2段階デザインにおける奏効確率の 一様最小分散不偏推定量の プログラム作成 The program for Uniformly Minimum Variance Unbiased Estimator of response probability in two-stage design 東京理科大学工学部 豊泉 滋之* 浜田 知久馬 ― SAS Forum ユーザー会 学術総会 2005.7.29 ― 1 本発表の内容 抗がん剤の第Ⅱ相臨床試験と2段階デザイン 2段階デザインにおける奏効確率の推定量の紹介 既存の推定量(最尤推定量) 一様最小分散不偏推定量 奏効確率の一様最小分散不偏推定量とその信頼区 間を求めるSAS/IMLプログラムの紹介 2 ≪はじめに≫ 抗がん剤の臨床試験 第Ⅰ相臨床試験 第Ⅱ相臨床試験 新薬の人への初投与 主目的は安全性の評価 腫瘍縮小効果を見極め,さらに開発を 進めるか決定するスクリーニング試験 第Ⅲ相臨床試験 既存の標準治療法と生存時間の比較 3 ≪2段階デザイン≫ 第Ⅱ相試験のデザイン 抗がん剤の開発では効果のある薬剤は少ない 効果の有無に関わらず毒性が強い 薬剤に効果がないと確信した段階で早期に試験 を中止しなければならない 試験デザイン: 対照群を設定しない2段階デザイン 4 ≪2段階デザイン≫ 通常のデザインと2段階デザイン 通常のデザイン 各被験者の 治療期間 時 間 最終評価 登録開始 2段階デザイン 時 間 登録開始 第1段階 n1 中間解析 登録再開 第2段階 早期中止 n2 最終評価 5 ≪2段階デザイン≫ 主要評価項目 主要評価項目: 腫瘍縮小 奏効(response) 患者の腫瘍が既定の大きさまで縮小し数週間持続すること 奏効確率(response probability) 患者が奏効する確率母数(p) 奏効確率の推定量が腫瘍縮小の指標となる 奏効例数(X1, X2) 第1段階の奏効例数 X1 ~ Bin(n1, p)を仮定 第2段階の奏効例数 X2 ~ Bin(n2, p)を仮定 累積奏効例数 第1段階で早期中止 S = X1 第2段階で試験終了 S = X1 + X2 6 ≪2段階デザイン≫ 第Ⅱ相試験の統計的な決定 第Ⅱ相試験が基づく仮説検定 (p:奏効確率) 帰無仮説 H0 : p = p0 (p0 < p1) 対立仮説 H1 : p = p1 デザインを決定する4つのパラメータ 閾値奏効率(p0) この値以下であれば開発する意味がない奏効確率 期待奏効率(p1) この値以上あれば十分開発する意味がある奏効確率 第Ⅰ種の過誤の確率(α) p = p0の元で誤って有効と判定する確率(通常5%) 第Ⅱ種の過誤の確率(β) p = p1の元で効果を見逃す確率(通常10-20%) 7 ≪2段階デザイン≫ 2段階デザインの例 p0=0.2, p1=0.4, α=0.05, β=0.2 Simon の期待値最小化規準を満たすデザイン 第1段階 症例数:n1=13 中間解析の 境界例数:a1=3 NO 早期無効中止 中間解析 X1>3 YES 第2段階 症例数:n2=30 最終解析の 境界例数:a2=12 NO 最終解析 X1+X2>12 無効中止 YES 有効として次相へ 8 ≪奏効確率の推定量≫ 第Ⅱ相試験の流れ 1. 試験のデザイン 4つのパラメータの決定 2段階デザインの決定 2. 試験実施 結果:累積奏効例数 判定:有効 or 無効 3. 主要評価項目の評価 奏効確率の推定 9 ≪奏効確率の推定量≫ 奏効確率の推定 推定の目的 腫瘍縮小効果の評価と報告 次相の試験デザインの参考値 他の治療法,特に標準治療法との効果の比較 奏効確率の推定量 最尤推定量(Maximum Likelihood Estimator, MLE) 一様最小分散不偏推定量 (Uniformly Minimum Variance Unbiased Estimator, UMVUE) 10 ≪奏効確率の推定量≫ 最尤推定量(MLE) pˆ 累積症例数 各段階の結果を併合した形の推定量 実用上の特徴 累積奏効例数 直感的で自然な統計量であるため理解しやすい 最も一般的に用いられている 統計学的特徴 最尤推定量(漸近有効) 2段階デザインではバイアスが生じる 無効による早期中止デザインにおいて過小評価 11 ≪奏効確率の推定量≫ 最尤推定量のバイアス SET=B CRITERIA=Optimal DESIGN=2 BIAS 0.00 p0=0.2, p1=0.4, α=0.05, β=0.2, Simon の期待値最小化規準 Bias E p ( pˆ ) p -0.01 -0.02 -0.03 -0.04 0.1 0.2 0.3 真の奏効確率 P 0.4 0.5 12 ≪奏効確率の推定量≫ 一様最小分散不偏推定量(UMVUE) s n1 min(s , n1 ) n1 1 n2 ~ x1 1 s x1 p (m, s ) x1 max{( a1 1),( s n2 )} min(s , n1 ) n1 n2 x1 max{(a1 1),( s n2 )} x1 s x1 m 1 m2 Jung and Kim(2004)[5] により明示的に示された推定量 m: 試験終了段階 s : 累積奏効例数 第1段階で早期終了(m=1)の場合は MLE と等しい 13 ≪奏効確率の推定量≫ 一様最小分散不偏推定量(UMVUE)の特徴 統計学的特徴 2段階デザインに基づいた推定量 不偏推定量で真の奏効確率(p)の値によらず 分散が最小 実用上の特徴 累積奏効例数(s)に対して単調増加 Jung and Kim[5] 以前の算出方法は複雑であり 実際には用いられてない 14 ≪奏効確率の推定量≫ 正確な信頼区間の構成法 最尤推定量の信頼区間 2項分布に関するF分布による正確な信頼区間[3] ( pˆ L , pˆ U ) 2 ˆpL 1 2( N S 1), 2 2S 1 2 F / 2 ( 1 , 2 ) 1F / 2 (1 , 2 ) pˆ U 1 2( S 1), 2 2( N S ) 2 1F / 2 (1 , 2 ) 一様最小分散不偏推定量の信頼区間 Pr ( ~ p(M , S ) ~ p (m, s) | ~ p ) 2 L pL , ~ pU ) を満たす ( ~ Pr ( ~ p(M , S ) ~ p (m, s) | ~ pU ) 2 ~ p (m, s) : UMVUE ( M , S ) 全ての(m, s) 15 ≪SASプログラム≫ 作成したSAS/IMLプログラム 入力:2段階デザインのパラメータ 出力:最尤推定量と信頼区間 一様最小分散不偏推定量と信頼区間 (入力の例) 1.2段階デザインの入力 2.