セラミックス - 学術情報センター

セラミックス
第10回 6月24日(水)
セラミックスの物性②
補足:
1. アルミナセラミックス・・・酸化物セラミックスの代表
特徴:セラミックスの中で最も使用量が多く、かつ古い歴史をもつ代表的材料
(・・・1930年,ドイツ・ジ-メンス社による自動車用スパ-クプラグ
の絶縁体が最初の実用材料)
主要機能特性[:図1,図2,表1,図3参照]
:①電気・電子的機能,②機械的機能,③熱的機能,
④生物・化学的機能, ⑤光学的機能
図1 アルミナセラミックスの特性と用途
図2 アルミナセラミックスの
高温強度
図3 アルミナセラミックスの
絶縁特性
表1 アルミナセラミックスの構造特性
高純度かつ
微粒が最良
応用例
:①電気・電子的機能・・・電気絶縁性(ex.スパ-クプラグ,IC基板,
ICパッケ-ジ)[:図4,図5参照]
②熱的・機械的機能・・・高温高強度特性,耐摩耗性(ex.切削用工具,
エンジン用材料)
③透光性機能・・・:単結晶Al2O3(サファイヤ・・・ex)人工宝石、腕時計用ガラス)
:高圧Naランプの発光管,高温用赤外線検知用窓材料
: 単結晶Al2ーxCrxO3(x=0.00067,ルビ-)
・・・固体レーザー発振素子(ルビー・レーザー)
④生物・化学的機能・・・生体用材料(耐食性,機械特性,生体適合性良好)
図4 スパ-クプラグの構造
図5 アルミナ製IC基板とICパッケージ
2. ジルコニアセラミックス
ZrO2:1100℃で結晶変態(低温:単斜晶→高温:正方晶)
↓
数%の容積変化の発生(亀裂発生に伴う自己破壊の誘発)
↓
∴安定化剤の添加(CaO,MgO,Y2O3を数%~数十%添加)
・・・室温で立方晶を呈し、高温での結晶変化がない
『安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia)』
・・・Zr4+とCa2+,Mg2+,Y3+の置換によって結晶格子中に酸
素イオンが不足し、酸素イオンの伝導体(=『固体電解質』)と
して応用→各種酸素センサ素子[:図6,図7,図8,図9参照]
↓
『部分安定化ジルコニア(PSZ:Partially Stabilized Zirconia)』
・・・正方晶ZrO2(高温安定相),あるいは正方晶ZrO2+立方
晶ZrO2(安定化ZrO2)の混在構造
:強靱,高強度セラミックス材料
[機構]:PSZセラミックスに外力が加えられた場合、正方晶
構造が単斜晶構造に相転移して、外力を相転移時の
駆動エネルギ-として吸収する
PSZ
∴『結晶転移による強化機構』
:高温・高強度
・・・TTZ(Transformation Toughened Zirconia)
構造材料
特徴:①高強度,高靭性[:図10参照]
②熱伝導率は小さく(断熱性良好)
熱膨張係数は金属に近い[:図11参照]
Y3+:結合手が3つ
O2-のホールを介した
イオン伝導
(・・・結晶中を移動)
Zr4+:結合手が4つ
O2-: 〃 が2つ
図6 Y2O3添加による
ZrO2の安定化(単斜晶
から立方晶型への相転移)
図7 安定化ZrO2固体電解質を用いた
図8 自動車用排気ガス用
酸素センサの酸素濃度と起電力の関係
酸素センサ素子の構造
E=55.7log10PR/PM
(E:起電力,PR:大気中の酸素濃度,PM:被測定ガスの酸素濃度
ex) 排気ガス中のCOまたはCO2濃度)
E(O2-のイオン伝導によって生じた起電力) = 55.7log10
PR(大気中のO2量)
PM(測定ガス中のO2量)
図9 ZrO2セラミックス用途
図10 部分安定化ZrO2(PSZ)の強度と破壊靭性(K1C)
図11 部分安定化ZrO2(PSZ)の熱伝導率と熱膨張係数
電気・電子・磁気的特性
(1)サ-ミスタ(thermistor)*)[:図4.7参照]特性
[定義]:温度により材料の電気抵抗値が変化する性質
(温度調整、測定用の温度センサー用素子)
①CTRサ-ミスタ(critical temperature controler):臨界温度サ-ミスタ
②NTCサ-ミスタ(negative temperature controler)
③PTCサ-ミスタ(positive temperature control thermistor)
*) thermistor
