軽度知的障害児の 不適応行動改善の支援

軽度知的障害児の
不適応行動改善の支援
はじめに
• 機能分析
3項随伴性(弁別-反応-結果)に基づいて、問
題行動が対人関係の中でどのような機能を
持っているのかを分析する。
• 確立操作
強化子の効力を増大させるような環境の変化。
方法
• 対象児
小学2年生(以下、C君)
5歳児の頃、知的障害と言語性LDと診断を受
けた男児
標準検査:WISC-Ⅲ(7歳10ヶ月時)
言語性IQ56 動作性IQ96 全IQ72
・家族構成
母親(30代前半)、姉(小学5年)、兄(小学4
年)、本児、妹(幼稚園児)
方法
• 主訴
授業中教室から飛び出す
大声で叫ぶ
うずくまる
登校しぶり
方法
• 問題の経過
C君は小学校入学後の1年間は学校のあらゆ
る場面で柔軟に対応されていた。
小学2年生に進級し、普通学級と特殊学級の
担任の先生が2人とも変わり、C君への対応
も変化していった。
C君は特殊学級の使用を制限され、入室して
叱られた。
方法
• 問題の経過
C君の問題行動が増加していくと、学校はC君
の母親に付き添ってもらうことで対応した。
最終的に母親はC君と登校し、1日教室で付
き添い、一緒に下校するようになった。
方法
• 機能分析
・小学1年時
学校全体や母親からの十分な注目(正の強
化)を受けて過ごす。
・小学2年時
特殊学級への出入りが制限され、ほめられる
場面や注目が減った。
↓
先生がC君に注目することの強化子の増大
(確立操作)
方法
• 機能分析
C君:問題行動→教師の注目の増加
母親:C君への付き添い→C君の安定
教師:母親に任せる→問題行動の減少
方法
• 機能分析
仮説
①学校の先生から注目を得るために問題行動
を行う(教室からの飛び出しなど)
②教室で母親が付き添うことになり、課題の達
成や母親からの賞賛を得ることができる。
先行事象
集団場面
難しい勉強
大人の注目の
減少
問題行動の引き金
先生からの叱責
望ましい行動
授業中の着席維持
先生の手伝い
行動を維持させる結果
問題行動
注目を得られる
課題からの回避
母親からの援助や注目
退室
大声
うずくまる
図1 C君のアセスメント
先行事象
問題行動の引き金
C君への愛着
学校からの呼び出し
行動を維持させる結果
C君の安定
楽しさや満足感
望ましい行動
C君への
適度な援助
問題行動
過剰な
付き添い行動
図2 母親のアセスメント
先行事象
C君の問題行動に
よる授業の中断
他職員への影響
問題行動の引き金
望ましい行動
母親を呼び出す
C君への正の強化
(賞賛など)
問題行動
行動を維持させる結果
スムースな学級運営
C君の安定
母親へのC君への
過剰な援助を黙認
C君への注目の減少
図3 先生のアセスメント
C君
問題行動
保護者
学校(担任)
行動の維持
クラスメート
図4 相互関係
方法
• 介入
仮説①
普通学級の先生からC君へ賞賛や言葉か
けなどの正の強化子としての注目
課題のこなせる場面を増加させる
仮説②
母親カウンセリング
方法
• 手続き
・問題行動があれば、先生がチェックを書き込
む。
(毎時間週5日間記録)
月
火
水
木
1時間目
2時間目
3時間目
4時間目
5時間目
その他
合計
図5 問題行動の記録シート(事象記録法)
金
方法
• 手続き
・C君が授業の中で確実に褒められる場面の
設定。シールを貼るなどして視覚的にもほめ
られたことがわかるようにする。
・先生からの注目を得る機会を増やすために、
C君が先生のお手伝いをする場面の設定。
・問題行動に対して反応を返さない。
シールをあつめよう!
図6 C君へのごほうびシールシート
表1 構成的言語フィードバック
承認を示す言葉
「じょうずね」
「すごい」
「がんばったね」
「やった」
「よくできたね」
フィードバック
行動の正しさを伝える
「時間内に課題ができたね」
目標への接近を強化する
「あと5分でチャイムがなるよ」
修正の示唆
「がまんできてるね」
方法
• 手続き
・母親に対して2週間に1~2回の面接(1回
50分)の実施。
・学校でのC君の様子は先生からの伝言や母
親からの報告で確認
・シールは台紙のコピーで確認
結果
(%)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10(週)
結果
• C君は担任や学級の先生両方から褒められ
る機会が増えたことで問題行動が減少→
介入開始から7週目には問題行動が消失。
• 母親は最初とまどいを見せC君から距離を取
れなかったが、カウンセリング場面で学校に
任せようと思う、という発言→心理面接終結。
考察(1)
• 特殊学級への出入りを制限されたことによって先生
がC君を強化する場面が減少し、注目の強化子とし
ての効果が増大したと考えられる。
• 先生にとってもC君の問題行動を注目しやすい状況
となった。
• 母親の援助によってC君が安定したことでC君、母
親、先生らに母親の付き添いという行動が強化され
た。
• C君にとって注目を得るための適切な行動が増加し
ていったと考えられる。
考察(2)
• 母親はC君の変化に適応しにくい状況であった。カ
ウンセリングを通してC君にとっての良い状態を維
持するため徐々に適切な距離を保つことができるよ
うになっていった。
• 学校側の対応が安易。保護者への説明や同意の
確認、C君への説明をすべきであった。
• 心理士は学校場面に介入する際、教職員や保護者
の協力のもと、丁寧に実施しなければならない。