企業法Ⅰ(商法編) 講義レジュメ No.07 •商業使用人 •会社の使用人 テキスト参照ページ:67~80p 1 商業使用人・会社の使用人 (営業の人的制度) • 商人・会社が営利の目的を追求するためには、 自分の活動範囲を広げる必要がある。 • 商業使用人(会社の使用人)とは、商人(会 社)が「自己の営業(事業)を補助させるた めに利用する人的設備」であるが、単なる従 業員を意味するのではない。 • 商業使用人(会社の使用人)には、その地位 に応じて、商人(会社)の営業(事業)上の 包括的な代理権が与えられる。 2 Ⅰ.商業使用人等の意義 • 特定の商人(営業主)に従属する営業の補助者 であり、その商人の営業上 の代理権を有する 者(商法20条以下) • 特定の会社(外国会社を含む)に従属する事業 の補助者であり、その会社の事業上 の代理権 を有する者(会社法10条以下) • 特徴:企業組織の内部にあり、営業主・会社に 従属し、その代理人として活動する従属的補助 者 3 ① 内部関係 • 特定の商人(会社)に従属する =雇用関係が通例 →主として民法、労働法の領域 • 営業主と雇用契約を結んでいることが必要と考 える立場(通説)と不要と考える立場が対立し ている • 会社の役員等(取締役・執行役など)は委任な いし準委任関係であるので、使用人ではないが、 使用人が役員を兼ねている場合も多い 4 【考えてみよう】 • 「商人甲(個人商人)から留守中の営業を任さ れていた甲の妻乙が甲の出張中、甲を代理して 取引相手丙との間に甲の営業に関する取引を 行った。この際、乙は丙に対して甲の代理人で あることを告げなかった。また、甲から100万 円を超える取引を行う際には、必ず甲の承諾を 得て行うこと、と命じられていたにもかかわら ず、丙との間で取引高200万円の取引を行った。 この場合、丙は甲に対して代金を請求すること ができるか?」 5 参考:補助商 • 企業組織の外部にあり、他の商人の営業 を補助する独立の商人を補助商と呼ぶ: (非従属的補助者) • 代理商、問屋、仲立人、運送取扱人など 6 ② 対外関係 • 代理関係:営業補助者としての行為の効 果が営業主(商人)に及ぶ →営業活動は反復継続的かつ集団的取引であ るため、取引の相手方の信頼を保護し、商取引 の安全と円滑を確保するため法律行為の代理に 関する民法の一般原則の他に、特殊な法規制が 必要になる • CF.商行為の代理を行うため、行為のたび に顕名しなくても営業主に効果が帰属す る(商504本文) 7 Ⅱ.支配人 • 特定の商人(営業主)に代わって、特定 の営業所(本店・支店)の営業に関する 一切の裁判上または裁判外の行為をする 権限を有する商業使用人(20、21Ⅰ) • 特定の会社に代わって、本店または支店 における事業に関する一切の裁判上また は裁判外の行為をする権限を有する会社 の使用人(会社10、11Ⅰ) 8 (1)支配人の選任・解任 • 商人および会社(外国会社を含む)は、支配人を 選任・解任することができる(20、会社10) • 取締役が複数いる会社および取締役会設置会 社の場合、支配人(その他重要な使用人)の選 任・解任は取締役の過半数または取締役会決議 で行わなければならない(会社348Ⅲ①、362Ⅳ ③) • 持分会社の支配人につき:会社591Ⅱ参照 • 支配人の選任・解任は登記事項(22、会社918) 9 (2)支配人の代理権 • 営業(事業)に関する裁判上の行為(訴訟行 為)及び裁判外の法律行為など一切の代理権を 有する:包括的代理権 • 他の使用人を選任・解任できるが、他の支配人 を選任・解任することはできない(21Ⅱ、会社 11Ⅱ:反対解釈) • 営業に関する行為かどうかは、行為の性質など を勘案して抽象的・客観的に判断する(判例・ 通説) 10 ※営業に関する行為 • 銀行の支店長による靴下5000ダースの売買契 約:否定 • 信用金庫の支店長が内部的な禁止事項に違反し 小切手を振出した:肯定(最判昭54.5.1百選32 事件参照) ※相手方が支配人の背信的意図につき善意無重過 失であれば、支配人の行為の効果は営業主に帰 属する(相手方に対して債務を負担する)。営 業主は、相手方が背信的意図につき悪意・重過 失であることを立証すれば、権利濫用・信義則 11 違反を主張できる。 (2)支配人の代理権 • 支配人の代理権に内部的に制限を加えて も、その制限は善意の第三者に対抗でき ない:不可制限的代理権(21Ⅲ、会社 11Ⅲ) • 重過失ある第三者は悪意と同視すべきで あるから善意の第三者に含まれない 12 (3)支配人の義務 • 民法上の雇傭、委任契約に基づく義務:善管注意義務等の他、 商23Ⅰ、会12Ⅰにより下記の義務を負う。 • 営業避止義務:営業主(会社)の許諾がなけれ ば、自ら営業をする、他の商人・会社(外国会 社を含む)の使用人となる、他の会社の取締役、 執行役または業務執行社員となることはできな い:①、③、④(精力の分散を防ぐため) • 競業避止義務:自己または第三者のために営業 主(商人・会社)の営業(事業)の部類に属す る取引をすることができない:②競業を防ぐた 13 め 競業避止義務違反の効果 • 解任の正当な事由になる • 損害賠償請求権の行使:損害額の 推定(Ⅱ) • 介入権:債権的効果しかないこと から、実質的に損害賠償請求に他 ならないため、廃止された。 14 Ⅲ.表見支配人 • 支配人でないのに、特定の営業所の 営業(事業)の主任者であることを 示すような名称を付された使用人 (24、会13) • 表見支配人は、相手方が悪意(重過 失ある場合を含む)の場合を除き、 裁判外の行為については、支配人と 同一の権限を有するものとみなされ る 15 表見支配人該当要件① • 営業の主任者であることを示す名称(肩書): 支店長、本店営業部長など – 支店長代理、支店次長などは、営業の主任者である ことを示す名称にはあたらない(他に上位の商業使 用人が存在することを前提とする名称であるから) • 本店・支店は営業所としての実質を備えている (支配人を置こうと思えば置ける設備がある) ことを要する(通説・判例)→営業所としての 実質があれば、登記の有無・名称は問わない • 相手方の善意:過失の有無は問わないが、重過 16 失は悪意と同視 表見支配人該当要件② • 裁判外の行為:営業の目的である行為および営 業のため必要な行為を含む→「行為の性質、取 引の数量・金額等を勘案し、客観的に観察して 判断する」 • 最近の判例は、「行為の性質・種類等を勘案 し」、と表現しており、取引の数量・金額とい う表現を使っていない。 参照 • 最判昭32年3月5日 • 最判昭54年5月1日 民集11巻3号395頁 判時931号112頁 17 Ⅳ.その他の商業使用人① • 営業(事業)に関するある種類または特定の事 項の委任を受けた使用人(部長、課長、係長、 主任等) →その事項(販売、仕入れ、貸付、 借入等)に関し、一切の裁判外の行為をする権 限を有する(25、会14) • 代理権に加えた制限を善意の第三者に対抗でき ない点は支配人と同様(不可制限的) • 明文の規定はないが、多数説は、支配人の営 業・競業避止義務に関する規定が類推適用され ると解する 18 Ⅳ.その他の商業使用人② • 物品販売等を目的とする店舗の使用人(26、会 15):物品の販売等:販売、賃貸その他これら に類する行為 • 物品の販売等を目的とする店舗の使用人は、通 常その店舗にある物品の販売について営業主を 代理する権限があると考えられるから、取引の 安全の見地から実際には代理権がなくても善意 の相手方との関係では、代理権を有するものと みなす 19 商業使用人に関する要点 • 以下の文章中の誤りを指摘し、正しい文章になお しなさい。 1.支配人は、商人に代わってその営業に関する一切 の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する ので、他の支配人その他の使用人を選任し、また は解任することができる。 2.支配人は、商人の許可を受けなければ、会社の取 締役、執行役または監査役となることができない。 20 商業使用人に関する要点 • 以下の文章中の誤りを指摘し、正しい文章になお しなさい。 3.支配人は自然人でなければならず、また、行為能 力者でなければならない。 4.営業に関する行為か否かは、客観的かつ抽象的 に判断される。したがって、支配人が背信的意図を もって商人の営業に関する行為をなした場合、たと え相手方が背信的意図を知っていたとしてもその 行為の効果は商人に帰属する。 21 商業使用人に関する要点 • 以下の文章中の誤りを指摘し、正しい文章になお しなさい。 5.支配人が自己または第三者のために、その商人 の営業の部類に属する取引をなすには、当該商人 の許可が必要であるが、競業に当たらなければ、 支配人自らが営業をなすこと自体は制限されない 6.商人の営業所の営業の主任者であることを示す名 称を付した使用人は、善意の相手方との関係では 、支配人と同一の権限を有するものとみなされる。 22 商業使用人に関する要点 • 以下の文章中の空欄に適切な語句を記入せよ。 1.支配人の有する代理権に制限を加えても、商人は 当該制限をもって善意の第三者に対抗することが できない。 2.複数の支配人を選任し、全ての支配人が共同して のみ代理権を行使すべき旨の制限をもうけたとし ても、これを登記 することができない。 3.表見支配人と取引した相手方が悪意の場合は、商 人に効果の帰属を主張できないが、この場合の悪 意とは、当該使用人が支配人でないことを知って 23 いることを意味する。
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