若者はなぜ選挙に行かないのか

若者はなぜ選挙に行かないのか
東洋大学社会学部
メディアコミュニケーション学科
齋藤竜太郎
問題意識
選挙における20代の投票率の低下が懸念されて久しいが、
彼らはなぜ投票に行かないのか。これから社会の中心に
なって活躍していくべき存在である彼らは社会に何を求め、
何に関心があるのか。投票に行かない若者の心理に注目し、
どうすれば政治に興味を持たせられるのかを考える。
アメリカや韓国ではインターネットを駆使した選挙宣伝
用のサイトやブログが注目を集め、若年層の投票率が上昇
したというデータが出ているにもかかわらず、日本では未
だに公選法が改正されずに諸外国との差を感じざるをえな
い。
そこで、現代の若者に深く関係しているインターネット
の重要性を示し、公選法の改正を見据えたインターネット
選挙のあり方についても考えていく。さらに、アンケート
調査を行うことで現代の若者の政治意識について分析して
いく。
1
本論の構成
序
問題意識
本論の構成
第1章 現代の選挙
1.1 若者の投票行動
1.2 若年層投票率の分析
1.3 小括
第2章 海外の選挙との比較
2.1 主要国の投票率
2.2 海外の若年層投票率低下に対する
対策
2.3 イギリスの選挙
2.4 韓国の選挙
2.5 両国との比較から見えてくる日本
の問題点
2.6 小括
第3章 インターネットと選挙
3.1 インターネットの可能性
3.2 テレビの重要性
3.3 Vote-Pairing ~戦略的投票のた
めのインターネット利用~
3.4 小括
第4章 アンケート結果の考察
4.1 調査概要
4.2 政治・選挙との関わり
4.3 メディアとの関わり
4.4 若者と政治を結び付けるには
4.5 政治意識について
4.6 アンケート調査から見えてきた若
者にとっての政治・選挙
結
注
参考文献
付属資料
2
若年層投票率の分析
投票率(%)
100
90
80
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
80歳代
70
60
50
40
30
20
10
0
昭和 昭和 昭和 昭和 昭和 昭和 昭和 昭和 平成 平成 平成 平成 平成 平成 17年
15年
12年
8年
5年
2年
61年
58年
55年
54年
51年
47年
44年
42年
衆議院議員選挙年齢別投票率の推移
3
若年層投票率の分析
投票率(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
昭和42年,20代
昭和42年,30代
昭和51年,20代
昭和42年 昭和51年 昭和61年 平成8年 平成17年
衆議院議員選挙年(約10年間隔ごと)
衆議院議員選挙年齢別投票率の推移
4
若年層投票率の分析
投票率には、
「加齢効果」「時代効果」が作用している
有権者全体の投票率上昇は
若年層の投票率増加につながる
5
海外の若年層投票率低下への対策
主要国の国政選挙の年齢制限
国名
選挙権
被選挙権
日本
20
25
英国
18
18
米国
18
25
ドイツ
18
18
フランス
18
23
イタリア
18
25
カナダ
18
18
オーストリア
16
18
スイス
18
18
韓国
19
25
中国
18
18
(注)法務省資料から抜粋。選挙権、被選挙権はいずれも下院の国政選挙。 6
海外の選挙との比較
韓国
インターネットを利用したメディア選挙を一般化させるために国家政策として取り組み、
選挙運動のやり方を変えてしまった 。
日本
いまだ選挙におけるインターネット利用が禁止されており、既存の選挙運動のまま。
日本の政治家は、選挙でインターネットが導入されることにより、選挙の
戦い方を根本から見直さなければいけなくなることに恐れを抱いており、
選挙で選ばれる議員側に選挙でのインターネット導入に対する「消極性」
があると言える。
7
一方で、有権者側にも問題がある。
韓国やアメリカに比べると選挙・政治に対する積極性が感じられない。
韓国
ノサモ(盧武鉉を愛する会)などの市民運動が盛ん。
アメリカ 演説に多くの若者が集まりインターネット上で意見を交わしている。
(例)
インターネットが普及した今日では、以前にも増して自らの意見を発信するツールが
増えたが、日本においてはインターネットが政治について語り合うツールにはなりえ
ていない。
しかし、これにはいまだに未だに「議会だより」や「地域だより」などでしか政治の
情報を発信していない行政側にも問題があると考える。「議会だより」や「地域だよ
り」などは明らかに30代から40代以上の層を対象にしており、投票が期待できない若
年層への政治情報の発信が圧倒的に少ない。行政側は選挙に当選するために、投票が
期待できる層に合わせて選挙運動を行なうため、若年層には何も伝わらないのである。
8
日本の課題は
「有権者の政治意識向上」
「政治制度の改革」であると言えよう。
現状の政治制度のままでは、若者が得る政治情報は少な
く、政治に対して疎外感を感じざるを得ない。その結果
として、政治意識低下を招くという悪循環から抜け出す
ことができないのである。
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(注)自身サイト内で動画ブログを掲載しているオバマ次期大統領
[online] http://www.barackobama.com/index.php (2008年11月28日参照)
Barack Obama and Joe Biden : The Change We Need
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(注)「You Choose08」で有権者からの質問に動画で答えるJohn Sununu氏とJeanne Shaheen氏
[online] http://jp.youtube.com/user/YouChoose08(2008年11月28日参照)
You Choose08(ニューハンプシャー州上院議員選挙)
11
インターネットの可能性
メリット
双方向性
対等性
日常性
ネット上で献金ができる
コストが低い
大量の情報を多数に発信できる
デメリット
デジタル・デバイド(情報格差)
ネット上での中傷
情報操作が容易に行なわれてしまう
12
利用率(%)
インターネットの可能性
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
全体
6-12歳
13-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-64歳 65-69歳 70-79歳 80歳以上
平成16年
平成17年
平成18年
平成19年
(注)法務省資料から作成。「全体」は6歳以上人口を指す。
年齢階層別インターネット利用率
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アンケート調査の概要
調査実施日:2008年11月26日、12月2日
調査対象:東洋大学社会学部
メディアコミュニケーション学科141名
調査方法:質問票によるアンケート調査
質問数:29問
14
政治・選挙との関わり
調査対象者
141人
ある
39%
ない
61%
投票に行ったことがあるか(%,N=64)
選挙経験者
64人
選挙未経験者
77人
投票経験あり 投票経験なし
25人
39人
15
政治・選挙との関わり
TV
25
新聞
16.7
インターネット
12.5
候補者パンフレット
12.5
候補者演説
25
家族
54.2
知人
16.7
その他
4.2
0
10
20
30
40
パーセント
50
60
投票する際の情報源(%,N=25,複数回答可)
16
政治・選挙との関わり
面倒くさかったから
15.4
関心がなかったから
12.8
忙しかったから
20.5
そもそも選挙があることを知らなかったから
12.8
よくわからなかったから
17.9
その他
15.4
NA
5.1
0
5
10
15
パーセント
20
25
投票に行かなかった理由(%,N=39)
17
政治・選挙との関わり
年金
NA
1%
55.4
憲法
37
福祉
ない
33%
ある
66%
43.5
保険
28.3
国際
28.3
国政
43.5
地方政治
27.2
0
政治への関心(%,N=141)
20
40
60
パーセント
分野別に見る政治への関心(%,N=93,複数回答可)
18
若者と政治を結びつけるには
関心を持つと思う
17
関心を持たないと思う
57.4
わからない
24.1
NA
1.4
0
10
20
30
40
50
60
70
パーセント
選挙権の年齢引き下げにより若者は政治に関心を持つか(%,N=141)
19
若者と政治を結びつけるには
62.4
投票率増加につながると思う
投票率増加につながらないと思う
20.6
15.6
わからない
NA
1.4
0
10
20
30
40
50
パスワード
60
70
インターネット選挙は若者の投票率増加につながるか(%,N=141)
20
若者の政治意識
ある
55.9
32.2
2.2
政治への関心
9.7
ない
31.9
0%
10%
61.7
20%
30%
40%
50%
60%
6.4 0
70%
80%
90%
100%
パーセント
そう思う
まあそう思う
そうは思わない
NA
「政治のことは難しくてよくわからない」と「政治への関心」のクロス集計(%,N=141)
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アンケート調査のまとめ
政治に関心がある 約70%
投票に行ったことがある約40%
問題1
政治に関心があるにも関わらず投票に行かない
投票に行かない理由
「面倒くさかったから」
「関心がなかったから」
問題2
政治・選挙への意識の低さ
22
結
現代の選挙

