心電図勉強会 第1回 心電図の原理と正常心電図 平成20年度 鉄門癌の会勉強会 担当:候 聡志 今日の目標 心電図とは何かが分かる。 心電図の原理が分かる。 正常心電図と異常心電図の見分けがつく。 目次 Ⅰ.心電図とは? Ⅱ.心電図の測定法 Ⅲ.正常心電図の読み方 心電図とは? 心電図って何? →心臓の電気的活動を記録したものです! 心臓の電気的活動って? →心臓は電気によって動いています。 (詳細は次のスライド以降で) 心臓の電気的活動(心室筋) 細胞外 + Na+ K+ Na+ K+ 細胞内 - 静止状態では、 +が多く、 心筋細胞内はK 2+ Ca 細胞外液はNa+が多い。 心臓の電気的活動(心室筋) 細胞外 ー Na+ K+ Na+ K+ 細胞内 + 刺激が生じると、 +が細胞内に流入 Na 2+ Ca → 脱分極 心臓の電気的活動(心室筋) 細胞外 ー Na+ K+ Na+ K+ 細胞内 + Na+に引き続き、 2+が細胞内に流入 Ca 2+ Ca K+が細胞外に流出 心臓の電気的活動(心室筋) 細胞外 + Na+ K+ Na+ K+ 細胞内 ー K+が細胞外に流出して、 Ca2+ 細胞内は再び-に。 → 再分極 心臓の電気的活動(刺激伝導系) → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 心電図とは(その2) 心電図はどうやって電気的活動を記録し ているの? →2点(あるいは3点以上)間の電位差を記 録しています。 心臓の電気的活動(刺激伝導系) ー 刺激が誘導に向かって進 むとき、電流計は(正を 記録して)上方へのゆれ を記録する 進行方向は+(陽性波) 逆側は-(陰性波) + 心臓の電気的活動(簡略図) + - + - + - + - - + + - - + + - - + + - - + - + - + - + 刺激が伝わらないと き、電位差はゼロ 心臓の電気的活動(簡略図) - 刺激が伝わると、 脱分極により 電位差が発生。 - + - + - + + + - + - + - + - + - + - - - + - + - + - + + 心臓の電気的活動(簡略図) - + - + - + - + + - - + + - - + + - - + + - + - + - + - 脱分極が完了すると、 電位差ゼロ 心臓の電気的活動(簡略図) - 再分極により 電位差が発生。 - + - + - + + + - + - + - + - + - + - - - + - + - + - + + 心臓の電気的活動(簡略図) + - + - + - + - - + + - - + + - - + + - - + - + - + - + 再分極が完了すると、 電位差はゼロ PQRST R P波:心房興奮 QRS波:心室興奮 ST部:心室興奮極期 T波:心室興奮の消退 P T Q S 第1章のまとめ 心電図とは、心臓の電気的活動を記録したも の。 正確には、電位差を記録する。 興奮が向かってくる場合、心電図は+。 波にはP、Q、R、S、Tといった名前が付けら れている。 心電図を見てみると・・・ 心電図の12誘導 何かいっぱい波がある! →心電図には普通、12の誘導(電位差を測る 方法)がある。 誘導って何? →心臓の電気現象を探る様々な方向からの 視線に相当する。12という数は多すぎず、 そして心臓全体の電気現象(大事な所見) を把握するのにちょうどよい。 心電図の12誘導 心電計は12の異なる視点からのイメージを作 り、そして心臓の電気現象を目に見える形に したのが心電図である。 12個もあってもよく分からない・・・ → 一つずつ見ていけば大丈夫! 電極の取り付け(四肢誘導) 右手、左手、左足に電極を つける。 → 各電極間で電位差を 測定する。 