Slide 1

トピック5
エラーに学び,害を防止する
Patient Safety Curriculum Guide
1
学習目標
エラーの本質を理解し,医療上のエラーから学んで患者
安全を改善する方法を理解
Patient Safety Curriculum Guide
2
習得すべき知識
以下の用語を説明できる:
 エラー
 違反
 有害でなかったインシデント
(near miss)
 後知恵バイアス
Patient Safety Curriculum Guide
3
習得すべき行動内容
 エラーから学ぶ方法を知っておく
 有害事象の分析に参加する
 エラーを減らすための戦略を実践する
Patient Safety Curriculum Guide
4
エラー(error)

簡潔な定義:
「正しいことをしようとして,間違ったことをしてしまうこ
と。」
Bill Runciman

より正式な定義:
「計画された精神的又は身体的な一連の行為が意図
した結果を達成できなかったもので,その失敗が何ら
かの偶然の作用には起因しない場合。」
James Reason
Patient Safety Curriculum Guide
5
注:違反(violation)
許容された手順や医療の標準からの意図
的な逸脱
Patient Safety Curriculum Guide
6
エラーとアウトカム
 エラーはアウトカムに直結するものではない:
• エラーが発生しなくても,医療の合併症という形で
•
患者に害が生じることもある
害が発生する前にエラーを認識することができれ
ば,多くのエラーは患者に何の影響を及ぼさない
Patient Safety Curriculum Guide
7
ヒューマンファクターズの原則は
次のことを喚起している:


エラーは人間が生きていく上でどうしても避けられない
「ヒューマンエラー」の定義の一つは「人間の本質」
Patient Safety Curriculum Guide
8
ヒトは間違える
個人の経験,知性,動機,注意力とは無関係に,人は間違
えるものである
活動:
最近あなたが業務又は学習の場以外で犯した「愚かな
間違い」について思い出し,それについて同僚や他の学
生と話し合ってみてください(その間違いを起こした理由
を考えてください)。
Patient Safety Curriculum Guide
9
医療現場では問題が大きくなりやすい
 医療現場でエラーが発生すると,患者に問題が生じる可能
性がある…
… 医療に比較的特有な状況
 それ以外の面では,「医療上」のエラーに特有の要素はな
い…
... 医療以外の分野でみられるヒューマンファクターズの問
題と比べて何の違いもない
Patient Safety Curriculum Guide
10
基本的なエラーの分類
技能ベースの
スリップとラプス
スリップ(slip):
不注意による
行為の失敗
ラプス(lapse) :
記憶忘れ
エラー
(error)
規則ベースの
間違い
間違い
(mistake)
Source: J. Reason
知識ベースの
間違い
Patient Safety Curriculum Guide
11
エラーのリスクが高まる状況
 経験不足*
 時間不足
 不適切な点検
 手順の不手際
 不適切な情報
* 特に監督者もいない場合
Patient Safety Curriculum Guide
12
エラー発生の素地となる
個人的要因
 記憶力の限界
 それ以外にも:
• 疲労
• ストレス
• 空腹
• 不健康
• 言語的要因と文化的要因
• 危険な態度
Patient Safety Curriculum Guide
13
忘れてはならないこと
自分は次の条件に該当しないか?
• Hungry (空腹)
• Angry (怒り)
• Late (遅れ)
すなわち
• Tired (疲労)
H
A
L
T
(
と
ま
れ
)
Patient Safety Curriculum Guide
14
行動形成要因「チェックリスト」
I
M
Illness (病気)
S
A
F
E
Stress (ストレス)
Medication (薬剤)
• 処方薬,大衆薬,その他
Alcohol (飲酒)
Fatigue (疲労)
Emotion (感情)
自分は今日,安全に働けるか?
Patient Safety Curriculum Guide
15
インシデント報告/モニタリング
 組織内において害を及ぼす可能性のあった事象と実際に
誰かに害を及ぼした事象に関する情報を,収集し分析す
る
 組織がエラーから学ぶ過程の基本的要素の一つ
Patient Safety Curriculum Guide
16
エラーの罠を排除する
 インシデント報告制度の第一の機能は,問題が繰り返し
発生する領域( 「エラーの罠」として知られる)を特定する
ことである (J.Reason)
 これらの罠を特定して排除することは,エラーマネジメント
の主な機能の一つである
Patient Safety Curriculum Guide
17
後知恵バイアス
インシデント
発生前
インシデント
発生後
Modified from R. Cook, 2005, A Brief Look at the New Look in Complex System Failure, Error, Safety and Resilience
Patient Safety Curriculum Guide
18
文化:実用的な定義
集団内で共有された価値観(何が重要か)と信条
(物事をどう考えるか)であり,組織の構造や管理
システムと相互作用することによって行動基準(そ
の集団の人間がどのように行動するか)を形成す
る
James Reason
Patient Safety Curriculum Guide
19
職場の文化
 若手の医療従事者が「世界を変える」ことは
 しかし…
…「システム」を改善するための方法を探し求めることは
できる
… 自身の業務環境の文化に貢献することはできる
Patient Safety Curriculum Guide
20
インシデント報告及びモニタリング
に関する戦略
 成功につながる戦略:
• 匿名での報告を許可する
• 適切なタイミングでフィードバックを行う
• インシデント報告により事態がうまく収集した場合には公
•
の場で賞賛する
有害でなかったインシデントも報告させる
• 「何の代償もなく」学べる
• 患者に一切の「損失」を与えることなく,調査を通じて
システムの改善に取り組める
Source: E.B. Larson
Patient Safety Curriculum Guide
21
根本原因分析(RCA)
 インシデント分析に対する構造化されたアプローチ
 米国退役軍人病院の患者安全センターによって確立
http://www.va.gov/NCPS/curriculum/RCA/index.html
Patient Safety Curriculum Guide
22
RCAモデル(1)
以下の問いに答えるための厳格で守秘的なアプローチ:
 何が起きたか?
 誰が関与したか?
 いつ起きたか?
 どこで起きたか?
 実際に発生した害や発生する恐れのあった害はどの程度か?
 再発の可能性はどの程度か?
 どのような結果がみられたか?
Patient Safety Curriculum Guide
23
RCAモデル(2)
 非難や処罰ではなく,未然防止に焦点を置く
 個人の実践内容ではなく,システムレベルの脆弱性に
焦点を置く
 以下のような複数の要因を検討する:
- コミュニケーション - 環境/機器
- 訓練 - 規則/方針/手順
- 疲労/労務管理
- 障害
Patient Safety Curriculum Guide
24
エラーを減らすための戦略
 自分の状態を把握しておく: よく食べ,よく寝て,自分のことを
気に掛ける
 自分のいる環境について知っておく
 自分に課せられた業務について知っておく
 準備して計画する: もしこうなったら…
 日常業務に「チェック」を組み込む
 知らないことは質問する!
Patient Safety Curriculum Guide
25
精神的な準備
 エラーは発生する可能性があり,実際に発生するもの
と想定する
 最もエラーが発生しやすい環境を特定する
 問題,中断,妨害など不測の事態に対する対策を立て
ておく
 複雑な手順については,前もって心のなかで繰り返し
予行練習をしておく
James Reason
Patient Safety Curriculum Guide
26
要約

医療上のエラーは複雑な問題であるが,人間である以上,エ
ラーの発生を回避することはできない

エラーから学ぶ上では,組織レベルで考えた方がより生産的と
なる

根本原因分析は,インシデント分析のための高度に構造化さ
れたシステムアプローチである
Patient Safety Curriculum Guide
27