実は40年以上前から20代の投票率は年代別で最も低い数値を示していた。

投票率には、時代の変化による「時代効果」と年齢の変化による「加齢効果」が作用している。

この結果から、全体投票率が上がれば、20代の投票率も相対的に上がるということが言える。
海外の選挙との比較

政府側の問題点としては、既存の選挙の形を守り続けようとするために、韓国やアメリカで導入され著しい効果
を示しているインターネット選挙の導入をためらうなど、変革に対し「消極性」が感じられる。

有権者側の問題点としては、他国に比べると「政治意識の低さ」が感じられることは否めない。
インターネットと選挙

インターネット選挙を行なうメリットとして、他のメディアとは異なり、対等性や双方向性といったものがあげ
られる。これらは有権者と候補者とのコミュニケーションを図る上で大変重要なものであり、またパブリックよ
りもプライベートを重視しやすい傾向にある現代人にとっては、気軽に情報検索ができる日常性という一面もイ
ンターネットのメリットだと考えられる。

デメリットとしては、デジタル・デバイドや、インターネットの特徴でもある匿名性を利用したネット上での中
傷、自らの有利な情報のみを与え、不利になる情報は与えないといった情報操作が容易に行なわれてしまうこと
だと考えられる。
アンケート結果の考察

「政治に関心があるにも関わらず選挙に行かない」「政治に関心がない人の大半は、政治が難しくてよくわから
ないと考えている」という2点が最大の問題点であるとわかった。

若年層が選挙に行かない理由として「政治に対する意識の低さ」が要因であるという結果が得られたことからも、
「政治に対する関心があるにも関わらず政治に対する意識が低い」という現象には現行の政治が分かりにくいと
いうことに原因があると思われる。

すなわち、現行の政治制度を改革することでしか、若年層の投票率低下は防げないと考えられる。
23