第2部 政治という活動をどう見るか 5 政治システムというモデル ①政治という活動の循環 社会と政府の間の循環回路 入力: 要求 ・・・をせよ 支持 正統性 資源 出力: 政策 政治システムの狭き門 政治のテーマになる問題は何か? 時代によって異なる 国によって異なる その差異を規定するものは何か 政治の課題 取ること=捨てること 見ること=無視すること 世の中には政治の課題となる理由、 逆に無視される理由が分からない 問題がたくさんある なぜこんな事に税金を使うのか? 事例 コメ市場開放に伴う農業予算 1994年 コメ市場開放に伴い総額6 兆100億円の農業対策費が決定さ れる =日本農業の競争力を強化するた め! なぜこんな問題が放置されるのか 特別養護老人ホーム(特養)には長蛇の列ができている。厚労 省の調査によれば、2009年12月時点の入所希望者は42万 人。10年後、特養ホームの行列は解消されているのだろう か? 今はまだ元気な高齢者や、そうした親を持つ家庭では、今 よりもむしろ10年後に、施設介護がどういう状況になってい るか気になるところだろう。厚労省は2009~2011年度まで の3年間で、全国に特養などの介護保険施設を16万人分整 備するという目標を掲げている。だが、2010年度までの2年 間で確保されたのは8万7000人分と、目標の半分にとどまっ ている。社会保障論が専門の結城康博・淑徳大学準教授が 指摘する。 いかにして課題として認知されたのか ・歴史的経緯 食糧増産 高度成長 ・組織の自己保存 役人は生き残る ために仕事を作り出す ・大きなショック 自然災害 戦争 人はなぜ月に行ったのか 課題の認知をめぐる争い 政府の資源の有限性 何かをすれば、他のものにしわ寄せ が行く 新しい課題の認識には消極的になる 手持ちの資源の範囲内で問 題を認識する プロクルステスのベッド 原発事故の被害 • 原発事故の被害をどう定義するか • 「自主避難」という言葉に潜む責任転嫁 • 補償能力の範囲内で被害を認定するという 倒錯 不作為の決定 問題の放置=不作為という決定 権力のもう1つの顔 不作為を正当化する根拠 社会的偏見(social bias) 何が当たり前か? 様々な社会的偏見 • 高齢者の介護を家族がするのは日本の 伝統か • 3歳までの子供は母親が面倒を見るべ きか • 少年犯罪が増えているので道徳教育が 必要か 平均寿命の変化 政策論議の前提を打破する 政治課題として認識させるための方 法 騒ぐ、暴れる 政治的法的手段を行使する 言論の力 福島の母親たち 付論 裁判の政治的意味 行政府、議会が問題を認識しない時、 裁判が政治的機能を持つ =政策形成型訴訟 公害 薬害 ・・・ 司法制度改革はどう影響するか? ②人は何を求めて政治に参加するのか ・儲からないが、必要なもの:公共財 ・世の中、特に市場の動きに任せてい てはうまくいかないこと ・人間の責任を超えた災難 リスク社会の政治 文明の進歩=リスクの増加 飛行機の安全性 薬の安全性 原発の安全性・・・ 誰が安全を確保するのか リスク概念の拡張 • 物理的リスク 自然災害 技術の高度化 • 社会的リスク 貧困、失業 育児、介護・・・ • 文明の発達は両方のリスクを広げる 誰がリスクを担うのか • 自己責任というモデル すべてを自己の選択とみなす ゆえにその結果は自分で背負え 一見所与の事柄も選択の結果 • リスクの社会化という発想 情けは人のためならず リスク転嫁とモラルハザード • 利益は自分に、リスクはみんなにという 誘惑 福祉の不正受給 バブル崩壊後の銀行救済 • 誰がどのように得をしているか見極める 必要 私利私欲と政治 政治において私利私欲を追求するこ とは悪か? 我田引水とエゴイズム Rent:市場に政策が介入するこ とによって発生する超過的利得 Free Rider の存在 部分と全体 部分を否定した全体はない 全体主義に陥る危険性 全体を否定した部分はない Not In My Back Yardの問題 =全体を称する側の身勝手 折り合いをつけるのが政治という活動 地域エゴという言葉 沖縄における基地 福島における原発 地元民が怒るのはわがままか? これらに依拠した他の日本人はわが ままではないのか? 