Behavioral Activation as an Intervention for Coexistent Depressive and Anxiety Symptoms 抑うつ・不安症状を持つ患者への介入 ー行動活性化を用いてー DEREL R .HOPKO C.W.LEJUEZ SANDRA D.HOPKO 大屋藍子・木村貴一 1 目的 過剰な不安・抑うつ症状、パニック発作、およ び身体的不調を併発している患者に対し、 BATDの枠組みを用いた介入によって、日常 生活への悪影響を低減する事。 2 対象者 過剰な不安・抑うつ症状、パニック発作、およ び身体的不調(大腸炎)を併発する女性患者。 28歳であった。 3 主訴 数年にわたるうつ状態。激しい癇癪と脱力が 続く期間と、正常な期間を繰り返している。さ らに、強い無感覚、注意散漫、周期的な不眠、 時折訪れる疲労感を訴える。 4 主訴 また、週に1~3回のパニック症状があり、パ ニック症状が悪化する事を常に恐れている。 パニックに関連して、過呼吸、血圧上昇、発 汗、失コントロール及び死への恐怖があり、 車の運転や外食、授業への出席への回避行 動が生じている。 5 ヒストリー 不安と抑うつは約3~4年にわたって続いてい た。 患者によれば、 ①長期間に渡る大腸炎疾患。 ②親密な関係にあったおばが、闘病生活の末 癌でなくなった出来事。 以上2つが症状のきっかけであると考えられ るという。 6 ヒストリー 悪化する症状に対して、患者は学問的裏づ けを持った治療を受けることを希望していた。 これまでに患者は18週間にわたる薬物療法 及び伝統的認知行動療法を受けていた。そ れに加え、彼女はAcceptance & Commitment Therapy の理論及びメタファーを教示されてい た。 7 アセスメント 整った身だしなみで、丁寧かつ友好的であっ た。口調や声の高さもノーマルだった。 知覚異常及び自殺願望は認められなかった。 言動は論理的であり、知的水準も平均以上 の印象を受けた。 8 アセスメント(DSM-Ⅳ) 他軸診断の結果 第Ⅰ軸・・・広場恐怖によるパニック障害 気分変調性障害 第Ⅱ軸・・・診断延期 第Ⅲ軸・・・腸炎 第Ⅳ軸・・・学歴へのプレッシャー 第Ⅴ軸・・・GAF=62 9 従属変数の指標 STAI (State Trait Anxiety Inventory) →2つの20項目の質問からなる不安診断指標。 BAI (Beck Anxiety Inventory) →計量心理学による尺度。 21項目からなる自己報告型不安尺度。 BDI (Beck Depression Inventory) →21項目からなる抑うつ尺度。 QOLI (Quality of Life Inventory) →16項目からなる生活満足尺度(健康や人間関係、金銭 問題など)。-6~+6の回答項目がある。 10 アセスメント結果 各検査の得点は以下の通り。 STAI・・・53 BAI・・・27(ややシビアな不安) BDI・・・13(軽度の抑うつ) QOLI・・・0(平均的) 11 機能分析 S-O-R-Cモデルに従って機能分析を行っ た。 S:先行状況(不安喚起場面) レストランでの食事、車の運転、学校活動、 就労活動場面、さらには死や病気、失敗を連 想させる場面 。 12 機能分析② O:被験者内要因 ① 家族の成員には不安傾向があった(パニック障 害や全般性不安障害など)。 第一親等の親類にはうつ傾向があった。 ② 大腸炎が患者の不安や抑うつ傾向に影響を与え ていた。大腸炎が悪化すると、回避行動の生起 頻度が増加していた。 ③ おばの死により、病気が死を連想させる嫌悪刺 激としての機能を持ったことが考えられた。 13 機能分析②認知傾向 患者が自身の行動をコントロールしようとする と、ネガティブな認知傾向が一層激しくなった。 例えば 「大勢の人の前でパニックになったりして、恥 をかいたらどうしよう?」 