建築分野における温暖化防止対策と外断熱工法

建築材料からのホルムアルデヒド放散と
その抑制技術
独立行政法人建築研究所
材料研究グループ
本橋健司
内容
建築材料から観た、建築基準法におけ
るシックハウス対策
II. 塗料及び壁紙からのホルムアルデヒド
放散速度のデシケーター法による推定
III. 化学吸着剤を配合した内装仕上塗材の
ホルムアルデヒド低減効果の大形チャン
バー法による評価
I.
建築材料から観た
建築基準法における
シックハウス対策
政令で定める化学物質
• クロルピリホス(防蟻剤)
• ホルムアルデヒド
室内濃度指針値
化学物質
濃度指針値 気中濃度
(μg/m3) (25℃換算)
ホルムアルデヒド 100
クロルピリホス
0.08ppm
1
0.07ppb
0.1(小児)
0.007ppb
設定日
H9.6.13
H12.1215
「ホルムアルデヒド発散建築材料」
JAS
JIS
規格なし
合板
MDF
その他の木質建材
木質系フローリング
パーティクルボード
ユリア樹脂板
構造用パネル
接着剤(現場施工・工 緩衝材
場での二次加工)
集成材
保温材
単板積層材(LVL)
断熱材
壁紙
塗料(現場施工)
仕上塗材(現場施工)
ホルムアルデヒド発散建築材料の等級区分
等級区分
規制対象外
第3種ホルムア 第2種ホルム 第1種ホルム
ルデヒド放散建 アルデヒド放 アルデヒド放
築材料
散建築材料
散建築材料
表示方法
F☆☆☆☆
F☆☆☆
F☆☆
-
放散速度
(μg/m2・h)
5以下
5~20
20~120
120以上
デシケーター法
による放散量*
(mg/L)
0.12以下
0.12~
0.35
0.35~
1.8
1.8以上
使用制限
制限なし
面積制限
面積制限
使用禁止
*デシケーター法が適用できるホルムアルデヒド発散建築材料
は木質系材料、塗料、壁紙等に限定される。(表は塗料の場合)
ホルムアルデヒド発散建築材料に
該当する塗料(現場施工)
• アルミニウムペイント、油性調合ペイント、
合成樹脂調合ペイント、フタル酸樹脂ワニ
ス、フタル酸樹脂エナメル、油性系下地塗
料、一般用さび止めペイント、多彩模様塗
料、家庭用屋内木床塗料、家庭用木部金
属部塗料、建物用床塗料、鉛・クロムフ
リーさび止めペイント
ホルムアルデヒド発散建築材料ではないが
JISに放散量の区分がある塗料
• セラックニス類、ニトロセルロースラッカー、ラッカー系
シーラー、ラッカー系下地塗料、塩化ビニル樹脂ワニ
ス、塩化ビニル樹脂エナメル、塩化ビニル樹脂プライ
マー、アクリル樹脂ワニス、アクリル樹脂エナメル、建
築用ポリウレタン樹脂塗料、つや有合成樹脂エマル
ションペイント、合成樹脂エマルション及びシーラー、
合成樹脂エマルション模様塗料、合成樹脂エマルショ
ンパテ、アクリル樹脂系非水分散形塗料、家庭用屋
内壁塗料
18章塗装工事・一般事項
• 18.1.3(a)この章で規定する塗料を屋内で使用
する場合のホルムアルデヒド放散量は、JIS等
の材料規格において放散量が規定されている
場合、特記がなければ、F☆☆☆☆とする。
• 上記考え方は、「公共建築工事標準仕様書
(建築工事編)」に共通する考え方。塗料だけ
でなく、木質材料、接着剤、壁紙、床材等につ
いても同様である。
塗料及び壁紙からの
ホルムアルデヒド放散速度の
デシケーター法による推定
研究目的
• ホルムアルデヒド放散速度(μg/m2・h)によ
り、ホルムアルデヒド発散建築材料の区分
(第1種、第2種、第3種、規制対象外)を行う。
• 小形チャンバー法(JIS A 1901:2003)
• 木質系材料や壁紙のJASやJISではデシケー
ター法(JIS A 1460:2001)によりホルムアルデ
ヒド放散区分が設定されていた。
• デシケーター法によりホルムアルデヒド放散
速度を推定できないか?
