統計学基礎Ⅱ


統計学とはどのようなものか
データの収集、分析をおこなう統計学は、「経験」
を効率的に整理するために必要なものであり、学問
として存在しているばかりでなく、日常生活の中で
数多く用いられているものである。

経済学と統計学
経済学部という文系の学部で、統計学という数学の
ようなものはあまり関係ないように思われる。しか
し、経済学を学ぶ上で、統計学は非常に重要なもの
であり、現実経済の把握や将来の予測には統計学が
必ず用いられる。
a) 統計学の考え方
 われわれは経験から数多くのことを学び、われわれをとりまくさま
ざまな環境に、適切に対処することができるようになってきた。
 日常生活においては、このような経験は通常、おおまかに、直感的
に観察され、数量化することはあまり意識されない。
(例) 今年は暑い日が多かった。
今日はバスの時間がやたらとかかる。

このような経験が、数量的に把握されるということは、たとえば次
のようなものである。
(例)
今年は最高気温35℃以上の猛暑日が32日と、観測史上最多であった。
今日は通常15分で駅まで到着するバスが、25分かかった。
このような数量化は、直観的であいまいな観察に、客観性を与えて
くれる。

ところで、バスが「通常15分で駅まで到着する」ということは、ど
のようにして得られるのであろうか?
⇒ バスの所要時間に関して、数多くの観察をおこなった結果、得
られたものである。

この観察をおこなうときに、それらのバスの所要時間の「時間帯」、
「時期」、「曜日」、「天候」などについても同時に観察すること
も考えられよう。
これらのデータの間にから何を見出せるのであろう?

⇒

(例)
雨の日は通常より時間がかかる
夕方は日中より時間がかかる
など
われわれは、得られたデータ間に見いだされた関係から、将来より
効率的に行動するために、何を学びうるであろうか?
⇒ (例)雨の日や夕方のバスに乗るときには、所要時間が多く
かかることを予測し、行動することが効率的である。
「経験」を効率的に整理する(少ない経験で、豊富な経験と同
等の知識を持つ)ためには、統計学の助けが必要不可欠である。
 統計学とは、分析目的に対応してデータを収集し、分析する
ことによって、予測や意思決定のための材料を提供する学問
である。

統計学
分析目的
データの収集
分析
予測・
意思決定
b) 記述統計と推測統計
データを収集し、分析する統計学の立場には次の2種類が
考えられる。
 まず、得られたデータの特徴を何らかの数値(例えば平
均)や表・グラフにまとめたりすることが考えられる。
⇒ 記述統計(または統計的記述)という。
 次に、データの記述にもとづき、そのデータを生成した
集団や構造(これを母集団という)についての推論をお
こなうことが考えられる。
⇒ 推測統計という。
1) 記述統計の例
あるクラスのテストの点数が次のようになっていたとする。
39,
63,
44,
44,
22,
69,
69,
66,
67,
78,
34,
33,
60,
88,
20,
54,
43,
73,
17,
34,
20,
20,
63,
69,
46, 47, 20, 30
58, 87, 47, 75
36, 7, 27, 21
60, 23
このような数字の羅列だけでは、このクラスの特徴を
とらえることは難しい。そのため、このクラスの特徴
を何らかの数値であらわしたり、表・グラフにまとめ
たりする、記述統計の助けが必要である。
特性値(統計量)
クラスの特徴を、特性値(統計量
ともいう)といわれる数値であら
わしたり、度数分布表とヒストグ
ラムといった表やグラフにまとめ
てみる。
平均点
最高点
最低点
度数分布表
級
-
階級値
9
19
29
39
49
59
69
79
89
100
5
15
25
35
45
55
65
75
85
95
ヒストグラム
度数
テストの点数
1
1
8
6
6
2
9
3
2
0
10
8
度数
階
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
46.66
88
7
6
4
2
0
5
15
25
35
45
55
点数
65
75
85
95

そのほか、今まで見慣れている、さまざまなグラフをとりあげる。
どのような場合にどのグラフが有効であるか、再整理する。
3.5
完全失業率の推移(男女計・季節調整値)
3
棒グラフ
度数
2.5
2
1.5
1
2007年01月
2007年03月
2007年05月
2007年07月
2007年09月
2007年11月
2008年01月
2008年03月
2008年05月
2008年07月
2008年09月
2008年11月
2009年01月
2009年03月
2009年05月
2009年07月
2009年09月
2009年11月
2010年01月
2010年03月
2010年05月
2010年07月
2010年09月
2010年11月
2011年01月
折れ線グラフ
(%)
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
0.5
0
1人
2人
年・月
4人
仮想データから作成
出典:総務省統計局『労働力調査』
学年別の割合
年齢3階級別総人口の推移
年
1930
20%
円グラフ
3人
家族の人数
40%
帯グラフ
1950
2年
3年
1970
4年
1990
0-14歳
15-64歳
65歳-
2005
40%
0%
仮想データから作成
20%
40%
60%
80%
100%
出典:総務省統計局『国勢調査』
5人
主要死因別死亡率の推移(男)
人

