介護施設で行う高齢者の ターミナルケアのポイント

介護施設で行う高齢者の
ターミナルケア
京都保健会盛林診療所所長
三宅貴夫(老年科)
1.高齢者のターミナルケアの基礎知識
1)ターミナルとターミナルケア①
用語について
 ターミナルケア Terminal care
 終末期ケア Terminal care
 緩和ケア Palliative care
 ホスピスケア Hospice care
 エンドオブライフケア End-of-Life care
1)ターミナルとターミナルケア②
ターミナルとは-何時から、どのような状態か
身体疾患の場合

認知症の場合
1)ターミナルとターミナルケア③
ターミナルケアとは
その人中心に
身体・精神・生活をみる
多職種による
死に向かうより高いQOLの生の支援
1)ターミナルとターミナルケア④
QOLとは



人生の質
より健康で幸福な人生の質
生活の質
より苦痛が少なくより自由な生活の質
生活環境の質
より自由な生活を保障する生活環境の質
2)高齢者のターミナルケアの特徴

死を受け入れやすい

苦痛が少ない

複数の疾患がある
3)高齢者のターミナルケアと死生観

高齢者本人

家族

介護職・医療職
4)高齢者のターミナルケアとその他の課題

尊厳死または安楽死

倫理的課題

法的課題

宗教の役割
2.身体疾患の高齢者の
ターミナルケアの実際
1)ターミナルケアに関係する
高齢者の身体疾患①
がん






肺がん
胃がん
大腸がん
前立腺がん
乳がん
その他
1)ターミナルケアに関係する
高齢者の身体疾患②
心疾患

心筋梗塞

心不全
1)ターミナルケアに関係する
高齢者の身体疾患③
呼吸器疾患

肺炎

慢性呼吸不全
1)ターミナルケアに関係する
高齢者の身体疾患④

腎不全

老衰

その他
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際①

ターミナルの判断

状態・症状の観察と判断
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際②
症状別対応①

疼痛

呼吸困難

嚥下困難

縟創
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際③
症状別対応②

排尿障害

関節拘縮

かゆみ

その他の身体状態
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際④
症状別対応③

せん妄

幻覚妄想状態

不穏

うつ状態
2)身体疾患のある高齢者の
ターミナルケアの実際⑤
その他の対応

経管栄養:胃瘻など

中心静脈栄養法

気管切開

その他
3.認知症高齢者の
ターミナルケアの実際
1)認知症高齢者のターミナルケア①
認知症高齢者のターミナルの定義(狭義)




認知症である。
意志疎通が困難か不可能な状態である。
認知症の原因疾患に伴い嚥下が困難か
不可能な状態である。
上記の状態が非可逆的である。
1)認知症高齢者のターミナルケア②
認知症高齢者のターミナルの定義(広義)
狭義のターミナルの状態である。
または
 治癒しない認知症であり、認知症とは直接
関係ない身体疾患がターミナルの状態で
ある。

2)認知症高齢者のターミナルケアの基本①
意思の確認

認知症高齢者本人

家族

介護職・医療職
2)認知症高齢者のターミナルケアの基本②
意思の妥当性
 意思決定をする人

意思決定の過程

意思決定の妥当性の判断
3)認知症高齢者のターミナルケアの実際①
認知症の原因疾患による場合
 アルツハイマー病

脳血管障害

その他の認知症疾患
3)認知症高齢者のターミナルケアの実際②
他の身体疾患による場合
 がん

心疾患

呼吸疾患

その他
4.介護施設におけるターミナルケア
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―①
「高齢者介護におけるターミナルケア調査研究事業
特別養護老人ホームアンケート調査中間報告
(概要)」(Association of Supporting Care Service
Management 2005 winter )より
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―②




調査主体:日本介護支援協会
調査期間:2004年8月~10月
調査方法:全国1606箇所の介護老人福祉
施設に回答用紙を送付
回答施設数:856(回収率53.3%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―③
調査結果
 死亡退所者:813施設で8585人(2003年度)
 死亡場所
病院:5028人
介護老人福祉施設:3491人
その他: 66人
 施設別施設内死亡割合:0%(18%)
1%~10%(12%)
60%~70%(10%)
100%(2%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―④



終末期の利用者数の推移:
増えている施設(81%)
変わらない施設(32%)
減っている施設( 3%)
利用者本人に「人生最期について」の意思を聞
いているか:聞いている (21%)
聞いていない(77%)
終末期ケアに関する希望をいつ確認するか(重
複回答) :状態の変化時(83%)
入居時(35%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑤


「利用者、家族から施設で最期を迎えたい」と希
望されたら
原則受け入れる(36%)
利用者・家族の協力があれば受け入れる(27%)
受け入れない( 8%)
マニュアル・ガイドライン
ある(11%)
ない(88%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑥

今後の方針
利用者を施設内で看取ることも含め対応していき
たい(78%)
利用者を施設内で看取ることには対応しない方
針であるが、終末期ケアについては充実させて
いきたい(16%)
利用者を施設内で看取ることも終末期ケアについ
ても対応しない(2%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑦


終末期ケアにどのような条件が必要か
医療との連携(71%)
方針の明確化(47%)
介護職の医療行為(34%)
死亡退所の利用者の直接の死因
心不全(25%)
老衰(22%)
肺炎(20%)
がん( 8%)
1)介護施設におけるターミナルケアの
現状―介護老人福祉施設の場合―⑧

死亡退所の利用者の生前の意志確認
施設内で自然に人生を終えたい(77%)
最期まで病院でできるかぎりの治療を受けたい(13%)
最期は施設以外の望む場所に最期を迎えたい(10%)

家族の希望
施設内で自然に人生を終えさせたい(75%)
最期まで病院でできるかぎりの治療を受けさせたい(23%)
最期は施設以外の望む場所で迎えさせたい(2%)
2)介護施設別の現状と対応と課題
-医療の協力、施設・設備、職員、勤務体制-

介護老人福祉施設

介護老人保健施設

介護療養型医療施設

グループホーム

ケアハウス
3)介護施設でのターミナルケアにおける
職種別の役割と連携







介護職
看護職
医師
その他の専門職
家族
ボランティア
その他
4)ターミナルケアにおける
医療機関との連携

診療所

病院
5)ターミナルケアのおける
高齢者と家族への精神的支援①

高齢者本人の思いとその支援

家族の思いとその支援
5)ターミナルケアのおける
高齢者と家族への精神的支援②
高齢者と家族の関係







理性的関係
情緒的関係
倫理的関係
法的関係
経済的関係
文化的関係
宗教的関係
6)介護施設におけるターミナルケアの
その他の課題



死後の家族のケア
職員のケア
その他
身体拘束の禁止
虐待の防止
成年後見制度の利用
その他
5.事例検討
1)「老衰」で養護老人ホームで
最期を迎えた女性の場合
86歳のとき、日常生活の活発さが少なくなり、臥床することが
多くなる。食事量が少なくなり、衰弱が目立つが意思疎通は良
好で認知症は認めない。がんなど疑い、本人の同意を得て検
査入院する。諸検査にて衰弱の原因と考えられる疾患は認め
られず、「老衰」によると判断し退院する。ホームで毎日、
500ccの点滴を末梢から行う。その後1週間ごろ、本人が点滴
を止めてほしいと希望する。本人には配偶者、子供なく、最も
親しい親戚に経過を説明し、点滴を中止を決定する。1週間
後、死亡される。老衰死。
2)脳血管障害で病院で
最期を迎えた女性の場合
脳血管性認知症で訪問診療を行う。食べにくいとの訴え、食事量が
減り、検査の結果、進行性の末期の食道がんと診断する。家族(息
子)の意見により本人にはがん告知は行わない。食事量が少ないた
め週2回の訪問診療、週1回の訪問看護を行うと同時にこれまで主
に入浴目的で利用していたデイサービスは週1回で利用を続ける。
家族からは日々の状態を聞くと共に、診断など医療面の説明をする。
その結果、末梢血管からの点滴は行うが積極的な延命処置は行わ
ないこと、鎮痛は確実の行うこと、できるだけ在宅での生活を続ける
ことを決める。このため訪問看護師のよびかけで家族、医師、看護
師、デイサービスセンターの介護職、ケアマネージャーでカンファレン
スを行い、情報交換と家族の期待を聞き、本人の現状、各専門職の
役割を確認する。食道がんは進行し、口からは全く食べられなくなり、
家族の希望で入院医療に変える。1月後に病院で死亡される。
3)肺がんで在宅で
最期を迎えた男性の場合
76歳男性で高血圧などで診療所に通院。咳の訴えが続き、
胸部ゲントゲン撮影で肺がんを疑わせる陰影を認める。
総合病院の紹介するが、入院して詳しい検査を拒否する。
通院が困難になり、訪問診療を始める。徐々にADLが低
下し、食事量も減少する。改めて本人に病状の説明をし、
積極的な延命を希望せず、そのための治療を受けたくな
いとの意思を確認し、家族も同意する。最期は在宅で看
取る積りが衰弱する本人を診ることができないと家族は
入院を希望する。本人の意思確認は難しくなり入院とす
る。入院中は24時間点滴を受けるが、家族は点滴して生
きているだけの姿をみて、再度在宅で看取ることを決め
る。退院後、毎日の往診を行うが点滴は行わない。退院
後14日目に死亡。衰弱死。
6.まとめ
付録:認知症に関するサイト
三宅貴夫編「認知症なんでもサイト」
http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.
htm
 社団法人呆け老人をかかえる家族の会
www.alzheimer.or.jp
 認知症を知るホームページ
www.e-65.net

おわり
平成17年度三重県北勢地区老人福祉施設研究協議会
看護・介護職員研修会
小山田特別養護老人ホーム
2006年2月4日