防災ゲーム「静大版クロスロード」の開発小山研究室３０５１－６０１２小柳優里「クロスロード」とは？ ① 机上訓練型のゲーム。基本的に５人１組で実施。トランプ大のカードに災害で起こるさまざまなジレンマ状況が記されており、プレーヤは「イエス」または「ノー」で二者択一の選択肢のどちらかを選ぶ。通常、多数派の意見であったプレーヤがポイントを獲得する。ただし、グループの中でただ１人別の意見だった場合は通常の多数派ではなく、少数意見のプレーヤがポイントを獲得する。現在公表されているものは、地方自治体の職員を主人公とし災害対応におけるジレンマを問題としている「神戸編・一般編」、市民を主人公とし災害への備えを議論できるようなジレンマを問題としている「市民編」がある。 ② 研究目的静岡大学がある静岡県は、東海地震の被害を多大に受ける可能性が極めて高い地域であるが、もう30 年も何も起きないまま過ぎており、学生の危機管理・危機意識はないも同然。地震に対する知識にも乏しい。しかし、東海地震は必ず起こる。そうした学生達に正しい知識を身につけさせ、危機意識を持ってもらうためには、ゲームのような身近で気軽にできるものが適切である。しかも、現存のクロスロードにはない東海地方なりの地域性がある方が、学生の身にも役に立つはず。 ③ 研究方法静大版クロスロード実施後にアンケートを書いていただき、それを集計する。集計後の結果から、学生が深く悩んだジレンマや興味を持ったジレンマなどを選別して、完成版を作成していく。また、クロスロードのファシリテータ（指導者）としての技術も磨くため、研修会へ行く。実施した問題一覧カード番号人物設定問題内容 1 妻と２人の子供をもつ会社員アパートから引っ越すか 2 静大生観測情報と試験 3 静大生注意情報とバイト 4 漁船組合員警戒宣言と津波 5 病院関係者警戒宣言と仕事か家族か 6 静岡県知事警戒宣言を注意情報に交通機構と交渉 7 富士山麓の市町村長警戒宣言と避難所移動 8 村長原発の建設に合意するか 9 ホテル支配人防波堤か景観か 10 県外へ帰省中の静大生観測情報とデート 11 静大生注意情報で実家に戻るか 12 コンビニ店長警戒宣言と営業継続 13 会社員地震発生後に安倍川を渡るか 10月21日に実施した問題：１，６，７，８，９，１０，１１，１２，１３ 11月8日に実施した問題：１，２，３，４，５，６，（７は「現代防災科学」講義受講生のみ） ④ 「クロスロード」（静大編１）  あなたは…妻と２人の子どもをもつ会社員…です．狭いアパート暮しはもう限界．資金が貯まったので，勤め先のある静岡市内に自宅を購入しようと思い立ちました．しかし，妻は東海地震が起きてから買うべきと反対です．気にせず家を買う？ＹＥＳ（買う）ＮＯ（待つ）「クロスロード」（静大編２）  あなたは…静大生…です．朝起きたら，東海地震観測情報が発表されたとのニュース．しかし，今は大学の試験期間中．しかも今日の試験を落とすと卒業が危ない．大学に行きますか？ＹＥＳ（大学に行く）ＮＯ（行かない）「クロスロード」（静大編３）  あなたは…静大生…です．東海地震注意情報が発表されたため，大学は休講になった．しかし，バイト先の店舗は平常通り営業している．バイトを休まず働きますか？ＹＥＳ（働く）ＮＯ（当分休む）「クロスロード」（静大編４）  あなたは…静岡県沖で操業中の漁船乗組員…です．警戒宣言発令．東海地震が起きると津波が発生するから，沖に留まる方が安全．しかし，自宅にいる家族のことが心配．危険を承知で港に戻る？ＹＥＳ（港に戻る）ＮＯ（沖に留まる）「クロスロード」（静大編５）  あなたは…病院関係者…です．警戒宣言発令．外来診療は停止したが，入院患者の移送などで多忙．しかし，自宅には高齢の親と二人の子どもがいる．できれば欠勤したいが，どうするか？ＹＥＳ（欠勤する）ＮＯ（欠勤しない）「クロスロード」（静大編６）  あなたは…静岡県知事…です．