統計学基礎Ⅱ


統計学とはどのようなものか
データの収集、分析をおこなう統計学は、「経験」
を効率的に整理するために必要なものであり、学問
として存在しているばかりでなく、日常生活の中で
数多く用いられているものである。

経済学と統計学
経済学部という文系の学部で、統計学という数学の
ようなものはあまり関係ないように思われる。しか
し、経済学を学ぶ上で、統計学は非常に重要なもの
であり、現実経済の把握や将来の予測には統計学が
必ず用いられる。
a) 統計学の考え方
(問) 大学から徳山駅まで、車で何分かかるのを知りたい。
どのようにすれば知ることができるだろうか?


いつも大体、15分ぐらいで着く。
⇒ 15分というのはきちんと測定した数値ですか?
実際に車で走ってみた。そのとき16分30秒かかった。
⇒ 実際に測定した数値ですが、1回だけ良いのでしょうか?
※ 数多くの観察(実験)をおこなった結果、大学から駅まで何分かか
るかを知ることができる。
直観的であいまいな観察に、客観性を与えてくれる。

駅まで車で何分かかるかを、わざわざ多数観察することは必要か?
⇒
⇒
⇒


この観察をおこなうときに、「時間帯」、「時期」、「曜日」、
「天候」などについても同時に観察することも考えられよう。
これらのデータの間にから何を見出せるのであろう?
⇒

必要と思う人と、思わない人がいるであろう。
しかし、駅までの所要時間が分かれば、効率的に行動することが
できる。
実際に測定すべきか、なんとなくの時間でよいかは、その人の状況
によって異なる。
(例)
雨の日は通常より時間がかかる
夕方は日中より時間がかかる
など
われわれは、得られたデータ間に見いだされた関係から、将来より
効率的に行動するために、何を学びうるであろうか?
⇒ (例)雨の日や夕方に大学から駅まで車で行くときには、所
要時間が多くかかることを予測し、行動することが効率的である。
「経験」を効率的に整理する(少ない経験で、豊富な経験と同
等の知識を持つ)ためには、統計学の助けが必要不可欠である。
 統計学とは、分析目的に対応してデータを収集し、分析する
ことによって、予測や意思決定のための材料を提供する学問
である。

統計学
分析目的
データの収集
分析
予測・
意思決定
b) 記述統計と推測統計
データを収集し、分析する統計学の立場には次の2種類が
考えられる。
 まず、得られたデータの特徴を何らかの数値(例えば平
均)や表・グラフにまとめたりすることが考えられる。
⇒ 記述統計(または統計的記述)という。
※ この授業ではおもにこの部分をとりあげます
 次に、データの記述にもとづき、そのデータを生成した
集団や構造(これを母集団という)についての推論をお
こなうことが考えられる。
⇒ 推測統計という。
※ この部分は「統計学」(2年配当)でおもにとりあげ、
入門部分のみ、この授業で取り上げます。
1) 記述統計の例
あるクラスのテストの点数が次のようになっていたとする。
39,
63,
44,
44,
22,
69,
69,
66,
67,
78,
34,
33,
60,
88,
20,
54,
43,
73,
17,
34,
20,
20,
63,
69,
46, 47, 20, 30
58, 87, 47, 75
36, 7, 27, 21
60, 23
このような数字の羅列だけでは、このクラスの特徴を
とらえることは難しい。そのため、このクラスの特徴
を何らかの数値であらわしたり、表・グラフにまとめ
たりする、記述統計の助けが必要である。
特性値(統計量)
クラスの特徴を、特性値(統計量
ともいう)といわれる数値であら
わしたり、度数分布表とヒストグ
ラムといった表やグラフにまとめ
てみる。
平均点
最高点
最低点
度数分布表
級
-
階級値
9
19
29
39
49
59
69
79
89
100
5
15
25
35
45
55
65
75
85
95
ヒストグラム
度数
テストの点数
1
1
8
6
6
2
9
3
2
0
10
8
度数
階
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
46.66
88
7
6
4
2
0
5
15
25
35
45
55
点数
65
75
85
95

そのほか、今まで見慣れている、さまざまなグラフをとりあげる。
どのような場合にどのグラフが有効であるか、再整理する。
3.5
6
3
5.5
2.5
5
2
棒グラフ
4.5
4
度数
折れ線グラフ
完全失業率(%)
完全失業率の推移(男女計・季節調整値)
1.5
1
3.5
0.5
2012年5月
2012年1月
2011年9月
2011年5月
2011年1月
2010年9月
2010年5月
2010年1月
2009年9月
2009年5月
2009年1月
2008年9月
2008年5月
2008年1月
2007年9月
2007年5月
2007年1月
3
0
1人
4人
仮想データから作成
年齢3階級別総人口の推移
年
1930
20%
円グラフ
3人
家族の人数
出典:総務省統計局『労働力調査』
学年別の割合
2人
40%
帯グラフ
1950
2年
3年
1970
4年
1990
0-14歳
15-64歳
65歳-
2005
40%
0%
仮想データから作成
20%
40%
60%
80%
100%
出典:総務省統計局『国勢調査』
5人
死亡数(人)
主要死因別死亡数の推移(男)
250 000
悪性新生物
200 000

