5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル マンデル=フレミングモデルと呼ばれる。四半期(中期)を用いて 1~3年間くらいのマクロ経済の動きを分析するためのモデル出 ある。 IS/LMモデルのストック面での拡張 資産: 「貨幣」,「自国の債券」,「外国の債券」 内外資産間の裁定(arbitrage) 例: 100円の運営(国内の利子率 i=5%,外国の利子率 i*=10%) 年初の為替レート:1ドル=e0円(e0=100) ,年末の為替レート:1ドル=e1円 自国債券 100円 両替:100円=1ドル 国外債券 マクロ経済学(Ⅱ) 1ドル 年初 購ど 入の す国 る債 ?を 100+100×5%=105円 1+1×10%=1.1ドル 年末 1 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 内外資産間の裁定(arbitrage) 例: 100円の運営(国内の利子率 i=5%,外国の利子率 i*=10%) 年初の為替レート:1ドル=e0円(e0=100) ,年末の為替レート:1ドル=e1円 もし: e1= 100 → 国外債券購入 もし: e1= 90 → 国内債券購入 国内債券購入 もし: e1 < 95.46 → 105円 > 1.1ドル×95.46 100+100×5% > (1+1×10%)×95.46 100×(1+5%) > 1×(1+10%)×95.46 100×(1+i) > 100/e0×(1+i*)e1 (1+i) > (1+i*)e1/e0 国内債券 100円 両替:100円=1ドル 国外債券 マクロ経済学(Ⅱ) 1ドル 年初 購ど 入の す債 る券 ?を 100+100×5%=105円 「1ドル=95.46円」まで円高? 1+1×10%=1.1ドル 年末 2 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 内外資産間の裁定(arbitrage) 例: 100円の運営(国内の利子率 i=5%,外国の利子率 i*=10%) 年初の為替レート:1ドル=e0円(e0=100) ,年末の為替レート:1ドル=e1円 (1+i) > (1+i*)e1/e0 国内の債券を購入する 1ドル=99.46円のリスクを考慮して ↓ (1+i)(1+b)=(1+i*)e1/e0 リスク・プレミアム 国内債券 100円 両替:100円=1ドル 国外債券 マクロ経済学(Ⅱ) 1ドル 年初 購ど 入の す債 る券 ?を 100+100×5%=105円 「1ドル=95.46円」まで円高? 1+1×10%=1.1ドル 年末 3 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 内外資産間の裁定(arbitrage) 例: 100円の運営(国内の利子率 i=5%,外国の利子率 i*=10%) 年初の為替レート:1ドル=e0円(e0=100) ,年末の為替レート:1ドル=e1円 (1+i)(1+b)=(1+i*)e1/e0 e1 e0 e0 (1 i )(1 b ) (1 i ) e 0 * e1 e0 e0 (1 i )(1 b ) (1 i ) e0 e0 * e1 e0 1 (1 i )(1 b ) (1 i ) e0 * 為替レートの期待変化率 マクロ経済学(Ⅱ) 4 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 内外資産間の裁定(arbitrage) 例: 100円の運営(国内の利子率 i=5%,外国の利子率 i*=10%) 年初の為替レート:1ドル=e0円(e0=100) ,年末の為替レート:1ドル=e1円 (1+i)(1+b)=(1+i*)e1/e0 e1 e0 1 (1 i)(1 b ) (1 i ) e0 e1 e0 * e1 e0 * 1 i b ib 1 i i e0 e 0 * とても小さく,0近い e1 e0 ib i e0 * e1 e0 i i* b e0 マクロ経済学(Ⅱ) とても小さく,0近い 利子率平価が成立する。 為替レートの期待変化率=内外の金利格差+リスク・プレミアム 5 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 利子率平価条件 為替レートの予想変化率 e1 e0 i i* b e0 為替レートの期待変化率に関する仮説 国内の期待インフレ率=P 国外の期待インフレ率=P * PPPで表わされる長期均衡レート: 1ドル=e*円 (e1-e0)/e0=P -P *+q(e*-e0) (q > 0) P -P *=0 の場合 もし e* < e0 ,すなわち e0 が過小評価される(円安過ぎ)なら,市場はこうした 円安が修正されていくと予想し,円高が進んでいくと予測する。 (e1-e0)/e0 < 0 もし e* > e0 ⇒ 円安が進んでいくと予測する。 (e1-e0)/e0 > 0 q : 為替レートが e* への調整速度を表すパラメーター マクロ経済学(Ⅱ) 6 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 利子率平価条件 為替レートの予想変化率 e1 e0 i i* b e0 為替レートの期待変化率に関する仮説 国内の期待インフレ率=P 国外の期待インフレ率=P * PPPで表わされる長期均衡レート: 1ドル=e*円 (e1-e0)/e0=P -P *+q(e*-e0) (q > 0) e*-e0=0 の場合 もし P > P * ⇒ 円安が進んでいくと予測する。 (e1-e0)/e0 > 0 もし P < P * ⇒ 円高が進んでいくと予測する。 (e1-e0)/e0 < 0 (注意:上の式はあくまで1つの「仮説」であり,「法則」ではない。) マクロ経済学(Ⅱ) 7 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 利子率平価条件 為替レートの予想変化率 e1 e0 i i* b e0 為替レートの期待変化率に関する仮説 国内の期待インフレ率=P 国外の期待インフレ率=P * PPPで表わされる長期均衡レート: 1ドル=e*円 (e1-e0)/e0=P -P *+q(e*-e0) (q > 0) i*-i+b =P -P *+q(e*-e0) i*-i+b =P -P *+q e*-q e0 マクロ経済学(Ⅱ) q e0 =q e*+i*-P *-i+P -b e0 =e*+[(i*-P *)-(i-P )-b ]/q e =e*+[(i*-P *)-(i-P )-b ]/q 8 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 利子率平価条件 為替レートの予想変化率 e1 e0 i i* b e0 為替レートの期待変化率に関する仮説 国内の期待インフレ率=P 国外の期待インフレ率=P * PPPで表わされる長期均衡レート: 1ドル=e*円 e =e*+[(i*-P *)-(i-P )-b ]/q マクロ経済学(Ⅱ) 外国の名目利子率 外国の実質利子率 内外実質利子率の格差 自国の名目利子率 自国の実質利子率 外国の実質金利高(i*-P *)↑ → 円安(e↑) 日本の実質金利高 (i-P )↑ → 円高(e↓) b↑ → 円高(e↓) 9 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 利子率平価条件 e1 e0 i i* b e0 i↑ → e↑(円安・「減価」) 為替レートの期待変化率に関する仮説 国内の期待インフレ率=P 国外の期待インフレ率=P * PPPで表わされる長期均衡レート: 1ドル=e*円 e =e*+[(i*-P *)-(i-P )-b ]/q i↑ → e↓(円高・「増価」) 一見,両者は矛盾するように思われるが,実はまったく矛盾しない。 i↑,円が瞬時に増価して,将来は減価していくであろうという予想がもた れるのである。言い換えれば, i↑,将来は減価するに違いないという予想が マーケットで生まれるような水準まで,円は瞬時にして増価するのである。 マクロ経済学(Ⅱ) 10 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル 利子率平価条件 e1 e0 i i* b e0 為替レートの期待変化率に関する仮説 国内の期待インフレ率=P 国外の期待インフレ率=P * PPPで表わされる長期均衡レート: 1ドル=e*円 e =e*+[(i*-P *)-(i-P )-b ]/q 貨幣市場の均衡式: M=L(i,Y) 3資産モデル: 「貨幣」,「自国の債券」,「外国の債券」 3資産モデルにおける資産市場(ストック)の均衡は完全に描写される。 マクロ経済学(Ⅱ) 11 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 経常収支(X-M)を円ベースで表現: PX-eP*M 例えば: 日本は自動車(100万円/台の価格で)10台を輸出して,アメリカ から石油(10ドル/バレルの価格で)5000バレルを輸入した。 為替レート: 1ドル=105円 日本の経常収支(円ベース): 100万円/台×10台-105円/ドル×(10ドル/バレル×5000バレル) =1000万円-105円/ドル×5万ドル=1000万円-525万円=475万円 この(円ベース)経常収支は何台分の日本自動車に相当する? 475万円/100万円/台=4.75台 円ベースの経常収支(X-M)を日本の財で測った実質ベース経常収支: (PX-eP*M )/P=X-(eP*/P)M 固定相場制の下でeは一定で,もしPとP*を所与とするならば, (eP*/P)は定数となるので, マクロ経済学(Ⅱ) 実質ベースの経常収支を X-M を書いてもよい。(2章,4章は固定相場制が暗黙の仮定) 12 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 円ベースの経常収支(X-M)を日本の財で測った実質ベース経常収支: (PX-eP*M )/P=X-(eP*/P)M 実質為替レート 交易条件の逆数 交易条件(terms of trade):日本が輸出財を1単位外国に渡したとき,何単 位の輸入財をもらえるかを表す比率である。 例えば,日本では缶コーヒーは100円で,アメリカでは1.2ドルであり,為替 レートは1ドル=110円である。日本の缶コーヒー1缶をアメリカに渡したら,100 円を手に入るが両替して(100/110=)0.909ドルとなり,(0.909/1.2=)0.76缶の アメリカコーヒーを購入することができる。 交易条件=0.76=0.909/1.2=(100/110)/1.2=100/(110×1.2)=P/(eP*) 日本から見れば: P/(eP*)↑ or eP*/P↓ ⇒ 交易条件は好転 P/(eP*)↓ or eP*/P↑ ⇒ 交易条件は悪化 マクロ経済学(Ⅱ) 13 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 円ベースの経常収支(X-M)を日本の財で測った実質ベース経常収支: (PX-eP*M )/P=X-(eP*/P)M 変動相場制の下では,輸出入数量X,Mおよび為替レートeの変化によって, 実質ベースの経常収支が影響を受ける。 輸出関数: 輸出数量は外国のGDP,Y*と交易条件に依存する。 + + eP* * X X ,Y P Y*↑→ X↑, (eP*/P)↑→ X↑ 輸入関数: 輸入数量は国内のGDP,Yと交易条件に依存する。 - マクロ経済学(Ⅱ) eP* + M M , Y P Y↑→ M↑, (eP*/P)↑→ M↓ 14 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 円ベースの経常収支(X-M)を日本の財で測った実質ベース経常収支: (PX-eP*M )/P=X-(eP*/P)M eP* * eP* eP* M X , Y , Y P P P 単位を適当に調整して,P*/P=1 とすると, + + -+ 実質ベース経常収支: X e, Y * e M e, Y e↓(円高) → 日本の輸出財が割高(交易条件好転) → X ↓,M ↑ では,経常収支はどのように変化するか? 円高前: 円高後: マクロ経済学(Ⅱ) CA X e, Y e M e, Y CA X e, Y * e M e, Y * 15 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 実質ベース経常収支: X e, Y * e M e, Y e↓(円高) → 日本の輸出財が割高(交易条件好転) → X ↓,M ↑ では,経常収支はどのように変化するか? 円高後: CA X e, Y e M e, Y 経常収支の変化: CA CA X e, Y X e, Y e M e, Y e M e, Y 円高前: CA X e, Y * e M e, Y * * * CA X e e M e, Y e M e, Y X e M e, Y e M e, Y e M e, Y CA X e M e M マクロ経済学(Ⅱ) CA X e M M e e e 16 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 CA X e, Y e M e, Y 実質ベース経常収支: X e, Y * e M e, Y 円高前: CA X e, Y * e M e, Y 円高後: 経常収支の変化: * CA X M e e CA X e e e X CA X e e e X 経常収支均衡条件: X=eM e M e X M e M e e M M X X M e X e e M e e CA X X e M e 1 e e e X e M マクロ経済学(Ⅱ) 17 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 CA X e, Y e M e, Y 実質ベース経常収支: X e, Y * e M e, Y 円高前: CA X e, Y * e M e, Y 円高後: * 経常収支の変化: CA X X e M e 1 e e e X e M 輸出の価格弾力性 輸入の価格弾力性 X/e > 0 ので,CA/e > 0 ための条件: マクロ経済学(Ⅱ) X e M 1 e X e X e M e X e 0 e 1 M e M 18 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 CA X e, Y e M e, Y 実質ベース経常収支: X e, Y * e M e, Y 円高前: CA X e, Y * e M e, Y 円高後: * 経常収支の変化: CA X X e M e 1 e e e X e M 輸出の価格弾力性 輸入の価格弾力性 X/e > 0 ので,CA/e > 0 ための条件: X e M e 1 e X e M (輸出の価格弾力性)+(輸入の価格弾力性) > 1 これは有名なマーシャル=ラーナーの条件である。 マクロ経済学(Ⅱ) 19 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル IS/LMモデルのフロー面での拡張 マーシャル=ラーナーの条件(CA/e > 0 ための条件): X e M e 1 e X e M (輸出の価格弾力性)+(輸入の価格弾力性) > 1 この条件は中・長期的には満たされるが,短期的にこれは成り立たない。e が変化すると,PとP*は直ちに変化するが,XとMに影響を与えるまでにはタイ ムラグが存在する。 ← 円高の場合 時間 CA マクロ経済学(Ⅱ) 経( 黒 常字 収) 支( (赤 字 )) → 例えば: CA X e, Y e M e, Y (円高)e↓→XとMすぐに変化せず,CA↑ →やがて(eP*/P)↓→X↓,M↑→CA↓ このような,eの変化がCAに与える影響が 短期的には長期のそれと逆になることを J カーブ効果という。 * 円安の場合 20 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル Jカーブ効果の続く期間は通常3四半期程度といわれている。 以下,Jカーブ効果を無視して,経常収支CAは次のような関数になると +-+ CA X e M CA(e, Y , Y * ) 財市場(フロー)の均衡式は次のようになる。 Y=C0+c・(Y-T)+I(i-P,re)+G+CA(e,Y,Y*) マンデル=フレミング・モデル ―― オープン・エコノミー(変動相場制)のIS/LMモデル―― IS曲線: Y C0 c (Y T ) I (i Π , r e ) G CA(e, Y , Y * ) LM曲線: M L(i, Y ) 資産市場の均衡式: マクロ経済学(Ⅱ) ee * (i q 1 * Π * ) (i Π ) b 21 5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル マンデル=フレミング・モデル ―― オープン・エコノミー(変動相場制)のIS/LMモデル―― IS曲線: Y C0 c (Y T ) I (i Π , r e ) G CA(e, Y , Y * ) LM曲線: M L(i, Y ) 資産市場の均衡式: ee * G 政府支出 T 税 r e 投資の期待利潤率 M マネーサプライ e* 長期均衡レート マクロ経済学(Ⅱ) (i q 1 * Π * ) (i Π ) b i*-P * 外国の実質金利 i-P 自国の実質金利 b 外国の債券に対するリス ク・プレミアム(外生変数) Y,i,e が内生的に決定される。 22
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