良い組織とは② 動機づけ理論から考える 様々な(職務)動機づけ理論 • ハーズバーグの衛生理論(Herzberg, 1959) – 仕事に対する満足と不満足の背景は異なる – 満足をもたらす要因(動機づけ要因) • 仕事での達成感 • 昇進・責任 • 成長の実感 – 不満足をもたらす要因(衛生要因) • 給与の低さ,労働時間の長さ • 同僚との関係 • 仕事の安全面 様々な(職務)動機づけ理論 • マクレランドの達成動機理論(McClelland, 1961) – 仕事の動機づけを構成する3つの欲求に注目 – 達成欲求 • 仕事の達成や成功への欲求 – 親和欲求 • 職場での良い人間関係の構築を求める欲求 – 支配欲求 • 指導的立場,地位への欲求 – どの欲求が強いかにより仕事の適正が異なる 様々な(職務)動機づけ理論 • アトキンソンの達成動機理論(Atkinson, 1957) – 「期待-価値モデル」とも呼ばれる – 達成動機づけの強さを決める2つの変数 • 達成への接近傾向 –達成したいという気持ちの強さ • 失敗回避傾向 –失敗したくないという気持ちの強さ – 達成動機=達成への接近傾向-失敗回避傾向 様々な(職務)動機づけ理論 • 達成への接近傾向 – 達成欲求×主観的成功確率×成功の誘因価 – 達成欲求:物事を成し遂げようとする特性傾向 – 主観的成功確率:うまくいくという見込み(期待) – 誘因価:成功したときに感じる達成感(価値) • 失敗回避傾向 – 失敗回避欲求×主観的失敗確率×失敗の誘因価 様々な(職務)動機づけ理論 • 目標設定理論 – 好ましい目標の立て方を追求する理論の総称 – 目標の内容(内訳)に着目した理論 • 古くはマレーの社会的動機リスト(Murray, 1964) • フォードらによる生活目標リスト(Ford & Nichols, 1987) –6カテゴリー24種の目標に分類 マレーの欲求リスト 1. 服従:外的な力に受動的に服従する 2. 達成:難しいことを成し遂げる 3. 親和:味方に近寄り協力したり好意を交換する 4. 攻撃:力ずくで反対を克服する 5. 自律:束縛を振り切り監禁から抜け出す 6. 中和:失敗を克服し,つぐなう 7. 防御:暴力・批判・非難から自己を守る 8. 恭順:優れた者に敬服し支持する 9. 支配:自分をとりまく環境を統制する 10. 顕示:印象づける マレーの欲求リスト 21. 傷害回避:苦痛・病気・死を回避する 22. 屈辱回避:屈辱を回復する 23. 養護:無力な者に同情と満足を与える 24. 秩序:ものを整然とさせる 25. 遊戯:面白さを追求する 26. 拒絶:負のエネルギーが満ちた相手から遠ざかる 27. 感性:感性的印象を求め楽しむ 28. 性:性的関係を形成し促進する 29. 求護:味方の同情的な助けを借りる 30. 理解:質疑をする フォードらの生活目標リスト 1.情緒的目標 – 覚醒:興奮することを求める – 平穏:リラックスした状態を求める – 幸福:喜びや満足を求める – 身体感覚:身体的な快楽を求める – 身体的健康:健康を追求する フォードらの生活目標リスト 2.認知的目標 – 探求:興味のあることを追い求める – 理解:新たな知識を得る – 知的創造性:自分独自の考えを持つ – 肯定的自己評価:価値ある人間と思えることを追求 3.主観的組織感目標 – 統一感:一貫した気分や行動をとる – 超越感:優れた才能を持っている感覚を求める フォードらの生活目標リスト 4.自己主張的な社会関係目標 – 個性:他者とは異なる言動をする – 自己決定:自分の自由に選択する – 優越性:他者よりも優れる – 資源の獲得:他者からの承認や支持を得る 5.統合的な社会関係目標 – 所属感:他者との関係を大切にする – 社会的責任:社会における役割を果たす – 公平:他者と公平・平等であることを追求する – 資源の供給:他者の支えとなる行動をする フォードらの生活目標リスト 6.課題目標 – 熟達:より高いレベルのことを追い求める – 課題創造性:創造性にあふれる活動をする – 管理:自らの行動をしっかり管理する – 物質的利益:様々な財産を増やすよう努める – 安全:自らの安全を追求し、リスクを避ける 様々な(職務)動機づけ理論 • 特定の目標の性質に着目した理論 – 代表的な変数 – 目標の困難度 • 適度に困難な目標を設定した場合に高い遂行 • 難しすぎず,易しすぎない • 参照)学習性無力感 – 目標の具体性 • 具体的な目標を設定した場合に高い遂行 • 「最善を尽くす」より高い遂行 • 参照)スモールステップ 様々な(職務)動機づけ理論 • 特定の目標の性質に着目した理論 – ドゥエックの達成目標理論(Dweck, 1986) • 達成場面において設定される目標を大別 – マスタリー目標(mastery goal) • 「学習目標」とも • 自分の能力を伸ばすことを目標とする • 