四肢誘導(標準肢誘導) Ⅰ Ⅰ誘導:右手→左手 (心電図上には左手の電極の 電位から右手のそれを差し引 いた波形が記録される) Ⅱ Ⅲ Ⅱ誘導:右手→左足 Ⅲ誘導:左手→左足 四肢誘導(増高肢誘導) aVR aVL aVR: → 右手 aVL: → 左手 aVF: → 左足 aVF 四肢誘導 aVL aVR Ⅰ Ⅲ aVF Ⅱ 電極の取り付け(胸部誘導) 胸部には6つの電極 をつける 右から順に、V1~V6 赤・黄・緑・茶・黒・紫 (あきぐちくん) 胸部誘導 結局、それぞれの誘導の視線って何? ・6つの肢誘導(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,aVR, aVL,aVF)は皆、四肢から得ら れた情報を組み合わせて作られ るのだが、これは前額面に沿った 視線から心臓を見ていることにな る。(例えばaVR は右肩,aVL は 左肩,そしてaVF は足元からそれ ぞれ心臓を見上げている) ・これに対して、胸部誘導( V1~ V6 )は前胸部から 側胸部にかけて心臓を水平面に沿って見ていること になる。つまり、それぞれの誘導は異なった角度(視 線)から心臓を見ているのである 正常心電図の一例 第2章のまとめ 心電図には12の誘導(電位差の測定方法)が ある。 誘導には四肢誘導と胸部誘導がある。 四肢誘導にはⅠ、Ⅱ、Ⅲ、aVR、aVL、aVFが ある。 胸部誘導にはV1~V6がある。 正常心電図 心電図のチェック事項 1.調律、心拍数 2.P波 3.PQ時間 4.QRS群 5.ST-T 6.QT時間 調律 洞結節がペースメーカとなっている調律を 洞調律という。 洞調律の判定法 正しくP波とQRSが対応しているか? (全ての誘導でP波の次にQRSが続く。また、 各誘導でのP波は一貫して同じ形であること を確認する) P波がⅠ,Ⅱ誘導で陽性か? 刺激伝導系とPQRSTを対応させると・・・ 調律 Ⅰ Ⅱ P波とQRSが対応してい るか? →対応している P波がⅠ,Ⅱ誘導で陽性 か? →陽性 心拍数 正常心拍数は60(50)/分以上、100/分未満 60(50)/分未満を徐脈、100/分以上を頻脈と いう。 心拍数は60/RR間隔(mm)×0.04(秒)で 求めるが、RR間隔に大きな変動があるとき は最長と最短のRR間隔から求めて「心拍数 は○○~○○/分である」とする 心拍数を簡単に把握したい! 縦軸:電圧 1mm(1目盛)= 0.1mV 横軸:時間 1mm = 0.04秒 心拍数 300 150 100 75 60 心拍数 = 約60/分 P波の成り立ち 水平断面上の心房興奮ベクトル 左房拡大の心電図所見(P波) Ⅱで幅が延長し、 V1で陰性部分が 深くなる。 右房拡大の心電図所見(P波) 右房拡大→Ⅱで増高、尖鋭化。 正常Pの判定法 Ⅱで幅3mm(0.12秒)未満、高さ2.5mm未満 V1で陰性部分0.04mm・秒未満 P波 Ⅱ誘導 幅 = 0.08秒 高さ = 1.5mm V1誘導 陰性部分 = 0.02mm・秒 PQ時間 PQ時間は房室伝導時間を表わす。 正常PQ時間の判定 3mm(0.12秒)以上5mm(0.20秒)未満 (0.22秒くらいでも可) 他の伝導時間に比べるとちょっと遅いけど、 そこに意味がある PQ時間 PQ時間 = 0.18秒 Ⅱ誘導 QRS群 正常QRS群の判定法 電気軸は正常か? 異常Q波はないか? QRS時間は正常か? R波の増高は正常か? 左室高電位はないか? QRS群(電気軸) 電気軸とは、心臓の電気的活動の方向を平均 したもの。 電気軸の正常範囲は-30゜~+110゜ 正常電気軸の判定法 Ⅰ、aVFでQRSの振れ(振幅の和)が正 QRS群(電気軸) Ⅰ、aVFが+ →正常範囲 Ⅰが-、aVFが+ →右軸偏位 Ⅰが+,aVFが- →左軸偏位 注意! 正常では電気軸は左下を向き、心臓の解剖学 的位置と似ており、電気軸をみることで心臓の 位置が立っているか(右軸偏位)、横に寝ている か(左軸偏位)をある程度判断するようになって いる。