小学部ダウン症児童が 髪をひっぱろうとする行動を ぬいぐるみを抱く行動に替える行動 徳島県立阿南支援学校ひわさ分校 教諭 十川 貴子 助教諭 豊田 典子 1 指導目標 【長期目標】 学校生活で教員又は児童生徒が近くにいる時, 目の前に提示されたぬいぐるみを 抱くことができる。 【標的行動】 トイレへの移動中,同じクラスの児童が 近くにいる時,目の前に提示された ぬいぐるみを抱いて移動することができる。 2 方法 【対象児】 A児(支援学校小学部5年男児) ダウン症 新版K式発達検査2001:全領域1歳2ヶ月 (姿勢・運動1歳6ヶ月,認知・適応1歳2ヶ月,言語・社会7ヶ月) ・学校生活では,具体的なスケジュールを使って活動している。 ・言葉の理解は難しいが,状況や場面で「取って」「入れて」「バイバ イして」等の言葉かけと指指しに応じて反応できる。 ・聴覚過敏があり,嫌いな音には,耳ふさぎをすることがある。 ・おもちゃのキーボードや音の出る絵本で一人で遊ぶことが多い。 3 【利用可能な好子】 キーボード・音の出る絵本・ふわふわの感触 動いて音のでるおもちゃ・リズムのある言葉かけ 好きな童謡・ハイタッチ 【事例に関する情報】 ・人が接近している,トランポリンをした時や寝 転んでいる人,腹筋運動など揺れている人を 見た時,着替え・トイレ介助で,髪をつかんで ひっぱったり,人を倒そうとする行動がでる。 「あっ」「だめ」等言うと手を離すこともあるが, さらに強くひっぱることも多い。 4 現状のABC分析 近くに髪あり (教員の遮断なし) 制止の声「だめ」 「やめて」(↓)(↑) トイレの オブジェクトあり トイレにいくとき 髪を ひっぱる ひっぱった 感触(↑) 髪の毛の感触 (↑) 近くに教員なし 大きな リアクション 「キャー」(↑) 5 5 解決策のABC分析 ぬいぐるみの ふわふわした 感触(↑) ぬいぐるみあり 近くに髪あり (教員が遮断) トイレのオブジェクトあり トイレに いくとき ぬいぐるみ を抱く ぎゅっとぬい ぐるみを抱え 込む感触 (↑) 髪をひっぱる感覚な し(↓) 近くに教員あり 6 6 【指導場面】 トイレに移動する時 【般化場面】 排尿失敗をした時の衣服介助場面 【教材】 ぬいぐるみ(テディベア) 【指導者の役割と人数】 担任A(一番長い時間:週16時間担当,給食,トイレ介助等) 担任B(同じ教室でいる:週3時間担当,給食,トイレ介助等) 教科担任C(週4時間担当,トイレ介助+看護師として服薬等) 教科担任D・E・F(週1時間担当,トイレ介助) 他学部の教員G・H・I(給食,トイレ介助のみ1ヶ月交替で担当) 合計9名 7 手続き 【介入1】 1. トイレのオブジェクトを取って移動する時,教員はぬいぐるみ を本児に渡す。ぬいぐるみを本児の体に密着するように提示 する。 2. 本児がぬいぐるみを抱いたら,児童の横について,同じクラ スの児童が本児の視界に入らない位置に立つようにして, いっしょに移動する。 3. トイレの入り口の前に来たら,ぬいぐるみを椅子に置くように 促す(「置いて。」という言葉かけと指差し) 4. ぬいぐるみをなかなか抱こうとしない時は,「ギュってして」と いう言葉かけとともに抱くまでぬいぐるみを体に密着するよう に提示する。 5. 本児がぬいぐるみを投げる又は落としたら,本児から目を離 さず本児とともにぬいぐるみを取りに行く。 8 記録方法 ぬいぐるみを抱きながら移動することができた ○ ぬいぐるみを持とうとしない,落とす,遊ぶ × 教員の髪をひっぱりに行く× 9 達成基準・中止基準 達成基準 15日間○が続く(累計) 10 テディベアをもってトイレに移動ができた割合 120 100 80 60 40 20 0 11 1 1 1 02月16日 02月15日 02月14日 02月13日 0 02月10日 02月09日 02月08日 1 02月07日 2 02月06日 0 0 0 01月16日 1 01月13日 01月12日 0 0 01月11日 0 01月10日 1 12月19日 ベースライン 12月16日 6 12月15日 1 12月14日 2 12月13日 1 1 12月12日 0 12月09日 2 12月08日 12月07日 1 12月06日 0 0 0 0 0 12月05日 1 1 10月18日 2 10月15日 10月14日 10月13日 10月12日 10月11日 10月07日 10月06日 1 10月05日 10月04日 10月03日 09月30日 学校生活全体の髪ひっぱりの回数 介入1 5 5 4 3 Series1 2 2 1 1 0 0 0 0 0 12 結果 指導1日目の2回目から正反応が見られた。 指導開始9日間は,1日を通しての割合が 100%に達することはできなかった。 2月13日に累計15日間となり,目標達成と なった。 指導場面では,髪をひっぱる行動がなくなっ た。 学校生活全体の髪をひっぱる行動はなくなっ ていない。 13 考察(1) ぬいぐるみを抱いて移動することとその際に 教員がバリアになって視覚的に遮断するこ とは有効であった。 ぬいぐるみのふあふあした感触及びぎゅっ と抱え込む感触が好子となった。 手続きを確認し,9名の教員が一貫した方 法で指導を行ったことが効果的だった。 14 考察(2) 今後の課題 人が密接している,人の笑い声や体の揺れ が視界に入る状況をつくらない その状況を避けられない場面では,ぬいぐる みを抱くようにする 学校生活全般の生活でぬいぐるみを持つ機 会を増やす 家庭生活や施設での生活への般化をねらう 15
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