全体の利益? • 18日、宮城県の村井嘉浩知事が記者会見で 、<米軍普天間飛行場移設に向けて名護 市辺野古の沿岸部でボーリング調査が始ま ったことについて「ベースにあるのは、全体 の利益のためだ。沖縄県民の皆さまも理解で きない部分があろうと思うが、協力していただ ければと思う」と述べた。>(琉球新報2014年 8月19日)。 改革と私益の追求 • 成長戦略という大義名分 • 「岩盤規制」というマインドコントロール • 残業代ゼロという政策は誰に何をもたらすの か、誰から何を奪うのか? • 公益の仮面をかぶった利己主義者たち 改革の推進者たち 改めて権利の概念を考える 「権利の過剰」という言説の誤り なぜ過労死やサービス残業がな くならないのか すべての人の権利を尊重する社会 特権の横溢する社会 Privilege 政治の力によって便宜的 に与えられた利益 現代社会において、privilegeは既得 権と化し、政治家や官僚はそれを守 ろうとする 例: 租税特別措置 ③政治における闘い 政治の世界には なぜ闘争がつきものか? 現実:権力の椅子は1つしかない 理念:理想は人によって異なる 保守主義 自然発生的秩序の尊重 伝統 市場 作為や介入に対する不信 人間の限界の自覚 進歩主義 人間理性への信頼 規範 計画と働きかけ 不条理との闘い 特に市場への介入 政治における対立軸 A:あるがままの世の中(自然発生) 対 B:あるべき世の中(作為と規範) A 保守(右派) B 進歩(左派) J.F ケネディ • 進歩主義の政治 貧困との戦い 黒人の解放 人類を月へ送る R.レーガン • 保守主義の政治 減税 規制緩和 グローバリズムの開始 アメリカ史のサイクル アーサー・シュレジンガーJr. • 理想主義と進歩主義の時代 1930年代 ニューディール 1960年代 人種平等 貧困との戦い • 現状肯定と保守主義の時代 1950年代 冷戦と反共主義 1980年代 市場万能と拝金主義 時代は変わった:退屈な政治? • 自由と民主主義の自明化 =「歴史の終焉」(フランシス・フクヤマ) • 経済におけるグローバリズム • ほかに選択肢はない=政党の収斂現象 There is no alternative. TINA • 民主的選択の無意味化 ギリシャ悲劇 民主主義は機能しているか 政治における対立の必然性 • 大政党の無力化、接近 • 既成政治を否定する新勢力の台頭 西欧:人種 税金 日本では? 西欧における極右政党の台頭 フランスにおける二大政党の苦戦 政治は違いを作れる 社会的支出 (対GDP%) アメリカ 14.8 ドイツ 27.4 スウェーデン 29.8 日本 16.9 成長率 格差 相対的貧困率 財政収支 (%) (ジニ係数) (%) (対GDP比%) 3.0 0.357 17.1 △2.8 1.2 0.277 9.8 △2.7 2.6 0.243 5.3 1.4 1.4 0.314 15.3 △6.7 社会的支出 社会保障、雇用、教育などの対人サービスのための支出 相対的貧困率 所得中央値の半分以下の所得しかない人の割合 ④政治過程の基本的枠組み 政治の登場人物 1 政党、政治家 権力の専門家 物事を決める みんなをまとめる 政治家の条件 マックス・ウェーバーの規定 『職業としての政治』(岩波文庫)より • 情熱 • 責任感 結果責任:責任倫理 • 判断力 心情倫理 政党の発展過程 • 政党の起源 かな結合 議会における緩や • 普通選挙と政党の組織化 • 社会主義と政党のイデオロギー化 政党の存在意義 なぜ政党は必要か? 