心疾患(高血圧性を除く)
脳血管疾患
150 000
肺炎
100 000
不慮の事故
自殺
50 000

死亡数(人)
主要死因別死亡数の推移(女)
160 000
140 000
悪性新生物
120 000
心疾患(高血圧性を除く)
100 000
脳血管疾患
80 000
肺炎
60 000
不慮の事故
40 000
自殺
20 000
左のグラフは主
要死因別死亡数
の推移を折れ線
グラフであらわ
したもの。
これらから、死
因別死亡数が時
代とともにどの
ように変化した
かを見ることが
できる。
2) 推測統計の例
晴れた日の夕方のバスの所要時間を知りたいとする。
晴れた日の夕方に走るすべてのバスについて、所要時間のデータを収集
することは不可能である。このとき、たとえば10日間に乗ったバスを標本
(サンプル)として考える。
母集団(晴れた日の
夕方のバス全体)
×
×
標本(乗ったバス10回)
×
×
×
×
×
×
×
×
平均所要時間 μ
全数調査 - 母集団の
全てについて調査をおこ
なうこと
標本調査 - 母集団か
ら抜き出された一部につ
いて調査をおこなうこと
推論
平均所要時間
x
少ない「経験」をもとに、多くを経験した場合のことを推論する。
標本の個体は「ある確率」で選ばれるので、推論の際に確率が必要となる。


経済学を学ぶ場合、マクロ経済学やミクロ経済学などの経済理論
を学ぶとともに、それらが現実経済と一致するかを検証しなくて
はならない。
その際に、現実経済を直感的ではなく、客観性を持ってとらえる
ことのできる統計学は有用である。
一致?
経済理論
現実経済

現実経済の状態を把握するために、記述統計が用いられ
る。
› 完全失業率を算出する
› 株価の動きをグラフ化する
› 所得税減税効果と、消費増大の関係について、回帰分析をおこ
なう。
→ 所得税を○○%引き下げることによって、消費が△△%増
大する

現状を数値であらわすのみならず、現実経済の背後にあ
る因果関係を記述する時にも利用されている。
 経済理論では、さまざまな因果関係が想定されているが、その1
つに次のようなものがある。(消費関数といわれる)
所得↑ → 消費↑(所得が増えれば消費も増える)
所得↓ → 消費↓(所得が減れば消費も減る)
 このような因果関係の検証には、所得と消費の散布図を描き、近
似となる直線を求める、回帰分析といわれる統計分析がよく用い
られる。
所得と消費
300
280
消費
260
240
y = -23.21 + 0.945x
220
200
180
160
200
220
240
260
280
所得
300
320
340

完全失業率は、これは日本全国15歳以上(1億人)から
10万人を標本として選んだ調査の結果である。
⇒全数調査ではないため、この数値は母集団全体を調査した時と
比べて、ズレ(誤差という)が生じる。
前月と比べて0.1%増えたとする。これは、誤差の範囲内なのだ
ろうか?それとも本当に増えたのであろうか?

所得税を○○%引き下げることによって、消費が△△%
増大することが回帰分析によってわかった。しかし、こ
の分析は標本にもとづいて分析されたものであり、実際
には ± □% の誤差がある。
⇒ 推測統計の考え方も、現実経済を把握し、現実経済
の背後にある因果関係をとらえる上で、必要となってく
る。
統計学・計量経済学関連科目関連図(徳山大学経済学部)(河田作成)
経済理論に
経済データに
統計学の理論・分析手法
ついて学ぶ
ついて学ぶ
について学ぶ
情報リテ
ラシー
Ⅰ・Ⅱ
1 年配当
統計学基礎
経済学科
2 年配当
専門科目
(ミクロ・マク
経済統計
経済データ解析
統計学
ロほか)
3 年配当

計量経済学
この科目は、統計学・計量経済学関連科目の最初の科目であり、
記述統計を中心に学ぶ。時間的な余裕があれば、推測統計に必要
な確率と、推測統計の初歩もこの講義で触れていく。
第1章 データに関する理解
第2章 1変量データの記述
第3章 2変量データの記述
第4章 推測統計の基礎