警戒宣言発令．ところが地震が発生しないまま，３日後に注意情報のレベルに戻った．新幹線と高速道路が再開されたが，沿線住民から「恐ろしいので止めてほしい」との要望が殺到．ＪＲや高速道路会社と交渉するか？ＹＥＳ（交渉する）ＮＯ（様子を見る）「クロスロード」（静大編７）  あなたは…富士山麓の市町村長…です．警戒宣言が発表され，多数の住民が避難所に避難．ところが，富士山の火山活動が活発化しているとの報道．万一に備えて富士山寄りの避難所の使用を禁止する？ＹＥＳ（禁止する）ＮＯ（様子を見る）「クロスロード」（静大編８）  あなたは…村長…です．村の海岸に原子力発電所の建設話が舞い込んだ．過疎化と赤字に悩む村にとっては願ってもない話．しかし，村は東海地震の予想震源域内にある．建設に合意する？ＹＥＳ（合意する）ＮＯ（反対する）「クロスロード」（静大編９）  あなたは…ホテル支配人…です．ホテルは砂浜に面し，海水浴客に人気．しかし，東海地震の津波対策のため，高さが10ｍもある防潮堤が海岸に作られることになった．そんなことをしたら海岸の景観が台無し．防潮堤の建設に合意する？ＹＥＳ（合意する）ＮＯ（反対する）「クロスロード」（静大編１０）  あなたは…静岡県外に帰省中の静大生…です．朝起きたら，東海地震の観測情報が発表とのニュース．しかし，今日は静岡に戻って彼女（彼）とデートの約束．予定通り静岡に戻る？ＹＥＳ（戻る）ＮＯ（様子を見る）「クロスロード」（静大編１１）  あなたは…静大生…です．大学で講義を聞いていたら，東海地震注意情報が発令されたため，授業が休講になりました．バスや電車はまだ動いているそうです．当分の間，実家に戻ることにしますか？ＹＥＳ（実家に戻る）ＮＯ（戻らない）「クロスロード」（静大編１２）  あなたは…コンビニ店長…です．警戒宣言発令．ただちに東京の本社から一時閉店の指示が来た．しかし，すでに地域住民が殺到．いま閉めるとかえって混乱を招いて事故が起きるかもしれない．ここは独自判断で営業を続ける？ＹＥＳ（営業継続）ＮＯ（閉店する）「クロスロード」（静大編１３）  あなたは…会社員…です．車で帰宅途中に東海地震発生．貴方は幸い軽いケガで済みました．しかし，行く手にある安倍川の橋が倒壊して自宅に戻れません．道路は大渋滞．幸い水量はなく，川は徒歩で渡れそうです．川を渡る？ＹＥＳ（渡る）ＮＯ（渡らない）研究成果１１０月２１日に「現代科学実験」の講義内で、クロスロードを実施した。対象者は総合科学専攻１年生２９名と他1名。アンケート結果１－１他の参加者の「決定」および、その理由・根拠に関して、あなたが最も強く「なるほど」と感じた問題はどれか、という質問に対し、6番の問題を選んだ人が１番多い。理由としては「JRや高速道路会社と交渉して拒否されても、その理由を住民に説明すれば知事としての役目を果たしたことにはなるという意見に納得した。交渉したら一応は住民の意見を聞いて行動を移したことになる。」という意見や、「交渉というのは『STOPさせる』ことだけが交渉なのではなく、『速度を落とす・他の交通手段を確保させる』という交渉もある」という意見が多かった。「なるほど」と感じた問題のカード番号人数 (計30人) 6 6 13 4 1 3 7 3 10 3 4 2 8 1 9 1 11 1 アンケート結果１－２１．ゲームは楽しかったですか？どちらかといえば楽し 3% くなかった楽しくなかった 0% ２．ゲームは有意義だったと思いますか？どちらかとい 7% 0% 有意義ではなかったえば有意義ではなかった 27% 23% どちらかといえば楽しかった楽しかった 70% どいらかといえば有意義だった有意義だった 70% ゲーム自体は「楽しかった、有意義だった」という感想が多く、素材として申し分ないことがわかる。アンケート結果１－３３．