第10章 ゲームの理論 ■ゲーム理論と経済学 誕生:フォン・ノイマン(1928) John von Neumann, 1928, “Zur Theorie der Gessellshaftspiele”, Mathematische Annalen. John von Neumann (1903-1957) ミクロ経済学(Ⅱ) 経済理論の一部であり一分野としての,根本的 で定式化された形のゲーム理論は,ジョン・フォ ン・ ノイマン とオスカール・モルゲンシュテルン (Oskar Morgenstern) の 1944 年の古典『ゲーム の 理 論 と 経 済 行 動 』 (Theory of Games and Economic Behavior, 1944) に始まる。この著書は 二十世紀社会科学の記念碑的な存在となった。 Oskar Morgenstern (1902-1976) 1 第10章 ゲームの理論 ■ゲーム理論と経済学 発展: John von Neumann (1928) 単純なゼロ和非協力ゲーム Neumann and Morgenstern (1944) 標準形ゲーム,展開 形ゲーム,純粋・混合戦略や提携形ゲームの概念を導入した。 ジョン・F・ナッシュ John F. Nash (1950) 「ナッシュ均衡」の 概念を導出した注)。 John F. Nash, (1950) , “Equilibrium points in N-Person Games”, Proceedings of Proceedings of the National Academy of Sciences . 1994年に「非協力ゲームの理論における均衡の 先駆的文政を讃えて」 J.C.ハーサニ,R. ゼルテン と共同でノーベル賞を,受賞した。 注) 但し,この概念は,実はクルノー Antoine Augustin Cournot (1838) にまで遡る。 John F. Nash ( 1928-) ミクロ経済学(Ⅱ) 2 第10章 ゲームの理論 ■ゲーム理論の考え方 ゲーム理論game theoryは経済主体(企業,消費者,政府など)間 の相互依存的な行動関係に関わる問題を考えるのに有益な分析手 法である。 現実の経済現象には,完全競争的な世界だけでは描写しきれな い多くの問題がある。例えば寡占的な産業を分析する場合には, 個々の企業の行動の相互依存関係が非常に重要である。このような 相互依存関係にある経済主体の行動を考える場合に,ゲーム理論 は強力なツールとしてよく使われるのである。 経済問題を考えるときに,ゲーム理論の主な目的は,経済主体た ちが意志決定を,外生的な価格(動かない変数)への反応として行う のではなく,他の経済主体の行動(生きた変数)への戦略的な反応 (strategic reaction)として意志決定を行う状況を考えることであった。 ミクロ経済学(Ⅱ) 3 第10章 ゲームの理論 10.1 ゲーム論の構造 ■プレーヤーと戦略 プレーヤー 意思決定の主体 (ゲームをする主体) 戦 略 プレーヤーの選択できる手段 ペイオフ (利得) 各プレーヤーがそれぞれ特定の戦略を選 択した結果として,プレーヤーが手にするこ とのできる利得 ミクロ経済学(Ⅱ) 4 第10章 ゲームの理論 10.1 ゲーム論の構造 ■ゼロ・サムのゲーム(例えば: コイン投げのゲーム) プレーヤー: 2名(プレーヤーAとプレーヤーB) 戦 略: 表,裏 ペイオフ(利得): 両者の戦略が同じであれば,プレーヤーAが勝ち 両者の戦略が異なれば,プレーヤーBが勝ち お互いのペイオフ(利得)の合計が常にゼロであるようなゲームをゼ ロ・サムのゲームと呼ばれる。 プレーヤーB 表 A ヤプ ーレ ー ミクロ経済学(Ⅱ) 表 裏 裏 1 , -1 -1 , 1 -1 , 1 1 , -1 5 第10章 ゲームの理論 10.1 ゲーム論の構造 ■囚人のディレンマ(prisoners’ dilemma) 囚人のディレンマはゲーム理論でもっともよく使われる有名な事例 である。(非協力ゲームの支配戦略型) 逮捕された共犯の容疑者2人(A者とB者)がいるとする。それぞれ 独房に拘留され,2人間での相談をすることができない。2人は事実 上真の共犯者であるが,検察側は彼らの自白による以外には,当該 犯罪の立証を得ることができず,別の軽罪として軽い処罰を科するこ としかできない。