情報リテラシー教育と 大学図書館 大城善盛(同志社大学) 1.情報リテラシーについて • 内容の多様性 • 日本では「コンピュータ・リテラシー」を 意味することが多い • アメリカの「情報リテラシー」 (information literacy) とは異なる 2.コロラド州高等教育委員会の マスタープラン(1985年) ☆背景 • 1980年代は、大学および大学図書館にコンピュータ • • • が頻繁に導入 プログラミング言語を含む情報処理教育が盛ん アメリカの高等教育は多くの課題を抱えていること を指摘(ニューマン著『高等教育とアメリカの復活』) 州立・私立の大学の副学長、学部長、教授、図書館 長等を召集し、高等教育のマスタープランを策定 プランの特徴 • 大学図書館も教育の重要な一翼を担う。 • 情報リテラシー教育も導入している 情報リテラシーの概要 • BIの専門家ブレイビックを中心に検討 • 定義: 「情報リテラシーとは、 ニーズを満たしてくれる情報に効果的にアク セスし、評価する能力」 • 情報リテラシー教育は図書館内で完結する 自己完結型ではない 情報リテラシーの特徴 1) 技術(skills)と知識(knowledge)の統合さ れたセット 2) 態度の習得によって涵養 3) 涵養には時間と労力が要る 4) ニーズ主導型(問題解決活動) 5) リテラシーやコンピュータ・リテラシーと異な るが、関連あり 「情報リテラシー対コンピュータ・リテラ シー」 (ホートンの1983年の論文) • コンピュータ・リテラシーとは: コンピュータが問題解決に秘める能力についての理 解。コンピュータは何ができ、何ができないかを理解 すること。 • 情報リテラシーとは: 知識が膨大になっていることや、問題解決や意思決 定の際に必要なデータや文書や文献を同定し、アク セス・入手する際に、如何にコンピュータシステムが 役立つかを理解すること。 3.シンポジアム「図書館と大学の 卓越性を求めて」(1987年) ・生涯学習社会においては、大学生を自己決 定のできる独立学習者に育てる必要 ・教育者は従来以上に教育に関心を傾ける必 要 ・学生に情報リテラシーを身に付けさせる必要 情報リテラシーを身に付けた学生 1)現在および過去の情報を入手するためのプ ロセスやシステムの理解 2)ニーズを満たしてくれる多様な情報チャンネ ルや情報資源の効果及び信頼性の評価 3)自分のために情報を入手・保管するための 基本的技術の習得 4) 著作権やプラバシーなど情報に関連した公 的政策に対して自分の意見を述べ、責任の ある市民 情報リテラシー教育の実践 BIのような単独型ではなく、現存のカリ キュラムの中に統合されるべき 4.ALA会長情報リテラシー諮問 委員会の『最終報告』(1989年) • 情報リテラシー定義: 「情報リテラシーを有する人とは、情報が必要 であるという状況を認識し、情報を効果的に 探索し評価し活用する能力をもっている人。」 (標準的な定義) 『最終報告』の現状分析 • 1)情報リテラシーは、情報化時代に生き残るための • • • • 技能。 2)大学における学習は受動的。教育方法は情報化 の影響をほとんど受けていない。 3)学校や大学の教育は情報の事前パッケージで 行っている。 4)新しい学習モデルが必要。 5)新たな情報学のカリキュラムは必要ない。 日本での「情報活用能力」 • 「情報活用能力」を育成する教科として、高等 学校では2003年度から「情報」が設置。 • 「情報A」、「情報B」「情報C」の3つの科目か らなる。 「情報A」 • 1)情報を活用するための工夫と情報機器 • 2)情報の収集・発信と情報機器の活用 • 3)情報の統合的な処理とコンピュータの活用 • 4)情報機器の発達と生活の変化 「情報B」 • 1)問題解決とコンピュータの活用 • 2) コンピュータの仕組みと働き • 3)問題のモデル化とコンピュータを活用した 解決 • 4)情報社会を支える情報技術 「情報C」 • 1)情報のデジタル化 • 2)情報通信ネットワークとコミュニケーション • 3)情報の収集・発信と個人の責任 • 4)情報化の進展と社会への影響 「総合的な学習の時間」 ねらい: • 1)各学校の創意工夫を生かした横断的・総合的な学習や指 • • • 導生徒の興味・関心に基づく学習などを通して、自らの課題 を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問 題を解決する資質や能力を育てること、 2)情報の集め方、調べ方、まとめ方、報告や発表・討論の 仕方などの学び方やものの考え方を身に付けること、 3)問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態 度を育成すること、 4)自己の生き方についての自覚を深めること *4)を除けば、アメリカのInformation Literacyがめざすもの 日本語「情報リテラシー」: 「総合的な学習の時間」の「ねらい」と 「情報活用能力」を組み合わせたも のとして理解すべき 5.