努力により能力は伸びるという価値観に基づく – 遂行目標(performance goal) • 見かけの成績は良いものをとろうとする • 能力は不変であるという価値観に基づく 様々な(職務)動機づけ理論 • 達成目標理論 – その後,遂行目標は接近型と回避型に区分 (Elliot & Church, 1997) – 遂行接近目標 • 他者より良い成績をとろうとする – 遂行回避目標 • 他者より悪い成績をとらないようにする – 3種の目標の中ではマスタリー目標が適応的 • 効率的な方略の使用を促す • 失敗を成功のための手がかりと捉える 様々な(職務)動機づけ理論 • マグレガーによるXY理論(McGregor, 1960) – 管理者の人間観を2種に大きくタイプ分け – マズローの欲求階層説をベースとする 5.自己実現の欲求 4.承認の欲求 3.所属と愛の欲求 2.安全の欲求 1.生理的な欲求 様々な(職務)動機づけ理論 • マグレガーによるXY理論 – X理論(と呼ばれる価値観) • 人は働くことが嫌いな生き物である • 仕事をさせるには強制や罰による管理が必要 • 人は指示されることを好み,責任を避ける – Y理論(と呼ばれる価値観) • 人にとっての仕事は遊びと同じようなもの • 組織の目標に賛同すれば人は自ら努力する 様々な(職務)動機づけ理論 • マグレガーによるX理論・Y理論 – マグレガ-はY理論の見方を重視 • X理論に基づく管理では,「安全の欲求」しか 満たせない – ⇒ 個人の自発的な努力を導く管理行動が必要 – しかし現実的にはX理論が効果を発揮する場も – 自己決定理論とも共通する考え方 様々な(職務)動機づけ理論 • ライアンとデシによる自己決定理論(Ryan & Deci, 2000) – 3つの生得的な心理的欲求を仮定 1. 有能さへの欲求(need for competence) • 環境と効果的に関わる能力 2. 関係性への欲求(need for relatedness) • 他者やコミュニティと効果的に関わる能力 3. 自律性への欲求(need for autonomy) • 自分で行動を起こそうとする傾向 – 3つの条件が同時に満たされる環境が大切 – そうした環境の中で人は意欲的になり,成長する 様々な(職務)動機づけ理論 • 自己決定理論 – デシらは特に自律性を重視=自己決定 – 動機づけを自律性の程度で分類 • 外発的と内発的を連続するものととらえる 非動機づけ 外的動機づけ 非自律的 外発的 取り入れ的動機づけ 同一化的動機づけ 内発的動機づけ 内発的 自律的 様々な(職務)動機づけ理論 1. 外的動機づけ – 例)勉強しないと親に叱られるから – 他者からの強制がはたらく – 実行しないと罰せられる(負の強化) 2. 取り入れ的動機づけ – 例)単位を落としたくないから – 失敗を回避するという消極的な理由 様々な(職務)動機づけ理論 3. 同一化的動機づけ – 例)就活で有利になるため – 何らかの利益を獲得する手段としてとらえる • 以上3種の動機づけを外発的動機づけと総称 4. 内発的動機づけ – 例)授業内容が面白いから – その行動自体が面白く,興味があるという理由 成果主義による動機づけ • 成果主義とは – 「成果報酬制度」「業績評価制度」とも – 一定期間の業績を賃金に反映させる制度 – 90年代後半から導入企業が増加 – バブル崩壊による日本経済の停滞 – 終身雇用・年功賃金からアメリカ型の賃金制度へ • 業績評価制度の導入状況(厚労省・就労条件総合調査) – 平成24年時点で約36%の企業が導入 – 平成22年45.1%,平成19年45.6%,平成13年65.0% 成果主義による動機づけ • 従業員の捉え方 – 2005年日本能率研究所『成果主義に関するアンケート』 成果主義による動機づけ • 動機づけ理論に基づく成果主義のとらえ方 – 西川(2005)による論考 – 成果主義は賃金の報酬価を高める • 道具的(オペラント)条件づけの影響が強まる • 正の強化子の側面と負の強化子の側面 成果主義による動機づけ • 衛生理論に基づくと・・・ – 賃金制度は衛生要因に属する – →職務満足を高める効果は薄い – 「成果」の判断の難しさ • 何を成果とみなすのか,評価の妥当性 • → 不満足を高めるリスクの方が大きい 成果主義による動機づけ • 自己決定理論に基づくと・・・ – 賃金は外発的な要因 • →内発的動機づけの高まりにはつながらない – 動機づけのレベルを低めてしまうリスク • 高い賃金を得るために働く • → 賃金を減らされるのを回避するために働く • アトキンソンの達成動機づけ理論に基づくと・・・ – 賃金を減らされるかもしれない可能性 – →失敗の誘因価を高める – →達成動機づけを低める
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