円債ポートフォリオの金利 感応度を知る - Pimco

円債フォーカス
September 2012
杉本 直也
Your Global Investment Authority
適切な金利上昇対策のため
に:円債ポートフォリオの金利
感応度を知る
低金利環境が続く中、金利上昇に対する懸念をよく耳にします。金利
の上昇は債券価格の下落を招くので、債券投資家が金利上昇に懸念
を持つのは当然のことです。
では、金利が上昇すると、ポートフォリオ
にはどれくらい影響があるのでしょうか。
金利が上昇した際に、ポートフォリオに
「マイナスの影響があると知っ
ている」
ことと
「どれくらいマイナスの影響があるか知っている」
ことに
は大きな差があります。
どれくらいの影響があるか分かるからこそ、金
利上昇対策を取ることについてのメリット・デメリットを議論すること
ができます。
以下では、NOMURA-BPI国債インデックスを例に、金利上昇が一般的
な円債ポートフォリオにどの程度の影響を与えるのかを考察し、ポー
杉本 直也
トフォリオのリスク管理における留意点を明らかにします。
アカウント・マネージャー
金利感応度を知るためのシンプルな方法
金利上昇による債券ポートフォリオの下落幅は、
ポートフォリオの下落幅=(金利の変化幅)×(ポートフォリオの金利感応度)
と分解できます。
金利の変化幅は、ポートフォリオの特性とは無関係に、市場によって決まります。
ここ
では、金利の指標として一般的に用いられている10年国債金利を考えることにし、例
として10年国債金利が1%上昇するケースを考えます。
一方、ポートフォリオの金利感応度は、ポートフォリオによって異なるため、
リスク指
標として計算する必要があります。金利感応度として代表的な指標にデュレーション
があり、NOMURA-BPI国債インデックスのデュレーション(修正デュレーション)の公
表値は、2012年6月末現在、7.66(単位:年)
です。
以上から、10年国債金利が1%上昇した場合には、ポートフォリオの下落幅=1%×7.66
=7.66%と計算することができます。
しかし、
これは実際の市場を反映した数字なので
しょうか。
もし反映していないとすると、何が問題なのでしょうか。
デュレーションとは
図 1:平行移動の仮定と実際のイールドカーブ
ポートフォリオの金利感応度を考えるにあたり、そもそもデュレー
2.5
ションとは何かをあらためて考えてみましょう。
2
つまり債券価格の金利感応度を表す指標です。計算を簡単にする
ために、イールドカーブが平行に移動したと仮定して得られた金
パーセント
デュレーションは債券投資において最も一般的に使用されるリス
ク指標で、金利の変化に対して債券価格がどのように変化するか、
平行移動(30bps)を仮定*
イールドカーブ(2012年6月末)
利感応度が、修正デュレーション(単位:年)
です。前述したNOMU-
1.5
1
0.5
RA-BPI国債インデックスのデュレーション公表値7.66(年)もこの
値です。
0
1
2
3
4
5
6
7
一般的には、イールドカーブの変化は平行移動で大半を説明でき
るとされており、それが修正デュレーションを用いて金利感応度を
2.5
測定する根拠であったはずです。
しかし、
日本でイールドカーブの
平行移動を仮定することは妥当でしょうか。
日本では、短期金利が
パーセント
図1は、平行移動を仮定した場合の仮想イールドカーブと、実際の
9
10
15
20
30
9
10
15
20
30
イールドカーブ(2011年6月末)
イールドカーブ(2012年6月末)
2
ほぼゼロの状態が既に10年超続いており、今後もデフレの継続を
想定すれば、
この状態が長期化すると考えられます。
8
年
1.5
1
イールドカーブの比較です。平行移動の場合には、短期金利も長
0.5
期金利と同様に上昇すると仮定されています。
0
一方、
図 2は、
過去における10年債金利および2年債金利の実際の変
1
2
3
4
5
6
7
化幅を比較したもので、10年債金利の変化幅を1としたときの2年債
金利の変化幅を示しています。
この数値が1のとき、
10年債と2年債の
*
2011年6月末から2012年6月の10年金利の変化幅と同じ30bpsを仮定。
出所:ブルームバーグ、PIMCO
金利変化が同水準であること、
つまりイールドカーブが平行移動して
SEPTEMBER 2012 | プロダクト・フォーカス
1.6
12年6月末
0.0
11年6月末
0.0
10年6月末
0.2
08年6月末
0.4
0.2
09年6月末
0.4
07年6月末
0.6
06年6月末
0.8
0.6
05年6月末
0.8
04年6月末
1.0
03年6月末
1.2
パーセント
1.4
1.0
出所:ブルームバーグ
2
1.8
1.2
02年6月末
して適切なものではなくなっている可能性があります。
2年債金利(右軸)
1.4
01年6月末
て算出されていたものの、実際には金利感応度を測定する手段と
1.6
00年6月末
なくなった場合、デュレーションは、金利感応度の測定を目的とし
10年債の金利変化に対する2年債の金利変化
98年6月末
つまり、市場環境の変化によって平行移動の仮定が適切なもので
1.8
99年6月末
えます。
97年6月末
は、
イールドカーブの平行移動という仮定にはかなり無理があると言
図 2:10年債金利の変化を1としたときの2年債金利の変化水準
(1年ローリング)
と2年債金利
96年6月末
ています。
すなわち、
短期金利が低位で抑えられている環境において
95年6月末
いることを表しますが、実際にはほとんどの期間で1を大きく下回っ
8
年
ポートフォリオの金利感応度(金利リスク)
を正確に把握するために
図3:金利感応度の測定:目的と手段
円債ポートフォリオの金利感応度について、NOMURA-BPI国債イ
仮定を置いて算出
金利リスク
ンデックスの公表値7.66(年)
とシミュレーションの結果である5.36
デュレーション
はどちらも金利感応度(金利リスク)
を表すリスク指標ですが、ポー
トフォリオ管理において重要なのは、
どちらの指標が実際の市場
実際の市場を反映しているか?
