波の変形:浅水変形、屈折、砕波

波の変形:浅水変形、屈折、砕波
酒井哲郎:海岸工学入門,森北出版
第4章(pp.37-53)
風波は洋上の水深の深い場所で発生し発達する.
(風波は深海波である.)
海岸に向かって波が進行するとやがて水深が減少する.つまり波は深海
波から浅海波へと移行する.このとき波の変形が生じる.波向き,波長(短
くなる),波高(高くなる)が変化する.
波浪推算で得られた波高,周期は海岸近くでは変化するため,どのように
それらが変化するのかを知るのは海岸構造物の設計上重要である.
構造物の存在によっても波は変形するが,ここでは水深変化による波の変
化について説明する.
浅水変形
(shoaling)
水深変化による波数,群速度の変化による波高変化
波のエネルギー散逸はない(エネルギー保存)
屈折変形
(refraction)
水深変化による波速の変化による波向きの変化と波高
の変化
波のエネルギー散逸はない(エネルギー保存)
回析変形
(diffraction)
遮蔽部への波の回り込み
波のエネルギー散逸はない(エネルギー保存)
波高減衰
(波のエネ
ルギーの散
逸による波
高減衰)
砕波(wave breaking)による波高減衰
海底摩擦(bottom friction)による波高減衰
微少振幅波理論から誘導される波速cと周期Tの関係
gT
2 h
c
tanh
2
cT
微少振幅波理論から誘導される波長Lと周期Tの関係
gT 2
2 h
L
tanh
2
L
gT
沖波(深海波)の波速C0 c0 
2
gT 2
沖波(深海波)の波長L0 L0 
2
(波速C=波長L/周期T)


1
 2 h 

L
c
2 h
hc 
  tanh  2   
  tanh
 tanh 

L0 c0
L
L0  c0  
 c L 


c 0
 0 
水深hが変化すれば波長・波速が変化する.波長と波速の変化は同じ.
周期は変化しない.
汀線に対して斜めに入射しかつ水深変化がある場合(屈折)
水深が浅くなると波速は遅くなる
水深深
波向き線
水深深
波速速い
波峰線
水深浅
波速遅い
水深浅
汀線
汀線に対して斜めに入射する波は屈折変形により汀線に対し直角になる.
屈折により波向き線間隔は変化する
b2>b1
b2
b1
Ecg1
Ecg2
コントロールボリューム内のエネルギーは一定(定常)であるので
次式が成立する.
b2>b1
Ecg1×b1= Ecg2×b2
Ecg1>Ecg2
このことは波高の場所的変化
を意味する.
入射は汀線に直角であるが水深変化がある場合(浅水変形)
水深変化により群速度が
変化する.
E1cg1
cg1≠cg2
b
E2cg2
汀線
コントロールボリューム内のエネルギーは一定(定常)であるので
次式が成立する.
E1cg1= E2cg2
E1≠E2
このことは波高の場所的
変化を意味する.
水深変化は無いが海底摩擦によるエネルギー散逸がある場合
海底摩擦によ
るエネルギー
の散逸量
n
Ecg b  ncEb
 E fbb s
b
cg
c
s
d  ncEb 
ncEb 
s
ds
d  ncEb  

0  ncEb   ncEb 
 s   E fbb s
ds


エネルギーの場所的変化
d  ncEb 
  E fbb
がある.つまり波高の場所
ds
的変化を意味する.
浅水変形(屈折を伴わない波高変化)
E1cg1= E2cg2
nEc  const.
深海波(沖波;水深の影響を受けない)は添え字0をつけて表す
nEc  n0 E0c0
微少振幅理論ではエネルギーEは E 
 gH 2
8
また深海波ではn=1/2であるので
nH 2 c 
1 2
H 0 c0
2
c0
H

 Ks
H0
2nc
H0は沖波波高,Ksは浅水係数(shoaling factor)と呼ばれる.
微少振幅理論ではnは以下のようになる
1
2kh 
n   1 

c 2  sinh 2kh 
cg
2
k
L
L c
2 h
  tanh
 tanh kh を用いれば次式が成立する.
L0 c0
L
c0
H
2kh 


 K s  1/ tanh kh  1 

H0
2nc
 sinh 2kh 
Ksはh/Lの関数になる.
h h L0

L L0 L
Ksをh/L0の関数としてグラフを作成することができる.
h/L0=0.16程度でKs=0.9程度となり,さらに浅くなるとKsは増加する.
屈折変形
nEcb  n0 E0c0b0
Ecg1×b1= Ecg2×b2
nH 2 cb 
1 2
H 0 c0b0
2
c0b0
c0
b
H


