ラジオ媒体を活用した 新たなクロスメディアに関する考察 ~RABJメディアアイデンティティ調査を踏まえて~ 2010年7月 【考察にあたって】 これまでの調査結果より (データの詳細は 発表資料:「広告に求められるものの変化とラジオ媒体の新たな価値観」参照) 1.広告とメディアの役割 経済環境、情報環境の変化に伴い、広告の役割は、認知の獲得から ブランドロイヤリティの構築へとシフトしている。 認知の獲得が主目的であった時代の広告は、リーチ×フリークエンシーが重要な課題 であったが、今はブランドロイヤリティを高めることの重要性が増している。 現代の広告戦略においては、メディアの役割を捉え、目的別に使い分ける必要がある。 ①リーチ×フリークエンシーで認知を獲得するメディア(量が得意なメディア) ②受け手の共感を得てブランドロイヤリティを高めるメディア (質が得意なメディア) ①を得意としているのは、テレビ・新聞だが、 ②の役割においては「絆」構築力という固有の特性を持つラジオが有効である。 2 2.ラジオとインターネットの同質性 ①能動的ラジオリスナーのほぼ全てがインターネットを利用しており、 インターネットでの情報検索、クチコミの発信が行われている。 ②インターネットへの接触態度は、 ラジオが持つ固有の特徴と相似している点が多い。 ③ラジオがきっかけでインターネットにアクセスすること、 インターネットがきっかけでラジオを聴取すること、 能動的ラジオリスナーの半数が経験している。 ④特に能動的に聴いている番組関連サイトのアクセス率は テレビに比べて高く、ラジオ・インターネットのマルチ接触者では、 広告効果が大きく上がる。 ⑤ラジオとインターネットは、どちらも「顔の見えない」「2WAYメディア」 であり同質性が高い。そのため、効率的なプランニングを行うことで より深いコミュニケーションが可能である。 ⑥クロスメディアプランニングの要として、ラジオには新たな可能性がある。 3 参考資料① (N=1055) 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 90.0 PCのインターネットのウェブサイトをよく利用する 31.3 ケータイのインターネットのウェブサイトをよく利用する (n=1055) 100.0% ラジオ テレビ 新聞 雑誌 インターネット 一般的なニュースや情報を得るのによい 55.5 ① 79.3 ② 70.9 13.0 32.3 特定のテーマや趣味・嗜好の情報を得るのによい 32.1 39.0 19.7 ② 51.8 ① 55.5 マイナーだが、おもしろい情報がある ① 53.2 8.2 8.7 21.9 ② 45.0 メジャーになる前(流行になる前)の情報をいち早く得られる ② 32.4 14.2 8.2 15.9 ① 45.5 自分にとって有意義な情報が得られる ① 52.7 46.4 41.1 36.6 ② 47.8 視聴者(閲読者)との間のつながりが強いと感じる ① 77.2 10.2 7.2 5.9 ② 25.2 8.4 ① 39.2 ② 31.1 20.8 13.0 製作者や作り手の情熱を感じる ① 49.1 19.1 26.0 19.8 受け手と作り手がいっしょになる一体感がある ① 60.9 ② 34.8 11.6 4.5 6.7 ② 22.2 視聴者(読み手)として気軽に参加しやすい ① 54.8 14.4 10.5 10.1 ② 35.3 友人のように自分と同じ目線を感じる ① 37.9 タレントのホンネや生の声が聞ける ① 65.8 6.9 4.8 5.7 10.0 2.5 5.9 ② 35.4 ② 28.7 番組(記事・サイト)と広告の間に違和感がない ① 33.8 ② 20.7 13.7 16.0 10.5 番組(記事・サイト)と広告の間に違和感がある ① 24.6 10.0 7.5 ② 16.4 視聴者(閲読者)との間のつながりが弱いと感じる 10.9 (%) 4 参考資料② 0.0% 10.0% 有名人やタレントのラジオ番組を きっかけに、その人のブログ等を 見るようになったことがある 20.0% 30.0% 27.8 有名人やタレントのブログ等を きっかけに、その人のラジオ番組を 聴くようになったことがある 