小形チャンバー法
温湿度計
排気
捕集管
OUT
混合器
捕集用ポンプ
放散試験
チャンバー
排気
恒温槽
IN
湿度制御システム
空気清浄装置
デシケータ法
塗料
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
P8
フタル酸樹脂エナメル
合成樹脂調合ペイントA
合成樹脂調合ペイントB
合成樹脂エマルションペイントA
合成樹脂エマルションペイントB
合成樹脂エマルションペイントC
にホルムアルデヒドを添加したもの
塗料試験結果
試験体記号
小形チャンバー法による放散速度
(μg/m2・h)
1日後
3日後
7日後
P1
22
14
10
P2
28
21
16
P3
18
11
7
P4
-*
-
-
P5
2
-
-
P6
67
58
55
P7
24
15
15
P8
207
148
97
-は検出限界未満を示す。(1.0μg/m2・h未満)
塗料試験結果
試験体記号
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
P8
デシケーター法による測定値(mg/L)
1日後
0.43
3日後
0.26
7日後
0.19
0.40
0.38
-
0.33
0.32
-
0.32
0.16
-
1.74
0.99
1.41
0.93
1.02
0.66
4.39
2.51
2.48
-は検出限界未満を示す。(0.1 mg/L未満)
塗料
チャンバー法とデシケータ法の相関
デシケータ値(mg/L)
5.00
y = 0.02x + 0.0852
R 2 = 0.9408
4.00
3.00
2.00
1.00
0.00
0.0
100.0
200.0
放散速度(μg/m2・h)
300.0
壁紙
A群
B群
W1
W2
W3
W4
W5
W6
W7
W8
W9
W10
W11
W12
W13
紙壁紙A
オレフィン壁紙A
織物壁紙A
化学繊維壁紙A
無機質壁紙A
ビニル壁紙A
ビニル壁紙B
ビニル壁紙C
紙壁紙B
紙壁紙C
オレフィン壁紙B
オレフィン壁紙C
織物壁紙B
壁装材試験結果
試験体記
号
小形チャンバー法による測定値
(μg/m2・h)
デシケーター法による測定値(mg/L)
1日後
3日後
7日後
1日後
3日後
7日後
W1
-
-
-
-
-
-
W2
1
1
-
(0.03)**
(0.015)
-
W3
2
1
-
(0.001)
(0.001)
-
W4
3
1
1
(0.037)
(0.011)
(0.009)
W5
-
-
-
-
-
-
W6
1
1
-
(0.001)
(0.001)
-
W7
1
1
-
(0.017)
(0.001)
-
W8
-
-
-
-
-
-
W9
8
5
4
0.30
0.25
0.12
W10
16
10
10
0.46
0.31
0.12
W11
60
30
36
0.69
0.62
0.56
W12
6
9
9
0.28
0.40
0.37
W13
45
42
37
0.57
0.50
0.41
壁装材
チャンバー法とデシケータ法の相関
デシケータ値(mg/L)
1.00
0.80
y = 0.013x + 0.0421
R 2 = 0.7989
0.60
0.40
0.20
0.00
0.0
20.0
40.0
60.0
放散速度(μg/㎡・h)
80.0
結果のまとめ
• 壁紙、塗料とも汎用品を試験体としたものは
放散速度、デシケータ値とも低い値を示した。
• 壁紙、塗料とも 小形チャンバー法の放散速
度とデシケータ値に 高い相関性が認められ
た。
• 結果はJIS及び建築基準法に反映され、壁
紙、塗料ともデシケーター法によるホルムア
ルデヒド放散等級の区分が可能となった。
化学吸着剤を配合した内装仕上塗材
のホルムアルデヒド低減効果の
大形チャンバー法による評価
研究目的
• シックハウス問題に対応してホルムアルデ
ヒドの化学吸着剤を配合した内装仕上塗
材が出現している。
• (財)日本建築センターにおける新建築技