検察は次のような刑を示すと想定しよう。 1.もし一方が自白し,他方が黙秘するとすれば,自白者は捜査への協 力を認められ釈放されるが,黙秘者は10年の刑を科することになる。 2.もし両者ともに自白するとすれば,両者ともに5年の刑を科する。 3.もし両者ともに最後まで黙秘を通すとすれば,両者ともに半年の刑を 科する。 ミクロ経済学(Ⅱ) 6 第10章 ゲームの理論 10.1 ゲーム論の構造 検察は次のような刑を示すと想定しよう。 結局,このゲームでは,A容疑者もB容疑者も白状してし 1.もし一方が自白し,他方が黙秘するとすれば,自白者は捜査への協 まう。その結果,5年の刑が科されることになり,2人の利得 力を認められ釈放されるが,黙秘者は10年の刑を科することになる。 2.もし両者ともに自白するとすれば,両者ともに5年の刑を科する。 はそれぞれ-5になる。 3.もし両者ともに最後まで黙秘を通すとすれば,両者ともに半年の刑を 科する。 B容疑者 A容疑者の立場に立って考えよう もしB者が白状したら → 白状(-5) もしB者が黙秘したら → 白状( 0) B容疑者の立場に立って考えよう もしA者が白状したら → 白状(-5) もしA者が黙秘したら → 白状( 0) ミクロ経済学(Ⅱ) 白状 -5 A 白 状 -5 容 疑 黙 0 者 秘 -10 黙秘 -10 0 -0.5 -0.5 7 第10章 ゲームの理論 ■囚人のディレンマ(prisoners’ dilemma) もし2人とも黙秘をつづければ,-0.5の利得が得られる。 2人にとってより有利な結果が存在するにもかかわらず,なぜ それが選ばれないのであろうか。 2人で十分に話し合って,お互いに協力的な行動を取れば, 双方とも黙秘をつづけるはずである。 B容疑者 しかし,2人が話し合うことが できない状態で,それぞれ相手 の手が与えられる場合に,相手 への影響を考えずに利己的に 行動し, 結局,双方とも大きな 利得の損失を被ることになる。 ミクロ経済学(Ⅱ) 白状 -5 A 白 状 -5 容 疑 黙 0 者 秘 -10 黙秘 -10 0 -0.5 -0.5 8 第10章 ゲームの理論 ■囚人のディレンマ(prisoners’ dilemma) 神に対する願い事の例 プレーヤー:A,B 戦 利 ミクロ経済学(Ⅱ) 略: ① 神が相手のプレーヤーに3000円与えることを願う ② 神から自分が1000円もらうことを願う 得: (1)両プレーヤーがともに戦略①を選択する場合に, 両者とも3000円を得る。 (2)両プレーヤーがともに戦略②を選択する場合に, 両者とも1000円を得る。 (3)一方が戦略①,もう一方が戦略②を選択する場合 に,戦略①を選択するほうが0円,戦略②を選択 するほうが4000円を得る。 9 第10章 ゲームの理論 ■囚人のディレンマ(prisoners’ dilemma) 戦 略: ① 神が相手のプレーヤーに3000円与えることを願う ② 神から自分が1000円もらうことを願う 利 得: (1)両プレーヤーがともに戦略①を選択する場合に, 両者とも3000円を得る。 (2)両プレーヤーがともに戦略②を選択する場合に, 両者とも1000円を得る。 (3)一方が戦略①,もう一方が戦略②を選択する場合 に,戦略①を選択するほうが0円,戦略②を選択 するほうが4000円を得る。 プレーヤーB A ヤプ ーレ ー ミクロ経済学(Ⅱ) 戦略① 相手に3000円 戦略② 自分に1000円 戦略① 3 , 3 0 , 4 戦略② 4 , 0 1 , 1 10 第10章 ゲームの理論 ■囚人のディレンマ(prisoners’ dilemma) 戦 略: ① 神が相手のプレーヤーに3000円与えることを願う プレーヤーAの考え: ② 神から自分が1000円もらうことを願う 利 もしBが戦略①を選択したら,→ 得: (1)両プレーヤーがともに戦略①を選択する場合に, 戦略②(利得4を得る) 両者とも3000円を得る。 戦略②(利得1を得る) もしBが戦略②を選択したら,→ (2)両プレーヤーがともに戦略②を選択する場合に, プレーヤーBの考え: 両者とも1000円を得る。 (3)一方が戦略①,もう一方が戦略②を選択する場合 もしAが戦略①を選択したら,→ 戦略②(利得4を得る) に,戦略①を選択するほうが0円,戦略②を選択 もしAが戦略②を選択したら,→ 戦略②(利得1を得る) するほうが4000円を得る。 プレーヤーB A ヤプ ーレ ー ミクロ経済学(Ⅱ) 戦略① 相手に3000円 戦略② 自分に1000円 戦略① 3 , 3 0 , 4 戦略② 4 , 0 1 , 1 11 第10章 ゲームの理論 ■支配される戦略 例題: 利得表 A ヤプ ーレ ー プレーヤーB 左 中 右 上 1,0 1,3 0,1 下 0,3 0,1 4,0 プレーヤーBにとって,戦略「右」は戦略「中」に支配されている。 なぜならば,プレーヤーAが「上」「下」どちらを選択しても,プレー ヤーBの利得は「中」の方が「右」よりも大きいからである。 従って,プレーヤーBは 「右」を選択しないはずである。 ミクロ経済学(Ⅱ) 12 第10章 ゲームの理論 ■支配される戦略 例題: 利得表 A ヤプ ーレ ー プレーヤーB 左 中 右 上 1,0 1,3 0,1 下 0,3 0,1 4,0 プレーヤーBにとって,戦略「右」は戦略「中」に支配されている。 なぜならば,プレーヤーAが「上」「下」どちらを選択しても,プレー ヤーBの利得は「中」の方が「右」よりも大きいからである。 従って,プレーヤーBは 「右」を選択しないはずである。 プレーヤーAは,プレーヤーBが 「右」を選択しないことを知っていれば, 戦略「右」を排除してゲームを考えていいことになり,「下」を選択しない。 ↓ プレーヤーAは「上」を選択し,プレーヤーBは「中」を選択する。 プレーヤーAは「1」を手にし,プレーヤーBは「3」を手にする。 ミクロ経済学(Ⅱ) 13 第10章 ゲームの理論 10.2 ナッシュ均衡 ビール市場の複占 例1.寡占的状態にある二つの企業のケース A企業の価格戦略: 戦略A1=150円,戦略A2=220円 B企業の価格戦略: 戦略B1=150円, 戦略B2=220円 利得行列 Bの戦略 B1(150円) B2(220円) A の 戦 略 A1 A2 (220円) (150円) 戦略を選択する主体のことをプレーヤーと 呼ぶ。 プレーヤーAが戦略Ai,プレーヤーBが戦 略Bjを選ぶとき,戦略の組を次のように書く。 (Ai, Bj) 戦略の組が(150, 220)のとき, もし,Aの利益=7億円,Bの利益=3億円, ならば,AとBの利益の組(7,3)として,それ ぞれの利得を表すことができる。 すべての利得組を表す表を利得行列と呼 ぶ。 ミクロ経済学(Ⅱ) (5, 5) (7, 3) (3, 7) (8, 8) 14 第10章 ゲームの理論 10.2 ナッシュ均衡 ビール市場の複占 例1.寡占的状態にある二つの企業のケース A企業の価格戦略: 戦略A1=150円,戦略A2=220円 B企業の価格戦略: 戦略B1=150円, 戦略B2=220円 ミクロ経済学(Ⅱ) 利得行列 Bの戦略 B1(150円) B2(220円) A の 戦 略 A1 A2 (220円) (150円) AがAiを選ぶならBはBjを選び,BがBjを選 ぶならAがAiを選ぶという戦略の組(Ai, Bj) はナッシュ均衡を呼ばれる。 つまり各経済主体の行動が他の経済主体 に反応を引き起こし,それが最初と同じ一手 をもたらすなら,「ナッシュ均衡(NE)」が実現 される。 例1の場合,ナッシュ均衡解は (A1, B1) と (A2, B2) である。 (5, 5) (7, 3) (3, 7) (8, 8) 15 第10章 ゲームの理論 10.2 ナッシュ均衡 ■ナッシュ均衡とは プレーヤー同士のお互いに最適戦略である戦略組合せとしてゲー ムの解を求めて,その解はナッシュ均衡解である。 プレーヤーB ヤプ ーレ ー A プレーヤーAの最適戦略: Bが「L」なら,「M」 Bが「C」なら,「T」 Bが「R」なら,「W」 プレーヤーBの最適戦略: Aが「T」なら,「L」 Aが「M」なら,「C」 Aが「W」なら,「R」 L C R T 0,4 5,0 5,3 M 5,0 0,4 4,3 W 3,5 3,5 7,6 ナッシュ均衡解: 戦略組合せ(W , R),利得組合せ(7 , 6) ミクロ経済学(Ⅱ) 16 第10章 ゲームの理論 10.2 ナッシュ均衡 ■逢い引きのディレンマ ナッシュ均衡は複数存在する場合に,逢い引きのディレンマと呼ば れるゲームである。 