『最終報告』以後 『最終報告』の勧告の結果、「情報リテラシー 全米フォーラム」を設置(1990年) • 「全米フォーラム」は現在、学校教育界、大学教育 • 界、企業も含め、75以上の団体によって構成 「全米フォーラム」の構成メンバーの中部州大学・学 校協会が1992年に大学の認定条件に情報リテラ シー教育を含める(文部科学省の認可にも匹敵) ドイルの報告書「1990年の国家的 教育目標の中での情報リテラシー 成果の測定」(1992年) • 情報リテラシーの定義: 「さまざまな情報源から情報をアクセスし、 評価し、利用する能力のこと」 情報リテラシーを有する人の特性 • 1)情報ニーズを認識 • 2)正確で完全な情報が知 • • • 的意思決定の基礎になるこ とを認識 3)情報ニーズに基づいて質 問を定式化 4)潜在的な情報源を同定 5)効果的な探索戦略の樹 立 • 6)コンピュータなどの技術 • • • • を含む情報源にアクセス 7)情報を評価 8)実用的応用を目的として 情報を組織化 9)既存の知識体系に新情 報を統合 10)批判的思考や問題解決 において情報を利用 その他の動き アメリカ大学図書館協会が1995年に情 報リテラシー教育の実情を調査 *3,236大学のうち、834大学(26%)が回答 *182大学(22%)が何らかの情報リテラシー教育を 実施 *「批判的思考技術(critical thinking skills)とは情 報ニーズの発生時を知り、情報へアクセスし、評 価し、効果的に利用する個人の能力のことであり、 情報リテラシーはその部分を成す」と定義 「高等教育のための情報リテラシー基準」 の作成(2000) 情報リテラシーを有する人とは、次のことができ る人 1)必要とする情報の範囲を決定 2)必要とする情報に効果的・効率的にアクセス 3)情報および情報源を批判的に評価 4)選択した情報を自分の知識ベースに組み込む 5)特定の目的を達成するために情報を効果的に利用 6)情報利用に関わる経済的、法的、社会的問題を理 解。情報を倫理的に、法律に則ってアクセス・利用 アメリカ大学図書館協会は、2001年 に再度実態調査を実施 • 2,700大学のうち710大学(26%)が回答 • 図書館員の広報活動により「高等教育のための情 • • • • • 報リテラシー能力基準」が普及 大多数の大学が基準と同様な理解 情報リテラシーが少なくとも1科目の中に必須要素と して組み込まれている大学は320大学 一般教育の必須部分となっている大学は145大学 全然教えていない大学も132大学 教授陣:図書館員:341大学、教員:45大学、教員と 図書館員のチーム:142大学 6.情報リテラシー教育と大学図書館 BI課作成の 「大学における文献指導 (BI)の目標」 • アメリカ大学図書館協会の中にBI課あり。 • 1988年に改訂 コンセプトを「図書館」→「情報」に変更 改訂BI(1988)の目標 • 1)情報が専門家によってどのように認識され、 • • • 定義されているかの理解 2)情報資源がどのように構造化されているか の理解 3)情報資源が利用者にどのように知的にアク セスされるかの理解 4)情報資源はどのように物理的に組織化され、アク セスされるかの理解 「大学図書館における指導プログラム・ガイドラ イン」 (1997年)とその後 • 「ガイドライン」には「情報リテラシー」の用語はない • 1997-98年までに、アリゾナ大学西部校をはじめ、い • • くつかの大学で図書館員を中心に、ブレイビック、『最 終報告』、ドイル等が提唱する情報リテラシーを涵養 すべく教育実践を行う BI担当者、図書館長、その他の関係者が実践例など をもとに情報リテラシー教育について論文を発表 指導課(1995年BI課から変更)は1998年に「大学に おけるBIの目標」を改訂すべくタスクフォースを設置 改訂版「情報リテラシー指導の目標: 大学図書館員のためのモデル」を作 成 (2001年) • 「高等教育のための情報リテラシー能力基 準」を完全に受け入れている • BIは情報リテラシー教育の一翼を担うという 立場に立っている アメリカの大学図書館における 情報リテラシー教育の現状 • BIは現在でもone-shot instruction (1コマ分の 授業)が優勢 • 図書館人の情報リテラシーに対する理解の違 い 1.短時間の指導(教育)に「情報リテラシー教 育」の名称を使うことに抵抗がある人 2.BIは情報リテラシー教育を支援するもの、ま たはその一部を成すという理解のもつ人 3.BI=情報リテラシー教育だと思っている人 7.情報リテラシー教育実践 理想的な実践法 モデル:カリフォルニア州立大学 システムの3段階方式 • 第1段階:新入生オリエンテーション科目の中で • 第2段階:一般教育の中で • 第3段階:専門科目の中で わが国の例 1)授業組み込み型(1コマ型) 多くの授業で、一部として組み込まれている。 • 慶応義塾大学と三重大学。 • 問題点:多くの学生が受講できるが、深みがない 2)独立科目型 • 京都大学と熊本大学 • 「情報探索入門」(京都大学)(100人前後) 「情報メディアとネットワークの活用」(熊本大学) (100人前後) 問題点:2)と比べて深みがあるが、受講できる学 生の数に限度がある 熊本大学の 「情報メディアとネットワークの活 用」の内容 • 1.大学における学術情報センターとしての図書館の役割 • • • • • • • • • • • • (講義 ) 2.マルチメディアと情報ネットワーク(講義・演習) 3.インターネットと情報資源(講義・演習) 4.図書館資料の検索(演習) 5.雑誌論文データベースの検索(演習) 6.学術情報の収集と発信 1 理系(講義・演習) 7.学術情報の収集と発信 2 文系(講義・演習) 8.情報の読み方とレポートの書き方(講義) 9.図書館の活用(演習) 10.ネットワークと情報倫理(講義・演習) 11.著作権概論(講義) 12.マルチメディアと著作権(講義・演習) 13.まとめ(講義・演習) 熊本大学の情報リテラシー教育 「情報メディアとネットワークの活用」 (6人の教員と13人の演習スタッフ) + • 図書館ガイダンス(初級編) 10日間・全41回(476人(25%))の参加 • 図書館ガイダンス(中級編) 16回(145人)の参加 内容:雑誌・新聞記事の探し方、所蔵の調べ方 8.おわりに
© Copyright 2024 ExpyDoc