平成20年度山形大学学務部新規採用職員研修会 社会人基礎力とEQ マネージングプロフェッサー 研究プロジェクト戦略室 教授 山崎淳一郎 2008年4月10日 1 山崎プロフィール 大阪大学採用 工事経理/物品調達業務 約5年 放送大学学園 学生募集/入学手続/カリキュラム改革 約3年 山形大学総務課長 2年 工学部入試合否判定過誤問題/法人化対策 東京大学学務課長 2年 大学院制 度/大学院入試/附属中等教育学校 国立大学協会 の社団法人化/海洋研 研究船・乗組員移管問題 山形大学研究プロジェクト戦略室教授 2年 科研費等外部資金の獲得/研究戦略/ミスコンダクト防止対策/ 山形大学版国際化推進プログラム(若手教員海外研修)制度化 文部省/文部科学省 初等中 等教育局 学習指導要領改訂/高校修業年限弾力化 大臣 官房 国会連絡調整/広報・広聴 高等教 育局 看護医療系大学・大学院設置/指定基準改定 研究振 興局 科研費不正対策/学会事務センター破産処理 2 大学職員の使命① 大学の資産(教育研究資源)を投入し、商品である学生の資 質・能力の高付加価値化を実現し、社会・企業に実装(還元) すること。 具体的には…社会・企業が求める質の高い人材をいかに育 成するか? 幅広い教養や専門知識を教授するのは教員の仕事だが、社 会人として必要な素養・能力は学生と日々接する職員がコ ミュニケーションを通じて伸ばすことができるのではないか? 3 大学職員の使命② 大学職員がそうした学生サポートをしていくためには、 何が必要か? 社会・企業が学生に求める資質・能力とは何か? 学生がその資質・能力を獲得するためには、私たち は何ができるのか? 4 「結城プラン2008」を見ると… 基本方針 ①何よりも学生を大切にして、学生が主役となる大学創りをする。 ②教育、特に教養教育を充実させる。 行動計画 ○「教育」を学生中心のものに改革する。 ○「学生支援」充実させる。 プラン〔教育〕 教養教育の再構築 ○人間力や社会人基礎力を育む教養教育の構築 5 社会人基礎力とは? 多様な人々とともに仕事を行っていく上で必 要な基礎的な能力 6 社会人基礎力と学力・知識との関係 基礎学力・専門知識に加えて、それを活かす力 基礎学力 読み、書き、算数、 基本ITスキル等 社会人基礎力 課題解決力、実行力、 チームワーク等 主に小・中・高校 で獲得 専門知識 仕事に必要な知識や 資格等 主に大学で獲得 人間性、基本的な生活習慣 思いやり、公共心、倫理観、基礎的なマナー、身の回りのことを自分でしっかりとやる等 資料:経済産業省・社会人基礎力に関する研究会「中間とりまとめ」 7 社会人基礎力 3つの能力と12の構成要素 前に踏み出す力=アクション 考え抜く力=シンキング 一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力 疑問を持ち、考え抜く力 ①主体性 物事に進んで取り組む力 ④課題発見力 現状を分析し目的や課題を明らかにする力 ②働きかけ力 他人に働きかけ巻き込む力 ⑤計画力 課題の解決に向けたプロセスを明らかにし 準備する力 ③実行力 目的を設定し確実に実行する力 ⑥創造力 新しい価値を生み出す力 チームで働く力=チームワーク 多様な人々とともに、目標に向けて協力する力 ⑦発信力 自分の意見をわかりやすく伝える力 ⑩状況把握力 自分の周囲の人々や物事との関係性を理解 する力 ⑧傾聴力 相手の意見を丁寧に聴く力 ⑪規律性 社会のルールや人との約束を守る力 ⑨柔軟性 意見の違いや立場の違いを理解する力 ⑫ストレスコントロール力 ストレスの発生源に対応する力 資料:経済産業政策局産業人材参事官室 「社会人基礎力」について より作成 8 社会人基礎力についての認識 企業は「主体性」を最も求めているのに対し、大学は「課題発見力」、 「実行力」を企業が求めていると感じている 30 27 企業 25 大学 20 16 16 15 15 15 14 12 11 10 7 5 0 10 9 8 3 主 体 性 14 13 働 き か け 力 2 実 行 力 課 題 発 見 力 計 画 力 3 創 造 力 9 8 5 4 4 3 2 発 信 力 傾 聴 力 柔 軟 性 資料:2007年9月27日「社会人基礎力の向上に向けた産学連携による 新たな仕組み作りを考えるシンポジウム」アンケート結果より作成 情 況 把 握 力 規 律 性 ス ト レ ス コ ン ト ロ | ル 力 9 企業の採用基準に変化 企業は「学力」のみ評価から、「学力」・「社会人基礎 力」個別評価に採用基準を変えている 学校段階 正規の授業や キャリア教育 就職・採用プロセス × 連携不十分 採用基準 求める人材像 × 連携不十分 <従来> 「学力」 「社会人 基礎力」 従来の能力評価 従来は「学力」を測定すれば「社会人基礎力 はついてくるという考え方 入社後 入社後の 人材育成 <最近> 「学力」 従来の評価 「社会人 基礎力」 新しい評価 「学力」と「社会人基礎力をそれぞれ個別に 評価する必要があるという考え方 資料:経済産業省・社会人基礎力に関する研究会「中間とりまとめ」 10 企業が求める若手に必要な能力 企業は「実行力」、「積極性」を最も求めている (%) 34.8 35 資料:企業が求める若手にもっとも必要な能力(3分類ごとに最重要と指摘された事項を取りまとめ) 経済産業省2005年調査 N=220(単数回答の並列表示) 34.1 企業 30 25 23.0 19.3 20 14.8 15 11.6 9.8 10 8.9 8.0 6.4 5.9 5.9 5 0 実 行 力 積 極 性 発 信 力 傾 聴 力 規 律 性 創 造 力 働 き か け 力 情 況 把 握 力 計 画 力 分 析 力 柔 軟 性 ス ト レ ス 耐 性 (%) 11 採用選考での重視ポイント 企業は「コミュニケーション能力」を最も求めている 資料:企業が採用選考で重視するポイント(複数回答) 日本経済団体連合会2005年度新卒者採用アンケート(会員企業) 75.1 コミュ ニケーシ ョン能力 52.9 チャレンシ ゙精神 企業 主体性 52.5 48.7 協調性 0 10 20 30 40 50 60 70 8 0 (%) 12 企業面接の極意 面接では、それぞれのステージごとに着 目点を変えて人材を見極めている i. 入室時:礼儀、服装、雰囲気 ii. 挨拶時:表情、礼儀、態度 iii. 面接中:理解力、話し方、意欲、 聞き方、積極性 iv. 退出時:礼儀、態度、表情 資料:2001年東京ガス都市生活研究所・紹介業面接者調査 要するに…企業は面接で社会人基礎力 の視点から人物を見ている! 13 企業文化の変化① 70年代(団塊世代)を代表とする従来の企業文化 ◇他の役割を犠牲にしても仕事の役割を全うする 「この仕事を全うすれば高い外的報酬を得られる」という期待の下に、頑張り続ける。 これが企業人として成功する幸福感と感じる。 ◇仕事とは我慢し苦労しながら取り組むもの 頑張って外的報酬を得ても、あまりおもしろくないという実感はあるが、仕事に取り組む 姿勢と同様我慢する。 ◇組織の価値基準に個人を合わせる しかし、今の若い世代は… 資料:2008年2月 経産省主催「社会人基礎力フォーラム2008」 ワトソンワイアット(株)川島真史「困難を軽やかに乗り越えるために必要な“仕事 を楽しめる力”」講演資料より作成 こうしなければ、強い罰があるという脅し(パワーハラスメント)と感じ、精神的ストレス の原因となる。耐えきれずに、辞めるか、つぶれる 14 企業文化の変化② 今は、仕事・組織のトータルな設計力が企業に求められる 「ここでやっている仕事そのものが興味深く自分の成長につながる」と実感できるような (内的報酬・精神的報酬)業務設計・マネジメントが企業に求められる ワークライフバランス ◇他の役割を犠牲にしても 仕事の役割を全うする ◎全ての役割のバランスを 最適に保つ エンゲージメント ◇仕事とは我慢し苦労しな がら取り組むもの ◎仕事は興味を持ちながら のめり込むもの ダイバーシティ ◇組織の価値基準に個人を 合わせる ◎異なる価値観のまま組織 を形成する 資料:2008年2月 経産省主催「社会人基礎力フォーラム2008」 ワトソンワイアット(株)川島真史「困難を軽やかに乗り越えるために必要な“仕事を楽しめる力”」講演資料より作成 15 新企業文化観の下で求められる能力 新企業文化観の下では、社員個人の主体的な能力開発も必要 ワークライフバランス ◎全ての役割のバランスを *流されず自分の意志で動く力 *他者との役割分担ができる力 最適に保つ エンゲージメント ◎仕事は興味を持ちながら *アイデンティティ確立力 *確実かつ独創的な成果達成力 のめり込むもの ダイバーシティ ◎異なる価値観のまま組織 を形成する *コンテンツ・コミュニケーション力 *「好き嫌い」と「良い悪い」を区別する力 *根本的な人間力(品格と対人安定力) 社会人基礎力の構成要素(能力)と重なる! 資料:2008年2月 経産省主催「社会人基礎力フォーラム2008」 ワトソンワイアット(株)川島真史「困難を軽やかに乗り越えるため に必要な“仕事を楽しめる力”」講演資料より作成 16 EQとは? “Emotional Intelligence Quotient”の略称。