セラミックス - 学術情報センター

セラミックス
第10回 6月 22日(火)
セラミックスの物性②
担当教員 永山 勝久
電気・電子・磁気的特性
(1)サ-ミスタ(thermistor)*)[:図4.7参照]特性
[定義]:温度により材料の電気抵抗値が変化する性質
(温度調整、測定用の温度センサー用素子)
①CTRサ-ミスタ(critical temperature controler):臨界温度サ-ミスタ
②NTCサ-ミスタ(negative temperature controler)
③PTCサ-ミスタ(positive temperature control thermistor)
*) thermistor
(:thermally sensitive resistor)
電気抵抗の特異な温度依存性を利用して、
材料の電気抵抗を測定することにより温度
を検出するセンサー素子
図4.7 3種類の代表的サ-ミスタ
の電気抵抗の温度依存性
①CTRサ-ミスタ:結晶の構造変化が生じる相転移点で抵抗が急激に低下する材料
V2O5:80℃以下(単斜晶系)では抵抗が負の温度係数を持った半導体
80℃以上(ルチル構造:正方晶系)では電気伝導度が2ケタ以上増加
(抵抗が急激に減少)し、金属的挙動[温度の増加につれ抵抗は増加する
・・・抵抗:正の温度係数]を示す
応用:温度スイッチなどの各種センサ材料
②NTCサ-ミスタ:抵抗が温度上昇に伴って単調(指数関数的)に減少する材料
(CTRサ-ミスタとは異なり、相転移には無関係)
不純物注入型遷移金属酸化物(Fe2O3-Ti系,NiO-Li系),
ZrO2-Y2O3系,SiCなど
応用:ダイオ-ド,ヒュ-ズ,各種温度スイッチ類など
③PTCサ-ミスタ:相転移点で抵抗が急激に上昇する材料(CTR及びNTCサ-ミスタ
とは逆に、抵抗は温度上昇に伴って増加し、かつCTRサ-ミスタ同様,
結晶の相変化に起因する)
・・・正方晶-立方晶変態に伴う抵抗変化
(ex.代表材料:BaTiO3 ・・・セラミックスコンデンサ材料)
応用:電圧異常と回路の短絡保護材料・・・大電流が流れると、サ-ミスタの温度
が上昇し,抵抗値が増加し電流量を低下させる
サーミスタ(Thermistor, Thermally sensitive
resistor)の種類
(1)NTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient)
:温度が上昇すると抵抗値が連続的に減少する
(2)PTCサーミスタ(Positive Temperature Coefficient)
:温度が上昇すると特定の温度以上で抵抗値が
急激に増加するサーミスタ
(3)CTRサーミスタ(Critical Temperature Thermistor)
:温度が上昇すると抵抗値が急激に減少する
※NTCサーミスタ(温度制御用センター素子として多用)の
温度と抵抗値の関係式
1 1
B(  )
T T0
R  R0 exp
R:温度Tにおける抵抗値
T:温度(K)
R0:基準温度T0における抵抗値
T0:基準温度(K) (一般に25℃(=298K)を使用)
B:定数
[身近な用途] 電子体温計、冷蔵庫、冷凍庫、エアコンの制御用温度センサー
(その他:OA機器、カーエアコン、自動車エンジン用温度計(センサー)
(2)バリスタ(variable resister)特性
[定義]:電流-電圧特性が非直線的なセラミックス半導体材料
※V=IRに従わない
(電圧が増加すると抵抗が急減し、非オ-ム則を示す材料)
[:図4.8,図4.9参照]
・・・低電圧ではバリスタは温度依存性が小
さいが、ある臨界降伏電圧VBで突然
抵抗値が消失し電流が急激に増加する
図4.8 ZnOバリスタの
典型的なI-V特性
(電流はVBで急速に増加)
図4.9 ZnOとSiCのバリスタ特性
用途:①整流器で発生する異常電圧から、回路素子を保護
②落雷,高電圧の流入による電気回路の破壊防止用
(3)誘電体特性[:図4.10参照]
:絶縁体と同等な挙動をとるが、電界を印加した場合に定常電流は流れないが、
電荷を蓄積できる特性(コンデンサー特性)を有する材料[:図4.11,図4.12参照]
①常誘電体:誘電率の低い物質[:BaTiO3の高温相(立方晶型)]
②強誘電体:外部電界によって双極子モ-メントが整列することによって自発分極が
