言語体系とコンピュータ 2006年度2学期 第12回 本日の内容 • 照応詞が何を指しているか決める – 共通の処理手順 – 名詞の指示性の推定 – 定名詞の先行詞の推定 – 指示詞・ゼロ代名詞の先行詞の推定 2 定名詞の先行詞の推定(1) • 名詞がさしている先行詞の候補 – 対象としている名詞の前後の主題,焦点, その他の名詞などいろいろありうる ただし, – 文章中に既に出ている主題,焦点は話題の 中心を担う →先行詞になりやすい,と考えられる 3 定名詞の先行詞の推定(2) • 名詞がさしている先行詞の候補 – 主題は前の文の焦点をさすことが多い – 焦点は次の文などで主題として参照される ことが多い – 互いに密接に関係して,つながりを強めあう 話の中心 となる 1つの文の中のそれぞれの語が話の中心に なる度合い 主題 > 焦点 > その他の名詞 4 定名詞の先行詞の推定(3) • 名詞がさしている先行詞の候補 – 主題は前の文の焦点をさすことが多い – 焦点は次の文などで主題として参照される ことが多い – 互いに密接に関係して,つながりを強めあう 話の中心 となる センタリング(centering) 1つの文の中のそれぞれの語が話の中心に なる度合い 主題 > 焦点 > その他の名詞 5 定名詞の先行詞の推定(4) • 主題や焦点を見つける – 「が」や「は」などの助詞をマークとして探す – 「が」格の指示詞・代名詞・ゼロ代名詞は主 題になりやすい – 焦点へのなりやすさ:「が」格以外の指示詞・代名 詞・ゼロ代名詞,名詞+「が」「も」「だ」「なら」「こそ」 などの順番 – その他,「を」「に」,句読点などなど こうした順番にあわせて,手がかりにし, 先行する名詞に重みを与える 6 定名詞の先行詞の推定(5) 主 題 表層表現の例 重 み ガ格の指示詞・代名詞・ゼロ代名詞 21 (名詞)は/には 20 ガ格以外の指示詞・代名詞・ゼロ代名詞 16 焦 点 • (名詞)が/も/だ/なら/こそ 15 (名詞)を/に/,/. 14 (名詞)へ/で/から/より 13 7 定名詞の先行詞の推定(6) • 主題や焦点の特定は難しい • 特に焦点はより難しい – 出現の時点では主題になっていないが,次の文 で主題になる可能性の高いもの – 正確に求めるのは困難 • 簡単な特徴を使って,近似する,以上のこと はなかなか手立てがない 8 定名詞の先行詞の推定(7) • 簡単な特徴を使って,近似する,以上のこと はなかなか手立てがない • その他 – 対象となっている照応詞と,候補の名詞の距離 – 照応詞である名詞と,先行詞の候補につく修飾 語が一致すると,可能性が高い などの情報も加えて,複数の情報の積み重ねを 用いて,尤もらしいものを選ぶ 9 定名詞の先行詞の推定(8) その時おじいさんはあまり遠くない所にある空き地 に火が燃えているのに気がつきました.赤い顔をし て,鼻の青い,恐ろしい目付きの五六人の男が,火 の周りに立っているのを見ました. 名詞「火」の指示性の推定を行う. 10 火の指示性の推定 不定 名詞 性 定名 詞性 総称 名詞 性 11 定名詞の先行詞の推定(9) • 前の文の状態を調べる その時おじいさんはあまり遠くない所にある空き地 に火が燃えているのに気がつきました. 主題: 焦点: 12 定名詞の先行詞の推定(10) • 名詞「火」についての総合評価 前文での焦点 火と火の距離 指示性の推定 その他の調整 13 定名詞の先行詞の推定(11) • 精度について – 要因はさまざま – 何が効くのか – どういう組み合わせが有効か 総合的に精度よく推定を行うのは難しい – こうした方法では8割程度の正答率 • より深い意味解析や知識を用いた推論との統合が 必要 – ただし,文脈解析とこれらの知識の順序関係は不明で, 全体の整合性をとりながら,解析をすることは難しい 14 指示詞の先行詞の推定(1) • 名詞の先行詞を推定した時と同じような枠組 – 規則数や場合はたくさんに増えるので難易度大 • 指示代名詞の先行詞の候補 – 主題,焦点,その他の名詞 – 前文全体,既出の文章など – 用言など(事象をさす場合) – 文章中のものを指示していない(外界照応) 15 指示詞の先行詞の推定(2) 指示代名詞 コ系 名詞形態 これ(ら),ここ(ら) こちら,こっち 連体詞形態 この,こんな,こういう, こうした,こういった, このような 副詞形態 こう このように,こんなに, こんなふうに ソ系 ア系 ド系 16 指示詞の先行詞の推定(3) 1. 