現実: 持続的な多数派を作る その都度では面倒 党議拘束 理念: よりよい世の中のイメージ を共有 政党システム 1 二大政党制: 小選挙区制 階級対立の名残 2 多党制: 比例代表制 社会の多元性を反映 日本の場合 • 小選挙区制度の導入(1994) • 二大政党制と政権交代可能なシステムを作 るはずだった • 政党間の競争の実態:補完勢力の座をめぐ る争い 人はなぜ政党に不満を持つのか 政党を選ぶことの空しさ =欲しいものを買ったつもりだが、 欲しくないものも一緒に買わされる ≒福袋を買うこと 物事がすっきり決まらない いろんな人が雑居する 方便政党 特に日本の政党の問題 自民党 民主党 権力党 権力を唯一の接着剤に 方便党 小選挙区を生き残る互助会 日本の政党システム 2 官僚制 政策技術の専門家集団 =ある問題に専念する強さ 組織というパワー =個々の部品と機械の違い 官僚制の弱み • 組織の自己目的化 • 規則の自己目的化 =疑似目的への奉仕と目標の転移 • 内発的変化ができない 特に問われるのが緊急時 スポイルシステムとメリットシステム アメリカにおける官僚嫌い 政治指導者が自由にスタッフを任用 =revolving door ヨーロッパにおける官僚の伝統 =試験採用による職業的行政官 日本の近代化と官僚 富国強兵、殖産興業の人材育成 + 近代的公教育制度の整備 機会の開放と社会の平等化 学歴社会と試験競争 行政の中立性という観念 政策における価値と事実 価値: 政治の領域 国民の選択 事実: 行政の領域 客観性と専門性 民主制における官僚 行政は与えられた価値観のもとで政 策を立案する =どのような主人にも仕える =それ自身の価値観を持たない 専門家として高い能力を発揮する 官僚は本当に専門家か? 難しい問題に創造的な答えを出すよ りも、 今ある仕組みの中で世の中丸く収め るという発想が強い それでは外に通用しない 官僚主義と新自由主義 • 市場主義者は官僚が嫌いであるはず • 市場主義的改革と官僚主義の親和性 • 目標の転移という媒介 数値目標という呪縛 本来的機能を忘却 組織は人間を愚かにする 無責任の体系という病理 • 既成事実への屈服 • 主観的願望が不都合な事実を隠蔽する • 保身と権限の逃避 アイヒマンという問題 ユダヤ人虐殺に加担したアイヒマンに責任はあ るのか • 「あの当時は『お前の父親は裏切り者だ』と言 われれば、実の父親であっても殺したでしょう 。私は当時、命令に忠実に従い、それを忠実 に実行することに、何というべきか、精神的な 満足感を見出していたのです。命令された内 容はなんであれ、です。」(イスラエル警察の 尋問で) アイヒマン裁判 われらはみなアイヒマンの息子 • 彼らが自分自身をもはや機械の部品としてしか見なかった。 • 彼らは機械の存在とすぐれた機能を機械を正当化するもの だと誤解した。 • 彼らは幾重もの壁によって最終的効果から隔てられ、自分 の専門職の「囚人」であり続けた。 • 彼らはこの最終的効果が法外な大きさであるために効果を 想像することができず、また自分の仕事の間接性のために、 自分がその抹殺にかかわっている大量の人間を知覚できな いようになっていた。 ギュンター・アンダース より アマチュアと専門家の関係 • 専門家の傲慢がもたらした政策の失敗 • 専門家を否定する感情と反知性主義 • 市民と専門家のあるべき関係とは 宇沢弘文の社会的共通資本 • 社会的共通資本はいいかえれば、分権的市場経済制 度が円滑に機能し、実質的所得分配が安定的となる ような制度的諸条件であるといってもよい。・・・(それ は)決して国家の統治機構の一部として官僚的に管 理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件 によって左右されてはならない。社会的共通資本の各 部門は、職業的専門家によって、専門的知見に基づ き、職業的規範にしたがって管理・維持されなければ ならない。 