防災への理解は深まりましたか？どちらかと深まらないえば深ま 10% 0% かったらなかった 37% どちらかといえば深まった４．一つの問題に多様な考えがあると感じましたか？どちらかといえば感じた 20% 0% どちらかといえば感じなかった 0% 感じなかった 53% 深まった感じた 80% ３の問いでは、「どちらかといえば深まった」という意見が他の問いと比べても多く、知識面の補足や説明が足りなかったと思われる。４の問いでは、多様な考えがあると感じた人がほとんどだったので、問題の傾向としては狙い通り。アンケート結果１－４５．「正解」をYESかNOのどちらかに確定する必要があると思いますか？必要はない 17% どちらかといえば必要はない 27% 必要がある 23% どちらかといえば必要がある 33% ５の問いでは意見が分かれた。「必要がある」と答えた人は、家族との意見の一致はいざという時なくてはならないと考え、「必要はない」と答えた人は、置かれた状況下によって判断は変わってくるものなので確定する必要はないと考えていた模様。研究成果２ 11月8日の静岡大学全学防災訓練にて「静大版クロスロード」を実施した。対象者は教育学部４２５名（「現代防災科学」受講生は44人）、人文学部217名、農学部約50名、理学部約200名。「現代防災科学」授業内アンケート結果２－１他の参加者の「決定」および、その理由・根拠に関して、あなたが最も強く「なるほど」と感じた問題はどれか、という質問に対し、6番の問題を選んだ人が１番多い。これは、10月に実施した時と同じ結果である。「なるほど」と感じた問題は？ 1 無回答 5 カード番号 7 19 6 6 5 1 4 2 2 3 2 7 1 0 5 10 人数 15 20 アンケート結果２－２１．ゲームは楽しかったですか？どちらかといえば楽しくなかった楽しくなかった 7% 2% 34% どちらかといえば楽しかった楽しかった 57% ２．ゲームは有意義だったと思いますか？どちらかといえば有意義でなかった 11% どちらかといえば有意義だった 36% 2% 有意義でなかった有意義だった 51% 10月に実施した時と比べると、「どちらかといえば楽しかった・有意義だった」という意見が増えている。これは、ゲームにかけられる時間が少なかったために、問題数を減らしたり、討論の時間を短くしたためだと思われる。アンケート結果２－３３．防災への理解は深まりましたか？どちらかといえば深まらなかった14% どちらかといえば深まった 0% 深まらなかった４．一つの問題に多様な考えがあると感じましたか？ 2% 無回答感じなかった 0% どちらかといえば 7% 感じなかった 39% 深まった 30% どちらかといえば感じた感じた 61% 47% ３・４両方の問いに言えることだが、10月実施分の結果と比べて「どちらかといえば深まった・感じた」という意見が多い。この要因も前述と同じく、ゲームにかけられる時間が少なかったことが挙げられる。アンケート結果２－４５．「正解」をＹＥＳかＮＯのどちらかに確定する必要があると思いますか？無回答5% 11% 必要がある 27% 必要はないどちらかといえば必要はない 18% どちらかといえば必要がある 39% ５の問いではまたしても意見が分かれた。10月実施分と比べ「必要はない」と答えた人の割合が高くなっている。置かれた状況下によって判断は変わってくるものなので確定する必要はないと考えていた模様。結論最も強く「なるほど」と感じた問題は？という問いに対し、6番の問題を選んだ人が全体の約 2割いたので、問題として良質であり、かつ危機意識の植え付けに適当であると考え、6番の「静岡県知事警戒宣言を注意情報に交通機構と交渉」の問題は採用する。今後の課題アンケートの集計を進めるアンケートの結果から考察し、より適切な問題を選別する知識面の補足・説明の方法を考える。