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2004年6月27日
第2回福祉社会学会大会
支援費制度の「財源問題」
サービス利用過程モデルにおける
必要と割当の調整メカニズム
東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程
岡部耕典
[email protected]
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はじめに
支援費制度の「財源問題」に着目し、サービス利用者の主体性
が重視されるサービスシステムにおける課題を考察する
サービス利用過程モデルにおける受給過程
必要と割当の調整メカニズム
支援費制度と介護保険制度の比較
交渉決定モデルと第三者判定モデル
「財源問題」解決のために必要なプロセス
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サービス利用過程モデル
行政手続モデルからサービス利用過程モデルへ(小林2002)
利用者自身が、福祉サービスの消費者(consumer)として、主体的に
サービスを選択し利用するしくみ
その代表として、介護保険制度や支援費制度がある
【政策が前提としたもの】
国や自治体は、サービスの直接提供から撤退(公費支出抑制)
個人の必要に基づく利用(利用の拡大)
利用原資の中心は、税や社会保険という公的財源
※公的支出の抑制と拡大の両方の契機が含まれる
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擬似市場と消費者
擬似市場(quasi-market)
公からの費用の供給・民間からのサービスの購入
サービスシステムや給付システムは公のコントロール
擬似市場における「消費者」(consumer)
個人の主体的な福祉サービスの選択と利用が担保されるためには、
適切な給付供給システムのビルドインが必要
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割当と必要
行政手続モデルにおける一元的な支給管理
サービス利用過程モデルにおける必要と分配の判断主体の分離
前提となる公的支出の抑制
割当(rationing)
「ある一定の財政的制約のもとで実行可能な政策が選択され、この結
果社会的・政治的に承認されたものとしてのニーズが変動する図式」
(坂田1991)
財政的な制約・消費者主義
⇒「必要→政策→財政」の図式を再び焦点化
制度からの割当と利用者の必要の調整のメカニズム
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サービス利用過程モデルにおける
必要と割当の調整メカニズム(ミクロ)
A.ミクロの次元で求められる必要と割当の調整メカニズム
A-1 給付を根拠づけるための「必要の社会的構築」
供給に対する合意形成を行いそれを制度上担保
・・・世論の合意形成・受給のエンタイトルメント
A-2 行政と対等な力関係にない利用者に対する「アドボカシー」
行政と利用者の非対称な関係からの消費者保護
・・・受給調整の「代行」ではない受給交渉支援のメカニズム
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サービス利用過程モデルにおける
必要と割当の調整メカニズム(マクロ)
B. マクロの次元で求められる必要と割当の調整メカニズム
B-1 必要量の「調査と計画」(予算化)
・・・実際にニーズが予算化されたのか
B-2 必要量の「変動に対する調整」(地域/時間軸)
・・・特別会計・特定財源等
(参考)支援費居宅サービスの予算項目
ホームヘルプ・身障ショート ⇒社会福祉諸費
身障デイサービス
⇒身体障害者保護費
知的デイ・ショート
⇒児童保護費
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介護保険制度の給付調整システム
1.利用申請より先に要介護認定が必要
2.要介護認定によるサービス費用の受給には上限がある
3.「抽象的・要介護度・第三者型」の給付判定システム
4.給付抑制メカニズムとしての応益負担
5.財源の地域/時間軸調整のしくみがビルトインされている
介護保険制度の給付調整は、マクロの財源確保は、フレキシブルに
おこなえるが、ミクロの給付においては、利用者の主体性の関与は乏
しく、制度的な給付抑制機能が強い制度設計となっている。
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支援費制度の給付調整システム
1.要介護認定制度がなく、利用者が希望を申請することからはじまる
2.サービス費用の受給量には制度上の上限がない
3.「具体的・生活支援の必要度・利用者参加型」の給付判定システム
4.給付抑制メカニズムが働きにくい応能負担
5.財源の地域間/時間軸の調整のしくみが、ビルトインされていない
支援費制度の給付調整は、ミクロの給付においては、利用者の主
体性と行政裁量の関与度が高く、制度的な給付抑制機能はあまり
ないが、必要の総量に応じて割当量を調整する財源システムのフ
レキシブルさには乏しい制度設計となっている。
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給付調整のためのふたつのモデル
交渉決定モデル
二者間の交渉による政治過程に委ねる
第三者判定モデル
基準に基づく第三者による決定過程に委ねる
支援費制度は、交渉決定モデル、
介護保険制度は、第三者判定モデル
それぞれの制度が求めるサービス利用者の主体性のありかたを反映
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両制度の前提の相違点
介護保険制度
・少子高齢化の急速な進展に対応したシステム創造
・医療制度・家族の介護機能の補完システム
・対象者が比較的多い(財政規模が大きい)
支援費制度
・障害福祉システムのバージョンアップ(サービス利用過程モデル化)
・障害者の自律を通じ自立を目指すシステム改革
・対象者が比較的少ない(財政規模が小さい)
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支援費制度の「財源問題」
システムの財源(マクロの財源問題)
地域サービス支援費において、国の責任の担保が確実となって
おらず、支給量の水平的・垂直的調整が硬直的
利用者への給付(ミクロの財源問題)
交渉の非対称性の解消のための受給支援(アドボカシー)のしくみ
が不充分
支援費制度の財源問題が求めるのは、このふたつの課題の解決
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支援費制度の改革に求められるプロセス
1.現行制度の3年間の継続
・データの蓄積
・利用量の落ち着き
・施設サービス費から地域サービス費の計画的な予算移動
2.データの分析と制度改革の検討
マクロ(財源)
の対策 ⇒財源調整・安定化システム
ミクロ(利用制度) の対策 ⇒受給支援システム
「利用者本位」だけでなく「受給者本位」の実現をめざす
※当面の財源確保・・制度開始から数年未満でのシステム財源問
題の発生は、制度設計側の責任で対応すべき問題である
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引用文献
小林良二(2002)「戦後社会福祉の政策展開と展望(二)」三浦
文夫・高橋紘士・田端光美編『戦後社会福祉の総括と二十一世
紀への展望Ⅲ』
岡部耕典(2004)「支援費制度における『給付』をめぐる一考察
-「ヘルパー基準額(上限枠)設定問題を手がかりに-」『社会
政策研究 第4号』東信堂
坂田周一(1991)「割当」大山博・武川正吾編『社会政策と社会
行政-新たな福祉の理論の展開をめざして』法律文化社
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