 0  K s  Kr
H0
2ncb
2nc
b
Krは屈折係数(refraction factor)と呼ばれる.
H  Ks  Kr H0  Ks H0
H0  Kr H0
:換算(相当)沖波波高
屈折変形だけを考えた波高
h1  h2
c1  c2
L1  L2
スネル(Snell)の法則
波峰線
b1
c1
1
h1
2
h2
c2
sin 1 c1 L1
 
sin  2 c2 L2
cos 1 b1
2


K
等深線
r
cos

b
2
2
(この例では水
深は不連続に
変化する)
b2
波向線
等深線が汀線に対して平行で直線的な場合,屈折係数は1以下となる.つま
り波高は減少する.
屈折係数の値は波が収束するとき(a)は1よりおおきくなり(波高の増加),
発散するとき(b)は1より小さくなる(波高の減少).
波高の増加
波高の減少
例題1
緩やかな海底勾配,等深線がほぼ直線で平行な海岸,
周期10秒,波高5.0mの沖波,沖波入射角40°
水深20m,15m,10mでの入射角と波高を求めよ.
H  K s  Kr  H 0
Ks 
c0

2kh  

  tanh kh  1 

2nc 
 sinh 2kh  
1/ 2

4 h  



2 h 
L
  tanh
 1 

4

h
L

 sinh
 

L 


屈折係数と入射角度は教科書p.43 図4・5から求める.
1
2
屈折係数を図4・5から求めるためにまず沖波波長L0を求める.
gT 2 9.8 102
L0 

 156(m)
2
2  3.14
0
h
20
15
10

(0.13),
(0.096),
(0.064)
L0 156
156
156
H 0 , L0
図4.5より屈折率と0は次のようになる.

等深線
H
波向線
汀線
h
20m
15m
10m
Kr
0
0.94
0.93
0.91
10°
14°
18°

30°
26°
22°
各水深での波長を求める.
近似式
gT
2 h
L
tanh
2
L
2

gT 2
h 
h 
L
tanh  2
1
2 
2 

 

2
gT
gT



h
20m
15m
L
120m 109.7m
0.137
10m
94.15m
0.106
h/L
Ks
0.166
0.917
0.937
0.988
H
4.31m
4.36m
4.50m
砕波
波が沖から浅海域に伝播すると,浅水変形などにより波高が増大し,波長
は減少する.これにともない,波形も変形し波の峰は尖り,谷は平坦化しさ
らに波峰前後が非対称になる.やがて波形を保持できなくなり崩れる.これ
を砕波という.
大きなエネルギー散逸を伴う.
砕波形式
崩れ波砕波(spilling -type)
海底勾配が緩やかで沖波波形勾配(波高と波長の比)が大きい場合.
波頂に対してほぼ対称で,波形の崩れが波頂付近に発生し波頭が白く泡
立つ.
十分に発達した風波の洋上での砕波など.
砕波点(波が砕ける地点)
静水面
巻き波砕波(plunging -type)
海底勾配が急で沖波波形勾配(例えばうねりなど)が小さい場合.
波峰に対する波形の非対称性は大きく,波の前面が切り立って前方に跳びだ
した波頂が巻き込まれるように崩れていく.
構造物に強烈な衝撃を与える.また海底の砂を巻き上げ,海底地形の変化を
もたらす.
砕け寄せ波砕波(surging -type)
巻き波砕波の場合よりもさらに海底勾配が急になり沖波波形勾配が小さい場合.
先に進んだ波によって生じる海底面に沿って沖側に戻る流れ(戻り流れ)により
後続の波が全体的に崩れる.波は段波(移動する跳水のようなもの)となって海
浜上を進行する.
砕波形式により波圧や海底の砂の運動が変化する.
どの形式の砕波になるのかは工学的に重要
山田の砕波限界式
H
 0.827
h
合田の砕波条件式



Hb
 hb
4/3
 0.17 1  exp 1.5
1  15 tan   

L0
L0



浅水領域での波高,波長など変化の模式図
周期は変化しない.
伝達エネルギー(エネルギーフラックス)は砕波までは一定.
波高は一旦減少し増加を始める.砕波点で最高になりその後減少.
波長は減少する(逆数の波数は増加する).
宿題
p.52 問題4.1