7月30日発表論文

Behavioral Activation as an Intervention for
Coexistent Depressive and Anxiety Symptoms
抑うつ・不安症状を持つ患者への介入
ー行動活性化を用いてー
DEREL R .HOPKO
C.W.LEJUEZ
SANDRA D.HOPKO
大屋藍子・木村貴一
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目的
過剰な不安・抑うつ症状、パニック発作、およ
び身体的不調を併発している患者に対し、
BATDの枠組みを用いた介入によって、日常
生活への悪影響を低減する事。
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対象者
過剰な不安・抑うつ症状、パニック発作、およ
び身体的不調(大腸炎)を併発する女性患者。
28歳であった。
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主訴
数年にわたるうつ状態。激しい癇癪と脱力が
続く期間と、正常な期間を繰り返している。さ
らに、強い無感覚、注意散漫、周期的な不眠、
時折訪れる疲労感を訴える。
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主訴
また、週に1~3回のパニック症状があり、パ
ニック症状が悪化する事を常に恐れている。
パニックに関連して、過呼吸、血圧上昇、発
汗、失コントロール及び死への恐怖があり、
車の運転や外食、授業への出席への回避行
動が生じている。
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ヒストリー
不安と抑うつは約3~4年にわたって続いてい
た。
患者によれば、
①長期間に渡る大腸炎疾患。
②親密な関係にあったおばが、闘病生活の末
癌でなくなった出来事。
以上2つが症状のきっかけであると考えられ
るという。
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ヒストリー
悪化する症状に対して、患者は学問的裏づ
けを持った治療を受けることを希望していた。
これまでに患者は18週間にわたる薬物療法
及び伝統的認知行動療法を受けていた。そ
れに加え、彼女はAcceptance & Commitment
Therapy の理論及びメタファーを教示されてい
た。
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アセスメント
整った身だしなみで、丁寧かつ友好的であっ
た。口調や声の高さもノーマルだった。
知覚異常及び自殺願望は認められなかった。
言動は論理的であり、知的水準も平均以上
の印象を受けた。
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アセスメント(DSM-Ⅳ)
他軸診断の結果
第Ⅰ軸・・・広場恐怖によるパニック障害
気分変調性障害
第Ⅱ軸・・・診断延期
第Ⅲ軸・・・腸炎
第Ⅳ軸・・・学歴へのプレッシャー
第Ⅴ軸・・・GAF=62
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従属変数の指標
STAI (State Trait Anxiety Inventory)
→2つの20項目の質問からなる不安診断指標。
BAI (Beck Anxiety Inventory)
→計量心理学による尺度。
21項目からなる自己報告型不安尺度。
BDI (Beck Depression Inventory)
→21項目からなる抑うつ尺度。
QOLI (Quality of Life Inventory)
→16項目からなる生活満足尺度(健康や人間関係、金銭
問題など)。-6~+6の回答項目がある。
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アセスメント結果
各検査の得点は以下の通り。
STAI・・・53
BAI・・・27(ややシビアな不安)
BDI・・・13(軽度の抑うつ)
QOLI・・・0(平均的)
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機能分析
S-O-R-Cモデルに従って機能分析を行っ
た。
S:先行状況(不安喚起場面)
レストランでの食事、車の運転、学校活動、
就労活動場面、さらには死や病気、失敗を連
想させる場面 。
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機能分析②
O:被験者内要因
① 家族の成員には不安傾向があった(パニック障
害や全般性不安障害など)。
第一親等の親類にはうつ傾向があった。
② 大腸炎が患者の不安や抑うつ傾向に影響を与え
ていた。大腸炎が悪化すると、回避行動の生起
頻度が増加していた。
③ おばの死により、病気が死を連想させる嫌悪刺
激としての機能を持ったことが考えられた。
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機能分析②認知傾向
患者が自身の行動をコントロールしようとする
と、ネガティブな認知傾向が一層激しくなった。
例えば
「大勢の人の前でパニックになったりして、恥