発生し、かつ自発分極の方向が変化できる物質
[:BaTiO3の低温相(正方晶型)]
③反強誘電体:自発的な双極子の配列が結晶内で平行になるよりも、反平行になる方が
安定な物質[:ジルコン酸鉛(PbZrO3)]
図4.10 電界を印加した時の誘電体の分極モデル
A
C    F 
t
 :誘電率
A:電極面積
t :電極間距離(誘電体の厚さ)
図4.11 BaTiO3の結晶構造
図4.12 BaTiO3の誘電率の
温度依存性(εa:a軸方向の誘電率,
εc:c軸方向の誘電率)
補足: BaTiO3,SrTiO3セラミックス
高誘電率材料,強誘電体材料の代表・・・小型大容量のセラミックスコンデンサの開発
[:図1,図2,表1参照]
図1 BaTiO3,SrTiO3セラミックス材料の応用分野
図2 BaTiO3セラミックスの比誘電率ε/ε0と誘電損失tanδ
の温度特性
・・・コンデンサの静電容量C : C=ε・A/t[F]
εs:比誘電率(εs=ε/ε0,ε:誘電率)
ε0:真空中の誘電率(8.854×10-12[F/m])
A:電極面積[m2],
t:セラミックス素子の厚さ[m]
比誘電率が大きいほど、同一形状での大容量のコンデンサとなる
(→同一容量のコンデンサを小型化できる)
表1 アルミナ,ジルコニア,チタニア(TiO2)とBaTiO3,
SrTiO3セラミックスの結晶構造
(4) PZTセラミックス
Pb(Zr,Ti)O3セラミックス[:図4.13参照]
・・・圧電性セラミックスの代表的材料
基本機能(・・・電気-機械変換素子)[:図4.14,表4.4参照]
:①圧力→電気
②電気→振動・変位
③電気→振動→電気
図4.13 Pb(Zr,Ti)O3セラミックス
[:PZT]の応用例
図4.14 圧電セラミックスの3種類の基本的機能
表4.4 PZTとBaTiO3セラミックスの圧電特性の比較
B aTiO 3
材 質
P ZT
P ZT
材 料 名
M T-107*
67
71
2000
M T-18*
55
65
1400
1900
-213
-104
-79
450
300
191
g31
-12.7
-8.4
-4.7
g33
25
24
11.4
ヤング率
Y 11E
6.3
8.1
9.3
[1010N /m 2]
機械的品質係数
キュリー点
密 度
Y 33E
電気機械結合係数
圧
電
定
数
k p[%]
k t[%]
比誘電率 ε33T/ε0
d31
-12
[10 m /V ]
d33
-3
[10 V m /N ]
Qm
[℃]
[g/cm 3]
主 な 特 徴
主 な 用 途
35.4
4.7
6.3
9.2
100
1000
430
354
300
120
7.7
7.6
5.7
高い圧電特性 高い圧電特性
低いQ m
高いQ m
ソフトな材料
ハードな材料
ガス点火器
超音波振動子 魚探用振動子
(5) 磁性体セラミックス
フェライト,酸化鉄セラミックス[:図4.15,表4.5参照]
軟磁性材料(ソフト)
(ex.磁気ヘッド材料)
半硬磁性材料
(セミハード)
(ex.磁気記録材料)
硬磁性材料(ハード)
(ex.永久磁石)
図4.15 磁性体セラミックス
(フェライト,酸化鉄セラミックス)の用途
表4.5 代表的な鉄酸化物系化合物
物 質
結晶系
系 性
色 相
α-Fe2O 3
γ-Fe2O 3
α-FeO O H
(α-Fe2O 3・
H 2O )
Fe3O 4 Fe(Fe2O4)
M nFe2O 4
C oFe2O 4
N iFe2O 4
ZnFe2O 4
六方晶
立方晶
直方晶
非磁性
強磁性
非磁性
赤褐色
茶 色
黄 色
X線密度
[g/cm 3]
5.29
5.07
4.28
立方晶
立方晶
立方晶
立方晶
立方晶
強磁性
強磁性
強磁性
強磁性
非磁性
黒 色
黒 色
黒 色
黒 色
赤褐色
5.24
5.00
5.29
5.38
5.33
六方晶
六方晶
強磁性
強磁性
黒 色
黒 色
5.28
5.15
特性良好
(永久磁石)
B aFe12O 19
SrFe12O 19
BaO・6Fe2O3
SrO・6Fe2O3
鉱物名
備 考
Hα-Hematite
eam atite
Mγ-Hematite
aghem ite
G oethite
赤鉄鉱,ベンガラ
ガンマ
針鉄鉱,黄鉄
M agnetite
(Jacobisite)
磁鉄鉱,黒鉄
磁鉄鉱,鉄黒
マンガンフェライト
コバルトフェライト
ニッケルフェライト