しかしあくまで電気軸は心電図上の所見 であり、実際の心臓の位置を正確に示している ものではない。 電気軸は年齢と共に右軸方向から左軸方向へ と変異していく。 QRS群(電気軸) Ⅰ誘導 aVF誘導 QRS群(異常Q波) 壊死した心筋は電気的に不活性 →正常に伝導が伝わらず、結果的に電気的 変化のベクトルが乱れて異常Q波が発生 異常Q波の判定 異常Q波は、幅が0.04秒以上、深さがR波 の1/4以上(aVRは除く) Ⅲ、aVL、V1には、単独で異常Q波があっ てよい。 QRS群(異常Q波) Ⅰ aVR V1 V4 Ⅱ aVL V2 V5 Ⅲ aVF V3 V6 QRS群(QRS時間) 心室内で伝導障害により、QRS時間は延長。 正常QRS時間の判定(@Ⅱ誘導) QRS時間 ≦ 2.5mm(0.10秒) QRS群(QRS時間) QRS時間 = 0.06秒 Ⅱ誘導 QRS群(R波の増高) 胸部誘導では、右側(V1)から左側(V5、V6) に行くにつれ、R波が増高する。 R/S比が<1から>1に変化する部位を移行 帯という。 正常R波の増高の判定 R波が左側に行くにつれ、漸次増高。 移行帯がV2-3~V4-5 QRS群(R波の増高) V1 V4 V2 V5 V3 V6 R波の増高は? →漸次増高(正常) 移行帯は? →V4-5 QRS群(左室電位) 左室肥大、肥大型心筋症等で、左室側誘導 (V5、V6)のR波が上昇する。 正常左室電位の判定 SV1+RV5 < 35mm RV5 < 26mm (RV6 < 20mm) QRS群(左室電位) V1 V5 V6 SV1 + RV5 = 16mm RV5 = 9mm RV6 = 7mm ST-T ST-Tは心室の再分極過程を表わす。 正常では、STは等電位線あるいはPQ部分に 一致し、上昇も下降もしない。 但し、右側胸部誘導や早期再分極例では正常 でもST上昇がみられうる T波はQRSと同じ向き。 正常ST-Tの判定 STの上昇、下降がない。 T波はⅠ、Ⅱ、V3~V6で陽性。 高さは12mm未満かつ R波の1/10以上。 ST-T STの上昇、下降は? → ない。 Ⅱ誘導 ST-T Ⅰ aVR V1 V4 Ⅱ aVL V2 V5 Ⅲ aVF V3 V6 QT時間 QT時間は心筋の収縮時間を表わす。 電解質異常や薬剤などが原因で、QTが短縮・ 延長することがある。 正常QT時間の判定 QTc = QT/√RR = 0.35 ~ 0.44 T波の終点がRRの1/2を越えればQT延長 QT時間 RR QT T波の終点がRRの 1/2を越えているか? →越えていない 第3章のまとめ(その1) 調律、心拍数 →PとQRSが対応、P波はⅠ、Ⅱで正 →心拍数は60(50)~100/分 P波 →Ⅱで幅3mm(0.12秒)未満、高さ2.5mm未満 →V1で陰性部分0.04mm・秒未満 第3章のまとめ(その2) PQ時間 →0.12秒以上、0.20秒(or 0.22秒)未満 QRS群 →電気軸が正常、異常Q波がない。 →QRS時間<0.10秒 →R波の増高が正常 →SV1+RV5 < 35mm RV5 < 26mm、 (RV6 < 20mm) 第3章のまとめ(その3) ST-T →STの上昇、下降がない。 →T波はⅠ、Ⅱ、V3~V6で陽性 高さは12mm未満かつ R波の1/10以上 QT時間 →T波の終点がRRの1/2を越えない。 参考文献 去年度「癌の会心電図勉強会」スライド http://www.cardiac.jp/ 心電図の読み方パーフェクトマニュアル(羊土社) 心電図のABC(日本医師会発行) 心電図を学ぶ人のために(医学書院) わかりやすい心電図の読み方(Medical View) 不整脈 ベッドサイド診断から非薬物治療まで (医学書院)
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