太郎の戦略 Bの戦略 (3, 7) (8, 8) 花 子 の 戦 略 Sport (3, 1) (0, 0) Sport (5, 5) (7, 3) Concert Concert A の 戦 略 A1 A2 (220円) (150円) B1(150円) B2(220円) (0, 0) (1, 3) ゲームの解としてどちらのナッシュ均衡解が実際に選択されるかは何と もいえない。 ミクロ経済学(Ⅱ) 17 第10章 ゲームの理論 10.2 ナッシュ均衡 ■ナッシュ均衡と経済分析 A ナッシュ均衡は,経済分析をゲーム論的な立場から考察する際の 基本的な概念である。 寡占市場のみならず完全競争市場での企業や家計の行動にも適 用できる。完全競争での市場均衡はナッシュ均衡としても定式できる。 注意点: ナッシュ均衡は支配戦略の均衡よりも弱い概念である。支配戦略 で均衡が存在すれば,それがナッシュ均衡でもある。しかし,逆は成 立しない。つまり,支配戦略で均衡 プレーヤーB が存在しなくても,ナッシュ均衡は L C R 存在する。 逢引のディレンマのようなナッシュ T 0,4 5,0 5,3 プ 均衡の複数存在する場合に,実際に ヤ ーレ M 5,0 0,4 4,3 ー どれが選択されるか問題となる。 ミクロ経済学(Ⅱ) W 3,5 3,5 7,6 18 第10章 ゲームの理論 10.3 動学的なゲーム 「囚人のジレンマ」の例は,相手の取る戦略が知らずに各プレー ヤーが同時に戦略を選びゲームである。このようなゲームは同時 ゲームと呼ばれる。 動学的なゲームは,相手の戦略が分かった後で自分の戦略を順 次決めていくゲームである。展開型ゲームとも呼ばれ,ゲームの樹 で表すことができる。 例題: プレーヤーB A ヤプ ーレ ー L R T 1,9 1,8 W 0,0 2,1 ミクロ経済学(Ⅱ) 同時ゲームなら,逢引のディレンマになる。 19 第10章 ゲームの理論 10.3 動学的なゲーム 「囚人のジレンマ」の例は,相手の取る戦略が知らずに各プレー ヤーが同時に戦略を選びゲームである。このようなゲームは同時 ゲームと呼ばれる。 動学的なゲームは,相手の戦略が分かった後で自分の戦略を順 次決めていくゲームである。展開型ゲームとも呼ばれ,ゲームの樹 で表すことができる。 プレーヤーAが先に戦略を決定するよう な動学的なゲームの場合: 例題: プレーヤーB A ヤプ ーレ ー T W ミクロ経済学(Ⅱ) L R 1,9 1,8 0,0 2,1 B T A W B L (1 , 9) R (1 , 8) L (0 , 0) R (2 , 1) ゲームの解 20 第10章 ゲームの理論 10.3 動学的なゲーム 動学的なゲームは,相手の戦略が分かった後で自分の戦略を順 次決めていくゲームである。展開型ゲームとも呼ばれ,ゲームの樹 で表すことができる。 ■部分ゲーム完全均衡 均衡解(2 , 1)は ,プレーヤーAの選択を所与としたときのプレー ヤーBの最適反応を考慮した部分ゲームにおいても均衡解となってい る。このようなゲームの解を,部分ゲーム完全均衡と呼んでいる。 こうした動学的なゲームでは, 後ろ向きに解いていくことでゲー ムの解を見つけることができる。 B T A ミクロ経済学(Ⅱ) W B L (1 , 9) R (1 , 8) L (0 , 0) R (2 , 1) ゲームの解 21 第10章 ゲームの理論 10.3 動学的なゲーム 動学的なゲームは,相手の戦略が分かった後で自分の戦略を順 次決めていくゲームである。展開型ゲームとも呼ばれ,ゲームの樹 で表すことができる。 ■部分ゲーム完全均衡 均衡解(2 , 1)は ,プレーヤーAの選択を所与としたときのプレー ヤーBの最適反応を考慮した部分ゲームにおいても均衡解となってい る。このようなゲームの解を,部分ゲーム完全均衡と呼んでいる。 こうした動学的なゲームでは, 後ろ向きに解いていくことでゲー ムの解を見つけることができる。 B T A ミクロ経済学(Ⅱ) W B L (1 , 9) R (1 , 8) L (0 , 0) R (2 , 1) ゲームの解 22 第10章 ゲームの理論 10.3 動学的なゲーム 動学的なゲームは,相手の戦略が分かった後で自分の戦略を順 次決めていくゲームである。