30
る
一20
這
呈1・
:
● o
▼
173 1・−2Pa ls r.e
=
’≡
30000
『
67 /≠㌃二
em。。。
三 。
93 〆ニゴ8/ン
● ,!’乞’m
。乏
も・1・…
’ \、
ION ENERGY
・と! .20000
卜一一
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図12ECRプラズマ中の低周波密度揺動
図11 イオンエネルギー分布の陽極バイアスと圧力に対す
(a)イオン飽和電流の揺動波形,(b)周波数スペクトル
る依存性
Ar,6.7×10−2Pa.,マイクロ波入射電力,300W
(a)平均イオンエネルギー
(b)イオン電流の陽極バイアスに対する依存性
Ar,3.3−9.3×10−2Pa.,マイクロ波入射電力,300W.
測された.
陽極バイアスを用いてイオンビームのエネルギーを
て測定した.図10は典型的なイオンのエネルギー分布
の測定結果であり,作動気体の圧力が(a)6.7×10−2
制御できる圧力とバイアス電圧の上限は,陽極と接地
電位の真空容器壁との間の直流放電による放電状態の
Pa.,(b)3.3×10 2Pa.の場合の陽極バイアスに対する
変化によって制限されている.陽極バイアスを+30V
以上加えると,プラズマ生成部の内部の発光状態が均
一でなくなり,放電電流が増加する不均一な放電状態
に移行する現象が起きた.このような場合,陽極バイ
アスを短時間低下させることによって,再度,一様な
マイクロ波放電を立ち上げるのであるが,陽極バイア
スの上昇とともに,放電状態の変化が頻繁に起き,時
間的定常なイオンビームの発生が困難になった.より
高い圧力では低い電圧で放電状態の変化が起きた.
イオンエネルギー分布の依存性を比較している.図
10(a)における平均イオンエネルギーの増大はター
ゲット前面のプラズマ電位,すなわちシース電位の上
昇と比較できる.4.7×10−2Pa.以下の低圧力領域で
は,顕著なイオン電流の増大が観測できる.低圧力領
域におけるイオン電流の増大の原因としては,磁力線
を横切る直流放電(30V,1.2A)の重畳と静電的閉じ込
め効果によるプラズマ生成領域の電離効率の増大が考
えられる.
図11(a)はイオンエネルギーとターゲット近傍のプ
E.ECRイオン源の低周波密度揺動の安定化
ラズマ電位,図11(b)はイオン電流の陽極バイアスに
対する依存性を示している.作動気体の圧力はパラ
マイクロ波イオン源のプラズマ生成領域において低
周波の密度揺動(19−20kHz)が観測された.図12はイ
メータとして3.3−9.3×10−2Pa.の圧力範囲にわたっ
オン飽和電流の揺動波形と周波数スペクトルの代表的
て変化させた.シース電位は陽極バイアスに比例して
上昇し,これにともなって平均イオンエネルギーが増
な例を示している.縦軸の単位はD/A変換器に入力
された信号の相対的な大きさを示している.磁気多重
大している.ただし,ここではターゲット前面のプラ
極を加えない場合,プラズマ周辺部では100%変調に近
ズマ電位をシース電位Vsとしている.低圧力領域
い密度の揺動が観測された.図13(a)は半径方向の電
(p≦4.7×10−2Pa)の測定ではイオン電流の増大が観
子密度(時間平均)の空間分布,(b)の○は不安定な状
一73一
を加えるとイオソ飽和電流の揺動は最大40%増大した
Fig.13
〒
5
も
が,平均イオン電流と比較すると約1桁小さいレベル
la
に抑制されている.
5三一r一互才\
4 結論
l o
−BEAH REGION−r
ご
l
O
0
50
二
電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源において,
プラズマ電位の空間分布とイオンエネルギーの制御を
VESSEL
RAOIUS {mm}
試みた.プラズマ生成室内部に多重極磁界を内蔵した
b
陽極を設置することによって,マイクロ波の生成条件
UNSTABLE ,o、
Z・1・・m・。/°S
R 200
!・r°一゜℃・。4一ぴ。/
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旨
を変化させることなく加速電界の変化をターゲットの
前面に局在させ,同時に低周波揺動を安定化すること
ができた.さらに,イオソピームに陽極を接触させて
@も
と 0
直流バイアスを加えることによって,接地電位のター
ゲット表面に入射する定常イオンビームのエネルギー
も20 STABLIZEO
r
0三
Z=180mm
の増大が観測され,ECRイオン源のイオンエネルギー
Q−●一●一●_●一●一●・ゼ・●
L−一一一一.:=一.一:.一一
の制御特性を向上させることができた.
0
50
0
ECRプラズマは低圧力における高密度プラズマの
RAOIUS {mm)
iE
も
脚光を浴びた実験技術であるが,ヘリコン波励起プラ
ズマや誘導結合プラズマなど,次々と新しい手法が開
発されている.イオンエネルギーの制御特性の向上は
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2
1ヱ
発生などの要求に応えられるプラズマ源として最初に
牢:1: 晋
1
と
第45号
山梨大学工学部研究報告
平成6年12月
イオンエネルギー,イオン・中性粒子の密度比に敏感
u<巴・1=町r略ぺ。1
●輌
Z=180mm
0
なプロセスにおいて重要なパラメータである.陽極バ
イアスによって直流プラズマ電位を制御する方法は,
320mm
0 50
RABIUS {mm⊃
これらの新しいプラズマ発生方法とも容易に組み合わ
せることができ,プロセス用プラズマに直流電位の安
図13低周波密度揺動に対する陽極バイアスの影響
定性を与え,イオンエネルギー制御の自由度を加える
(a)磁気多重極による低周波密度揺動の安定化
(b)低周波密度揺動に対する陽極バイアスの影響
手段として有用である.
Ar,6.7×10−2Pa.,マイクロ波入射電力,300W
謝辞
態のECRプラズマ,●は磁気多重極によって安定化
された状態のイオン飽和電流の揺動の振幅(RMS)の
空間分布を示している.低周波揺動はプラズマの周辺
部に局在して観測されるのではなく,イオンビームを
引き出しているプラズマ中心部でも観測され,プラズ
マ周辺部分の密度勾配によって駆動されるドリフト不
安定性の典型的な分布を示していない.ECR領域の不
ECR実験に関して有益な議論をいただきました板
谷良平博士(京都大学名誉教授,新居浜工業高等専門
学校校長),雨宮宏博士(理化学研究所),作道訓之博
士(金沢工業大学),上出泰生博士(日立製作所)に感
謝いたします.ECRプラズマのパラメータ出しと測定
に協力してくれた榊原秀敏君,山下栄君,石亀浩康君
ならびに多木浩君に感謝します.
安定性による低周波の密度揺動は平衡状態でアパ
チャーから引き出されているイオン電流(図4)と比
参考文献
1)Rudolf Limpaecher and K. R. MacKenzie:Rev.
較できる.
陽極に内蔵された局所的な磁気多重極をイオン源の
プラズマの周囲に加えることによって,イオンビーム
電流の揺動の原因となる密度揺動を抑制し,イオン電
流の変動を5−20%以下に安定化することができた.図
13(c)は陽極バイアスを加えた場合の密度揺動の振幅
(RMS)の空間分布を示している.30Vの陽極バイアス
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一74一
ECRイオソ源のイオンエネルギー制御
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