亜鉛フェライト,タン
(顔料)
バリウムフェライト
ストロンチウムフェライト
(Trevorite)
(Flanklinite)
フェライトの一般式:M・Fe2O4・・・M:2価の金属イオン
(M = Mn, Ni, Zn, Ba, Sr,・・・)
**酸化鉄、(磁性体酸化鉄)・・・Fe3O4:マグネタイト
「主な用途」: ①ビデオテープ用磁性体
磁気記録用磁性体粉末
②音声録音(カセットテープ)用磁性体
③モータ回転用マグネット(ex.PC用ハードディスクドライブモーター)
④スピーカー用マグネット
現在:CD,MO,MD(光磁気記録用メディア材料
(※ ビデオテープ、フロッピーディスクは全てγ-Fe2O3粉末を使用)
『磁性材料(強磁性体材料)の実用的分類』[: 図4.16 参照]
①軟磁性材料(ソフト磁性材料)
・・・保磁力Hcが小さく、磁化率χrが大きい(:M/Hが大きい)材料
ex.磁気ヘッド,トランス用磁芯材料
②硬磁性材料(ハ-ド磁性材料)
・・・保磁力Hcが大きく、かつ飽和磁化MS,残留磁化Mrが共に大きい材料
ex.永久磁石材料
③半硬磁性材料(セミ・ハ-ド磁性材料)
・・・①と②の中間的性質を示す磁性材料
ex.磁気記録用材料:磁気テ-プ材料,磁気ディスク材料,垂直磁気
記録材料,光磁気記録材料
B:磁束密度[単位:Gauss]
(強磁性体中の磁化の大きさMと
外部磁場Hの両者を合せた物理量)
図4.16 磁性材料とB-Hヒステリシス曲線
①磁芯材料,②永久磁石材料,③磁気記録材料
『強磁性体の特徴』
:外部磁場に対し、特有の磁化挙動を呈する
↓
“磁化曲線=ヒステリシス曲線”[:図4.17参照]
・・・強磁性体の単位体積当りの磁化の大きさMの外部磁場Hによる変化を示す
磁化M:原子の孤立電子(不対電子)によって発生する磁気モ-メントの総和
(結晶を構成する不対電子を有する全原子の和)
磁場H:外部より印加する磁場
◎強磁性体の磁化過程
①:最初の状態(H=0,M=0)
②:初磁化過程
(χr:磁化率,MS:飽和磁化)
③:外部磁場を取りさった状態
(Mr:残留磁化(H=0))
④:-HCの磁場でで強磁性体の磁化
は完全にゼロになる(Hc:保磁
力)
⑤:②とは反対方向に飽和磁化した状
態
⑥:③とは反対方向に生じた残留磁化
⑦:④とは反対方向のHc
⑧:②と同一方向への飽和磁化状態
図4.17 ヒステリシス曲線(M-H曲線) [・・・ヒステリシス曲線は閉じる]
注)χr:強磁性体に磁場を印加した時の最初の傾き[・・・磁化率χr=M/H]
MS:強磁性体内の全ての磁気モ-メントが印加磁場(外部磁場)方向に配列し
た時に生じる磁化[・・・飽和磁化]
Mr:飽和磁化状態にある強磁性体に逆方向の磁場を印加し、H=0で強磁性中
に残存する磁化[・・・残留磁化]
Hc:強磁性体中に残存したMrを消すために必要な過剰な磁場
補足:
【磁性の基礎】
(1)磁性の分類[:表1参照]
:原子固有の不対電子*)のスピン(電子の自転)による磁気モ-メントの配列の
仕方で、磁性は分類される
*) 不対電子を有する原子
・・・Fe族3d遷移金属[:26Fe,27Co,28Ni]+4f 希土類金属64Gd
↓
『磁性現象を示す原子』
①常磁性 :不対電子による磁気モ-メントがバラバラの方向をとるもの
②反強磁性 :2つの磁気モ-メントが、完全に正・負を打消すように配列
③フェリ磁性:反強磁性と同じ配列をするが、2つの磁気モ-メント間に大きさの
差があり、ある方向に強い磁性を示す
④強磁性 :全ての磁気モ-メントが外部磁場によって完全に1つの方向に揃い、
強い磁性を示す(→“実用的な磁性”)
表1
磁性の分類
常磁性
強磁性
常磁性
反強磁性
フェリ磁性
負(磁場よりは 磁場にかられる 常磁性の一種 常磁性の一種 強く磁場にひ
特
強磁性に似る きつけられる
じき出される) 温度係数負
性
温度係数負
温度変化なし
物質のもつ電子不対電子のもつ 磁気モーメント 磁気モーメント 物質の中に磁
の軌道運動の 磁気モーメント が相互に打ち消 が反平行に配向気モーメントを
外部磁場による の磁場による配 し合う形で配向 しているがその そろえた磁区が
起
歳差運動
向および自由電 している
モーメントに差 あり、それが磁
因
子の磁気モーメ
があり強い常磁 場で一方向に
ントの配向
性を示す
配向する
(Pauli 常磁性)
分類
モ
デ
ル
反磁性