展開型ゲームとも呼ばれ,ゲームの樹 で表すことができる。 ■部分ゲーム完全均衡 均衡解(2 , 1)は ,プレーヤーAの選択を所与としたときのプレー ヤーBの最適反応を考慮した部分ゲームにおいても均衡解となってい る。このようなゲームの解を,部分ゲーム完全均衡と呼んでいる。 こうした動学的なゲームでは, 後ろ向きに解いていくことでゲー ムの解を見つけることができる。 B R A L ミクロ経済学(Ⅱ) R’ L’ A R” L” (0 , 2) (4 , 0) (1 , 1) (3 , 0) ゲームの解 23 第10章 ゲームの理論 10.4 繰り返しゲーム 同じ同時ゲームを複数回繰り返し行われている場合に,繰り返さ れるそれぞれの段階でのゲームを,段階ゲームと呼ぶ。 囚人のディレンマのゲームについて,1回限りであれば,両プレー ヤーは「自分に1000円」の戦略を選択する。繰り返しゲームではどの ようなナッシュ均衡解が実現されるか。 ■有限回の繰り返しゲーム 後ろ向きに解いていくと, 「自分に1000円」が 3000 (3 , 3) A 解となる。 1000 (4 , 0) 1000 3000 (0 , 4) 1000 (1 , 1) B 3000 A 1000 ミクロ経済学(Ⅱ) A B 段階ゲーム A 3000 プレーヤーB プ レ ー ヤ ー 相手に 3000円 自分に 1000円 相手に 3000円 3,3 0,4 自分に 1000円 4,0 1,1 協力は引き出せない。 24 第10章 ゲームの理論 10.4 繰り返しゲーム 囚人のディレンマのゲームについて,1回限りであれば,両プレー ヤーは「自分に1000円」の戦略を選択する。繰り返しゲームではどの ようなナッシュ均衡解が実現されるか。 ■無限回の繰り返しゲーム 最後のゲームが「自分ないので,後ろ向き解を解くことは適用できない。 プレーヤーB A トリガー(trigger)戦略(罰の戦略): ①前回相手が非協力でなければ, 今回自分は協力する。 プ 相手に ②前回相手が非協力であれば,今回 レ 3000円 からし返して永遠に自分も非協力する。 ー ミクロ経済学(Ⅱ) ヤ 自分に ー 1000円 相手に 3000円 自分に 1000円 3,3 0,4 4,0 1,1 25 第10章 ゲームの理論 10.4 繰り返しゲーム プレーヤーB ■無限回の繰り返しゲーム A トリガー(trigger)戦略(罰の戦略): ①前回相手が非協力でなければ, 今回自分は協力する。 ②前回相手が非協力であれば,今回 からし返して永遠に自分も非協力する。 プ レ ー ヤ ー 相手に 3000円 自分に 1000円 相手に 3000円 3,3 0,4 自分に 1000円 4,0 1,1 両プレーヤーがお互いにトリガー戦略をとる場合を考えよう。但し,初回 は協力する(つまり「相手に3000円」を選択する)。 協調による利益 協調(相手に3000円)の利得 3 3 3 3 3 ・・・ 裏切り(自分に1000円)の利得 4 4 1 1 1 ・・・ 裏切りによる利益 ミクロ経済学(Ⅱ) 仕返しによる利得 26 第10章 ゲームの理論 10.4 繰り返しゲーム (rは割引率とする。) プレーヤーB ■無限回の繰り返しゲーム A 相手に 自分に 協力し続ける場合の利得の割引現在価値 トリガー(trigger)戦略(罰の戦略): 3000円 1000円 =(今回)3+(次回)3+(次次回)3+・・・ ①前回相手が非協力でなければ, 相手に プ 2 3,3 0,4 = 3+3/(1+r) + 3/(1+r)レ+・・・=3+3/r 今回自分は協力する。 3000円 ー ②前回相手が非協力であれば,今回 非協力し続ける場合の利得の割引現在価値 ヤ 自分に 4,0 1,1 からし返して永遠に自分も非協力する。 ー 1000円 =(今回)4+(次回)1+(次次回)1+・・・ 両プレーヤーがお互いにトリガー戦略をとる場合を考えよう。但し,初回 = 4+1/(1+r) + 1/(1+r)2 +・・・=4+1/r は協力する(つまり「相手に3000円」を選択する)。 