をかいたらどうしよう?」
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機能分析③
R:ターゲットとなる反応形態
当該嫌悪場面への回避行動。
さらにそうした回避行動により、食生活も不適
切な物となっていた(ファーストフード中心など)
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機能分析④
C:後続事象
長期に渡る回避行動により不安喚起状況へ
の暴露が不十分になり、適切な強化を受ける
ことができず、結果として社会生活を損なって
いた。
回避行動に対して、「一時的に不安が低減す
る」といった即時的・強化的結果が存在してい
た。
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計画
10セッションからなるBATDを用いた面接治療
を行った。
治療に先立ち、患者は向精神薬の服薬を中
止した。
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教授①
感情の受容と行動変容のための教育
「ネガティブな「感情」を直接的にコントロール
する事は難しく、それゆえ、コントロールでき
る「行動」をターゲットにする事が最善の手段
である」という理論的背景を教授された。
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教授②
さらに患者は、適応的行動に対しより多くの
ポジティブな結果を随伴させる事で、回避行
動や抑うつ行動の相対的価値を低下させ、適
応的行動を強化する事ができると教授された
以上2つの教授内容に基づき、具体的な介入
手続きを検討した。
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介入
毎週のセルフモニタリングエクササイズ
①ベースラインを取る事でその後の行動の改
善の指標とする。
②患者が自分自身の行動の質・量について、
自覚する事を目指す。
③介入のターゲットとなるべき行動を同定する 。
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介入(人生の価値の同定)
家族、社会、人間関係、教育、雇用、キャリア、
趣味、リクリエーション(ボランティア、チャリ
ティ)、身体的健康、信仰の14項目について、
どの様な生き方をしたいかを同定した。
同定された価値実現のため、14段階からな
る行動目標が設定された。
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介入
活動習得記録を用いて、週ごとに行動達成
度をチェックした。
その達成度を受けて、毎週さらに上位の行動
目標が設定された。
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栄養士との共同
大腸炎悪化防止のため、患者の専属栄養士
が健康的な食習慣及び計画的な食事メ
ニューを立案し、その進捗状況は週ごとに
チェックされた。
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活動記録表
活動
時間通りに出社
最終ゴール
回数
時間
5
一週目
週目標
回数
時間
4
1
達成
○
二週目
週目標
回数
時間
5
達成
○
セラピー開始時間を守る
1
○
1
○
妹に電話をかける
1
最低10分
1
最低10分
○
1
最低10分
○
筋弛緩訓練の練習をする
6
15分
3
15分
○
4
15分
○
両親と連絡を取る
3
最低20分
4
最低20分
×
レストランで食事をする
2
1
○
学校に食事を持っていく
3
2
○
家で食事を取る
3
犬の散歩をする
2
教会へ行く
1
家族か友達に手紙を書く
1
運動をする
3
20分
ER(緊急救命室)を鑑賞する
1
1時間
一人で自由旅行をする
5
10マイル
20分
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結果
治療後のアセスメントでは、不安は低減し、生
活満足度は改善していた。
STAI= 53 → 41
BAI = 27 → 18 (穏やかな不安レベル)
BDI = 13 → 4 (最小限度の抑うつ)
QOLI= 0 → 2 (平均以上の生活満足度)
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考察
BATDの採用によって、不安・抑圧症状治療
における「行動の活性化」と「不安・抑うつを
対象としたエクスポージャー」との統合が可能
になるという事が示唆された。
こうした不安・抑圧症状を持つ患者に対し、
BATDは個別的な解決策を提供できるだろう。
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考察
加えて、BATDの枠組みは医学的な問題を併
発する患者に対する治療や、主治医との共
同治療についても柔軟に対応することができ
る。
この特性を活かし、BATDが「不安・抑うつ」と
「医学的問題」を併せ持つ患者に対する、新
たな治療方法に発展する事が期待される。
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