(:thermally sensitive resistor)
電気抵抗の特異な温度依存性を利用して、
材料の電気抵抗を測定することにより温度
を検出するセンサー素子
図4.7 3種類の代表的サ-ミスタ
の電気抵抗の温度依存性
①CTRサ-ミスタ:結晶の構造変化が生じる相転移点で抵抗が急激に低下する材料
V2O5:80℃以下(単斜晶系)では抵抗が負の温度係数を持った半導体
80℃以上(ルチル構造:正方晶系)では電気伝導度が2ケタ以上増加
(抵抗が急激に減少)し、金属的挙動[温度の増加につれ抵抗は増加する
・・・抵抗:正の温度係数]を示す
応用:温度スイッチなどの各種センサ材料
②NTCサ-ミスタ:抵抗が温度上昇に伴って単調(指数関数的)に減少する材料
(CTRサ-ミスタとは異なり、相転移には無関係)
不純物注入型遷移金属酸化物(Fe2O3-Ti系,NiO-Li系),
ZrO2-Y2O3系,SiCなど
応用:ダイオ-ド,ヒュ-ズ,各種温度スイッチ類など
③PTCサ-ミスタ:相転移点で抵抗が急激に上昇する材料(NTCサ-ミスタとは
異なって、抵抗は温度上昇に伴って増加し、かつCTRサ-ミスタ同様,
結晶の相変化に起因する)
・・・正方晶-立方晶変態に伴う抵抗変化
応用:電圧異常と回路の短絡保護材料・・・大電流が流れると、サ-ミスタの温度
が上昇し,抵抗値が増加し電流量を低下させる
サーミスタ(Thermistor, Thermally sensitive
resistor)の種類
(1)NTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient)
:温度が上昇すると抵抗値が連続的に減少する
(2)PTCサーミスタ(Positive Temperature Coefficient)
:温度が上昇すると特定の温度以上で抵抗値が
急激に増加するサーミスタ
(3)CTRサーミスタ(Critical Temperature Thermistor)
:温度が上昇すると抵抗値が急激に減少する
※NTCサーミスタ(温度制御用センター素子として多用)の
温度と抵抗値の関係式
1 1
B(  )
T T0
R  R0 exp
R:温度Tにおける抵抗値
T:温度(K)
R0:基準温度T0における抵抗値
T0:基準温度(K) (一般に25℃(=298K)を使用)
B:定数
[身近な用途] 電子体温計、冷蔵庫、冷凍庫、エアコンの制御用温度センサー
(その他:OA機器、カーエアコン、自動車エンジン用温度計(センサー)
(2)バリスタ(variable resister)特性
[定義]:電流-電圧特性が非直線的なセラミックス半導体材料
※V=IRに従わない
(電圧が増加すると抵抗が急減し、非オ-ム則を示す材料)
[:図4.8,図4.9参照]
・・・低電圧ではバリスタは温度依存性が小
さいが、ある臨界降伏電圧VBで突然
抵抗値が消失し電流が急激に増加する
図4.8 ZnOバリスタの
典型的なI-V特性
(電流はVBで急速に増加)
図4.9 ZnOとSiCのバリスタ特性
用途:①整流器で発生する異常電圧から、回路素子を保護
②落雷,高電圧の流入による電気回路の破壊防止用
(3)誘電体特性[:図4.10参照]
:絶縁体と同等な挙動をとるが、電界を印加した場合に定常電流は流れないが、
電荷を蓄積できる特性(コンデンサー特性)を有する材料[:図4.11,図4.12参照]
①常誘電体:誘電率の低い物質[:BaTiO3の高温相(立方晶型)]
②強誘電体:外部電界によって双極子モ-メントが整列することによって自発分極が
発生し、かつ自発分極の方向が変化できる物質
[:BaTiO3の低温相(正方晶型)]
③反強誘電体:自発的な双極子の配列が結晶内で平行になるよりも、反平行になる方が
安定な物質[:ジルコン酸鉛(PbZrO3)]
図4.10 電界を印加した時の誘電体の分極モデル
A
C    F 
t
 :誘電率
A:電極面積
t :電極間距離(誘電体の厚さ)
図4.11 BaTiO3の結晶構造
図4.12 BaTiO3の誘電率の
温度依存性(εa:a軸方向の誘電率,
εc:c軸方向の誘電率)
補足: BaTiO3,SrTiO3セラミックス
高誘電率材料,強誘電体材料の代表・・・小型大容量のセラミックスコンデンサの開発
[:図1,図2,表1参照]
図1 BaTiO3,SrTiO3セラミックス材料の応用分野