『経済学は人びとを幸福にできるか』(東洋経済新報社、 2013年)215頁 3 圧力(利益)集団 政治家に圧力をかける:票と金 官僚に圧力をかける:天下り 特定の領域の利害関係者の利益を 追求する 利益団体が追求する利益 狭く、厚い利益 =関係者の生活がかかる 広く薄い利益 =みんなの利益は誰の利益でもない 公共利益団体public interest group 政治家はなぜ組織に弱いか 流動的な票はあてにならない いつも投票してくれる塊が有り難い 集団の限界と必要性 • 利益集団が既得権を維持することの弊害と 意義 JA 医師会 労働組合・・・ • 人間の居場所を提供することの意義 • サイバー空間での人間関係の限界 4 メディア 情報の媒介 商業メディアの問題点 売れる情報はよい情報か 売れなくても伝えるべき事がある メディアとステレオタイプ • 商品としてのステレオタイプ • ステレオタイプを強化する構造 =自己実現的予言 みんなをその気にさせるとそれを正当 化する情報ばかり集まる 新しいメディアの可能性 2008年米国大統領選挙 2011年中東革命 日本でも脱原発デモとsocial media 新メディアが市民の道具に 流れる情報の質をどう確保するか 5 市民 • 市民が持つ政治参加の制度的手段 投票 直接請求 リコール 条例制定 情報公開請求 • 非制度的手段 運動 デモ 発言 市民の力 • 市民の力を客観的に測定することは難しい • しかし、市民は無力ではない 例 寄付税制とNPO法改正の実現 民主党政権と市民活動の連携という教訓 民主主義は街頭にもある 新しい公共円卓会議 民主主義と風土from和辻哲郎 • 「「家」を守る日本人にとっては、領主が誰に 代わろうとも、ただ彼の家を脅かさない限り痛 痒を感じない問題であった。よしまた脅かされ ても、その脅威は忍従によって防ぎ得るもの であった。・・・ • それに対して城壁の内部における生活は、脅 威への忍従が人から一切を奪い去ることを意 味するがゆえに、ただ共同によって争闘的に 防ぐほか道のないものであった。だから前者 においては公共的なるものへの無関心を伴 った忍従が発達し、後者においては公共的な るものへの強い関心関与とともに自己の主張 の尊重が発達した。デモクラシーは後者にお いて真に可能となるのである。 コミットメントということ • 共産党の示威運動の日に一つの窓から赤旗 がつるされ、国粋党の示威運動の日に隣の 窓から帝国旗がつるされるというような明白 な態度決定の表示、示威運動に際して常に 喜んで一兵卒として参与することを公共人と しての義務とするごとき覚悟、それらはデモク ラシーに欠くべからざるものである。 6 政治過程のモデル 政治学にとっての永遠の課題 誰が支配しているのか? 物事はどのようにして決まるか? 寡頭支配というモデル パワーエリートという見方 力を持った者が決める 力の源泉は多くの場合、金 労働者派遣法の歴史 ▼1985年(昭和60年) 派遣法成立 • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に 関する法律(昭和六十年七月五日法律第八十八号) • 派遣の対象は「13の業務」のみ (ポジティブリスト) • その後、徐々に対象業務が増え、最終的には26の業務が対象となる。 ▼1999年(平成11年) 派遣法改正 • 除外業務以外は 派遣の対象業務とする (ネガティブリスト) ▼2003年(平成15年) 3月 要件緩和 • 医業関係の業務が部分的に認められた (「対象業務の拡大」参照) ▼2003年(平成15年) 改正派遣法 成立 16年3月1日施行されました • 期間要件等の緩和 ▼2007年(平成19年) 3月 • 製造派遣の期間延長 最長3年まで 日本経団連の政治献金 多元主義というモデル • 政治は一握りの支配者のものではない • 様々な集団がそれなりの影響力を持っている 例 原発再稼働 なぜもっと早く再稼働を決められなかったのか 為政者は世論、運動を無視できない 市民は無力か 政治における敗北の意味 • 市民運動は敗北の歴史 • 敗北は無意味か • 運動の成果は時間差を置いて現れる
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