(m, s)の列挙 3.奏効確率の推定量の出力 第1段階 第2段階 症例数 n1=13 n2=30 境界例数 a1=3 a2=12 16 ≪SASプログラム≫ (m, s)の組合せ (例)n1=13, n2=30, a1=3, a2=12 の2段階デザイン 判定 無効 有効 早期無効 第2段階で無効 試験終了 段階(m) 1 2 2 累積症例数 (n) 13 43 43 累積奏効 例数(s) 0 1 2 3 4 5 6 ... 10 11 12 13 14 15 ... 43 (m, s)は44通りの組合せがある 組み合わせごとに奏効確率の推定量が求められる 17 ≪実行例≫ デモンストレーション 用いる2段階デザイン p0 = 0.2, p1= 0.4, α = 0.05, β = 0.20 Simonの期待値最小化規準を満たすデザイン n1 = 13, n2 = 30, a1 = 3, a2 = 12 18 ≪実行例≫ 最尤推定量と一様最小分散不偏推定量(95%信頼区間) ˆ 推定値 P p 1.0 早期無効 無効 有効 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 最尤推定量 一様最小分散不偏推定量 0.1 0.0 01234567891111111111222222222233333333334444 0123456789012345678901234567890123 累積奏効例数 S 19 ≪考察≫ 考察 第1段階をクリアし第2段階で無効 最尤推定量は一様最小分散不偏推定量と比べて無視でき ない負の偏りを持ち,信頼区間が狭くなる この偏りは効果の判定境界付近においても見られる 結果が微妙なときは,一般的に用いられている最尤推定 量だけでなく一様最小分散不偏推定量も同時に求めて比 較する必要がある 20 ≪まとめ≫ まとめ 抗がん剤の第Ⅱ相臨床試験の2段階デザインに基づく 奏効確率の推定について説明した 奏効確率の一様最小分散不偏推定量とその信頼区間を 求めるSAS/IMLプログラムを作成しその結果を示した 保守性を改善したMID-P型を含めた信頼区間の性能に ついては統計関連学会連合大会で報告予定 浜田研究室ホームページ http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/hamada/ 21 参考文献 [1] Chang MN. Therneau TM. Wieand HS. and Cha SS, Designs for Group Sequential Phase II Clinical Trials, Biometrics, 1987, 43, 865-874 [2] Chang MN. Wieand HS. and Chang VT., The bias of the sample proportion following a group sequential phase II clinical trial, Statistics In Medicine, 1989, 8, 563-570 [3] Clopper CJ and Pearson ES, The use of confidence or fiducial limits illustrated in the case of the binomial, Biometrika, 1934, 26, 404-413 [4] Fleming TR., One-Sample Multiple Testing Procedure for Phase II Clinical Trials, Biometrics, 1982, 38, 143-151 [5] Jung SH. and Kim K., On the estimation of the binomial probability in multistage clinical trials, Statistics In Medicine, 2004, 23, 881-896 [6] Simon R., Optimal Two-Stage Designs for Phase II Clinical Trials , Controlled Clinical Trials, 1989, 10, 1-10 [7] 厚生省薬務局新医薬品課, 抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン, 1991, 薬 新薬9, 505-557 [8] 福田治彦, 新美三由紀, 石塚直樹訳, 米国SWOG に学ぶがん臨床試験の実践, 医学書院, 2004 [9] 正木伸之, 被験者数に幅を持たせた抗癌剤第Ⅱ相試験の最適化デザイン, 工学修士学位請 求論文, 東京理科大学大学院工学研究科経営工学専攻医薬統計コース, 2004 22
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