図2 BaTiO3セラミックスの比誘電率ε/ε0と誘電損失tanδ
の温度特性
・・・コンデンサの静電容量C : C=ε・A/t[F]
εs:比誘電率(εs=ε/ε0,ε:誘電率)
ε0:真空中の誘電率(8.854×10-12[F/m])
A:電極面積[m2],
t:セラミックス素子の厚さ[m]
比誘電率が大きいほど、同一形状での大容量のコンデンサとなる
(→同一容量のコンデンサを小型化できる)
表1 アルミナ,ジルコニア,チタニア(TiO2)とBaTiO3,
SrTiO3セラミックスの結晶構造
(4) PZTセラミックス
Pb(Zr,Ti)O3セラミックス[:図4.13参照]
・・・圧電性セラミックスの代表的材料
基本機能(・・・電気-機械変換素子)[:図4.14,表4.4参照]
:①圧力→電気
②電気→振動・変位
③電気→振動→電気
図4.13 Pb(Zr,Ti)O3セラミックス
[:PZT]の応用例
図4.14 圧電セラミックスの3種類の基本的機能
表4.4 PZTとBaTiO3セラミックスの圧電特性の比較
B aTiO 3
材 質
P ZT
P ZT
材 料 名
M T-107*
67
71
2000
M T-18*
55
65
1400
1900
-213
-104
-79
450
300
191
g31
-12.7
-8.4
-4.7
g33
25
24
11.4
ヤング率
Y 11E
6.3
8.1
9.3
[1010N /m 2]
機械的品質係数
キュリー点
密 度
Y 33E
電気機械結合係数
圧
電
定
数
k p[%]
k t[%]
比誘電率 ε33T/ε0
d31
-12
[10 m /V ]
d33
-3
[10 V m /N ]
Qm
[℃]
[g/cm 3]
主 な 特 徴
主 な 用 途
35.4
4.7
6.3
9.2
100
1000
430
354
300
120
7.7
7.6
5.7
高い圧電特性 高い圧電特性
低いQ m
高いQ m
ソフトな材料
ハードな材料
ガス点火器
超音波振動子 魚探用振動子
(5) 磁性体セラミックス
フェライト,酸化鉄セラミックス[:図4.15,表4.5参照]
軟磁性材料(ソフト)
(ex.磁気ヘッド材料)
半硬磁性材料
(セミハード)
(ex.磁気記録材料)
硬磁性材料(ハード)
(ex.永久磁石)
図4.15 磁性体セラミックス
(フェライト,酸化鉄セラミックス)の用途
表4.5 代表的な鉄酸化物系化合物
物 質
結晶系
系 性
色 相
α-Fe2O 3
γ-Fe2O 3
α-FeO O H
(α-Fe2O 3・
H 2O )
Fe3O 4 Fe(Fe2O4)
M nFe2O 4
C oFe2O 4
N iFe2O 4
ZnFe2O 4
六方晶
立方晶
直方晶
非磁性
強磁性
非磁性
赤褐色
茶 色
黄 色
X線密度
[g/cm 3]
5.29
5.07
4.28
立方晶
立方晶
立方晶
立方晶
立方晶
強磁性
強磁性
強磁性
強磁性
非磁性
黒 色
黒 色
黒 色
黒 色
赤褐色
5.24
5.00
5.29
5.38
5.33
六方晶
六方晶
強磁性
強磁性
黒 色
黒 色
5.28
5.15
特性良好
(永久磁石)
B aFe12O 19
SrFe12O 19
BaO・6Fe2O3
SrO・6Fe2O3
鉱物名
備 考
Hα-Hematite
eam atite
Mγ-Hematite
aghem ite
G oethite
赤鉄鉱,ベンガラ
ガンマ
針鉄鉱,黄鉄
M agnetite
(Jacobisite)
磁鉄鉱,黒鉄
磁鉄鉱,鉄黒
マンガンフェライト
コバルトフェライト
ニッケルフェライト
亜鉛フェライト,タン
(顔料)
バリウムフェライト
ストロンチウムフェライト
(Trevorite)
(Flanklinite)
フェライトの一般式:M・Fe2O4・・・M:2価の金属イオン
(M = Mn, Ni, Zn, Ba, Sr,・・・)
**酸化鉄、(磁性体酸化鉄)・・・Fe3O4:マグネタイト
「主な用途」: ①ビデオテープ用磁性体
磁気記録用磁性体粉末
②音声録音(カセットテープ)用磁性体
③モータ回転用マグネット(ex.PC用ハードディスクドライブモーター)
④スピーカー用マグネット
現在:CD,MO,MD(光磁気記録用メディア材料
(※ ビデオテープ、フロッピーディスクは全てγ-Fe2O3粉末を使用)