11.4 40.0% 50.0% 10.0 5.9 60.0% 70.0% 26.5 5回以上ある 3~4回はある 1~2回はある 24.3 (N=1055) 50% 40.8 40% 30% 30.0 26.5 26.4 20% 15.2 13.5 10% 0% (単位:%) 提供広告主親近率 n ラジオ インターネット アクセスあり インターネット アクセスなし 全体 30.0 40.8 26.5 750 184 566 全体 テレビ インターネット アクセスあり インターネット アクセスなし 15.2 26.4 13.5 923 121 802 5 【考察】 1.従来のクロスメディアの考え方 クロスメディアはインターネットとの関わりで述べられているものが多い。 これはインターネットなどメディア環境の変化とともに、広告に求められる役割を捉え直す 概念としてクロスメディアが登場したためと考えられる。 一般にメディアミックスが加算的と言われているのに対してクロスメディアは乗算的と いわれる。 メディアミックスが媒体を多用することでリーチの拡大を目的とするが、クロスメディアは 同一テーマを多層的に訴求することで理解を高めることを目的とする。 6 2.クロスメディア論の2つの分類 クロスメディアという言葉は様々な意味で使われることがあるが、 大別すると以下の2つのパターンになる。 ①ゲートウェイ型のクロスメディア 生活者を企業ウェブサイトへ誘導するために複数メディアを使用し到達率を最大化する。 マスメディアはインターネットへのゲートウェイとして利用される。 「広さ=リーチの加算」が重視されるクロスメディア ラジオ 新聞 交通 雑誌 テレビ インターネット 企業ウェブサイト 7 ②タッチポイント型のクロスメディア 生活者の生活動線に複数メディアを配置することで到達回数を最大化する。 マスメディアはインターネットと並列するメディア選択肢の1つ。 「深さ=フリークエンシーの加算」が重視されるクロスメディア モバイル インターネット 新聞 交通 雑誌 屋外 テレビ ラジオ 起床 出社 帰宅 就寝 3.新しいクロスメディアの方向性 前項で挙げたクロスメディアは、どちらも広告枠内のコミュニケーションを中心にした 「広告のクロスメディア」である。 クロスメディアがメディアごとの相互関与を図り乗算的な効果を狙うということであれば 広告レベルではメディアごとの情報量や情報交換機能に制限があり、なかなか難しい。 マスメディアの力を更に活かし、企業のブランドロイヤリティ向上につなげるためには、 メディアの広告枠以外の部分=コンテンツの活用を含めたクロスメディアについても 改めて検討する必要があるのではないか。 そこで、新たにコンテンツレベルでクロスメディアを考えてみたい。 8 4.コンテンツを活用した、新しいクロスメディア これまでのクロスメディアは、複数の媒体の「広告」を連動されることで相乗効果を図ってき たが、広告に与えられる時間は放送時間の1割程度に過ぎない。 広告活動に求められるものが認知の獲得からブランドロイヤリティ向上にシフトする中で、そ うした純広告の限界は企業ウェブサイトや企業生成型のウェブコンテンツへの依存に繋がっ ているが、その一方で既存メディアのコンテンツ活用についてはあまり着目されてない。 コンテンツを活用したクロスメディアである。既存メディアの可能性はまだまだ広がる。 放送時間の残り9割=コンテンツを活用することでブランドロイヤリティ向上に繋がるコミュニ ケーションを行い、メディアを超えてコンテンツが相互連動することで、真に乗算的な広告効 果が期待できるのではないか。 コンテンツ 生活者 コンテンツ 9 5.各メディアのコンテンツの特徴と適合性 では、コンテンツを活用したクロスメディアに適しているのはどのようなメディアであろうか。 リーチ力 情報量 コンテンツの アレンジ可能性 コンテンツへ の参加可能性 コスト テレビ ◎ △ ○ △ △ 新聞 ◎ ○ △ △ △ 雑誌 △ ○ △ ○ ○ インターネット △ ◎ ◎ ◎ ◎ ラジオ △ ○ ○ ◎ ○ それには大きく3つの点が重要になると考えられる。 1.コンテンツをブランディングに適した内容とするための、アレンジ可能性 2.