感情能 力。感情を上手に管理し、利用できる能力。一般に「こ ころの知能指数」と呼称することがある。 企業人の個人的能力におけるEQの優位性 企業人の個人的能力分類 ①経理、経営計画といった専門的なスキル ②分析的思考のような知的能力 ③自己認識や人間関係の管理のようなEQ能力 各企業の上級管理職対象にした面接調査・テストの結果、知的能力はある程度まで 傑出したパフォーマンスの原動力と認められるが、傑出したリーダーを特徴づける 要素としては、組織のトップに近くなればなるほど、EQ能力が重要な役割を果たす ことが明らかに! 出典:EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方 Daniel Goleman, Richard Boyatzis, Annie McKee 日本経済新聞出版社 17 EQは誰もが持っている能力 CASE1.○○高校の放課後 A男:5時限目の物理のP先生、スゲー機嫌が悪かったよな。きっと昨日 の夜、奥さんに叱られたんだぜ。 B子:ああいうのってチョー嫌い。わたし、授業中イライラしちゃった。 A男:へー、そうは見えなかったけど。 B子:イライラしたわよ。ずっと顔に出ないように必死だったんだから。 周囲にいる他者の感情を知覚すること、自分の感情を認識す ること、その感情になんらかの働きかけを行うことなどはEQの 発揮。 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 18 EQと対人コミュニケーションとの関係 CASE2.自宅のリビングダイニングルーム A美さんは結婚5年目の主婦。今日は、突然やってきた義母の相手をして 買い物に行く時間がありません。困ったときにはご主人B彦さんの好物を用意 すればよいと考えたA美さんは、昨夜に引き続き今夜もカレーにすることにしま した。 帰宅したB彦さんはテーブルを見てこう言いました。 B彦①:また、カレーなの。いくら僕の好物だからって、こう毎日じゃ飽き るよ。一日中、家でボーッとしてないで、たまには何か違うものを作 れよ。 B彦②:おっ、カレーか。おいしそうだね。君のカレーは絶品だからな。 明日は君の得意なイタリアンが食べたいな。久しぶりに腕を奮ってよ。 人の思考や言動は感情によって左右されている。したがって、 感情を管理し、その場にふさわしい感情を作り出すことができ れば、対人コミュニケーションは飛躍的にうまくいく可能性があ る。(EQの可能性) 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 19 EQと社会的マナー・ビジネスマナー EQ ビジネスのあらゆるコミュニケーションシーンで発揮される 大声で怒鳴ったり、叱りとばすことでやる気や負けん気を 引き出したり、自分が周囲にどう見られているかに気づか せる一種のショック療法として、良い結果を生むことも。 社会的マナー ビジネスマナー 相手に不快・不満・不安を 感じさせないための行動 社会的マナーを実行するとき、教えられたマニュアル通 りに行動するだけでなく、EQを発揮することでその場 面にふさわしい感情を作り出すことができれば、より高 いコミュニケーション効果が期待できる。 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 20 人を変え、良好な対人関係を作るEQ EQは、感情の視点から人の行動や対人コミュニ ケーションを見つめ直し、よりよい言動を導き出す ことで自分を変え、同時に良好な対人関係を作り 上げていく基盤となる。 CASE3.星陵高校野球部の指導方針 心が変われば、行動が変わる。 行動が変われば、習慣が変わる。 習慣が変われば、人格が変わる。 人格が変われば、運命が変わる。 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 21 EQの4つの能力 ①感情の識別 ②感情の利用 ③感情の理解 ④感情の調整 人が感じている感情 を正確に識別し、自 分の感情を正確に認 識する能力 重要な出来事に注意 を向け、何らかの行動 をとるための準備をし、 思考プロセスを導き出 し、問題解決の手助け になるように感情を利 用する能力 感情が生じる原因や 感情の規則性、ある いは感情に関する知 識を理解し、起こりう る事態を分析する能 力 感情に対して心を開 いた状態を保ち、集 めた感情に関する情 報を意図的に選択し、 思考や問題解決、判 断や行動に感情を活 用する能力 E Q 能 力 の 発 揮 EQ能力の発揮は、製品計画を実施するプロセスと同 様のプロセスをたどる。 ①素材の産出および 供給可能性の確認 ②素材の持つ特性の 理解 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 ③使用素材の決定 ④製品企画および加 工方法の立案 製 品 計 画 の 実 施 22 EQの発揮例 CASE4.駅前のハンバーガーショップ S君とT君は親友。今日もいろいろな話題で盛り上がっています。 ところが、S君が何気なく口にした一言がT君の機嫌を損ねたらしく、T君が 突然黙り込んでしまいました。 初めて見るT君のすねたような態度に、S君の中では「え、何で?」という困 惑の気持ちと同時に、「何だ、こいつ!」という苛立ちの感情が生れています。 T君は不機嫌に黙り込んだままです。次第に苛立ちがつのってきたS君は一瞬、 このまま席を立とうかと思いました。 「しかし、それでは二人の間にイヤなしこりが残ってしまう」…S君は考えま した。 あなたがS君ならどうする? 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 23 CASE STUDY:S君の心の動き ①感情の識別 「なぜだかわからないけれど、T君は明らかに機嫌を悪くしている。怒ってい るというより、すねているようだ」 「僕は、T君の態度に困惑し、だんだん苛立ってきている」 S君はT君のとっている態度・表情からT君の感情の状態を識別し、次いで自 分の感情の状態を認識 ②感情の利用 「T君はなぜ急に態度を変えたのだろう?」 「たぶん、T君が機嫌を損ねたのは僕がなにげなく言った言動のせいだ。で も、子どもじゃあるまいし、あんな態度はないだろう」 「いやそうじゃない。僕には何でもない言葉でも、きっと、T君にとってはあ んな態度をとるほどのショックだったんだ」 「原因をつくったのは僕だ。それなのに僕自身がこんなふうに苛立っていた のでは、ちゃんとした対応ができない。もっと冷静にならなくては」 S君はT君の立場に立って、T君が機嫌を損ねた理由を推察することで、自分 の苛立った感情を平静な方向へと導くよう努力 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 24 CASE STUDY:S君の心の動き ③感情の理解 「T君は僕が嫌いなわけではない。僕の言葉で傷ついたんだ」 「でも、もし、ここで、僕が彼を無視して帰ったりしたら、T君は僕に失望して 僕を嫌いになるかもしれない。そうならなくても、次に会うときは、かなり気ま ずいだろう」 「T君は大切な親友だ。こんなことでケンカしたくない」 「T君だって、自分がとっている態度を後悔し始めているはずだ。でもこのま までは彼からは行動を起こしにくいに違いない。ここは僕の方から、何らかのき っかけをつくってやるべきだ。T君もそれを期待しているだろう」 冷静な感情になったS君は、T君の感情の動きを読み、同時に、自分の行動 がT君の感情にどのような影響を与えるかを類推することで、この状況で自分 のとるべき最適な行動は何かを考える ④感情の調整 「僕の言葉がT君を傷つけたのが発端だから、とりあえず誤るべきだろう」 「でも、何と言って誤ろうか?あまり深刻なのはイヤだな。すみませんと頭を 下げたりしたら、もっと気まずい雰囲気になるかもしれないし…」 「そうだ。ここは明るいボケでいこう。その方がT君も分かってくれる」 「ボケるにはどんな表情がいいだろう?やはり笑顔だな」 25 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 CASE STUDY:S君の心の動き とるべき行動を決めたS君は、表情を緩め、すました顔になってT君に、 「拙者が悪うござった。相済まぬ。ご勘弁召されよ、T殿」 と声をかけ、ニッコリ。(さっきまで二人の間で話題になっていた時代劇映画 の台詞をまねた由) T君は一瞬驚いた様子。すぐに笑いだし、二人は何事もなかったように、話題 を移していった… S君はT君と仲違いすることを望まず、S君はT君との関係を修復することを目的 にして、T君の感情に働きかけるようにEQを発揮 資料:日経文庫 高山直著「EQ入門」より引用して作成 26 まとめ 社会人基礎力とそれを取り巻く企業のリク ルート姿勢を理解することで、学生サポートを する職員の意識、アプローチが変わる! 社会人基礎力の中で重要なチームワークを 発揮する上で、EQ能力を高めることは、自分 のためになるが、同時に、学生のためにもな る! 27
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