太陽系探査科学の ロードマップ 中村正人 太陽系探査とは何か 人類の活動領域は地球近傍からその範囲を 拡大し、月及び太陽系内と拡がりつつある。 宇宙探査の目的は、知の創造とともに、人類 の活動領域を拡大することであるが、その推 進には、先進的工学研究を含め、宇宙科学 の知見が極めて重要であり、宇宙科学と宇宙 探査活動が共同歩調をとり、両者の協調的 発展を目指すことが必要である。 惑星探査は今、発見の時代から真の意味での探 査の時代へ移ろうとしている。過去30年の探査に よって、すでに我々はガイドブックを手にすることが できた。これからは太陽系の起源と進化の研究に迫 る物的証拠を求めて過去の重大事件を記憶した 種々の化石を探し出し、先鋭的な観測で惑星・衛星 構造を精査し、ダイナミックに変動する惑星圏環境 を解明すべきである。 太陽系科学ミッションのロードマップより 太陽系探査科学の定義 太陽、地球、惑星、始原天体及び太陽系空 間環境を多様な手段で調査し、太陽系諸天 体の構造と起源、惑星環境とその進化、宇宙 に共通な物理プロセス等を探るとともに、太 陽系惑星における生命発生、存続の可能性 及びその条件を解明する。 • 現時点で考えられるものは全てやってよろしい 惑星の進化と多様性の解明 太陽系の起源の実証的解明 生命の発生、進化に必要な環境の解明 宇宙プラズマ物理過程の根源的理解 (1)惑星の進化と多様性の解明 なぜ地球以外の惑星に生命存在に適した海洋・大 気が存在しないのか、惑星の気候変動の究極的な 原因は何なのか、惑星の磁気はどのようにして発生 し消滅するのか、地殻やマントルを駆動するエンジ ンは惑星によってどのように変わるのか、など現在 の環境と惑星誕生以来の45億年間の歴史を解明 することがその目標である。このためには、惑星大 気の組成、運動、変化の他に、惑星そのものの内 部構造の解明、表面の地形と組成などを明らかにし ていく事が必要である。 惑星の内部、表面探査 月の内部探査 • 1990年代にスタートしたペネトレータ開発-地震計・熱流量計による月の内 部構造探査 • SELENEによる電波サウンダー探査、裏側を含む重力探査という、月全球の 内部構造探査 • 日本が将来の月ミッションとして、内部構造探査を行うことが有効 月の表面探査 • 月面にはクレーターなどで掘り起こされた深部物質が露出 • 未踏査の地点に着陸して表面の探査を行い、将来的には月面からのサンプ ルリターンから月の起源と進化過程の解明を目指す 月探査で培った探査技術を月以外の惑星探査(特に火星)に展開 水星 • ESAとの共同ミッションBepi Colombo計画を遂行し、水星表面や地質構造、 重力場等の探査を目指す。 さらに将来の金星、水星、木星探査 • 輸送技術や高温耐性技術が確立を待ち、苛酷な環境である水星や金星表 面への着陸探査を行い、内部構造や表面地質を調べる • 木星探査計画において、氷衛星の地質構造、イオの火山活動の探査、非氷 衛星の表面組成測定を行う。 惑星周辺環境科学 地球の気候や大気運動、気象現象との比較研究の ため、金星や火星など地球型惑星の大気観測を主 要なターゲットとする • 2010年に打ち上げられるPLANET-C金星オービター計 画を進め、金星大気大循環の解明を目指す。 • このミッションの成果を受け、将来的には金星バルーン計 画や金星エントリープローブにより金星大気・表面の直接 観測を目指す。 • 火星軌道投入に失敗した“のぞみ”で目指した惑星周辺 環境科学を極めるため、このリカバリーミッションも視野に 入れる。 • 厚い大気をもつ天体のダイナミクスの研究のため、将来 木星探査においても、大気力学変動探査を重点的に観 測する。木星型惑星の探査については、惑星間航行など の新たな探査機技術の開発が必須であり、その具体的 検討と基礎開発が進められている。 (2)太陽系の起源の実証的解明 原始太陽系星雲から惑星がどのように形成されてき たかを解明する。この為には太陽系の初期の記録 を残した始源的天体を探査し、原始太陽系で起きた さまざまな物理・化学的過程を明らかにしていくこと が必須である。 始原天体からのサンプルリターンは重要な意味を持 つため、シリーズ化して継続的に行う • 「はやぶさ」は、小天体探査においても、詳細リモートセン シングが大きな科学成果を挙げることを実証した 「はやぶさ」は内惑星領域に多い揮発性物質の欠乏 するS型小惑星イトカワから重要な情報を得た 次は、揮発性物質に富む最も始原的な小惑星や彗 星からサンプルを回収し、分析する ソーラー電力セールなどを利用した火星以遠の探査 が実現される場合には、フライバイ等による始原天 体の探査の可能性をも視野に入れる。 (3)生命の発生、進化に必要な環境の 解明 地球外の生命を探索することは、生命科学を 地球の生命科学からさらに普遍的な宇宙生 命科学に変える可能性を持っている。これら はまた、太陽系外の知的生命の存在につい てもヒントを与えてくれるものである。始源的 天体の有機物の探査、火星や外惑星の衛星 であるエウロパ、タイタンなどにおける地球外 生命探索を行うことは、人類にとって大きな意 味をもつ課題である。 (4)宇宙プラズマ物理過程の根源的 理解 太陽系空間という人類が「その場」で観測することの 出来る唯一の宇宙空間で宇宙プラズマ現象を明ら かにし、惑星磁気圏の統一的理解を深める。 この為には太陽圏や地球以外の惑星磁気圏での 「その場」観測とともに、地球磁気圏における超精密 な観測から宇宙プラズマダイナミクスの本質に迫る ことが必要である。 地球周辺プラズマ環境を精密に理解し、また、普遍的宇宙空 間物理学の基盤とする • 電磁場構造を数機の衛星編隊によって観測する • 同時にエネルギー範囲・時間分解能を向上させた粒子計測を行ない、 高エネルギー粒子の発生過程等、多様な空間スケールにわたって展 開する宇宙空間現象の本質的理解 • JAXAのSCOPE計画として検討されてきたが、ESAとの共同ミッショ ンCross Scaleとしての実現を目指す • さらに、これらを補完する一連の小型衛星による地球磁気圏の探査 も継続的に行う。 惑星ミッションとしての水星探査計画Bepi Colombo • 磁気圏探査用オービタMMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)の開発 • 表面探査用オービタMPO(Mercury Planetary Orbiter)への観測 機器の参加 火星大気・プラズマの観測 • 「のぞみ」で達成されなかった科学目標は、未だに諸外国でも同様の 計画が成功していないため、復活を目指す 将来の木星探査 • ソーラー電力セールなどの深宇宙探査技術が成熟した暁には、巨大 粒子加速器としての側面を持つ木星磁気圏の本格的探査を目指す まとめ(1) 太陽系諸天体の構造と起源を探る 今後5年程度の目標 • 工学実験探査機「はやぶさ」により、S型小惑星サンプルリターン及 び試料分析を行う。 • 月探査衛星「セレーネ」により、月の内部・表層探査及び精密全球表 面物質・重力場観測データベースを構築する。 • 「はやぶさ」後継機により、C型小惑星の探査及びサンプルリターンを 行う。 • 「セレーネ」後継機に向けた月表面着陸技術の研究開発を行う • 「ベピ・コロンボ計画」による水星の内部・表層・磁場研究の準備、 ソーラー電力セイル等による木星及び以遠到達へ向けた技術基盤 の確立を図る。 20年先を視野に入れた今後10年程度の目標 • 「はやぶさ」及び「はやぶさ」後継機により取得した小惑星物質を分析 し、太陽系の初期状態の解明に資する。 • 「セレーネ」後継機による惑星表面着陸技術を確立し、月の起源・進 化過程を解明する。多様な始原天体、月・惑星の探査とその実現に 必要な研究を行う。 まとめ(2) 太陽と地球・惑星環境を探る 今後5年程度の目標 • 太陽観測衛星「ひので」により、太陽磁気活動の解明を行う。 • 磁気圏観測衛星「あけぼの」、磁気圏観測衛星「ジオテール」、小型 副衛星「れいめい」により、プラズマ素過程を解明し、宇宙天気の研 究に貢献する。 • 金星探査機「PLANET-C」により、金星大気運動を解明する。 • 「ベピ・コロンボ計画」による水星の大気・磁気圏研究に向けて準備を 行う。 • また、地球大気化学研究のために国際宇宙ステーション「きぼう」に 搭載する「SMILES」によって観測を行う。 • この他、小型衛星による観測研究や海外の探査機への観測機器提 供等を行う。 20年先を視野に入れた今後10年程度の目標 • 編隊衛星群観測により、宇宙プラズマの普遍プロセスを解明する。火 星等を対象とした継続的な近地球惑星環境探査を行う。木星を対象 とした国際大型探査計画について検討し、その開発において主導的 な貢献を行う。この他、次期太陽観測計画の策定と研究開発等を行 う。 技術的キーワード(1) 地球周辺とは異なる環境での探査技術開発と足並みをそろ えなければ、科学は成り立たない。 • 航行技術の確立 速く、遠くへ行く • 遠距離通信技術の確立 光通信など • 高度な熱設計 太陽からの熱輻射が航行の間で変化する • 深宇宙における電力問題の解決 太陽電池の大型化 原子力の技術 • 精密な測距のための技術 デルタDOR • シリーズ化 定期的な惑星間航行の実施 技術的キーワード(2) 探査機打ち上げ手段の確立 • 現状のH-IIAは2段ロケットであり、惑星探査機の打ち上 げには最適化されていない • LEOに打ち上げる能力 H-IIAはM-Vの4-5倍 • 例えば金星探査機(P-C)の打ち上げ能力は M-V 500kg VS H-IIA 600kg • H-IIAを使うのであれば安価で信頼性の高いUpper Stage(ソユーズの上にフレガットを載せる類)の開発が 急務 • 新固体ロケットを使うのであれば、M-V以上の搭載能力 と打ち上げ環境の改善が必要 技術的キーワード(3) 地上系の整備が急務 • UDSCだけでは運用が危険 • サンチァゴに新たな深宇宙アンテナ • 国内のアンテナの設備更新
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