健康ブームとフィットネス産業

健康ブームとフィットネス
産業
閑社 愛子
東洋大学社会学部
メディアコミュニケーション学科
はじめに
 問題意識
健康に対する社会的価値が変わってきているよう
に思われる。現在の社会で健康とは“義務”である。
禁煙の風潮が広まり、たばこを吸える場所は格段に
減ってきている。喫煙者は肩の狭い思いをしている
だろう。このように健康に留意している者とそうでな
い者では差別すら存在しているのである。
あいまいになりつつある、健康の定義や現代の健康
意識を問う。
疑問と仮説
 疑問
健康目的で運動する
人が増えてきている。ス
ポーツクラブでアルバイ
トする中で“ダイエット目
的の女性”よりも“健康
目的の中年男性”また
“健康目的のご老人”が
多くなってきていると感じ
た。フィットネス産業の発
展が目覚しい中、その原
因に健康ブームは当て
はまるのだろうか。
 仮説
健康ブームの流行により
フィットネス産業・フィットネスク
ラブの隆盛へと繋がっている
のではないか。
フィットネス産業の発展が目
覚しい中、その原因に健康
ブームは当てはまるのだろう
か。
健康ブーム・またスポーツの
歴史がフィットネス産業に与え
る社会的影響を調べていく。
健康の歴史・社会的背景
①高度情報社会
高度情報化社会が進んでも人間の代わりを
コンピュータが務める事は難しく、不可能なこと
である。情報化社会が進めば進む程コミュニ
ケーション不足になりやすく、その反動により人
間同士のふれあい・コミュニケーションが求めら
れる。それらを促進する社会的機能を持つス
ポーツやレクリエーション活動にニーズが高まっ
てくるのである。
②高齢社会
老後の人々の関心は3つにわけられるだろう。ⅰ老
後の健康問題、ⅱ老後の経済問題、ⅲ老後の社会との
かかわりや生きがいの問題、である(牧川,1996)。問
題となっているのが「寝たきり老人」の増加である。健康
への願望はもちろんのこと、寝たきりになりたくない、い
つまでも若くいたいといった思いは共通の意識である。
その役目を担うのがスポーツであり、健康問題や生きが
いなどに大いに役立っている。スポーツは自らの身体を
健康に導くためだけのものではなく、仲間と一緒に楽し
み、新たなコミュニティを形成して社会と関わりを持ち生
きがいのある、豊かな生活を作ることも可能である。「生
涯スポーツ」の人気もうなずけるものである。
③余暇社会
忙しくてスポーツする時間がとれない」というス
ポーツを実施しない理由(文部省:スポーツアン
ケート 平成3年度)の解決のためにも重要な要素
である。また会社を退職し、老後の生活を送る高
齢化社会は余暇社会といえるだろう。余暇を十分
に活用し、人生を豊かに生きがいのあるものとす
るためにスポーツ・健康は欠かせない要素となっ
ている。
④身体意識の変化
現在、女性が着物を着るときはふっくら見せるため
にタオルなどを入れることがある。細いと着物をうまく
着こなせないからである。着物を着ていた時代、「太っ
ていることは悪いこと」という認識はなかったに違いな
い。それがエアロビクスの流行により、鏡に映ったレオ
タードを着た自分を「いやらしい」と性的に見るわけで
はなく、「ファッション」として客観的に自分の身体と向
き合うことが出来た。ここで欠かせないのがメディアの
存在である。メディアからはその時代時代の美しいも
のがあふれている。身体の理想像もその一つである。
特に女性誌では常に最新の美意識が掲載されており、
人々はその「理想」にむかって邁進するのである。身
体意識は新しいスポーツやメディアの普及により、時
代時代、変化してきているのである。
フィットネス
フィットネスとは現代的なライフスタイル
を示し、個々人にあった体力づくりのことを
言う。つまり、スポーツ産業の中でも人間の
文化形成や人生、また余暇の充実に役立つ
ものとなっている。そしてフィットネス産業の
歴史はもちろん浅く、1980年代に入り発展と
変化を遂げた産業である。
日本人のスポーツ観
1.集団主義
2.勝利主義
3.求道主義
フィットネス文化の特徴
 アメリカの影響を色濃く受ける。
日本人のスポーツ観とは相容れないのがフィット
ネス文化である。軍隊のような体力づくりから「楽し
く」「仲間と」「自分のペースで」という意識へ変化し
た。言い換えれば「やらされる体力づくり」から「すす
んでやるフィットネス活動」へと変容してきているの
である。よってフィットネスは自分の意思を持って出
来る大人のための生活といえるだろう。
結
 文化的要素を含んでいる
フィットネス産業の隆盛には社会の変化が大きく影響し、柔軟に
対応してきた結果だといえる。社会がスポーツや人との関わりを求
めているのである。
 メディアからの影響
「フィットネス」が初めて社会において話題となったのも、ファッショ
ン雑誌が先駆けであった。ファッション雑誌「アンアン」はファッション
とスポーツを絡めた特集を組み、フィットネスを扱った。現在ではテ
レビの深夜番組で放送された「ロデオボーイ」や「ビリーズブート
キャンプ」などのフィットネス用品が人気を得、それらを取り入れる
フィットネスクラブも現れている。
社会やメディアに大きく影響され、発展してきた
フィットネスは流されやすく、早い展開を見せた文
化・社会だといえる。
結
 現在の社会を支える
アルバイトとしてフィットネスクラブトレーナーを務めているが、フィットネ
スクラブの要素は体力づくり、ダイエットなど体のためだけにあるのでは
ない、と考える。何時間も滞在し、運動するより長く、仲間とのおしゃべり
を楽しむ人々の姿はいたるところで見ることが出来る。クラブ内で社会・
文化が出来上がっている証である。
 増えるスポーツ人口
一週間のうちに一回でも運動する、という人が全体の半数を超え、日本
はスポーツ先進国と認められるときがやってきたのである。スポーツ実施
の裏に近年の健康ブームが影にあることは明らかであろう。健康ブーム
の社会的背景はスポーツ実施率の増加につながっているからである。
フィットネスクラブは展開されていく社会の不安を
解消し、人との関わりを新たに持つことの出来る場
所として今後社会にとってさらに必要な存在となる
だろう。