14 機能分析③ R:ターゲットとなる反応形態 当該嫌悪場面への回避行動。 さらにそうした回避行動により、食生活も不適 切な物となっていた(ファーストフード中心など) 15 機能分析④ C:後続事象 長期に渡る回避行動により不安喚起状況へ の暴露が不十分になり、適切な強化を受ける ことができず、結果として社会生活を損なって いた。 回避行動に対して、「一時的に不安が低減す る」といった即時的・強化的結果が存在してい た。 16 計画 10セッションからなるBATDを用いた面接治療 を行った。 治療に先立ち、患者は向精神薬の服薬を中 止した。 17 教授① 感情の受容と行動変容のための教育 「ネガティブな「感情」を直接的にコントロール する事は難しく、それゆえ、コントロールでき る「行動」をターゲットにする事が最善の手段 である」という理論的背景を教授された。 18 教授② さらに患者は、適応的行動に対しより多くの ポジティブな結果を随伴させる事で、回避行 動や抑うつ行動の相対的価値を低下させ、適 応的行動を強化する事ができると教授された 以上2つの教授内容に基づき、具体的な介入 手続きを検討した。 19 介入 毎週のセルフモニタリングエクササイズ ①ベースラインを取る事でその後の行動の改 善の指標とする。 ②患者が自分自身の行動の質・量について、 自覚する事を目指す。 ③介入のターゲットとなるべき行動を同定する 。 20 介入(人生の価値の同定) 家族、社会、人間関係、教育、雇用、キャリア、 趣味、リクリエーション(ボランティア、チャリ ティ)、身体的健康、信仰の14項目について、 どの様な生き方をしたいかを同定した。 同定された価値実現のため、14段階からな る行動目標が設定された。 21 介入 活動習得記録を用いて、週ごとに行動達成 度をチェックした。 その達成度を受けて、毎週さらに上位の行動 目標が設定された。 22 栄養士との共同 大腸炎悪化防止のため、患者の専属栄養士 が健康的な食習慣及び計画的な食事メ ニューを立案し、その進捗状況は週ごとに チェックされた。 23 活動記録表 活動 時間通りに出社 最終ゴール 回数 時間 5 一週目 週目標 回数 時間 4 1 達成 ○ 二週目 週目標 回数 時間 5 達成 ○ セラピー開始時間を守る 1 ○ 1 ○ 妹に電話をかける 1 最低10分 1 最低10分 ○ 1 最低10分 ○ 筋弛緩訓練の練習をする 6 15分 3 15分 ○ 4 15分 ○ 両親と連絡を取る 3 最低20分 4 最低20分 × レストランで食事をする 2 1 ○ 学校に食事を持っていく 3 2 ○ 家で食事を取る 3 犬の散歩をする 2 教会へ行く 1 家族か友達に手紙を書く 1 運動をする 3 20分 ER(緊急救命室)を鑑賞する 1 1時間 一人で自由旅行をする 5 10マイル 20分 24 結果 治療後のアセスメントでは、不安は低減し、生 活満足度は改善していた。 STAI= 53 → 41 BAI = 27 → 18 (穏やかな不安レベル) BDI = 13 → 4 (最小限度の抑うつ) QOLI= 0 → 2 (平均以上の生活満足度) 25 考察 BATDの採用によって、不安・抑圧症状治療 における「行動の活性化」と「不安・抑うつを 対象としたエクスポージャー」との統合が可能 になるという事が示唆された。 こうした不安・抑圧症状を持つ患者に対し、 BATDは個別的な解決策を提供できるだろう。 26 考察 加えて、BATDの枠組みは医学的な問題を併 発する患者に対する治療や、主治医との共 同治療についても柔軟に対応することができ る。 この特性を活かし、BATDが「不安・抑うつ」と 「医学的問題」を併せ持つ患者に対する、新 たな治療方法に発展する事が期待される。 27
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