術認定制度による評価、JIS原案検討中
• このような内装仕上塗材を利用した場合の
ホルムアルデヒド濃度の低減効果をラージ
チャンバーを用いて、実験的に確認した。
試験体
• ホルムアルデヒド発生源:第1種ホルムアルデ
ヒド発散建築材料に相当する合板(FC2相当:
0.9m×0.9m)
• 内壁モデル試験体:亜鉛めっき鋼製架台に
せっこうボード(910mm×1820mm)をねじ止め
し、その上に内装仕上塗材を2回塗り(塗付量
合計1.0Kg/m2)
• 内装仕上塗材:内装薄塗材W(じゅらく)のJIS
適合品及び同製品に化学吸着剤を添加したも
の
ホルムアルデヒド化学吸着剤
• アミノ基を有する化合物、ヒドラジン系化合物、
ヒドラジド系化合物など
• アミノ基(R-NH2 + H2CO→R-NHCH2OH:メチ
ロール化反応)
• ヒドラジン系化合物(R-NH-NH2+H2CO→R-NHN=CH2 + H2O 脱水メチレン化反応)
• ヒドラジド系化合物(R-CO-NH-NH2+H2CO→RCO-NH-N=CH2 + H2O 脱水メチレン化反応)
• 対象とした化学吸着剤1gで0.3g~0.4gのホルム
アルデヒドを吸着する。(化学吸着剤塗付量
6g/m2)
内壁モデル試験体
亜鉛メッキ
鋼製架台
石こうボード
薄塗材W
2回塗り
1820
アルミテ-プ
910
大形チャンバー試験の条件
試験シリーズ
チャン
バー
温湿度
負荷率
サンプリング量
分析
捕集管
分析機器
3
54m3(5m×4m×2.7m)
換気回数
種類
2
28℃、50%RH
容積
内壁モ キャッチヤー剤の
デル試 有無
験体
負荷率
合板
1
0.5回/h
有り
無し
有り
0.24m2/m3
0.48m2/m3
F☆(FC2相当)
0.060m2/m3
0.091m2/m3
15L
Sep-Pak DNPH-Silica
HPLC
大形チャンバー
清浄空気
採取
採取
試験体搬入後のチャンバー内部
シリーズ1の結果(化学吸着剤有り)
ホルムアルデヒド濃度 (μg/m 3)
1000
900
合板(発生源)設置
800
試験体設置
700
600
試験体撤去
500
400
300
200
100
0
0日
2日
4日
6日
8日
10日
経過時間 (日)
12日
14日
16日
シリーズ2の結果(化学吸着剤無し)
ホルムアルデヒド濃度(μg/m 3)
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
合板(発生源)設置
試験体設置
試験体撤去
0日
2日
4日
6日
8日
10日
経過時間 (日)
12日
14日
16日
シリーズ1及び2における試験体配置
吸気口
2.7m
内壁モデル試
験体
合板
4m
排気口
シリーズ3における試験体配置
支柱
5m
合板
内壁モデル
試験体
4m
シリーズ3の結果(化学吸着剤有り)
ホルムアルデヒド濃度 (
μg
/m 3)
600
合板(発生源)設置
500
試験体設置
試験体撤去
400
300
200
100
0
0日
7日
14日
21日
経過時間 (日.)
28日
結果のまとめ
• 化学吸着剤を配合した内装薄塗材W(じゅらく)
によるホルムアルデヒド低減効果を大形チャン
バー法により確認した。
• 実験条件下では、大形チャンバーの壁面の
53%に内装薄塗材W(じゅらく)を使用すること
により、ホルムアルデヒド濃度を120~150μg/m
3から50~110μg/m3に低減できた。
• 化学吸着剤の効力持続性、妨害物質の影響評
価、酸・アルカリ・光等による影響の有無等を検
討する必要がある。
まとめ
• 「建築部材に含まれる室内空気汚染物質の
放散メカニズム(平成14~16年度)」では建築
材料・部材から化学物質が放散されるメカニ
ズムの研究及び抑制技術の評価等を実施し
てきた。
• 研究成果は学術的成果として公表されるとと
もに、建築基準法におけるシックハウス対策
や関連するJIS原案の基礎資料として利用さ
れている。
おわり。
ご静聴ありがとうございました。