メディアを横断したコンテンツ展開に生活者を巻き込むための、参加可能性 3.そしてそれを行うにあたってのコストパフォーマンス。 最も適しているのがインターネットであることはいうまでもない。 従来でのクロスメディアでもコンテンツまで活用した広告展開がなされている。 そしてそのインターネットとの同質性が高いメディアがラジオである。 10 6.インターネットとラジオ、それぞれのコンテンツの特徴 a.機能面の特徴 ①生活者参加型の土壌がある ②情報が双方向(送り手←→受け手) b.生活者の印象・接触態度 ①自分とのつながりが強いと感じる ②受け手と作り手が一緒になる一体感がある ③(タレントの)本音や生の声が聞ける ④ラジオリスナー・ネットユーザーの相互乗り入れがある インターネット メール投稿 リクエスト ラジオ ブログ・掲示板 ツイッター 書き込み ブログ・掲示板 閲覧 掲示板・ツイッ ター書き込み 番組聴取 SNS参加 SNS閲覧 掲示板書き込み 番組関連サイト 閲覧 動画投稿・配信 動画視聴 電話出演 番組イベント オフ会 ネットユーザー ラジオリスナー 約半数が相互乗り入れ 11 7.インターネット・ラジオ使用の方法論 【インターネット】 ①企業・ブランドの訴求イメージに沿ったコンテンツを制作、 ブランデットエンタテインメントとする。 ②ユーザー参加型の仕掛けを設ける。 ③ラジオ番組のソースを活用して、両者に関連付けを行う。 ④2つのメディアを横断する多層的な関与による企業・ブランドとの絆の構築 【ラジオ】 ①企業・ブランドの訴求イメージに沿った番組を制作し、 CM枠だけではなく番組全体をブランデットエンタテインメントと捉える。 ②リスナー参加型の仕掛けを設ける。 ③インターネットのソースを活用して、両者に関連付けを行う。 ④2つのメディアを横断する多層的な関与による企業・ブランドとの絆の構築 8.各メディアの役割分担 【リーチ&フリークエンシーで認知を獲得するメディア】(量が得意なメディア) ①ターゲットのリーチを最大限にする広告を出稿する ②一方通行の強い情報発信 ③ブランド・企業の認知・興味関心を高める 【受け手の共感を得てブランドロイヤリティを高めるメディア】(質が得意なメディア) ①企業・ブランドに関係したブランデットエンタテインメント型コンテンツを展開 ②生活者が参加する双方向の情報発信 ③企業・ブランドとの絆を強め、ブランドロイヤリティを高める 12 9.総括 ラジオを活かしたこれからのクロスメディア ・ゲートウェイ型・タッチポイント型のクロスメディアは、広告枠の中でのクロスメディアであり、 認知拡大以外の多くの部分をインターネットに依存する歪な構造になっている。 ・既存メディアの力を十分に活かすためには、コンテンツの力を活用することが重要になる。 また、コンテンツ同士を関連付けることで、これまでの広告枠のみのクロスメディアでは 得られなかった、相乗効果が得られると考えられる。 ・それが可能なのは、ラジオとインターネットである。 なぜなら2つのメディアは同質であり、生活者参加型の土壌と情報が双方向に発信される という特性を共有しているからである。 ・この2つのメディアを併用することで、ブランドロイヤリティを高める質の高い コミュニケーションが可能になる。 ・以上を踏まえた最適なコミュニケーションモデルは、 次ページのようなものではないだろうか。 13 10.総括 循環型クロスメディア 企業サイトへの誘導をゴールとするゲートウェイ型のクロスメディアモデルに、質を得意と するメディア同士のコンテンツをクロスさせることで、生活者参加型の土壌と双方向性を 生かした循環型のコミュニケーションが可能となる。このモデルは、メディアを特性に応じ て使い分けることで、質・量ともにバランスのとれた効率的なものと言える。 コミュニケーションの広さ 【リーチ&フリークエンシーで認知を獲得するメディア】 <純広告> テレビ 新聞 生活者 生活者 インターネット ラジオ 生活者 コミュニ ケーション の深さ 【受け手の共感を得てブランドロイヤリティを高めるメディア】 <ブランデットエンタテイメント> 14
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