2. 3. 4. 先行詞の候補となる主題・焦点の重みや,それらから指示 詞までの距離 指示詞の種類による性質の違い 「~という○がある.この○は~」,名詞に係る指示詞の場 合,その名詞と同一の名詞が前方に見つかるかどうか 指示詞の属性と先行詞の候補の属性の類似度 (「ここ」(場所を表す),候補が「駅」とか) 先行詞の候補を指示詞の代わりに入れてみて,意味が通 じるかどうか.(「この実験」の「この」に候補,「化学反応」 +「の」を入れて通じるかどうか,意味的近さはシソーラス などを利用) などなど 5. 17 指示詞の先行詞の推定(4) ドル相場は,米新政権の経済政策に対する 期待の高まりなどから116円台に上昇した.こ のドル高は,米国と欧州各国との間の政策協 調をぎくしゃくさせている. 「このドル高」のさす内容は? 18 指示詞の先行詞の推定(5) ドル相場は,米新政権の経済政策に対する期待 の高まりなどから116円台に上昇した. このドル高は,米国と欧州各国との間の政策協調 をぎくしゃくさせている. 1. 「このドル高」の先行詞候補を計算 – 前の文の主題→ – 前の文の焦点→ – その他の名詞→ – 用言→ 前文全体,先行詞なし 19 指示詞の先行詞の推定(6) ドル相場は,米新政権の経済政策に対する期待 の高まりなどから116円台に上昇した. このドル高は,米国と欧州各国との間の政策協調 をぎくしゃくさせている. 2. 先行詞候補の重みを計算し,順序付け – 前の文の主題→ – 前の文の焦点→ – その他の名詞→ – 用言→ 前文全体,先行詞なし 20 指示詞の先行詞の推定(7) ドル相場は,米新政権の経済政策に対する期待 の高まりなどから116円台に上昇した. このドル高は,米国と欧州各国との間の政策協調 をぎくしゃくさせている. 3. 指示詞の場所に,各候補を置き換えてチェック – 前の文の主題→ – 前の文の焦点→ – その他の名詞→ – 用言→ 前文全体,先行詞なし 21 指示詞の先行詞の推定(8) • 人称代名詞の場合 先行詞は,人間か,擬人化されたもの 候補から,なるべく人間に近いものを探す – 先行詞の候補となる主題・焦点の重みや,それら から指示詞までの距離 – 指示詞の人称と先行詞の候補の人称の一致度 – 先行詞の候補の「人間」との意味的な距離 – 会話の場合,話者と調査の間の視点の移動など の情報 22 指示詞の先行詞の推定(9) • 人称代名詞の場合 (易) 太郎は次郎と一緒に花子の新居を訪ねた. 彼女は最近この町に引っ越してきた. – 「彼女」の先行詞の候補 → – 先行詞の尤もらしさをチェック 23 指示詞の先行詞の推定(10) • 人称代名詞の場合 (やや難) 太郎は次郎と一緒に花子の新居を訪ねた. 彼も最近この町に引っ越してきた. – 「彼」の先行詞の候補 → – 先行詞の尤もらしさをチェック 24 指示詞の先行詞の推定(11) • 人称代名詞の場合 (難) 太郎は次郎と一緒に三郎の家を訪ねた. 彼は最近この町に引っ越してきた. – 「彼」の先行詞の候補 → – 先行詞の尤もらしさをチェック 25 指示詞の先行詞の推定(12) • ゼロ代名詞 – どこが省略されているかを見つける おじいさんは地面に腰をおろしました. やがて眠ってしまいました. →省略(ゼロ代名詞)は? 用言に注目して格要素を元に考えるのが一般的 26 指示詞の先行詞の推定(13) • ゼロ代名詞 – 省略(ゼロ代名詞)要素の先行詞は? • 視点表現:「やる」「くれる」→前の文の主格が行為者 になりやすい • 知覚動詞:「思う」「欲しい」→一人称が多い • 様相表現:「だろう」「ようだ」「そうだ」→一人称になりに くい 27 指示詞の先行詞の推定(14) • ゼロ代名詞 用言の意味などを用いると解決しやすい例: S社は超小型PCを開発.高性能CPUを搭載し, 8月に出荷予定. 「ので」は「は」なら主格が一致,「が」なら一致せず 彼は風邪をひいたので,会社を休んだ. 彼が風邪をひいたので,会社を休んだ. 28 指示詞の先行詞の推定(15) • 文章の表層上のてがかりを駆使 • 動詞と格の関係 • 名詞と他の名詞との関係,似たような表現 • 聞き手の頭の中にある旧情報との関連 などなど →文章中の各語がどの語とどのような関係 で結びつくかをすべて考える必要あり 29
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