200 000
180 000
悪性新生物
160 000
心疾患(高血圧
性を除く)
脳血管疾患
140 000
120 000
100 000
肺炎
80 000
60 000
不慮の事故
40 000
20 000
年
自殺
0
昭和45年
50年
55年
60年
平成2年
7年
12年
17年
主要死因別死亡率の推移(女)
人
悪性新生物
200 000
180 000
心疾患(高血圧
性を除く)
脳血管疾患
160 000
140 000
120 000
100 000
肺炎
80 000
60 000
不慮の事故
40 000
20 000
自殺
年
17
年
12
7年
2年
60
年
55
年
50
年
成
平
昭
和
45
年
0
年

左のグラフは主
要死因別死亡数
の推移を折れ線
グラフであらわ
したもの。
これらから、死
因別死亡数が時
代とともにどの
ように変化した
かを見ることが
できる。
2) 推測統計の例
晴れた日の夕方のバスの所要時間を知りたいとする。
晴れた日の夕方に走るすべてのバスについて、所要時間のデータを収集
することは不可能である。このとき、たとえば10日間に乗ったバスを標本
(サンプル)として考える。
母集団(晴れた日の
夕方のバス全体)
×
×
標本(乗ったバス10回)
×
×
×
×
×
×
×
×
平均所要時間 μ
全数調査 - 母集団の
全てについて調査をおこ
なうこと
標本調査 - 母集団か
ら抜き出された一部につ
いて調査をおこなうこと
推論
平均所要時間
x
少ない「経験」をもとに、多くを経験した場合のことを推論する。
標本の個体は「ある確率」で選ばれるので、推論の際に確率が必要となる。


経済学を学ぶ場合、マクロ経済学やミクロ経済学などの経済理論
を学ぶとともに、それらが現実経済と一致するかを検証しなくて
はならない。
その際に、現実経済を直感的ではなく、客観性を持ってとらえる
ことのできる統計学は有用である。
一致?
経済理論
現実経済

現実経済の状態を把握するために、記述統計が用いられ
る。
› 完全失業率を算出する
› 株価の動きをグラフ化する
› 所得税減税効果と、消費増大の関係について、回帰分析をおこ
なう。
→ 所得税を○○%引き下げることによって、消費が△△%増
大する

現状を数値であらわすのみならず、現実経済の背後にあ
る因果関係を記述する時にも利用されている。
 経済理論では、さまざまな因果関係が想定されているが、その1
つに次のようなものがある。(消費関数といわれる)
所得↑ → 消費↑(所得が増えれば消費も増える)
所得↓ → 消費↓(所得が減れば消費も減る)
 このような因果関係の検証には、所得と消費の散布図を描き、近
似となる直線を求める、回帰分析といわれる統計分析がよく用い
られる。
所得と消費
300
280
消費
260
240
y = -23.21 + 0.945x
220
200
180
160
200
220
240
260
280
所得
300
320
340

完全失業率は、これは日本全国15歳以上(1億人)から
10万人を標本として選んだ調査の結果である。
⇒全数調査ではないため、この数値は母集団全体を調査した時と
比べて、ズレ(誤差という)が生じる。
前月と比べて0.1%増えたとする。これは、誤差の範囲内なのだ
ろうか?それとも本当に増えたのであろうか?

所得税を○○%引き下げることによって、消費が△△%
増大することが回帰分析によってわかった。しかし、こ
の分析は標本にもとづいて分析されたものであり、実際
には ± □% の誤差がある。
⇒ 推測統計の考え方も、現実経済を把握し、現実経済
の背後にある因果関係をとらえる上で、必要となってく
る。
統計学・計量経済学関連科目関連図(徳山大学経済学部)(河田作成)
経済理論に
経済データに
統計学の理論・分析手法
ついて学ぶ
ついて学ぶ
について学ぶ
情報リテ
ラシー
Ⅰ・Ⅱ
1 年配当
統計学基礎
経済学科
2 年配当
専門科目
(ミクロ・マク
経済統計
経済データ解析
統計学
ロほか)
3 年配当

計量経済学
この科目は、統計学・計量経済学関連科目の最初の科目であり、
記述統計を中心に学ぶ。時間的な余裕があれば、推測統計に必要
な確率と、推測統計の初歩もこの講義で触れていく。
第1章 データに関する理解
第2章 1変量データの記述
第3章 2変量データの記述
第4章 推測統計の基礎