環境におけるポートフォリオの金利感応度をより適切に反映して
いるか、
ということでしょう。短期金利が低位に抑えられ金利上昇
では、低金利環境という市場の実態を考慮すると、NOMURA-BPI
が長期金利に限定されるような市場環境を想定するならば、イー
国債インデックスの金利感応度はどの程度の水準になるのでしょ
ルドカーブの平行移動という仮定は妥当でなく、デュレーションが
うか。
金利感応度を必ずしも適切に表していないことになります。
低金利環境における円債ポートフォリオの金利感応度は
市場環境にそぐわない指標を使うことには、さまざまな弊害があ
どれくらいか
ります。実際の市場環境においては、修正デュレーションだけで金
金利感応度は、金利の変化に対する価格の変化です。イールド
カーブが平行移動しない環境においてはどの金利を基準とする
かを決めておく必要があり、
ここでは、前例と同じように、10年国
債金利を使います。
実際よりも過大に評価しがちです。その結果、債券へのアロケー
ションが本来の意図よりも過小になってしまい、得られるはずで
あったキャリーによる収益機会を逸してしまう可能性があります。
また、株式などのリスク資産との分散効果を検討する場合におい
図4:NOMURA-BPI国債インデックスの10年債金利に対する金利
感応度(24ヶ月ローリング)
ても、金利ポジションは、適切な水準よりも実際には過小となって
しまうことから、十分な分散効果が得られない可能性があります。
PIMCOでは、
リスク指標がポートフォリオの特性を適切に反映し
8
7.66
ているか、常に見直し、改善を行なっています。市場環境は常に変
化するため、
この取り組みは必要かつ重要なものであると考えて
7
金利感応度
利リスクを把握しようとした場合、ポートフォリオの金利リスクを
います。
6
5.36*
5
12年3月末
11年3月末
10年3月末
09年3月末
08年3月末
07年3月末
06年3月末
4
NOMURA-BPI国債インデックスの修正デュレーション公表値(単位:年)
NOMURA-BPI国債インデックスの10年債金利に対する金利感応度
出所:ブルームバーグのデータをもとにPIMCO算出
*2004年3月末∼2012年6月末の期間においてNOMURA-BPI国債インデックスの
リターンを10年債金利の変化に対して回帰を行った回帰係数を金利感応度として
定義。回帰期間は24ヶ月のローリングデータを使用。
図4から、2012年6月末現在において、NOMURA-BPI国債インデッ
クスの価格は、10年国債金利に対して5.36の感応度があることが
分かります。
これは、修正デュレーションである7.66(年)
よりも小
さな値となっています。
プロダクト・フォーカス | SEPTEMBER 2012
3
杉本 直也
アカウント・マネージャー
ニューポートビーチを拠点とするアカウント・マネージャーで、運用ソリューション・ビジ
ネスおよび日本債券プロダクトを担当。
また、モーゲージ・プロダクト・スペシャリストとし
て日本のクライアント・サービスを行う。2009年ピムコジャパンリミテッド入社、2011年
よりニューポートビーチのPIMCO本社へ出向中。それ以前は、
クレディ・スイス証券にて、
証券化商品および金利デリバティブの数理分析を担当。さらにそれ以前は、NTTデータ
にて、暗号理論を中心とした情報セキュリティの研究開発に従事。投資業務経験4年。東
京大学より科学修士号および工学学士号を取得。
日本証券アナリスト協会検定会員資格
(CMA)を保有。
ピムコジャパンリミテッド
ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供
するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。本資料には、本資料作成時点での著者の見解が含まれて
いますが、これは必ずしもPIMCOグループの見解ではありません。著者の見解は、予告なしに変更される場合があります。本資料は情
報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありませ
ん。本資料に記載されている情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではあり
ません。
運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、デリバティブ取引等の価値、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価
証券の発行体の財務状況や信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けま
す。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。運用によって生じた損益
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2012年
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