協調による利益 協調(相手に3000円)の利得 3 3 3 3 3 ・・・ 裏切り(自分に1000円)の利得 4 4 1 1 1 ・・・ 裏切りによる利益 ミクロ経済学(Ⅱ) 仕返しによる利得 27 第10章 ゲームの理論 10.4 繰り返しゲーム (rは割引率とする。) プレーヤーB ■無限回の繰り返しゲーム A 相手に 自分に 協力し続ける場合の利得の割引現在価値=3+3/r トリガー(trigger)戦略(罰の戦略): 3000円 1000円 非協力し続ける場合の利得の割引現在価値=4+1/r ①前回相手が非協力でなければ, プ 相手に もし,r < 2 なら, 3+3/r > 4+1/r となり,協力解はナッシュ均衡 3,3 0,4 今回自分は協力する。 レ 3000円 ー になる。 ②前回相手が非協力であれば,今回 ヤ 自分に 4,0 1,1 将来の利得(ペイオフ)を割り引く際の割引率rが小さいほど,現 からし返して永遠に自分も非協力する。 ー 1000円 在の利得よりも将来の利得の方を相対的に重視するから,協力 両プレーヤーがお互いにトリガー戦略をとる場合を考えよう。但し,初回 解がナッシュ均衡解になる可能性は高くなる。 は協力する(つまり「相手に3000円」を選択する)。 協調による利益 ■フォーク定理Folk Theorems 3 3 3 ・・・ 協調(相手に3000円)の利得 3 3 無限回の繰返しゲームでは,囚人のディレンマ・ゲームでの非協 1 1 1 ・・・ 裏切り(自分に1000円)の利得 4 4 力解以上のペイオフ(利得)を,ナッシュ均衡として実現することが できる。これは,フォーク定理と呼ばれる命題である。 仕返しによる利得 裏切りによる利益 ミクロ経済学(Ⅱ) 28 第10章 ゲームの理論 10.5 ゲーム理論の経済分析への応用 ■オークション:手法(単一財single objectの場合) 公開オークション open auction(指し値が変更していく) *イングリッシュ・オークションEnglish auction:指値を引き上げていく。 *ダッチ・オークションDutch auction:指値を引き下げていく。 封印オークション sealed bid auction(1回限りの投票で指し値を示す) *ファスト・プライス・オークション:1番高い評価額の人に,その価格(= 1番高い価格)で落札させる。 *セカンド・プライス・オークション:1番高い評価額の人に,2番目に高い 価格で落札させる。 その他 *ネットオークションなど オークションで人々は自分の評価額を正直に示すのか? ミクロ経済学(Ⅱ) 29 第10章 ゲームの理論 10.5 ゲーム理論の経済分析への応用 オークションで人々は自分の評価額を正直に示すのか? ■セカンド・プライス・オークション 方法:1番高い評価額の人に,2番目に高い価格で落札させる。 例えば,ある財を100円と評価する太郎の戦略を考えよう。 太郎の最適戦略は100円を提示する。 その他の人の指す値 x x<L 太 郎 の 戦 略 L < x < 100 100 < x < H H<x L < 100円 太郎が x で入札 他人が100円以下 100-x > 0 で入札,太郎損 他人が入札 0 他人が入札 0 v=100円 太郎が x で入札 100-x > 0 太郎がxで入札 100-x > 0 他人が入札 0 他人が入札 0 H > 100円 太郎が x で入札 100-x > 0 太郎がxで入札 100-x > 0 ミクロ経済学(Ⅱ) 太郎が100円以上 他人が入札 0 で入札,損する 30 第10章 ゲームの理論 10.5 ゲーム理論の経済分析への応用 オークションで人々は自分の評価額を正直に示すのか? ■ファスト・プライス・オークション 方法: 1番高い評価額の人に,その価格(=1番高い価格)で落札させる。 例えば,有名画家の絵画に対して,太郎は182万円,花子は171万円の評価額 を持っている。オークションの参加者は2人のみで,相手の評価額を互いに知っ ていて,5万円単位で値段を付けるとする。なお,両者が同じ指し値をつけたとき は,くじで決定する。 花子の戦略 ナッシュ均衡解: (太郎175,花子170) 太 郎 の 戦 略 ミクロ経済学(Ⅱ) 165 170 170 12 , 0 6 , 0.5 175 7,0 7, 0 180 2,0 2, 0 31
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