跡見学園女子大学公開講座 春期教養講座 「日本再生の文化力」 日本人の競争意識と企業文化 -江戸から平成- 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2004年6月5日 要約 日本は開国以来経済競争を生き抜いて きた その文化的な要因-企業組織,競争形 態 競争と協調のダイナミックな変遷 国際的な比較,再生の手掛かり 競争は良いことだろうか? メリット,デメリットを考えて良いと 思う方,悪いと思う方を選んで ください. 世論調査報告概要平成13年2月調査 公正取引の確保に関する世論調査 「良いイメージ」とする者の割合が73.0% 「悪いイメージ」とする者の割合が15.0% 「わからない」と答えた者の割合が12.0% 「良いイメージ」とする者の割合は中都市 「悪いイメージ」とする者の割合は町村で,それぞれ 高くなっている 「良いイメージ」とする者の割合は男性の30歳代,50 歳代で高くなっている 「良いイメージ」とする者の割合は管理・専門技術・ 事務職 良いイメージを持つ理由 商品やサービスの値段が安くなるから 色々な種類の新しい商品やサービスが出てく るから 経済全体の活性化につながるから 店員の応対が良くなるといった付随的サービ スが期待できるから 悪いイメージを持つ理由 企業の倒産や失業が増えるから 大企業に有利だから もうからない地域や事業から企業が撤退する から 近所のお店がなくなって不便になるから 昔から日本人の競争観はこのような ものだったのか? そもそも competition=競争と翻訳 した人はだれだろうか? 福沢諭吉が翻訳 徳川政府の勘定方に頼まれて経済書の目録 を翻訳 競争に関する和語がなかったので「競い争う」 から案出 しかし,幕府の有力者はその言葉に注文を付 けた 幕府役人「イヤここに争という字がある、ドウ もこれが穏やかでない、ドンナことであるか」 福沢「どんなことッて、これは何も珍しいこと はない、日本の商人のしている通り、隣で物 を安く売ると言えば此方の店ではソレよりも安 くしよう、また甲の商人が品物を宜くすると言 えば、乙はそれよりも一層宜くして客を呼ぼう とこういうので、またある金貸が利息を下げれ ば、隣の金貸も割合を安くして店の繁昌を謀 るというようなことで、互いに競い争うて、ソレ でもってちゃんと物価も決まれば金利も決ま る、これを名づけて競争というのでござる」 幕府役人「なるほど,そうか西洋の流儀はキ ツイものだね」 幕府役人「何分ドウモ争いという文字が穏や かならぬ.これではドウモ御老中方へご覧に 入れることが出来ない」 「争」がなければ翻訳のしようもないので福沢 は競争の二文字を真っ黒に消して目録を提 出. 『福翁自伝』 福沢の渡米時の経験 今ワシントンの子孫はどうなっているか尋ね たところ 誰かの内室になっている様子だといかにも冷 淡な答え 「理学上のことには肝をつぶすことはなかっ たが,社会上のことについてはまったく方角 が付かなかった」 江戸の経済 武士が権力を握る.人口の5%で領地を所有 し武力を持つ. 百姓が人口の85%で農業が基幹産業. 越後屋の世界初定価販売「現金,安売り掛け 値なし」. 大坂堂島米会所で米の先物取引. 江戸の人口は100万人で世界最大. 高い識字率 近代的な経済に必須な3つの革命 市民革命 商工業・金融業をサポートする政府の誕生. フランス革命. 資本主義 勤勉と投資意欲. 産業革命 機械や動力を用いた工業. フランス革命と明治維新の類似 フランス革命時の貴族に対応する日本の階 級は何でしょうか? ブルジョワジーの日本に訳すと何? フランス革命の意義 市場経済が効率性を発揮するために 価格システム 所有権が付随した私有財産 職業選択の自由 移動の自由 経済学の誕生 「神の見えざる手」(アダム・スミス『国富論』) 我々が自分の食事を取るのは,肉屋や酒屋 やパン屋の博愛心によるのではなく,彼ら自 身の利害関心に対する彼らの関心によるの である. 「私人の悪徳は公共の利益」 (マンデヴィル『蜂の寓話』1714年) 近代的な組織の特徴 専門分化 官僚制 専門分化されたセクションを管理運営. 日々のルーチンワークを上手くこなす人々. 明治新政府の特徴 政府高官と政商の協力(癒着?) 擁護: 1.政府の周りに多くのビジネスチャンス 2.殖産興業 3.情報が政府に偏在 4.外国人排除政策 上からの資本主義としての批判 西郷隆盛の位置付け 実業家の思想 渋沢栄一 「道徳経済合一説」.私的利益よりも公的、国 家的利益を重視し数百にも及ぶ営利、非営 利団体の設立、運営. 松下幸之助 商売は、世の為人の為の奉仕にて、利益は、 その当然の報酬なり。 ルース・ベネディクト「菊と刀 」 アメリカ人,文化人類学者,戦争のための日 本研究. 日本人は従来常に何かしら巧妙な方法を工 夫して,極力直接的競争を避けるようにして きた.(p.179) 企業文化 1. 2. 3. 文化は企業の基本的な価値と信念を従業 員に伝達するシンボル. 価値観 行動規範 物の見方・感じ方 企業の中心的な価値を体現している人々を 昇進させる必要. 年功序列制の誕生 元は官僚の賃金制度 大正期の大企業・ホワイトカラーが発祥 職工・工員の多くは出来高払い 戦争中に工員不足 滅私奉公.契約や交渉はふさわしくない ブルーカラーにも勤続年数に応じて賃金支払 戦後の労働組合の高揚 ホワイト/ブルーカラーに同じ制度を採用 年功序列制の効果 若手社員の教育費用を会社が負担.最初は 賃金が低い. 最初は同期で差は余りない.年数に比例して 格差は拡大する.直接的な差を隠す. 同期の競争心をあおる制度. 年功制v.s.成果主義 成果主義とは,成果を測ってそれと連動させ て賃金を支払って動機付けを行うこと. リストラや賃金カットの論理として強力 本当に実施できるか? 年功制は姿を変えて存続し続けるだろう. アメリカの年功制の例. アメリカの家族主義的経営. 悪い協力 カルテル 企業が共謀して価格を設定すること 国際リジンカルテル FBIが隠し撮りする 暴かれた味の素/協和発酵らの謀議 入札談合 おわりに -新しい競争政策の潮流- 競争と協力の微妙なバランスを取るのが重要 規制緩和で競争の激化 公正な競争をどう確保するか 今後の独禁法の改定 課徴金の大幅引き上げ 減免制度 日本はグローバルな競争をどう生き抜くか
© Copyright 2024 ExpyDoc